第2章 炎のゴブレット
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第6話 闇に呑まれて
試合会場は座席が埋まりみなが楽しそうに盛り上がっていた。
――最初に挑むのは、イリス。
自分の名前が呼ばれた瞬間、胸は大きく跳ねた。 覚悟はしていた。だが、あまりにも早すぎる順番に動揺は隠せない。 深く息を吸い、吐く。 杖を握りしめ、歩み出す。
大歓声が波のように押し寄せた。だが、その熱気の中にある囁きは冷たい刃だった。
「きたきた、自惚れが」
「これでヘマ打ったら凄く面白いわよね」
赤い瞳を伏せ、雑音を切り捨てる。 目の前にいるのはただ一匹。――漆黒の竜。

ノルウェージャン・ナイトスティーカー。 翼を広げた影が、闘技場全体を覆うようにのしかかる。 その口からは黒い靄が漏れ、地を這う。
咆哮が轟いた瞬間、大地が震えた。
そして大きなしっぽが地面を削りながら迫る。
イリスは杖を振り上げた。
「プロテゴ!」
透明な障壁が閃き、迫る尾を弾き飛ばす。
続けざまに
「コンフリンゴ!」
地面が炸裂し、砂塵が煙幕となって竜の視界を奪う。
その隙に駆け抜け、横合いから杖を振り下ろす。
「ディフィンド!」
光刃が鱗を裂く――だが傷は浅い。厚い鱗がほとんどを弾き返した。
体の真下に守られた卵は未だ取れそうには無い。
そうしてイリスとナイトスティーカーの戦いは続いた。
観客がどよめく。 最初は優勢に見えた。だが、竜の動きは次第に鋭さを増す。
次の瞬間。 巨大な前足が振り下ろされ、イリスの体幹をがっちりと掴んだ。
「……っ!」
肋骨が軋み、肺が締め付けられる。 視界いっぱいに、竜の金色に輝く瞳が迫った。
そして黒煙がイリスを覆う。
口腔の奥から吹きかけられたそれは、熱さではなく冷たさを伴った。 肺の奥へ流れ込むたび、身体の力が抜けていく。 心臓が氷に沈められたように鈍くなる。
イリスの体はぐったりと力を失い、地面へと落ちた。 乾いた音を立てて転がる身体に、観客の悲鳴が走った。
───
視界は闇に沈んだ。 しかし、その闇は“無”ではない。――記憶の牢獄だった。
荒れ狂う波。 妹と水難事故にあい、必死に水面でもがいたあの日。 妹は助けれたものの自分は冷たい海の中、声は掻き消え、手を伸ばしても誰も届かない。自然の魔法粒子がとてつもなく乱れており、いつも通り魔法を使おうにも制御不能で発動できなかったあの日。
次に現れたのは、鉄格子に囲まれた檻。 闇市の見世物小屋。 投げつけられる石、罵声、嘲笑。
「怪物だ!」
「泣け、ひれ伏して懇願しろ!」
鎖が肌に食い込み、自由は砕かれていく。
また、閉じ込められる。
また、奪われる。
心臓を縛る声は、過去の記憶か、それとも竜の幻惑か。 境界はとうに曖昧になっていた。
「……いや……」
かすれた声でイリスは呟いた。
「……もう、二度と……あの闇に戻らない……」
必死に足を踏ん張ろうとする。だが、記憶の闇は濃くなる一方。
檻の中、あの日の小さな自分が膝を抱えてうずくまっている。 ――その姿に、胸が引き裂かれるように痛む。
「……私は……」
声は震え、涙が零れそうになる。
その瞬間、現実の竜の姿が記憶に重なった。 ナイトスティーカーの眼は、まるで愉悦に細められているかのようだった。 挑戦者が苦しみ、心を蝕まれる様を楽しむ捕食者の眼。
────
観客席からは悲鳴とざわめき。 だが、その中で一人、黒衣の男は立ち上がることもせずに座ったまま、手に握った拳へ力を込めていた。
スネイプの指先は白くなるほどに力が入っている。 冷静であるべき彼の目には、不安と焦り、そして動揺が宿っていた。
金色の瞳の少女が地に伏したまま、竜の黒煙に飲まれている。
ナイトスティーカーは追い討ちをかけず、自身の体からすれば小動物のように小さいイリスの体に顔を近づけ見つめている。
その姿は、弱者を見下し反応を楽しんでいるようにみえた。
この光景に彼は歯を噛みしめることしかできなかった。
試合会場は座席が埋まりみなが楽しそうに盛り上がっていた。
――最初に挑むのは、イリス。
自分の名前が呼ばれた瞬間、胸は大きく跳ねた。 覚悟はしていた。だが、あまりにも早すぎる順番に動揺は隠せない。 深く息を吸い、吐く。 杖を握りしめ、歩み出す。
大歓声が波のように押し寄せた。だが、その熱気の中にある囁きは冷たい刃だった。
「きたきた、自惚れが」
「これでヘマ打ったら凄く面白いわよね」
赤い瞳を伏せ、雑音を切り捨てる。 目の前にいるのはただ一匹。――漆黒の竜。

ノルウェージャン・ナイトスティーカー。 翼を広げた影が、闘技場全体を覆うようにのしかかる。 その口からは黒い靄が漏れ、地を這う。
咆哮が轟いた瞬間、大地が震えた。
そして大きなしっぽが地面を削りながら迫る。
イリスは杖を振り上げた。
「プロテゴ!」
透明な障壁が閃き、迫る尾を弾き飛ばす。
続けざまに
「コンフリンゴ!」
地面が炸裂し、砂塵が煙幕となって竜の視界を奪う。
その隙に駆け抜け、横合いから杖を振り下ろす。
「ディフィンド!」
光刃が鱗を裂く――だが傷は浅い。厚い鱗がほとんどを弾き返した。
体の真下に守られた卵は未だ取れそうには無い。
そうしてイリスとナイトスティーカーの戦いは続いた。
観客がどよめく。 最初は優勢に見えた。だが、竜の動きは次第に鋭さを増す。
次の瞬間。 巨大な前足が振り下ろされ、イリスの体幹をがっちりと掴んだ。
「……っ!」
肋骨が軋み、肺が締め付けられる。 視界いっぱいに、竜の金色に輝く瞳が迫った。
そして黒煙がイリスを覆う。
口腔の奥から吹きかけられたそれは、熱さではなく冷たさを伴った。 肺の奥へ流れ込むたび、身体の力が抜けていく。 心臓が氷に沈められたように鈍くなる。
イリスの体はぐったりと力を失い、地面へと落ちた。 乾いた音を立てて転がる身体に、観客の悲鳴が走った。
───
視界は闇に沈んだ。 しかし、その闇は“無”ではない。――記憶の牢獄だった。
荒れ狂う波。 妹と水難事故にあい、必死に水面でもがいたあの日。 妹は助けれたものの自分は冷たい海の中、声は掻き消え、手を伸ばしても誰も届かない。自然の魔法粒子がとてつもなく乱れており、いつも通り魔法を使おうにも制御不能で発動できなかったあの日。
次に現れたのは、鉄格子に囲まれた檻。 闇市の見世物小屋。 投げつけられる石、罵声、嘲笑。
「怪物だ!」
「泣け、ひれ伏して懇願しろ!」
鎖が肌に食い込み、自由は砕かれていく。
また、閉じ込められる。
また、奪われる。
心臓を縛る声は、過去の記憶か、それとも竜の幻惑か。 境界はとうに曖昧になっていた。
「……いや……」
かすれた声でイリスは呟いた。
「……もう、二度と……あの闇に戻らない……」
必死に足を踏ん張ろうとする。だが、記憶の闇は濃くなる一方。
檻の中、あの日の小さな自分が膝を抱えてうずくまっている。 ――その姿に、胸が引き裂かれるように痛む。
「……私は……」
声は震え、涙が零れそうになる。
その瞬間、現実の竜の姿が記憶に重なった。 ナイトスティーカーの眼は、まるで愉悦に細められているかのようだった。 挑戦者が苦しみ、心を蝕まれる様を楽しむ捕食者の眼。
────
観客席からは悲鳴とざわめき。 だが、その中で一人、黒衣の男は立ち上がることもせずに座ったまま、手に握った拳へ力を込めていた。
スネイプの指先は白くなるほどに力が入っている。 冷静であるべき彼の目には、不安と焦り、そして動揺が宿っていた。
金色の瞳の少女が地に伏したまま、竜の黒煙に飲まれている。
ナイトスティーカーは追い討ちをかけず、自身の体からすれば小動物のように小さいイリスの体に顔を近づけ見つめている。
その姿は、弱者を見下し反応を楽しんでいるようにみえた。
この光景に彼は歯を噛みしめることしかできなかった。
