第2章 炎のゴブレット
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第16話 運命の杯
クラムが倒れ伏した後、迷路の空気は再び静まり返った。荒い呼吸の音だけが響く。 セドリックとハリーは杖を構えたまま慎重に様子をうかがう。
「……ただの暴走じゃない。誰かに操られてた」
イリスが低く呟いた。 濁った瞳と無機質な呪文の調子――それは彼女が“魔力の揺らぎ”から確信したことだった。
「誰に……?」
ハリーが問いかける。
「分からない。でも、この迷路自体が試練以上の何かを孕んでる」
イリスの言葉に、三人は無言で頷いた。今は立ち止まる余裕などない。
「……先に進もう」
セドリックが言い、三人は再び走り出した。
───
迷路の奥は一層狭まり、空気は重く淀んでいた。 左右から生垣が迫り、時折、棘のような枝が鞭のように振り下ろされる。
「プロテゴ!」
ハリーが叫び、枝が弾かれる。 そのすぐ横で、イリスは目を細めて立ち止まった。
「待って、ここは……」
彼女の赤い瞳が魔法粒子の流れを追う。空気中の揺れが不自然に滞り、まるで道そのものが呼吸を止めているかのように。
「行き止まりになる……この道は閉じる」
言うが早いか、進もうとした小道が音を立てて崩れ塞がった。 セドリックが息を呑み、
「……助かった」
と振り返る。
「粒子の流れが教えてくれるの。どこが生きてて、どこが死ぬ道か」
イリスの声は冷静だったが、その眉間には緊張の皺が寄っていた。
(正解が見えない……。森では常に導きがあったのに、ここでは自分で選び、進むしかない。これが人間の世界……)
胸の奥に苦さが広がる。 けれど二人と共に進む足取りは、不思議と軽かった。
───
ゴール目前。空気が一変した。 そこに広がるのは、魔力の気配が異様に濃い空間。中央には――優勝杯。
「……あれだ!」
ハリーが息を呑み、駆け出そうとする。
だが、その瞬間、セドリックの足が蔓に絡み取られた。たちまち全身を締め上げられ、彼は苦鳴を上げる。
「セドリック!」
イリスは駆け寄り、杖を振るう。
「ディフィンド!」
鋭い光が蔓を切り裂こうとするが、魔法は吸い込まれるように無効化された。
「くそっ、離れない……!」
セドリックがもがき、蔓はさらに強く締め上げる。
その時、イリスの視界の端でハリーの姿が見えた。 彼はゴールへ向かって走り続けている。
(……これで決まった。私とセドリックはここで敗退)
諦めかけ、杖を取り落としそうになったその時
「イリス!セドリック!」
振り返れば、ハリーが戻ってきていた。 彼の瞳には、迷いも躊躇もない。
「インセンディオ!」
炎の呪文が蔓を焼き、イリスとセドリックが同時に引き剥がす。
「……助かった……!」
セドリックが荒い息で礼を言う。
イリスはただ、胸が熱くなるのを感じていた。
(……どうして。勝利よりも人を選べるの……? これが、人間……?)
───
三人は並んで走り抜けた。 やがて視界が開け、目の前に“それ”が姿を現した。
優勝杯。 光を放ち、堂々と佇むトライウィザード・カップ。
観客席の歓声は届かない。ここにあるのは、胸を圧する魔力の渦――。 イリスは足を止め、瞳を細めた。
(……これは、ただのカップじゃない。不穏な粒子が揺れている……触れてはいけない)
「さぁ、誰が取る?」
セドリックが息を整えながら言う。
「君が助けてくれたんだ、セドリック。君が――」
「いや、君がいなきゃ僕はここに来れなかった。だから一緒に」
二人の言葉が交錯する。 イリスは後ろで必死に首を振る。
「だめ、触っちゃ――」
声を上げようとした瞬間、二人の手が彼女の手を包んだ。
「三人で!」
「同時に掴もう!」
反射的に伸ばした手の先――三人の指が、同時に優勝杯へと触れた。
──その瞬間。
轟音。 空気が裂け、魔力が爆ぜる。 地面が消え、身体が引きずり上げられる。
イリスは最後に見た光景を心に刻んだ。 魔力の粒子が暴風のように乱れ、世界が闇に飲み込まれていく。
三人は、光と闇の狭間に引き込まれていった。
クラムが倒れ伏した後、迷路の空気は再び静まり返った。荒い呼吸の音だけが響く。 セドリックとハリーは杖を構えたまま慎重に様子をうかがう。
「……ただの暴走じゃない。誰かに操られてた」
イリスが低く呟いた。 濁った瞳と無機質な呪文の調子――それは彼女が“魔力の揺らぎ”から確信したことだった。
「誰に……?」
ハリーが問いかける。
「分からない。でも、この迷路自体が試練以上の何かを孕んでる」
イリスの言葉に、三人は無言で頷いた。今は立ち止まる余裕などない。
「……先に進もう」
セドリックが言い、三人は再び走り出した。
───
迷路の奥は一層狭まり、空気は重く淀んでいた。 左右から生垣が迫り、時折、棘のような枝が鞭のように振り下ろされる。
「プロテゴ!」
ハリーが叫び、枝が弾かれる。 そのすぐ横で、イリスは目を細めて立ち止まった。
「待って、ここは……」
彼女の赤い瞳が魔法粒子の流れを追う。空気中の揺れが不自然に滞り、まるで道そのものが呼吸を止めているかのように。
「行き止まりになる……この道は閉じる」
言うが早いか、進もうとした小道が音を立てて崩れ塞がった。 セドリックが息を呑み、
「……助かった」
と振り返る。
「粒子の流れが教えてくれるの。どこが生きてて、どこが死ぬ道か」
イリスの声は冷静だったが、その眉間には緊張の皺が寄っていた。
(正解が見えない……。森では常に導きがあったのに、ここでは自分で選び、進むしかない。これが人間の世界……)
胸の奥に苦さが広がる。 けれど二人と共に進む足取りは、不思議と軽かった。
───
ゴール目前。空気が一変した。 そこに広がるのは、魔力の気配が異様に濃い空間。中央には――優勝杯。
「……あれだ!」
ハリーが息を呑み、駆け出そうとする。
だが、その瞬間、セドリックの足が蔓に絡み取られた。たちまち全身を締め上げられ、彼は苦鳴を上げる。
「セドリック!」
イリスは駆け寄り、杖を振るう。
「ディフィンド!」
鋭い光が蔓を切り裂こうとするが、魔法は吸い込まれるように無効化された。
「くそっ、離れない……!」
セドリックがもがき、蔓はさらに強く締め上げる。
その時、イリスの視界の端でハリーの姿が見えた。 彼はゴールへ向かって走り続けている。
(……これで決まった。私とセドリックはここで敗退)
諦めかけ、杖を取り落としそうになったその時
「イリス!セドリック!」
振り返れば、ハリーが戻ってきていた。 彼の瞳には、迷いも躊躇もない。
「インセンディオ!」
炎の呪文が蔓を焼き、イリスとセドリックが同時に引き剥がす。
「……助かった……!」
セドリックが荒い息で礼を言う。
イリスはただ、胸が熱くなるのを感じていた。
(……どうして。勝利よりも人を選べるの……? これが、人間……?)
───
三人は並んで走り抜けた。 やがて視界が開け、目の前に“それ”が姿を現した。
優勝杯。 光を放ち、堂々と佇むトライウィザード・カップ。
観客席の歓声は届かない。ここにあるのは、胸を圧する魔力の渦――。 イリスは足を止め、瞳を細めた。
(……これは、ただのカップじゃない。不穏な粒子が揺れている……触れてはいけない)
「さぁ、誰が取る?」
セドリックが息を整えながら言う。
「君が助けてくれたんだ、セドリック。君が――」
「いや、君がいなきゃ僕はここに来れなかった。だから一緒に」
二人の言葉が交錯する。 イリスは後ろで必死に首を振る。
「だめ、触っちゃ――」
声を上げようとした瞬間、二人の手が彼女の手を包んだ。
「三人で!」
「同時に掴もう!」
反射的に伸ばした手の先――三人の指が、同時に優勝杯へと触れた。
──その瞬間。
轟音。 空気が裂け、魔力が爆ぜる。 地面が消え、身体が引きずり上げられる。
イリスは最後に見た光景を心に刻んだ。 魔力の粒子が暴風のように乱れ、世界が闇に飲み込まれていく。
三人は、光と闇の狭間に引き込まれていった。
