第2章 炎のゴブレット
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第9話 戦場のワルツ
静寂こそが研究室の命だ。 煎じられる薬草の匂いと、湯気を立てる魔法薬の気配に囲まれながら、スネイプはその一滴の濃度に集中していた。
……だが、その静けさは突如として破られた。 耳障りな悲鳴のような音が隣室から響き、硝子瓶が震えるほどに甲高く反響する。
「……耳障りにも程がある」
苛立ちを押し隠すことなく立ち上がり、ローブを翻して隣室の扉を乱暴に開け放つ。
「うるさいぞ、静かにしろ!」
低く鋭い叱責。 だがその視線の先には、金色の卵を抱えたイリスがいた。 赤い瞳はどこか怯えと決意に揺れ、彼女は一言も発せず駆け抜けていった。
風が裾をかすめる。 スネイプは無意識に呼び止めかけたが、結局口を閉ざした。 ――くだらぬ、と。 そう言い聞かせながらも、胸の奥に小さな引っ掛かりが残る。
───
夜。 見回りで校舎を抜け、月明かりに照らされた草原を歩いていた時、その引っ掛かりは現実になった。
宙吊りにされた白い影。 逆さに揺れる長い髪。
「……!」
過去の記憶が一気に胸を抉る。 若き日の自分もまた、こうして逆さに吊るされ、嘲笑を浴びせられた。 耳にこびりついた笑い声が蘇る。
目の前の光景が、その忌まわしい記憶と重なった。
「……その遊びは誰が教えた」
声は冷酷に低く落ちた。 ボーバトンの女子、ダームストラングの男子が怯えてこちらを振り返る。
「愚か者ども。さぞかしいい教育を受けているのだろうな」 吐き捨てるように冷たく続ける。 「この下劣な遊びを“感動した”と校長に報告しておこう」
生徒たちの顔から血の気が引いた。蜘蛛の子を散らすように逃げていく。 草原には宙吊りにされたイリスだけが残った。
杖を一振り。呪文が解け、彼女の体は地面へと降ろされる。
「……もう少し上手くやる方法など、いくらでもあるだろう」
声は冷たい。だがその目の奥に宿る影は、己の過去と重なる痛み。 イリスは俯き、言葉を失った。
「……昔から、誰の真似などせず強さを持っているものを知っている」
低く、突き放すようでいて確かな響き。
「お前も……同じだろう」
月光に濡れる赤い瞳が、かすかに震えた。 スネイプはその震えを見て、己がなぜ彼女を助けるのかを理解できぬまま、ローブの裾を翻した。
───
「クリスマスの夜には、舞踏会――ユールボールが開かれます!」
マクゴナガルの宣言に、大広間は一斉にざわめいた。
「選手は必ず最初のダンスを披露するのです!」
「えぇぇーー!」
生徒たちから悲鳴が上がる。ハリーもロンも顔をしかめている。
輪の中に混じっていたイリスは、ただ首を傾げていた。 「踊り……人間は二人で踊るのか」 エルフの舞は森の儀式であり、集団の調和を重んじるものだ。対になる舞は新鮮で、どこか神秘的にすら映った。
壁際で監督していたスネイプは、その様子を横目で捉えた。 (どうせあの娘は、相手など見つけられまい) 口元に皮肉げな影を浮かべた。
───
放課後。イリスは勇気を出して声をかけた。
「……あの、一緒に――」
イリスが声をかけ、言い終わらないうちに皆口々に断る。
「悪い、もう決まってる」
「ごめん、他をあたってくれ」
中には露骨に吐き捨てる声もあった。
「卑怯なエルフと踊りたくねぇよ」
次々に拒まれ、赤い瞳が伏せられる。
図書館で偶然会ったハーマイオニーが肩を寄せる。
「私も最初は誘われなかったのよ。だから気にすることないわ」
励ましの言葉は温かいはずなのに、イリスの胸には虚しく響いた。
───
日が迫ったある日、マクゴナガルに呼び止められた。
「時間がないわ。……セブルス、あなたが相手をしなさい」
「はぁ?」 露骨な嫌悪をにじませるスネイプ。だがマクゴナガルは引かない。
「彼女は十分に孤立しているのです。このままでは惨めな思いをするだけでしょう。あなたしか残っていない!」
「だからといって――」
「見なさい、あの顔を」
マクゴナガルは小声を落とし、俯くイリスを顎で示した。
「拒絶され、寄る辺もなく、あの子は戦場に一人立たされるようなものよ。これ以上背を向けるおつもり?」
スネイプは口を閉ざした。 苛立ちと共に胸に刺さるのは、自分の過去を抉る言葉だった。
「……分かった」
絞り出すように応じる声は低く、重かった。
───
夕暮れのホール。 二人きりで踊る練習が始まった。
イリスは不器用に足を運び、何度もスネイプの足を踏んでしまう。
「これ以上下手に踏まれては、骨が砕けそうだ」
毒舌に赤面しながらも、彼女は必死に食らいつく。
それでもスネイプの手は離れない。背筋を伸ばさせ、姿勢を正す。 彼女の腰へ添えた手の感触に、わずかな熱が宿る。
「……もっと呼吸を合わせろ」
低い声が耳に近く落ち、イリスの頬は紅潮した。
失敗しては睨まれ、直され、また踏み直し……。 日を変えて何度も繰り返すうちに、ぎこちない動きは少しずつ形を成していく。
練習を終えた帰り道、スネイプは背を向けたまま低く呟いた。
「……見栄えくらいは整えておけ。舞台は戦場と同じだ」
その言葉の意味を悟った時、イリスは小さく笑みをこぼした。 彼女は気づいていない。
その笑みをスネイプは横目に捉えてしまう
───胸の奥が不意にざわついた。
静寂こそが研究室の命だ。 煎じられる薬草の匂いと、湯気を立てる魔法薬の気配に囲まれながら、スネイプはその一滴の濃度に集中していた。
……だが、その静けさは突如として破られた。 耳障りな悲鳴のような音が隣室から響き、硝子瓶が震えるほどに甲高く反響する。
「……耳障りにも程がある」
苛立ちを押し隠すことなく立ち上がり、ローブを翻して隣室の扉を乱暴に開け放つ。
「うるさいぞ、静かにしろ!」
低く鋭い叱責。 だがその視線の先には、金色の卵を抱えたイリスがいた。 赤い瞳はどこか怯えと決意に揺れ、彼女は一言も発せず駆け抜けていった。
風が裾をかすめる。 スネイプは無意識に呼び止めかけたが、結局口を閉ざした。 ――くだらぬ、と。 そう言い聞かせながらも、胸の奥に小さな引っ掛かりが残る。
───
夜。 見回りで校舎を抜け、月明かりに照らされた草原を歩いていた時、その引っ掛かりは現実になった。
宙吊りにされた白い影。 逆さに揺れる長い髪。
「……!」
過去の記憶が一気に胸を抉る。 若き日の自分もまた、こうして逆さに吊るされ、嘲笑を浴びせられた。 耳にこびりついた笑い声が蘇る。
目の前の光景が、その忌まわしい記憶と重なった。
「……その遊びは誰が教えた」
声は冷酷に低く落ちた。 ボーバトンの女子、ダームストラングの男子が怯えてこちらを振り返る。
「愚か者ども。さぞかしいい教育を受けているのだろうな」 吐き捨てるように冷たく続ける。 「この下劣な遊びを“感動した”と校長に報告しておこう」
生徒たちの顔から血の気が引いた。蜘蛛の子を散らすように逃げていく。 草原には宙吊りにされたイリスだけが残った。
杖を一振り。呪文が解け、彼女の体は地面へと降ろされる。
「……もう少し上手くやる方法など、いくらでもあるだろう」
声は冷たい。だがその目の奥に宿る影は、己の過去と重なる痛み。 イリスは俯き、言葉を失った。
「……昔から、誰の真似などせず強さを持っているものを知っている」
低く、突き放すようでいて確かな響き。
「お前も……同じだろう」
月光に濡れる赤い瞳が、かすかに震えた。 スネイプはその震えを見て、己がなぜ彼女を助けるのかを理解できぬまま、ローブの裾を翻した。
───
「クリスマスの夜には、舞踏会――ユールボールが開かれます!」
マクゴナガルの宣言に、大広間は一斉にざわめいた。
「選手は必ず最初のダンスを披露するのです!」
「えぇぇーー!」
生徒たちから悲鳴が上がる。ハリーもロンも顔をしかめている。
輪の中に混じっていたイリスは、ただ首を傾げていた。 「踊り……人間は二人で踊るのか」 エルフの舞は森の儀式であり、集団の調和を重んじるものだ。対になる舞は新鮮で、どこか神秘的にすら映った。
壁際で監督していたスネイプは、その様子を横目で捉えた。 (どうせあの娘は、相手など見つけられまい) 口元に皮肉げな影を浮かべた。
───
放課後。イリスは勇気を出して声をかけた。
「……あの、一緒に――」
イリスが声をかけ、言い終わらないうちに皆口々に断る。
「悪い、もう決まってる」
「ごめん、他をあたってくれ」
中には露骨に吐き捨てる声もあった。
「卑怯なエルフと踊りたくねぇよ」
次々に拒まれ、赤い瞳が伏せられる。
図書館で偶然会ったハーマイオニーが肩を寄せる。
「私も最初は誘われなかったのよ。だから気にすることないわ」
励ましの言葉は温かいはずなのに、イリスの胸には虚しく響いた。
───
日が迫ったある日、マクゴナガルに呼び止められた。
「時間がないわ。……セブルス、あなたが相手をしなさい」
「はぁ?」 露骨な嫌悪をにじませるスネイプ。だがマクゴナガルは引かない。
「彼女は十分に孤立しているのです。このままでは惨めな思いをするだけでしょう。あなたしか残っていない!」
「だからといって――」
「見なさい、あの顔を」
マクゴナガルは小声を落とし、俯くイリスを顎で示した。
「拒絶され、寄る辺もなく、あの子は戦場に一人立たされるようなものよ。これ以上背を向けるおつもり?」
スネイプは口を閉ざした。 苛立ちと共に胸に刺さるのは、自分の過去を抉る言葉だった。
「……分かった」
絞り出すように応じる声は低く、重かった。
───
夕暮れのホール。 二人きりで踊る練習が始まった。
イリスは不器用に足を運び、何度もスネイプの足を踏んでしまう。
「これ以上下手に踏まれては、骨が砕けそうだ」
毒舌に赤面しながらも、彼女は必死に食らいつく。
それでもスネイプの手は離れない。背筋を伸ばさせ、姿勢を正す。 彼女の腰へ添えた手の感触に、わずかな熱が宿る。
「……もっと呼吸を合わせろ」
低い声が耳に近く落ち、イリスの頬は紅潮した。
失敗しては睨まれ、直され、また踏み直し……。 日を変えて何度も繰り返すうちに、ぎこちない動きは少しずつ形を成していく。
練習を終えた帰り道、スネイプは背を向けたまま低く呟いた。
「……見栄えくらいは整えておけ。舞台は戦場と同じだ」
その言葉の意味を悟った時、イリスは小さく笑みをこぼした。 彼女は気づいていない。
その笑みをスネイプは横目に捉えてしまう
───胸の奥が不意にざわついた。
