第6章 死の秘宝2
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第6話 ここにいる理由
ハリーがひとりで森へ向かってから、世界は静まり返っていた。
イリスは、ハーマイオニーたちと共に静かに大広間を歩く。
石畳には焦げ跡が残り、崩れた壁の隙間から冷たい夜気が流れ込んでいた。
魔法の痕がまだ空中に薄く漂っている。
そこには、戦いの果てに命を落とした者たちが静かに並べられていた。
ロンの兄、フレッド。
かつて防衛術を教え、不死鳥の騎士団として戦っていたリーマス。
そのリーマスと手を取り合うように眠るトンクス。
他にも、授業で笑い声を交わした生徒たちが、穏やかな顔のまま横たわっていた。
一夜にして、あまりにも多くの命が奪われた。
イリスはその光景の前で足を止め、言葉を失った。
ハーマイオニーは膝から崩れ落ち、嗚咽を堪えきれない。
ロンはその傍らで彼女の肩を静かに抱きしめていた。
沈黙の中に、涙の音だけが響く。
───
「裏切り者のお前が、なんでここにいる!」
怒鳴り声が、その静寂を破った。
声の方を見ると、ひとりの生徒が立ち上がり、涙に濡れた目でイリスを睨みつけていた。
彼の拳は震え、顔は憎しみと悲しみに歪んでいる。
「エルフであるお前には遊び感覚なのか?
気まぐれに俺たちを守って、良いことをしたつもりか?
聞くところによれば、お前はあいつに力を分け与えていたそうじゃないか!」
その叫びに、周囲の視線が一斉にイリスへと向けられる。
空気が張りつめ、誰もが息を呑んだ。
「……そんな根拠のない、デタラメを信じるの?」
「デタラメ!? お前がスネイプと逃げ出してから、行方不明者の数が増えた!
これまでとは比にならないほどだ! その事実が何よりの証拠じゃないか!」
「違う。そんなのはただの思い込み──」
「思い込みで力が増すのか!?
思い込みで僕の父さんが姿を消したっていうのか!?
お前は大切な人を失うこともないからそんなことが言えるんだ!
僕の父さんが消えたのも、友達が死んだのも、お前のせいだ!」
声が割れた。
涙に濡れた彼の頬は、憎しみではなく、深い悲嘆に染まっていた。
イリスはその光景をただ見つめていた。
裏切り者としてこうなることは、分かっていた。
けれど、胸に刺さる言葉の一つ一つが、息をするたびに痛みを増していく。
彼女は拳を握りしめ、ただ耐えていた。
「お前はこの先、何百年も生きるんだろ?
だったらこんな一夜のこと、すぐに忘れるんだろ?
だからそんなに平気そうに、裏切った場所に立っていられるんだろ?
みんなが死んでも、お前だけはそうやって見下ろして楽しんでるんだろ!」
その言葉に、空気が凍った。
私が……見下ろしてる?楽しんでる?
そんなふうに見えるの?
胸の奥で何かが軋んだ。
彼女は唇を噛み、必死に言葉を飲み込んだ。
けれど、生徒の声はさらに鋭く突き刺さる。
「お前は、スネイプにも闇の帝王にも取り入ったんだろ?
エルフのくせに色仕掛けで、誰かを騙し踏み台にすることで生き延びたんだろ?
お前がかつて体を売っていたことだって聞いた!
そんな穢らわしいお前には簡単だろ?
次はここで誰を誘惑するんだ?
もうお前に騙されるやつはここにはいないぞ!」
大広間が息を止めた。
誰も止めなかった。
誰も、声を出さなかった。
イリスの指先が震えた。
瞳の奥に光が生まれ、
怒りというよりは、侮辱に耐えきれぬ深い悲しみが静かに燃え上がる。
空気が微かに震えた。
「ねぇ、あなたは突然、未知の世界にたどり着き、
泥水を啜り、腐ったものや汚物を食べたことはある?」
静かな声が、張り詰めた空気を切り裂いた。
「あるわけ──」
「あるわけないよね。」
イリスの声が冷たく澄む。
「じゃあ、助けを求めることも許されず、
体を蹴られ、殴られ、鞭で叩かれ、肉が裂けても骨が見えても、
どれだけ血を流しても止めてもらえなかったことは?」
「……それがなんだよ。あるわけないだろ。」
「そうよね。」
イリスは目を伏せ、深く息を吸う。
「でも、私はある。そうされてきた、30年。
生きてる時間が長いから30年は一瞬だと思う?
そんなわけない。あまりにも長く、永遠に続くように感じていた。
それを私が好き好んで生きるためにやったと思うの?
ねぇ、どうなの?」
沈黙。
誰も答えない。
「そんなことをする、酷く、醜い人間を、
私がなぜ憎んでいないと思う?」
その声は震えていた。
怒鳴りではなく、泣き声のような震えだった。
「逃げる意欲も削がれるほどに痛めつけられ、
環境が壊れた土地では魔法も使えない。
それでも助け出してくれたのは人間だった。
ダンブルドア校長、そして……セブルス。
あの人たちが私を救った。」
光が滲んだ。
彼女の瞳に、スネイプの姿が浮かぶ。
「いま、もし本当に闇に寝返っていたなら、
こんなものじゃ済ませない。
闇を装い、この世界を滅ぼすことだってできた。
でも、しなかった。
なぜか、分かる?」
誰も答えない。
誰も、息をしなかった。
「──あの日、私がセブルスと飛び出したのは、
彼をひとりで背負わせたくなかったから。
誤解され、嫌われても構わなかった。
闇の帝王のもとで心が蝕まれても、
それでも立っていられたのは、彼と支え合っていたから。
彼を、愛していたから。」
涙が頬を伝い、床に落ちる。
「でも、スネイプは闇の組織に───」
「自分たちが見たものがすべて正しいと思うの?」
イリスは声を強める。
その瞳はまっすぐだった。
「人と関わる中で、
本当にその人を理解していたら、
見えてくるものがある。
私はそれをセブルスの中に見た。
あなたたちが知らない彼を、見た。
彼はあなたたちを守るために、闇を裏切りながら闇に属していた。
闇を終わらせるために。
そして最期の瞬間まで、その任務を果たしたの!」
「ハリーがここまで無事でこれたのも、
分霊箱を壊すための剣を与えたのも、
ダンブルドアの計画を、命を賭して支えた彼がいたから!
そんな彼の不器用な愛を、
私たちの積み重ねた想いを、
侮辱し、軽んじることは──絶対に許さない!!」
声が響いた。
それは悲鳴にも似た、愛の叫びだった。
イリスは嗚咽を漏らしながら、それでも目を逸らさなかった。
「私は……彼が見たかった結末を見届けるために残った。
あなたたちを守ったのは、温かさを教えてくれた人たちだから。
決して遊びなんかじゃない。
私は心まで穢れてなんかない!!
私とセブルスの関係は、あなたたちが思うような、くだらないものじゃない!!」
声を張り上げたあと、世界が止まった。
音が消えた。
彼女の荒い呼吸だけが、静まり返った空間に響いた。
───
ハーマイオニーが立ち上がる。
震える手で口を押さえ、そして気づいたように、イリスへ駆け寄り抱きしめた。
「そんなに……抱えていたなんて……」
その声は涙に溶け、震えていた。
誰もが顔を伏せ、
さっきまで彼女を責めていた生徒も、唇を噛みしめていた。
謝罪の言葉はなかったが、
彼の瞳には、確かに理解の光が宿っていた。
イリスは抱きしめられたまま、静かに目を閉じる。
もう涙は出なかった。
全てを吐き出したあとに残ったのは、
静かで透き通るような安らぎだけ。
胸の赤い石が小さく脈打ち、
まるで“よく言った”と囁くように光を放つ。
───
その夜、ホグワーツの大広間は誰の言葉もなく、
ただ涙と静寂だけが満ちていた。
けれどその静けさは、絶望の終わりではなかった。
それは、愛と痛みを分かち合う者たちが、
初めてひとつになった“祈りの時間”だった。
ハリーがひとりで森へ向かってから、世界は静まり返っていた。
イリスは、ハーマイオニーたちと共に静かに大広間を歩く。
石畳には焦げ跡が残り、崩れた壁の隙間から冷たい夜気が流れ込んでいた。
魔法の痕がまだ空中に薄く漂っている。
そこには、戦いの果てに命を落とした者たちが静かに並べられていた。
ロンの兄、フレッド。
かつて防衛術を教え、不死鳥の騎士団として戦っていたリーマス。
そのリーマスと手を取り合うように眠るトンクス。
他にも、授業で笑い声を交わした生徒たちが、穏やかな顔のまま横たわっていた。
一夜にして、あまりにも多くの命が奪われた。
イリスはその光景の前で足を止め、言葉を失った。
ハーマイオニーは膝から崩れ落ち、嗚咽を堪えきれない。
ロンはその傍らで彼女の肩を静かに抱きしめていた。
沈黙の中に、涙の音だけが響く。
───
「裏切り者のお前が、なんでここにいる!」
怒鳴り声が、その静寂を破った。
声の方を見ると、ひとりの生徒が立ち上がり、涙に濡れた目でイリスを睨みつけていた。
彼の拳は震え、顔は憎しみと悲しみに歪んでいる。
「エルフであるお前には遊び感覚なのか?
気まぐれに俺たちを守って、良いことをしたつもりか?
聞くところによれば、お前はあいつに力を分け与えていたそうじゃないか!」
その叫びに、周囲の視線が一斉にイリスへと向けられる。
空気が張りつめ、誰もが息を呑んだ。
「……そんな根拠のない、デタラメを信じるの?」
「デタラメ!? お前がスネイプと逃げ出してから、行方不明者の数が増えた!
これまでとは比にならないほどだ! その事実が何よりの証拠じゃないか!」
「違う。そんなのはただの思い込み──」
「思い込みで力が増すのか!?
思い込みで僕の父さんが姿を消したっていうのか!?
お前は大切な人を失うこともないからそんなことが言えるんだ!
僕の父さんが消えたのも、友達が死んだのも、お前のせいだ!」
声が割れた。
涙に濡れた彼の頬は、憎しみではなく、深い悲嘆に染まっていた。
イリスはその光景をただ見つめていた。
裏切り者としてこうなることは、分かっていた。
けれど、胸に刺さる言葉の一つ一つが、息をするたびに痛みを増していく。
彼女は拳を握りしめ、ただ耐えていた。
「お前はこの先、何百年も生きるんだろ?
だったらこんな一夜のこと、すぐに忘れるんだろ?
だからそんなに平気そうに、裏切った場所に立っていられるんだろ?
みんなが死んでも、お前だけはそうやって見下ろして楽しんでるんだろ!」
その言葉に、空気が凍った。
私が……見下ろしてる?楽しんでる?
そんなふうに見えるの?
胸の奥で何かが軋んだ。
彼女は唇を噛み、必死に言葉を飲み込んだ。
けれど、生徒の声はさらに鋭く突き刺さる。
「お前は、スネイプにも闇の帝王にも取り入ったんだろ?
エルフのくせに色仕掛けで、誰かを騙し踏み台にすることで生き延びたんだろ?
お前がかつて体を売っていたことだって聞いた!
そんな穢らわしいお前には簡単だろ?
次はここで誰を誘惑するんだ?
もうお前に騙されるやつはここにはいないぞ!」
大広間が息を止めた。
誰も止めなかった。
誰も、声を出さなかった。
イリスの指先が震えた。
瞳の奥に光が生まれ、
怒りというよりは、侮辱に耐えきれぬ深い悲しみが静かに燃え上がる。
空気が微かに震えた。
「ねぇ、あなたは突然、未知の世界にたどり着き、
泥水を啜り、腐ったものや汚物を食べたことはある?」
静かな声が、張り詰めた空気を切り裂いた。
「あるわけ──」
「あるわけないよね。」
イリスの声が冷たく澄む。
「じゃあ、助けを求めることも許されず、
体を蹴られ、殴られ、鞭で叩かれ、肉が裂けても骨が見えても、
どれだけ血を流しても止めてもらえなかったことは?」
「……それがなんだよ。あるわけないだろ。」
「そうよね。」
イリスは目を伏せ、深く息を吸う。
「でも、私はある。そうされてきた、30年。
生きてる時間が長いから30年は一瞬だと思う?
そんなわけない。あまりにも長く、永遠に続くように感じていた。
それを私が好き好んで生きるためにやったと思うの?
ねぇ、どうなの?」
沈黙。
誰も答えない。
「そんなことをする、酷く、醜い人間を、
私がなぜ憎んでいないと思う?」
その声は震えていた。
怒鳴りではなく、泣き声のような震えだった。
「逃げる意欲も削がれるほどに痛めつけられ、
環境が壊れた土地では魔法も使えない。
それでも助け出してくれたのは人間だった。
ダンブルドア校長、そして……セブルス。
あの人たちが私を救った。」
光が滲んだ。
彼女の瞳に、スネイプの姿が浮かぶ。
「いま、もし本当に闇に寝返っていたなら、
こんなものじゃ済ませない。
闇を装い、この世界を滅ぼすことだってできた。
でも、しなかった。
なぜか、分かる?」
誰も答えない。
誰も、息をしなかった。
「──あの日、私がセブルスと飛び出したのは、
彼をひとりで背負わせたくなかったから。
誤解され、嫌われても構わなかった。
闇の帝王のもとで心が蝕まれても、
それでも立っていられたのは、彼と支え合っていたから。
彼を、愛していたから。」
涙が頬を伝い、床に落ちる。
「でも、スネイプは闇の組織に───」
「自分たちが見たものがすべて正しいと思うの?」
イリスは声を強める。
その瞳はまっすぐだった。
「人と関わる中で、
本当にその人を理解していたら、
見えてくるものがある。
私はそれをセブルスの中に見た。
あなたたちが知らない彼を、見た。
彼はあなたたちを守るために、闇を裏切りながら闇に属していた。
闇を終わらせるために。
そして最期の瞬間まで、その任務を果たしたの!」
「ハリーがここまで無事でこれたのも、
分霊箱を壊すための剣を与えたのも、
ダンブルドアの計画を、命を賭して支えた彼がいたから!
そんな彼の不器用な愛を、
私たちの積み重ねた想いを、
侮辱し、軽んじることは──絶対に許さない!!」
声が響いた。
それは悲鳴にも似た、愛の叫びだった。
イリスは嗚咽を漏らしながら、それでも目を逸らさなかった。
「私は……彼が見たかった結末を見届けるために残った。
あなたたちを守ったのは、温かさを教えてくれた人たちだから。
決して遊びなんかじゃない。
私は心まで穢れてなんかない!!
私とセブルスの関係は、あなたたちが思うような、くだらないものじゃない!!」
声を張り上げたあと、世界が止まった。
音が消えた。
彼女の荒い呼吸だけが、静まり返った空間に響いた。
───
ハーマイオニーが立ち上がる。
震える手で口を押さえ、そして気づいたように、イリスへ駆け寄り抱きしめた。
「そんなに……抱えていたなんて……」
その声は涙に溶け、震えていた。
誰もが顔を伏せ、
さっきまで彼女を責めていた生徒も、唇を噛みしめていた。
謝罪の言葉はなかったが、
彼の瞳には、確かに理解の光が宿っていた。
イリスは抱きしめられたまま、静かに目を閉じる。
もう涙は出なかった。
全てを吐き出したあとに残ったのは、
静かで透き通るような安らぎだけ。
胸の赤い石が小さく脈打ち、
まるで“よく言った”と囁くように光を放つ。
───
その夜、ホグワーツの大広間は誰の言葉もなく、
ただ涙と静寂だけが満ちていた。
けれどその静けさは、絶望の終わりではなかった。
それは、愛と痛みを分かち合う者たちが、
初めてひとつになった“祈りの時間”だった。
