特別編
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第11話 生きるということ
「私とあなたの血を引いた子がここにいるの。」
イリスの声が、静かに空気を震わせた。
次の瞬間、スネイプの手がイリスに導かれ、その腹に触れた。
……温かい。
けれど、そのぬくもりが現実だと理解した途端、胸の奥に冷たい衝撃が走った。
我輩の体が硬直し、思考が止まる。
我輩の血を……体に宿した?
信じられなかった。
信じたくなかった。
「……何と?」
そう声にするのがやっとだった。
喉が乾き、言葉が出ない。
世界の音が遠ざかっていく。
我輩は、憎しみと悔恨の中で生きてきた。
誰かを呪い、利用し、見捨ててきた。
闇に身を沈め、数えきれぬ血を流させた。
愛した人を傷つけ、我輩の手によって失った。
そんな我輩に、子を持つ資格などあるはずがない。
残すべきものなど、どこにもなかった。
それなのに、なぜこの女はそんなにも嬉しそうなのだ。
その瞳が、まるで光そのもののように輝いている。
我輩には、それが理解できなかった。
「……我輩のような男の血を、その身に宿して、なぜ喜んでいられるのだ。
我輩は──」
「セブルス、これは罰ではないの。」
イリスの声が、静かに言葉を遮った。
その声音には、確信と温もりが混ざっていた。
彼女はゆっくりと腹に手を添え、命そのものを包み込むように撫でる。
「これは、希望なの。
私とあなたが懸命に生きようともがいた証。
私とあなたが、生きたいと願った証なの。」
希望──。
スネイプは息を飲んだ。
希望。
その二文字は、スネイプの人生で最も遠い場所にあった言葉だった。
我輩にとって“生きる”とは、償うことだった。
ただ罪を清算するように日々を積み重ねるだけの生。
希望など、夢想する余裕もなかった。
……だが。
胸の奥で、何かが解ける音がした。
それが涙なのか、赦しか、彼にはわからない。
ただ、長い間張り詰めていたものが静かに崩れ落ちていくのを感じた。
それでも恐怖は消えなかった。
イリスが辛い思いをすることになったら?
この子が、我輩のように闇に惹かれたら?
誰かを傷つけ、血の道を歩んだら?
我輩が父親として導けるのか?
そもそも、我輩に父親というものが務まるのか。
我輩は父という存在から愛を学ばなかった。
怒号と冷たさ、恐怖しか知らぬ家に育った。
そんな我輩に、人を守る温もりなどあるのか。
「セブルス、私を見て。」
イリスがスネイプの手を握り、顔を覗き込んでくる。
その瞳には怯えも嘆きもなかった。
ただ確かな光だけがあった。
「あなたは間違いも犯した。
けれどそれを認め、ずっと償ってきた。
そして今のあなたは、もうあの“死喰い人”ではない。」
その言葉が、胸に静かに染みていく。
我輩の過去をすべて知った上で、それでも彼女は我輩を見ている。
拒まぬまま、信じている。
……それでも、恐怖は消えなかった。
「だが……我輩に父親など……。」
「セブルス、あなたは父親の愛を知らない。
けれど、人を愛することはできる。
私を、そしてハリーの母を愛したように。
私はね、完璧な父親なんていらないの。
“あなた”が必要なの。」
あなたが、必要。
その言葉がスネイプの胸の奥に沈み、静かに波紋を広げた。
完璧でなくていい。
愛を注げば、それでいい。
彼女はそう言ってくれた。
スネイプは、自分が怯えて責任から逃げようとしていたことを悟った。
我輩のような人間を受け入れてくれる者がいて、なお臆していたとは。
情けなかった。
だが、まだ遅くはない。
「……イリス、我輩と、その子はお前の人生を狭めてしまうのではないか?
お前が苦しむことになるのは……。」
「セブルス、私エルフよ?
あなたよりもずっと長く生きるの。
何千年もあるその時間の中で、私はあなたと過ごす“今”を選びたいの。
あなたが最期に“いい人生だった”と満足して旅立てるように、私は隣にいたい。
それが、私の望みなの。」
スネイプはその言葉に視線を落とした。
彼女の真っすぐな瞳が、暗闇の底で火を灯すようだった。
迷いが霧のように薄れていく。
……そうだ。
我輩はイリスと出会って変わった。
愛を恐れることをやめた。
遠ざけることだけが守ることではないと知った。
彼女が教えてくれた。
生きるとは、変わること。
償いではなく、歩みを続けること。
そのために、我輩はもう一度恐怖を超えねばならぬ。
「イリス……。
お前はいつも我輩の閉ざされた扉を容赦なく叩く。
お前でなければ、我輩はとっくに独りよがりな亡霊になっていた。」
声がわずかに震えた。
スネイプは息を整え、続ける。
「……我輩は、自分を大切にしてくれる者たちのために変わらねばならぬ。
イリスと、これから生まれる命のためにも。」
その言葉を聞いた瞬間、イリスはスネイプに抱きついた。
小さな嗚咽が胸元に染みる。
「セブルス……ありがとう。」
その声が涙に滲み、スネイプの胸の奥に静かに広がった。
不安も恐怖も、溶けていくようだった。
……もう、償いのためではなく。
イリスと、そして我らの子のために生きよう。
償いの果てに見つけたもの。
それは、生きたいという本能だった。
希望。
それが、我輩の中にも確かに芽吹いている。
スネイプはイリスの髪を撫で、ゆっくりと目を閉じた。
二人の間にある静寂が、まるで祝福のように温かかった。
我輩はもう二度と、この光を離しはしない。
イリスが笑い、子が息づくこの世界を。
我輩は、生涯をかけて守り抜こう。
「私とあなたの血を引いた子がここにいるの。」
イリスの声が、静かに空気を震わせた。
次の瞬間、スネイプの手がイリスに導かれ、その腹に触れた。
……温かい。
けれど、そのぬくもりが現実だと理解した途端、胸の奥に冷たい衝撃が走った。
我輩の体が硬直し、思考が止まる。
我輩の血を……体に宿した?
信じられなかった。
信じたくなかった。
「……何と?」
そう声にするのがやっとだった。
喉が乾き、言葉が出ない。
世界の音が遠ざかっていく。
我輩は、憎しみと悔恨の中で生きてきた。
誰かを呪い、利用し、見捨ててきた。
闇に身を沈め、数えきれぬ血を流させた。
愛した人を傷つけ、我輩の手によって失った。
そんな我輩に、子を持つ資格などあるはずがない。
残すべきものなど、どこにもなかった。
それなのに、なぜこの女はそんなにも嬉しそうなのだ。
その瞳が、まるで光そのもののように輝いている。
我輩には、それが理解できなかった。
「……我輩のような男の血を、その身に宿して、なぜ喜んでいられるのだ。
我輩は──」
「セブルス、これは罰ではないの。」
イリスの声が、静かに言葉を遮った。
その声音には、確信と温もりが混ざっていた。
彼女はゆっくりと腹に手を添え、命そのものを包み込むように撫でる。
「これは、希望なの。
私とあなたが懸命に生きようともがいた証。
私とあなたが、生きたいと願った証なの。」
希望──。
スネイプは息を飲んだ。
希望。
その二文字は、スネイプの人生で最も遠い場所にあった言葉だった。
我輩にとって“生きる”とは、償うことだった。
ただ罪を清算するように日々を積み重ねるだけの生。
希望など、夢想する余裕もなかった。
……だが。
胸の奥で、何かが解ける音がした。
それが涙なのか、赦しか、彼にはわからない。
ただ、長い間張り詰めていたものが静かに崩れ落ちていくのを感じた。
それでも恐怖は消えなかった。
イリスが辛い思いをすることになったら?
この子が、我輩のように闇に惹かれたら?
誰かを傷つけ、血の道を歩んだら?
我輩が父親として導けるのか?
そもそも、我輩に父親というものが務まるのか。
我輩は父という存在から愛を学ばなかった。
怒号と冷たさ、恐怖しか知らぬ家に育った。
そんな我輩に、人を守る温もりなどあるのか。
「セブルス、私を見て。」
イリスがスネイプの手を握り、顔を覗き込んでくる。
その瞳には怯えも嘆きもなかった。
ただ確かな光だけがあった。
「あなたは間違いも犯した。
けれどそれを認め、ずっと償ってきた。
そして今のあなたは、もうあの“死喰い人”ではない。」
その言葉が、胸に静かに染みていく。
我輩の過去をすべて知った上で、それでも彼女は我輩を見ている。
拒まぬまま、信じている。
……それでも、恐怖は消えなかった。
「だが……我輩に父親など……。」
「セブルス、あなたは父親の愛を知らない。
けれど、人を愛することはできる。
私を、そしてハリーの母を愛したように。
私はね、完璧な父親なんていらないの。
“あなた”が必要なの。」
あなたが、必要。
その言葉がスネイプの胸の奥に沈み、静かに波紋を広げた。
完璧でなくていい。
愛を注げば、それでいい。
彼女はそう言ってくれた。
スネイプは、自分が怯えて責任から逃げようとしていたことを悟った。
我輩のような人間を受け入れてくれる者がいて、なお臆していたとは。
情けなかった。
だが、まだ遅くはない。
「……イリス、我輩と、その子はお前の人生を狭めてしまうのではないか?
お前が苦しむことになるのは……。」
「セブルス、私エルフよ?
あなたよりもずっと長く生きるの。
何千年もあるその時間の中で、私はあなたと過ごす“今”を選びたいの。
あなたが最期に“いい人生だった”と満足して旅立てるように、私は隣にいたい。
それが、私の望みなの。」
スネイプはその言葉に視線を落とした。
彼女の真っすぐな瞳が、暗闇の底で火を灯すようだった。
迷いが霧のように薄れていく。
……そうだ。
我輩はイリスと出会って変わった。
愛を恐れることをやめた。
遠ざけることだけが守ることではないと知った。
彼女が教えてくれた。
生きるとは、変わること。
償いではなく、歩みを続けること。
そのために、我輩はもう一度恐怖を超えねばならぬ。
「イリス……。
お前はいつも我輩の閉ざされた扉を容赦なく叩く。
お前でなければ、我輩はとっくに独りよがりな亡霊になっていた。」
声がわずかに震えた。
スネイプは息を整え、続ける。
「……我輩は、自分を大切にしてくれる者たちのために変わらねばならぬ。
イリスと、これから生まれる命のためにも。」
その言葉を聞いた瞬間、イリスはスネイプに抱きついた。
小さな嗚咽が胸元に染みる。
「セブルス……ありがとう。」
その声が涙に滲み、スネイプの胸の奥に静かに広がった。
不安も恐怖も、溶けていくようだった。
……もう、償いのためではなく。
イリスと、そして我らの子のために生きよう。
償いの果てに見つけたもの。
それは、生きたいという本能だった。
希望。
それが、我輩の中にも確かに芽吹いている。
スネイプはイリスの髪を撫で、ゆっくりと目を閉じた。
二人の間にある静寂が、まるで祝福のように温かかった。
我輩はもう二度と、この光を離しはしない。
イリスが笑い、子が息づくこの世界を。
我輩は、生涯をかけて守り抜こう。
