第6章 死の秘宝2
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第4話 眠りの森に還る
イリスは建物を抜け、崩れた壁の陰に身を潜めた。
胸の奥で、鼓動と戦場の衝撃が重なる。
息を整え、ゆっくりとうずくまる。
瓦礫の向こうには、まだ息をしている大地があった。
手を伸ばし、掌で土の冷たさを確かめる。
そして、地面へ耳を当て、目を閉じた。
遠くでは魔法が炸裂し、叫びがこだまする。
だが、イリスの意識はそのすべての喧騒を遠ざけていた。
聞こえてきたのは、揺るぎない地の鼓動。
大地は深く、重く、悲しんでいた。
踏み荒らされた根の悲鳴、砕けた石の呻き、そしてまだ燃え尽きていない命の微かな明かり。
イリスはその流れへ指先を溶かすように心を伸ばし、問いかけた。
探している。少年。黒い髪。強い光。彼の足の下の土はどこにあるのか。
ハリーは、どこにいるのか。
すぐには答えは来なかった。
大地の悲しみを受け止めるように心を開き、さらに深く潜った。
潜るにつれ土の粒ひとつひとつが持つ記憶のざわめきが静まっていく。
そして大地は言葉をもたずに答えた。
水のせせらぎ、木の軋む音、ロープのこすれるかすかな響き。
木の小屋、そしてその先にある静かな光景。
「……湖だ!」
イリスははっと息を呑み、立ち上がる。
風が髪をかすめる。
大地の導きに背を押されるように、彼女は走り出した。
───
多くの閃光が飛び交い、崩れ落ちる瓦礫の間を縫うように、イリスは進んだ。
焦げた匂いが肺を焼く。
指先が震えても、胸の赤い石が温もりを返してくれる。
それが彼の存在を思い出させた。
ようやく湖のほとりが見え、大地が見せた小屋も姿を見せた。
そしてイリスは階段の下に三つの影を見つけた。
ハリー、ロン、ハーマイオニー。
ようやく会えた──そう思って駆け降りる。
階段を降りきったところで、三人の顔をみると蒼白になっていた。
「ハリー……?」
呼びかけても、誰も答えない。
三人の視線が、静かに小屋の扉の方へ向いた。
イリスは息を呑み、彼らの視線を追う。
扉を押し開けた瞬間、見えたのは──。
見慣れた靴だった。
血の気が引いた。
指先から冷たさが広がり、呼吸が途切れる。
ここから先は見てはいけない。見たくなかった。
それでも視線は勝手に足から上へと向かう。
壁際にもたれた黒い外套。
首元にから流れた赤。
もう何も映していない開かれた瞳。
その瞬間体の力が抜けイリスは膝をついて彼の傍らへ崩れ落ちる。
目の前には信じたくない光景があった。
何か悪い冗談であって欲しい。
そう思いながら震える指で頬に触れる。
まだ、温かい。
なのに瞳孔は開ききっており、光を失っている。
「セ……セブルスっ! セブルス!」
声が掠れ、空気に溶けた。
返事はない。
何度呼んでも、彼は動かない。
胸に顔を押し当てる。
鼓動はどこにもない。
その事実で涙が溢れ、衣の黒に滲んでいく。
「どうして……一人で行ってしまったの。
約束したのに……私を一人にしないって……。」
声は嗚咽に変わり、言葉が途切れる。
つい一時間前、彼の腕の中にいた。
その温もりを、彼の鼓動をまだ覚えている。
別れる前にみせたあの微笑みが、紅い石をつけてくれた手の温もりが、硬く荒れていた手の感触が、
彼の息遣いが、声が、
全てがイリスの脳を駆け抜ける。
ハーマイオニーが背に手を置き、震える声で言った。
「……イリス。ごめんなさい、私たち……」
イリスは動かない。
ただ、冷たくなっていく彼の手を握り締めたまま。
ハリーが一歩近づく。
「スネイプは、最期に君を呼んでいた。
僕の母さんの瞳を超えて、君を愛してたんだ。」
その言葉に、イリスの涙が止まった。
ゆっくりと顔を上げ、穏やかな彼の表情を見つめる。
「……セブルスは、ちゃんと全てをやり遂げたのね。
自分を縛っていた贖罪も、後悔も、もうすべて手放せたのね。」
指先で、彼の頬を撫でる。
その肌の下にはもう生命の鼓動はないのに、
どこか、満ち足りた気配が漂っていた。
「穏やかね……。
これでようやく、あなたは眠れるのね。
愛してる、セブルス。」
イリスはそっと彼の頭を胸に抱き寄せ、
涙を落としながら囁いた。
「あなたは自然とともに、この世界を見守っていて。」
静かに唇を重ねる。
冷たさの向こうに、永遠の約束のような温もりが一瞬だけ残った。
───
イリスは彼の体を魔法で包み、静かに持ち上げた。
歩くたびに衣が揺れ、赤い石が小さく脈打つ。
ハリーたちは無言でその後に続いた。
森の奥、湖を見下ろす木の根元。
イリスは彼をそこへもたれさせ、微笑んだ。
「あなた達人間の弔い方はまだよく分からない。
だけど、この戦いが終わるまであなたを一人残しておくことは出来ない。
だから、エルフのやり方だけど……受け取って。」
イリスは彼の髪を顔から除け、額に触れる。
その手のひらに残る冷たさが、やがて静けさへと変わっていく。
少し離れた場所で膝をつき、両手を胸の前で組む。
古代語が唇から零れた。
それは呪文ではなく、祈りの歌。
言葉ではなく、命そのものが大地に染み込んでいくような響きだった。
風のないはずの森で、草花が揺れ始める。
木の根が静かに伸び、彼の体を包み込む。
そしてその上を青々とした草が覆い始める。
光が降り注ぎ、闇がやわらいでいく。
次第に境界が溶けていく。
そして彼は森の一部となった。
彼を包んでいた木の根から数多くの淡い黒い蕾が、まるで眠りから覚めるように静かに開く。
そしてそれは黒の絨毯を敷いたように咲き乱れていた。
夜の色をそのまま映したような深い黒。
だが花弁の縁だけが、淡く銀の光を帯びて揺れている。
それはまるで、闇の中に溶けた彼の魂が、
光を抱きしめたまま眠っているかのようだった。
花の香りが漂い、イリスは涙の中で微笑んだ。
その香りは、彼がよく纏っていた匂いに似ていた。
湖の面がわずかに揺れ、月光が木の幹を照らす。
幹の影が、まるで彼の横顔のように見えた。
イリスは囁いた。
「あなたの眠るこの場所が、永遠に穏やかでありますように。
あなたが守ろうとしたこの場所を、この未来を、
どうかこの森と共に静かに見守っていて。
あなたの愛が、いまもこの世界のどこかで息づいていますように。」
風が髪を撫で、森全体がひとつ息をついた。
──それはまるで、森そのものがスネイプの永遠の眠りを受け入れた合図のようだった。
イリスは胸の前で手を重ね、赤い石のぬくもりを感じながら、静かに目を閉じた。
イリスは建物を抜け、崩れた壁の陰に身を潜めた。
胸の奥で、鼓動と戦場の衝撃が重なる。
息を整え、ゆっくりとうずくまる。
瓦礫の向こうには、まだ息をしている大地があった。
手を伸ばし、掌で土の冷たさを確かめる。
そして、地面へ耳を当て、目を閉じた。
遠くでは魔法が炸裂し、叫びがこだまする。
だが、イリスの意識はそのすべての喧騒を遠ざけていた。
聞こえてきたのは、揺るぎない地の鼓動。
大地は深く、重く、悲しんでいた。
踏み荒らされた根の悲鳴、砕けた石の呻き、そしてまだ燃え尽きていない命の微かな明かり。
イリスはその流れへ指先を溶かすように心を伸ばし、問いかけた。
探している。少年。黒い髪。強い光。彼の足の下の土はどこにあるのか。
ハリーは、どこにいるのか。
すぐには答えは来なかった。
大地の悲しみを受け止めるように心を開き、さらに深く潜った。
潜るにつれ土の粒ひとつひとつが持つ記憶のざわめきが静まっていく。
そして大地は言葉をもたずに答えた。
水のせせらぎ、木の軋む音、ロープのこすれるかすかな響き。
木の小屋、そしてその先にある静かな光景。
「……湖だ!」
イリスははっと息を呑み、立ち上がる。
風が髪をかすめる。
大地の導きに背を押されるように、彼女は走り出した。
───
多くの閃光が飛び交い、崩れ落ちる瓦礫の間を縫うように、イリスは進んだ。
焦げた匂いが肺を焼く。
指先が震えても、胸の赤い石が温もりを返してくれる。
それが彼の存在を思い出させた。
ようやく湖のほとりが見え、大地が見せた小屋も姿を見せた。
そしてイリスは階段の下に三つの影を見つけた。
ハリー、ロン、ハーマイオニー。
ようやく会えた──そう思って駆け降りる。
階段を降りきったところで、三人の顔をみると蒼白になっていた。
「ハリー……?」
呼びかけても、誰も答えない。
三人の視線が、静かに小屋の扉の方へ向いた。
イリスは息を呑み、彼らの視線を追う。
扉を押し開けた瞬間、見えたのは──。
見慣れた靴だった。
血の気が引いた。
指先から冷たさが広がり、呼吸が途切れる。
ここから先は見てはいけない。見たくなかった。
それでも視線は勝手に足から上へと向かう。
壁際にもたれた黒い外套。
首元にから流れた赤。
もう何も映していない開かれた瞳。
その瞬間体の力が抜けイリスは膝をついて彼の傍らへ崩れ落ちる。
目の前には信じたくない光景があった。
何か悪い冗談であって欲しい。
そう思いながら震える指で頬に触れる。
まだ、温かい。
なのに瞳孔は開ききっており、光を失っている。
「セ……セブルスっ! セブルス!」
声が掠れ、空気に溶けた。
返事はない。
何度呼んでも、彼は動かない。
胸に顔を押し当てる。
鼓動はどこにもない。
その事実で涙が溢れ、衣の黒に滲んでいく。
「どうして……一人で行ってしまったの。
約束したのに……私を一人にしないって……。」
声は嗚咽に変わり、言葉が途切れる。
つい一時間前、彼の腕の中にいた。
その温もりを、彼の鼓動をまだ覚えている。
別れる前にみせたあの微笑みが、紅い石をつけてくれた手の温もりが、硬く荒れていた手の感触が、
彼の息遣いが、声が、
全てがイリスの脳を駆け抜ける。
ハーマイオニーが背に手を置き、震える声で言った。
「……イリス。ごめんなさい、私たち……」
イリスは動かない。
ただ、冷たくなっていく彼の手を握り締めたまま。
ハリーが一歩近づく。
「スネイプは、最期に君を呼んでいた。
僕の母さんの瞳を超えて、君を愛してたんだ。」
その言葉に、イリスの涙が止まった。
ゆっくりと顔を上げ、穏やかな彼の表情を見つめる。
「……セブルスは、ちゃんと全てをやり遂げたのね。
自分を縛っていた贖罪も、後悔も、もうすべて手放せたのね。」
指先で、彼の頬を撫でる。
その肌の下にはもう生命の鼓動はないのに、
どこか、満ち足りた気配が漂っていた。
「穏やかね……。
これでようやく、あなたは眠れるのね。
愛してる、セブルス。」
イリスはそっと彼の頭を胸に抱き寄せ、
涙を落としながら囁いた。
「あなたは自然とともに、この世界を見守っていて。」
静かに唇を重ねる。
冷たさの向こうに、永遠の約束のような温もりが一瞬だけ残った。
───
イリスは彼の体を魔法で包み、静かに持ち上げた。
歩くたびに衣が揺れ、赤い石が小さく脈打つ。
ハリーたちは無言でその後に続いた。
森の奥、湖を見下ろす木の根元。
イリスは彼をそこへもたれさせ、微笑んだ。
「あなた達人間の弔い方はまだよく分からない。
だけど、この戦いが終わるまであなたを一人残しておくことは出来ない。
だから、エルフのやり方だけど……受け取って。」
イリスは彼の髪を顔から除け、額に触れる。
その手のひらに残る冷たさが、やがて静けさへと変わっていく。
少し離れた場所で膝をつき、両手を胸の前で組む。
古代語が唇から零れた。
それは呪文ではなく、祈りの歌。
言葉ではなく、命そのものが大地に染み込んでいくような響きだった。
風のないはずの森で、草花が揺れ始める。
木の根が静かに伸び、彼の体を包み込む。
そしてその上を青々とした草が覆い始める。
光が降り注ぎ、闇がやわらいでいく。
次第に境界が溶けていく。
そして彼は森の一部となった。
彼を包んでいた木の根から数多くの淡い黒い蕾が、まるで眠りから覚めるように静かに開く。
そしてそれは黒の絨毯を敷いたように咲き乱れていた。
夜の色をそのまま映したような深い黒。
だが花弁の縁だけが、淡く銀の光を帯びて揺れている。
それはまるで、闇の中に溶けた彼の魂が、
光を抱きしめたまま眠っているかのようだった。
花の香りが漂い、イリスは涙の中で微笑んだ。
その香りは、彼がよく纏っていた匂いに似ていた。
湖の面がわずかに揺れ、月光が木の幹を照らす。
幹の影が、まるで彼の横顔のように見えた。
イリスは囁いた。
「あなたの眠るこの場所が、永遠に穏やかでありますように。
あなたが守ろうとしたこの場所を、この未来を、
どうかこの森と共に静かに見守っていて。
あなたの愛が、いまもこの世界のどこかで息づいていますように。」
風が髪を撫で、森全体がひとつ息をついた。
──それはまるで、森そのものがスネイプの永遠の眠りを受け入れた合図のようだった。
イリスは胸の前で手を重ね、赤い石のぬくもりを感じながら、静かに目を閉じた。
