第6章 死の秘宝2
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最終話 光の継承
夜の森は息を潜めていた。
風ひとつなく、湖面に映る月光だけがゆらゆらと揺れている。
イリスは膝を抱え、静かに座っていた。
黒い花が咲き誇るその場所、
──セブルスが眠る森。
見守るべきことは終わり、闇の時代は確かに去った。
けれど、心にはぽっかりと穴が空いていた。
生きる理由を失った世界は、音も色も遠くに霞んで見える。
何を見ても、何を聞いても、すべてが彼のいない現実を指し示す。
時が進むことさえ、裏切りのように感じた。
「……あなたのところへ、行きたい。」
それは心の奥底から漏れた呟き。
あなたが望まないことは分かっている。
それでも、後悔ばかりを残したまま生き延びたことが、たまらなく苦しかった。
この先、何千年と時が過ぎれば痛みは薄れるのだろう。
けれどその長い時の中で、生きる希望が見つからない。
だからこそ、ただ一度でいい。
あなたのそばに、もう一度だけ。
イリスの指先が無意識に胸の赤い石へ伸びた。
彼が最後にこの手でつけてくれた銀の鎖。
朝光を受けた宝石が淡く光り、まるで心臓の鼓動のように静かに脈打った。
そして──声がした。
「イリス。
もしこの声を聞いているのなら…、
恐らくお前は悲しみに濡れているのだろう。」
耳ではなく、胸の奥に直接響く声。
息が止まる。
懐かしく、痛いほど恋しい。
その響きは間違いなくスネイプだった。
「我輩の人生は過ちの連続だった。
愛を失い、憎しみに縋り、守ることと壊すことの違いさえ見失っていた。
だが…、お前と出会い、初めて知った。
赦しとは与えられるものではなく、誰かを想うことで生まれるのだと。」
イリスは両手で石を包み込んだ。
温もりが、まるで彼の手に触れていた時のように伝わってくる。
「お前は、我輩の闇を恐れなかった。
我輩の手を取り、そこに温もりを見出してくれた。
その瞬間、長い冬が終わったのだ。
愛とは、罰ではなかった。
お前の笑顔が、我輩の贖いそのものだった。
我輩はもう悔いてはいない。
お前を抱いた夜、ようやく“生きる”ということを知った。」
その声とともに、風が吹いた。
黒い花々が揺れ、森が息を吹き返す。
彼の魔力が淡く脈打ち、空気が微かに震えた。
まるで、彼の息が風に混じっているようだった。
「だからどうか、生きろ、イリス。
我輩の名も、罪も、すべて風に流して構わん。
お前の中にある光を、この世界に還してくれ。
それが我輩の、最後の願いだ。」
「セブルス……」
イリスはそっと呟く。
涙が落ち、石の表面にひとしずく弾けた。
「……愛している。
お前の中に、我輩は永遠に在る。」
声が静かに消えた。
風が頬を撫で、花々が優しく揺れた。
森全体が彼の言葉に応じて息づいているようだった。
イリスは目を閉じた。
確かに感じる。
あの人の温もりが、自分の鼓動の中に生きている。
彼はもういない。
けれど、確かにここにいる。
その確信が、痛みをやさしく変えていく。
胸の奥で、彼の声がまだ残っている。
「──生きろ。」
その残響を抱いたまま、イリスは立ち上がる。
指先が大地に触れた瞬間、足元から微かな音が伝わった。
それは大地の鼓動。
けれど、そこにもうひとつの鼓動が重なる。
自分のものではない、柔らかな光の拍動。
イリスは息を呑み、恐る恐る腹に手を添えた。
……そこに、微かな鼓動。
自分の命とは別の、小さな命の脈。
まだ芽吹いたばかりの、光のような生命。
涙が頬を伝った。
「……セブルスが繋いだ、光。」
小さな命は、まるで彼の願いに応えるように、
“生きたい”と囁いていた。
イリスは頷き、日の出の方を見た。
「……私、生きる。あなたが遺したこの命と共に。
あなたの願い、叶えるわ。
この光を、あなたの代わりに世界へ届ける。
だから──。
人間のあなたは待ちくたびれるでしょうけど、
この子の未来を見届けるまで、待っていて。」
胸の石が淡く輝く。
まるで彼が微笑んでいるように。
その光は夜を裂かず、ただ静かに、永遠の灯のように森を照らし続けた。
───
命を宿したイリスは、自らの運命にも向き合う決意をした。
スネイプとの子を安全に育てるためにも、彼の願いを果たすためにも。
そしてハリーたちへ別れを告げる日が来た。
「イリス……。あなたが前を向くきっかけをくれたのも、スネイプなのね。
お腹の子、本当におめでとう。」
ハーマイオニーの目に涙が光る。
ロンは顔をしかめながらも、不器用に笑って言った。
「……ま、悪くねぇよ。あいつのガキなら、頭は切れるだろ。」
ハリーは一歩近づき、イリスをそっと抱きしめた。
「イリス、僕はスネイプのことをずっと誤解してた。
彼の記憶がすべてを教えてくれたんだ。
そして、君への気持ちも。」
ハリーは小瓶を差し出す。
その中で銀の糸が揺れていた。
「これは彼の記憶の一部だ。
父親がどんな人間だったのか、きっとこの子に伝えたくなる日が来る。
……スネイプは誰よりも勇敢で、そして、不器用なほど優しい人だった。
そんな人が愛した君もまた、強い人だよ。」
「……ハリー、ありがとう。」
イリスは小瓶を胸に抱き、深く頭を下げた。
人間はこんなにも温かく、そして、残酷で冷たい。
闇を抱くからこそ、光を見出せる。
愛と憎しみ、破壊と再生。
その両極を持つ存在だからこそ、彼らは生きる意味を見つけるのだ。
それが、イリスが人間から学んだ真理だった。
〈Fin.〉
夜の森は息を潜めていた。
風ひとつなく、湖面に映る月光だけがゆらゆらと揺れている。
イリスは膝を抱え、静かに座っていた。
黒い花が咲き誇るその場所、
──セブルスが眠る森。
見守るべきことは終わり、闇の時代は確かに去った。
けれど、心にはぽっかりと穴が空いていた。
生きる理由を失った世界は、音も色も遠くに霞んで見える。
何を見ても、何を聞いても、すべてが彼のいない現実を指し示す。
時が進むことさえ、裏切りのように感じた。
「……あなたのところへ、行きたい。」
それは心の奥底から漏れた呟き。
あなたが望まないことは分かっている。
それでも、後悔ばかりを残したまま生き延びたことが、たまらなく苦しかった。
この先、何千年と時が過ぎれば痛みは薄れるのだろう。
けれどその長い時の中で、生きる希望が見つからない。
だからこそ、ただ一度でいい。
あなたのそばに、もう一度だけ。
イリスの指先が無意識に胸の赤い石へ伸びた。
彼が最後にこの手でつけてくれた銀の鎖。
朝光を受けた宝石が淡く光り、まるで心臓の鼓動のように静かに脈打った。
そして──声がした。
「イリス。
もしこの声を聞いているのなら…、
恐らくお前は悲しみに濡れているのだろう。」
耳ではなく、胸の奥に直接響く声。
息が止まる。
懐かしく、痛いほど恋しい。
その響きは間違いなくスネイプだった。
「我輩の人生は過ちの連続だった。
愛を失い、憎しみに縋り、守ることと壊すことの違いさえ見失っていた。
だが…、お前と出会い、初めて知った。
赦しとは与えられるものではなく、誰かを想うことで生まれるのだと。」
イリスは両手で石を包み込んだ。
温もりが、まるで彼の手に触れていた時のように伝わってくる。
「お前は、我輩の闇を恐れなかった。
我輩の手を取り、そこに温もりを見出してくれた。
その瞬間、長い冬が終わったのだ。
愛とは、罰ではなかった。
お前の笑顔が、我輩の贖いそのものだった。
我輩はもう悔いてはいない。
お前を抱いた夜、ようやく“生きる”ということを知った。」
その声とともに、風が吹いた。
黒い花々が揺れ、森が息を吹き返す。
彼の魔力が淡く脈打ち、空気が微かに震えた。
まるで、彼の息が風に混じっているようだった。
「だからどうか、生きろ、イリス。
我輩の名も、罪も、すべて風に流して構わん。
お前の中にある光を、この世界に還してくれ。
それが我輩の、最後の願いだ。」
「セブルス……」
イリスはそっと呟く。
涙が落ち、石の表面にひとしずく弾けた。
「……愛している。
お前の中に、我輩は永遠に在る。」
声が静かに消えた。
風が頬を撫で、花々が優しく揺れた。
森全体が彼の言葉に応じて息づいているようだった。
イリスは目を閉じた。
確かに感じる。
あの人の温もりが、自分の鼓動の中に生きている。
彼はもういない。
けれど、確かにここにいる。
その確信が、痛みをやさしく変えていく。
胸の奥で、彼の声がまだ残っている。
「──生きろ。」
その残響を抱いたまま、イリスは立ち上がる。
指先が大地に触れた瞬間、足元から微かな音が伝わった。
それは大地の鼓動。
けれど、そこにもうひとつの鼓動が重なる。
自分のものではない、柔らかな光の拍動。
イリスは息を呑み、恐る恐る腹に手を添えた。
……そこに、微かな鼓動。
自分の命とは別の、小さな命の脈。
まだ芽吹いたばかりの、光のような生命。
涙が頬を伝った。
「……セブルスが繋いだ、光。」
小さな命は、まるで彼の願いに応えるように、
“生きたい”と囁いていた。
イリスは頷き、日の出の方を見た。
「……私、生きる。あなたが遺したこの命と共に。
あなたの願い、叶えるわ。
この光を、あなたの代わりに世界へ届ける。
だから──。
人間のあなたは待ちくたびれるでしょうけど、
この子の未来を見届けるまで、待っていて。」
胸の石が淡く輝く。
まるで彼が微笑んでいるように。
その光は夜を裂かず、ただ静かに、永遠の灯のように森を照らし続けた。
───
命を宿したイリスは、自らの運命にも向き合う決意をした。
スネイプとの子を安全に育てるためにも、彼の願いを果たすためにも。
そしてハリーたちへ別れを告げる日が来た。
「イリス……。あなたが前を向くきっかけをくれたのも、スネイプなのね。
お腹の子、本当におめでとう。」
ハーマイオニーの目に涙が光る。
ロンは顔をしかめながらも、不器用に笑って言った。
「……ま、悪くねぇよ。あいつのガキなら、頭は切れるだろ。」
ハリーは一歩近づき、イリスをそっと抱きしめた。
「イリス、僕はスネイプのことをずっと誤解してた。
彼の記憶がすべてを教えてくれたんだ。
そして、君への気持ちも。」
ハリーは小瓶を差し出す。
その中で銀の糸が揺れていた。
「これは彼の記憶の一部だ。
父親がどんな人間だったのか、きっとこの子に伝えたくなる日が来る。
……スネイプは誰よりも勇敢で、そして、不器用なほど優しい人だった。
そんな人が愛した君もまた、強い人だよ。」
「……ハリー、ありがとう。」
イリスは小瓶を胸に抱き、深く頭を下げた。
人間はこんなにも温かく、そして、残酷で冷たい。
闇を抱くからこそ、光を見出せる。
愛と憎しみ、破壊と再生。
その両極を持つ存在だからこそ、彼らは生きる意味を見つけるのだ。
それが、イリスが人間から学んだ真理だった。
〈Fin.〉
