第2章 炎のゴブレット
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第13話 大切な者の名
水底は暗く、冷たい。 イリスは身を覆う空気の膜を保ちながら、深みへと進んでいた。 耳に届くのは、あの歌声――水底の者たちの、囁きにも似た旋律。
「……もっと下」
直感に導かれるように、白銀の髪を水に揺らして泳ぐ。
──その時、視界の先で光が揺れた。 フラーが魔法生物に襲われ、身を翻す余裕もなく呑まれかけている。
「……っ!」
イリスは杖を振り上げ、声を放った。
「ルーモス!」
まばゆい光が迸り、魔法生物は目をくらまして退散する。 だが、フラーはすでに意識を失い、ゆっくりと沈んでいった。
咄嗟にもう一度杖を振る。 フラーの身体を包み込むように、淡い空気の層を展開する。
「大丈夫……少しだけ、持つはず」
そう呟くと、迷わずさらに奥へと泳ぎ出した。
───
そして辿り着いた時。
岩場に鎖で繋がれ、人質たちが並んでいた。 ハーマイオニー。 チョウ。 フラーの妹ガブリエル。
そして、その中に――
「……スネイプ……先生…」
心臓が大きく跳ねた。 彼が、そこに囚われていた。
“自分にとって大切なもの”として。
拒絶され続けた世界で、ただ一人。 冷たく、厳しく、時に痛烈な言葉を浴びせながらも――必ず、必要な時にだけ庇ってくれた人。
(……もしも選ばれるなら、この人しかいない。……心の奥底で、分かっていたのかもしれない)
胸の奥から、熱が広がっていく。 頬が火照る。羞恥と、しかし否定できない安堵が同時に押し寄せた。
「なぜ……」
口から漏れたのは、驚きと恐怖、そして戸惑いだった。 だがその視線は、もう揺らぎようがなかった。
───
水面に戻ったイリスは、両脇にフラーとスネイプを抱え上がった。 観客席がどよめきに揺れる。
「教授を……救った?」
「まさか、彼が人質に……?」
審査員席でもざわめきが広がり、クラウチの顔は険しく、マクゴナガルは口元を手で押さえ、ただ呆然と見つめていた。
続いてセドリックも浮上し、歓声が飛ぶ。
その時、フラーが掠れた声を上げた。
「……妹が……!」
その一言に、イリスの胸が強く締め付けられた。 ――あの日。 荒れ狂う海で、必死に手を伸ばした妹。 小さな背が水に飲まれていくのを必死に救い上げたあの記憶。 波の音と悲鳴が蘇り、呼吸が詰まる。
(まだ……!)
気づけば、体は勝手に再び湖へと踏み出していた。 だがその瞬間、水面が割れて泡が弾け、ハリーが現れた。 両腕にはロンとガブリエル。
「……!」
フラーは妹に駆け寄り、イリスはその光景を見届けて、ようやく大きく息を吐いた。
その隣で スネイプがゆっくりと体を起こした。 濡れた黒髪が頬に張り付き、鋭い瞳が彼女を射抜く。
「……よくやった」
低い声音。冷たいようでいて、普段の彼らしからぬ素直な言葉。 その瞳はわずかに揺れ、隠しきれない動揺を映していた。
胸が熱くなり、イリスは目を伏せた。 心臓は速く打ち、耳まで赤く染まる。
───
スネイプは群衆の視線を背に受けながら、ゆっくりと立ち上がった。 ローブの裾から滴る水が木造の床に広がる。
(……彼女にとって、私が大切な存在など有り得ない)
胸の奥に広がるのは困惑と苛立ち。
「愚かだ。私のような人間を“救い”と見なすなど……」
けれど――あの赤い瞳が、自分を真っ直ぐに見ていたこと。 それだけは、否応なく理解してしまった。
湖底に差し込んだ光の中、彼女の瞳は確かに自分を求めていた。 まるで、自分が“光”であるかのように。
(馬鹿げている……私は二度と、誰かに心を揺らしてはならない。リリーへの想いだけで十分だ)
必死にそう言い聞かせる。 だが――彼女を抱えていた腕に、温もりがまだ残っていた。 その感覚が、焼き付いて消えない。
白銀の髪。 紅の瞳。 自分を“光”と見上げた表情。
全てが心臓に爪を立て、忘れさせようとしない。
スネイプは拳を握り、視線を逸らして背を向けた。 胸の奥が痛い。怒りか、それとも――。
分からないまま、群衆の中へ歩み去っていった。
水底は暗く、冷たい。 イリスは身を覆う空気の膜を保ちながら、深みへと進んでいた。 耳に届くのは、あの歌声――水底の者たちの、囁きにも似た旋律。
「……もっと下」
直感に導かれるように、白銀の髪を水に揺らして泳ぐ。
──その時、視界の先で光が揺れた。 フラーが魔法生物に襲われ、身を翻す余裕もなく呑まれかけている。
「……っ!」
イリスは杖を振り上げ、声を放った。
「ルーモス!」
まばゆい光が迸り、魔法生物は目をくらまして退散する。 だが、フラーはすでに意識を失い、ゆっくりと沈んでいった。
咄嗟にもう一度杖を振る。 フラーの身体を包み込むように、淡い空気の層を展開する。
「大丈夫……少しだけ、持つはず」
そう呟くと、迷わずさらに奥へと泳ぎ出した。
───
そして辿り着いた時。
岩場に鎖で繋がれ、人質たちが並んでいた。 ハーマイオニー。 チョウ。 フラーの妹ガブリエル。
そして、その中に――
「……スネイプ……先生…」
心臓が大きく跳ねた。 彼が、そこに囚われていた。
“自分にとって大切なもの”として。
拒絶され続けた世界で、ただ一人。 冷たく、厳しく、時に痛烈な言葉を浴びせながらも――必ず、必要な時にだけ庇ってくれた人。
(……もしも選ばれるなら、この人しかいない。……心の奥底で、分かっていたのかもしれない)
胸の奥から、熱が広がっていく。 頬が火照る。羞恥と、しかし否定できない安堵が同時に押し寄せた。
「なぜ……」
口から漏れたのは、驚きと恐怖、そして戸惑いだった。 だがその視線は、もう揺らぎようがなかった。
───
水面に戻ったイリスは、両脇にフラーとスネイプを抱え上がった。 観客席がどよめきに揺れる。
「教授を……救った?」
「まさか、彼が人質に……?」
審査員席でもざわめきが広がり、クラウチの顔は険しく、マクゴナガルは口元を手で押さえ、ただ呆然と見つめていた。
続いてセドリックも浮上し、歓声が飛ぶ。
その時、フラーが掠れた声を上げた。
「……妹が……!」
その一言に、イリスの胸が強く締め付けられた。 ――あの日。 荒れ狂う海で、必死に手を伸ばした妹。 小さな背が水に飲まれていくのを必死に救い上げたあの記憶。 波の音と悲鳴が蘇り、呼吸が詰まる。
(まだ……!)
気づけば、体は勝手に再び湖へと踏み出していた。 だがその瞬間、水面が割れて泡が弾け、ハリーが現れた。 両腕にはロンとガブリエル。
「……!」
フラーは妹に駆け寄り、イリスはその光景を見届けて、ようやく大きく息を吐いた。
その隣で スネイプがゆっくりと体を起こした。 濡れた黒髪が頬に張り付き、鋭い瞳が彼女を射抜く。
「……よくやった」
低い声音。冷たいようでいて、普段の彼らしからぬ素直な言葉。 その瞳はわずかに揺れ、隠しきれない動揺を映していた。
胸が熱くなり、イリスは目を伏せた。 心臓は速く打ち、耳まで赤く染まる。
───
スネイプは群衆の視線を背に受けながら、ゆっくりと立ち上がった。 ローブの裾から滴る水が木造の床に広がる。
(……彼女にとって、私が大切な存在など有り得ない)
胸の奥に広がるのは困惑と苛立ち。
「愚かだ。私のような人間を“救い”と見なすなど……」
けれど――あの赤い瞳が、自分を真っ直ぐに見ていたこと。 それだけは、否応なく理解してしまった。
湖底に差し込んだ光の中、彼女の瞳は確かに自分を求めていた。 まるで、自分が“光”であるかのように。
(馬鹿げている……私は二度と、誰かに心を揺らしてはならない。リリーへの想いだけで十分だ)
必死にそう言い聞かせる。 だが――彼女を抱えていた腕に、温もりがまだ残っていた。 その感覚が、焼き付いて消えない。
白銀の髪。 紅の瞳。 自分を“光”と見上げた表情。
全てが心臓に爪を立て、忘れさせようとしない。
スネイプは拳を握り、視線を逸らして背を向けた。 胸の奥が痛い。怒りか、それとも――。
分からないまま、群衆の中へ歩み去っていった。
