第2章 炎のゴブレット
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第8話 卵が告げるもの
大広間は久々に穏やかな空気に包まれていた。 試練を終えた翌日、ハリーとロンはぎこちなく顔を見合わせ、ようやく言葉を交わしていた。
「……悪かった」
「俺も」
たったそれだけの会話だったが、二人の間に張り詰めていた氷は一気に溶け、笑い声が戻る。 ハーマイオニーは安堵したように深く息を吐き、「もう……やっとね」と微笑んだ。
イリスにも声がかかった。 スリザリンの生徒が肩を叩き、わざわざ近づいてくる。
「見直したぞ。あんな竜を相手にやり切るとは」
「さすがだな。スリザリンの力を証明したじゃないか」
普段は冷淡な視線を送る彼らですら、その声色に賞賛が混じっていた。
だが、一方で他校の生徒たちの視線はさらに鋭くなっていく。
「エルフの力を使ったなんて卑怯だわ」
「結局、人間にはできないからって、逃げ道にしたんだろ」
廊下では肩をぶつけられ、食堂ではわざと飲み物をかけられた。図書館で読んでいた本を奪われ、棚の高い位置へ放り投げられることもあった。
赤い瞳を伏せ、イリスは無言で受け流した。
――相手にしては駄目。相手にするほど、彼らは喜ぶだけ。
分かっていた。だが心は少しずつ削られ、胸の奥に重たい疲労が溜まっていった。
───
夜、自室。 机の上に置いた金の卵を、イリスはゆっくりと開いた。
「――っ!」
耳を裂くような悲鳴が響き、思わず手が震える。すぐに卵を閉じたが、その奥で確かに泡の弾ける音がした。
もう一度。恐怖に体が強ばる。だが耳を澄ませば――確かに水音。 透明な殻の奥には金色の光と泡が渦巻いていた。
直感が告げる。――水に関係している。
その瞬間、乱暴に扉が開かれた。
「うるさいぞ、静かにしろ!」
スネイプの低い声が室内を震わせた。黒衣の裾が揺れ、冷ややかな視線が突き刺さる。
だがイリスは応えず、卵を抱えて駆け出した。 廊下を走り抜け、大広間を過ぎ、月明かりの森へ。
やがて湖へ辿り着く。靴を脱ぎ、スリップドレスのまま冷たい水へ飛び込んだ。 腕に抱いた卵を開く。
――湖底から、美しい歌声が広がった。
「我らは水底に隠れ住む者 一時間の間に奪われしものを探し出せ 戻さねば、永遠に失うだろう」
その歌詞の意味が胸に落ちる。奪われる、大切なもの。一時間の制限。戻らなければ、永遠の喪失。
イリスは湖面から顔を出し、岸辺に上がった。濡れた身体は冷たく震えたが、草の上に仰向けに倒れ込み、ただ夜空を見つめた。
胸の奥が軽くなる。――ようやく謎に触れた。 そして何より、久々に自然に抱かれたことで、心に溜まっていた澱が消えていくようだった。
───
月明かりの草原を抜け、城へ戻ろうとした時。 背後から冷たい声が投げられた。
「なによ、その晴れ晴れした顔。私たちを馬鹿にしてるの?」
振り返れば、ボーバトンの女子生徒たち。嫉妬に歪んだ視線を向けてくる。
「大事な顔と体をもっと皆に見せてあげれば?」
イリスは何も言わず通り過ぎようとした。だが、背後で呪文が響いた。
「レビコーパス!」
体が宙に浮かび、逆さに吊られる。裾が乱れ、赤い瞳が大きく揺れる。
「ほら見て! 偉そうなエルフが宙ぶらりんよ!」 「やり返してみろよ、どうせできないんだろ?」
ボーバトンの女子の笑いに、ダームストラングの男子も加わった。 嘲笑が草原に広がり、冷たい視線が突き刺さる。羞恥と悔しさで胸が締め付けられる。
その時。
「……その遊びは誰が教えた」
低く、鋭い声が響いた。
黒衣の男が月影の中に現れ、視線を鋭く光らせる。
「愚か者ども。さぞかしいい教育を受けているのだろうな。 この下劣な遊びを“感動した”と校長に報告しておこう」
スネイプの冷たい声が落ちた瞬間、生徒たちの顔から血の気が引いた。互いに視線を交わし、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
静まり返った草原に、まだ宙づりのままのイリスが残された。 スネイプが杖を一振りすると呪文は解け、彼女は地面に降ろされた。
「……もう少し上手くやる方法など、いくらでもあるだろう」
声は冷たい。しかしその瞳の奥に、かすかな影――過去の痛みを滲ませていた。
イリスは俯き、言葉を失う。 するとスネイプはほんの一拍の沈黙の後、低く告げた。
「……昔から、誰かの真似などせずとも、強さを持っていた者を知っている。お前も……同じだろう」
突き放すような声音。だがそこに含まれた温かさを、イリスは確かに感じ取っていた。そしてそこに誰かへの想いを重ねていることも……。
月明かりに濡れる草原で、彼女は小さく頷き、静かに歩き出した。
大広間は久々に穏やかな空気に包まれていた。 試練を終えた翌日、ハリーとロンはぎこちなく顔を見合わせ、ようやく言葉を交わしていた。
「……悪かった」
「俺も」
たったそれだけの会話だったが、二人の間に張り詰めていた氷は一気に溶け、笑い声が戻る。 ハーマイオニーは安堵したように深く息を吐き、「もう……やっとね」と微笑んだ。
イリスにも声がかかった。 スリザリンの生徒が肩を叩き、わざわざ近づいてくる。
「見直したぞ。あんな竜を相手にやり切るとは」
「さすがだな。スリザリンの力を証明したじゃないか」
普段は冷淡な視線を送る彼らですら、その声色に賞賛が混じっていた。
だが、一方で他校の生徒たちの視線はさらに鋭くなっていく。
「エルフの力を使ったなんて卑怯だわ」
「結局、人間にはできないからって、逃げ道にしたんだろ」
廊下では肩をぶつけられ、食堂ではわざと飲み物をかけられた。図書館で読んでいた本を奪われ、棚の高い位置へ放り投げられることもあった。
赤い瞳を伏せ、イリスは無言で受け流した。
――相手にしては駄目。相手にするほど、彼らは喜ぶだけ。
分かっていた。だが心は少しずつ削られ、胸の奥に重たい疲労が溜まっていった。
───
夜、自室。 机の上に置いた金の卵を、イリスはゆっくりと開いた。
「――っ!」
耳を裂くような悲鳴が響き、思わず手が震える。すぐに卵を閉じたが、その奥で確かに泡の弾ける音がした。
もう一度。恐怖に体が強ばる。だが耳を澄ませば――確かに水音。 透明な殻の奥には金色の光と泡が渦巻いていた。
直感が告げる。――水に関係している。
その瞬間、乱暴に扉が開かれた。
「うるさいぞ、静かにしろ!」
スネイプの低い声が室内を震わせた。黒衣の裾が揺れ、冷ややかな視線が突き刺さる。
だがイリスは応えず、卵を抱えて駆け出した。 廊下を走り抜け、大広間を過ぎ、月明かりの森へ。
やがて湖へ辿り着く。靴を脱ぎ、スリップドレスのまま冷たい水へ飛び込んだ。 腕に抱いた卵を開く。
――湖底から、美しい歌声が広がった。
「我らは水底に隠れ住む者 一時間の間に奪われしものを探し出せ 戻さねば、永遠に失うだろう」
その歌詞の意味が胸に落ちる。奪われる、大切なもの。一時間の制限。戻らなければ、永遠の喪失。
イリスは湖面から顔を出し、岸辺に上がった。濡れた身体は冷たく震えたが、草の上に仰向けに倒れ込み、ただ夜空を見つめた。
胸の奥が軽くなる。――ようやく謎に触れた。 そして何より、久々に自然に抱かれたことで、心に溜まっていた澱が消えていくようだった。
───
月明かりの草原を抜け、城へ戻ろうとした時。 背後から冷たい声が投げられた。
「なによ、その晴れ晴れした顔。私たちを馬鹿にしてるの?」
振り返れば、ボーバトンの女子生徒たち。嫉妬に歪んだ視線を向けてくる。
「大事な顔と体をもっと皆に見せてあげれば?」
イリスは何も言わず通り過ぎようとした。だが、背後で呪文が響いた。
「レビコーパス!」
体が宙に浮かび、逆さに吊られる。裾が乱れ、赤い瞳が大きく揺れる。
「ほら見て! 偉そうなエルフが宙ぶらりんよ!」 「やり返してみろよ、どうせできないんだろ?」
ボーバトンの女子の笑いに、ダームストラングの男子も加わった。 嘲笑が草原に広がり、冷たい視線が突き刺さる。羞恥と悔しさで胸が締め付けられる。
その時。
「……その遊びは誰が教えた」
低く、鋭い声が響いた。
黒衣の男が月影の中に現れ、視線を鋭く光らせる。
「愚か者ども。さぞかしいい教育を受けているのだろうな。 この下劣な遊びを“感動した”と校長に報告しておこう」
スネイプの冷たい声が落ちた瞬間、生徒たちの顔から血の気が引いた。互いに視線を交わし、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
静まり返った草原に、まだ宙づりのままのイリスが残された。 スネイプが杖を一振りすると呪文は解け、彼女は地面に降ろされた。
「……もう少し上手くやる方法など、いくらでもあるだろう」
声は冷たい。しかしその瞳の奥に、かすかな影――過去の痛みを滲ませていた。
イリスは俯き、言葉を失う。 するとスネイプはほんの一拍の沈黙の後、低く告げた。
「……昔から、誰かの真似などせずとも、強さを持っていた者を知っている。お前も……同じだろう」
突き放すような声音。だがそこに含まれた温かさを、イリスは確かに感じ取っていた。そしてそこに誰かへの想いを重ねていることも……。
月明かりに濡れる草原で、彼女は小さく頷き、静かに歩き出した。
