第6章 死の秘宝2
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第3話 赤い石の護り
ホグワーツの敷地に足を踏み入れた瞬間、空が裂けた。
焦げた匂いと魔法の閃光が入り混じり、
瓦礫の飛び散る音が心臓の鼓動と重なった。
世界が悲鳴を上げている──そう感じた。
崩れかけた城壁の影で、イリスは立ち尽くした。
初めて見る“戦い”ではなかった。
だが、“命を奪い合う戦争”を、これほど近くで見たのは初めてだった。
体の奥が凍りつく。
喉が、何かを叫びたがっているのに声にならない。
そのとき、腕を掴む手があった。
「……はぁ。いいから来い。」
スネイプの声が、爆音の中で唯一、現実に引き戻してくれた。
振り返る暇もなく、その手に引かれて廊下の奥へと走る。
───
壁の内側は、不気味なほど静かだった。
遠くで響く衝撃音が石を震わせ、
その震えが、まるで心の奥を叩いているように感じた。
スネイプは一歩先を歩き、
その背中が淡い光の反射に浮かび上がっていた。
どんな闇の中でも、この背だけは見失いたくないとイリスは思った。
「イリス。いいか、ポッターたちと合流しておけ。」
「分かった。でも……セブルスは? 避難経路を見たあと、戻って来るでしょ?」
「あぁ。」
短い返事。
いつもと同じ声の高さなのに、耳の奥で少し違って聞こえた。
イリスは胸の奥がざわつくのを抑えられなかった。
彼の言葉の裏に、何かを隠している気がしてならなかった。
スネイプが片手を上げた。
掌に、銀の鎖が静かに揺れている。
鎖の先には、深紅の宝石。
その光は炎でも血でもなく、まるで“鼓動”のように脈打っていた。
「これは……?」
「お前の目に似ていると思ったのだ。お前に、良く似合う。」
スネイプは言いながら、鎖をそっと持ち上げた。
そしてその指先で慎重にイリスの髪をよけ、鎖を後ろへと回す。
ひやりとした鎖が首筋に触れ、次の瞬間には温かさが灯ったように広がった。
彼の指が留め具を探り当て、小さな音を立てて留まる。
そして、その手が離れると鎖が喉のくぼみに沿って落ち、
紅い石が心臓の上に降りた。
光がわずかに揺れ、石が呼吸をするように脈打つ。
「イリス、お前を信じていないわけではない。
だが、これは我輩の……愚かな安心のためだ。
保護魔法をかけてある。この戦いが終わるまで、肌身離さずつけておけ。」
スネイプは目を逸らした。
その表情の端に、言葉よりも深い何かが滲んでいた。
イリスの胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「ありがとう、セブルス。
ずっとつけておくね。すごく温かくて……安心する。」
首元の石を握ると、
指先から心臓に向けて柔らかな熱が流れ込んでくる。
まるで、彼の手がそのまま胸の内に残っているようだった。
「……セブルス。ちゃんと合流してくれるよね。」
「イリス……」
スネイプの指がそっと頬に伸び、優しく頬を包む。
その手のひらは粗く、硬い。けれど驚くほど優しい。
イリスはその手に頬を寄せた。
血の匂い、灰の匂い、彼の呼吸の音が、全て現実の証のように感じられた。
「お前を一人にする訳にはいかぬからな。」
ほんの刹那、彼の口元がほどけた。霧の中で灯る火のような、柔らかな微笑が見えた。
それは、これまで見たどんな光よりも静かで、優しかった。
「約束よ。私、待ってるから。」
二人は抱きしめ合った。
互いの無事を祈るように、
確かめ合うように、息が混ざった。
そして唇を重ねた瞬間、紅い石が小さく震え、
温もりが胸の奥へ沈んでいく。
───
別れの後、イリスは走り出した。
空は悲鳴を上げ、炎が舞い、
石畳が焦げ、影が溶けていく。
光の閃光が、まるで誰かの絶叫のように夜を裂いた。
胸元の石が熱を帯びるたび、心が少しだけ強くなる。
彼の名を心の中で呼ぶたび、
恐怖の中にも、どこか確かな道筋が見える気がした。
そしてハリーたちを探し回り、角を曲がった先で生徒たちが杖を構えていた。
瞳には恐怖と怒り。
涙と憎しみの入り混じる声が突き刺さる。
「裏切り者!」
叫びが空気を震わせる。
イリスは瞬時に防御の姿勢を取る。
弾ける光が頬をかすめ、髪が風に流れる。
戦いたくない。その一心で身を翻す。
「戦いたくないの。お願い、聞いて……」
しかし声は届かない。
怒りが、彼らの耳を塞いでいた。
そのとき、胸の石が強く脈打った。
次々と放たれた呪文が触れる寸前に、柔らかな光が彼女の全身を包む。
その光が魔法吸収し、イリスの肌に届くのは冷たい風のみだった。
スネイプの魔法が守ってくれている。
その確信に、涙が滲んだ。
だが、その瞬間近くで悲鳴が上がった。
声の方を見ると──。
巨人族の足が生徒を踏み潰そうとしていた。
イリスは考えるより早く動いた。
巨人族へ向けて掌を振る。
周囲の瓦礫が空を舞い、唸りを上げて巨人の足へ叩きつけられた。
鈍い音とともに地面が震え、巨体が崩れ落ちる。
巨人族が倒れるのに巻き込まれ、崩れる柱。
だがその瞬間、柱の破片がイリスの方へ飛び出し肩にぶつかる。
その衝撃で、後ろに倒れ込むイリス。
すぐに体勢を整えようとするも、生徒たちの杖からは呪文が放たれていた。
イリスは避けるのに間に合わないと確信し、地面に着いていた手に魔力を込める。
その瞬間、地面から生えるように岩の壁が立ち上がった。
壁の向こうから「卑怯者!」という怒声。
それでも、彼女はもう何も言い返さなかった。
涙は出ない。ただ胸が、熱く痛んだ。
「援護する!」
背後から黒い外套がひとつ駆けてくる。
死喰い人がイリスの側に躍り出て、生徒たちへ容赦なく呪文を浴びせかけた。
イリスは突然現れた望まぬ援護に動揺し、この状況をどうすべきなのかをすぐに判断できなかった。
その間も光が生徒の頬をかすめ、悲鳴が上がる。
生徒たちは恐怖で手元が狂い、防御の呪文すら崩れかけていた。
目の前の生徒たちが追い詰められていく。
巨人族への攻撃は巻き込んでしまった、と言えばごまかせるだろう。
だが、死喰い人への、人間への攻撃は本当に闇を裏切ることになると感じ躊躇してしまう。
そして予想よりも早く裏切ってしまうことが本当に正しいのだろうか。
そんな葛藤がイリスの心を揺する。
生徒たちは武装解除魔法でとうとう杖を飛ばされてしまった。
死喰い人が楽しそうに笑いながら近づいていく。
その光景を見ていたイリスは、体が勝手に動いていた。
素早く死喰い人の背後へ回り込み、短く掌を払う。
散っていた瓦礫が低く唸り、死喰い人の後頭部へ重く叩き込まれた。
男は目を見開き、そのまま崩れ落ちる。外套がひるがえり、静寂が一瞬だけ戻った。
生徒たちはイリスを見て、引きつった顔で後ずさった。恐怖と混乱が混じる瞳。口が命乞いの言葉を形作ろうとしているのを、イリスは掌で制した。
「ハリーポッターはどこ。」
「お、大広間で──」
「そう。どうか生き延びて。」
イリスは必要なことを聞くと、生徒たちに一言のこして再び走り出す。
飛び交う呪文の中、紅い石を握る。
その石は、危険が近づくたび胸の上で温度を上げ、薄い膜のような気配でイリスを包んだ。
幾つもの呪文がかすめるのに、痛みはなかった。
───
大広間は地獄だった。
倒れた机、焦げた壁、空を切り裂く光。誰かの名を叫ぶ声。
イリスは目と耳を凝らした。だが、ハリーの姿はどこにもない。
魔力を探ろうと心を集中させたが、あまりに多くの気配が渦を巻いていて、ひとつを拾い上げることはできなかった。
踏み込めば誰かを倒してしまう。足を止めれば誰かが倒れる。
彼女は歯を食いしばり、走路を変えた。通りすがりに、崩れ落ちる壁の角度を変え、倒れかけの梁の軋みにそっと力を加え、誰にも気づかれぬように命が潰れないよう支え続けた。
ハリー達がいない。
焦燥が胸を焼く。
そして、ふと立ち止まり思い出す。
故郷の教えを。
エルフと自然の繋がりは魔力だけにあらず。
しかし風は魔法で狂っており、獣は逃げ、近寄れない。
植物も近くのものは焼かれ、潰されている。
けれど1つだけまだ息をしている。
決して揺るぐことのないもの。
──大地。
ホグワーツの敷地に足を踏み入れた瞬間、空が裂けた。
焦げた匂いと魔法の閃光が入り混じり、
瓦礫の飛び散る音が心臓の鼓動と重なった。
世界が悲鳴を上げている──そう感じた。
崩れかけた城壁の影で、イリスは立ち尽くした。
初めて見る“戦い”ではなかった。
だが、“命を奪い合う戦争”を、これほど近くで見たのは初めてだった。
体の奥が凍りつく。
喉が、何かを叫びたがっているのに声にならない。
そのとき、腕を掴む手があった。
「……はぁ。いいから来い。」
スネイプの声が、爆音の中で唯一、現実に引き戻してくれた。
振り返る暇もなく、その手に引かれて廊下の奥へと走る。
───
壁の内側は、不気味なほど静かだった。
遠くで響く衝撃音が石を震わせ、
その震えが、まるで心の奥を叩いているように感じた。
スネイプは一歩先を歩き、
その背中が淡い光の反射に浮かび上がっていた。
どんな闇の中でも、この背だけは見失いたくないとイリスは思った。
「イリス。いいか、ポッターたちと合流しておけ。」
「分かった。でも……セブルスは? 避難経路を見たあと、戻って来るでしょ?」
「あぁ。」
短い返事。
いつもと同じ声の高さなのに、耳の奥で少し違って聞こえた。
イリスは胸の奥がざわつくのを抑えられなかった。
彼の言葉の裏に、何かを隠している気がしてならなかった。
スネイプが片手を上げた。
掌に、銀の鎖が静かに揺れている。
鎖の先には、深紅の宝石。
その光は炎でも血でもなく、まるで“鼓動”のように脈打っていた。
「これは……?」
「お前の目に似ていると思ったのだ。お前に、良く似合う。」
スネイプは言いながら、鎖をそっと持ち上げた。
そしてその指先で慎重にイリスの髪をよけ、鎖を後ろへと回す。
ひやりとした鎖が首筋に触れ、次の瞬間には温かさが灯ったように広がった。
彼の指が留め具を探り当て、小さな音を立てて留まる。
そして、その手が離れると鎖が喉のくぼみに沿って落ち、
紅い石が心臓の上に降りた。
光がわずかに揺れ、石が呼吸をするように脈打つ。
「イリス、お前を信じていないわけではない。
だが、これは我輩の……愚かな安心のためだ。
保護魔法をかけてある。この戦いが終わるまで、肌身離さずつけておけ。」
スネイプは目を逸らした。
その表情の端に、言葉よりも深い何かが滲んでいた。
イリスの胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「ありがとう、セブルス。
ずっとつけておくね。すごく温かくて……安心する。」
首元の石を握ると、
指先から心臓に向けて柔らかな熱が流れ込んでくる。
まるで、彼の手がそのまま胸の内に残っているようだった。
「……セブルス。ちゃんと合流してくれるよね。」
「イリス……」
スネイプの指がそっと頬に伸び、優しく頬を包む。
その手のひらは粗く、硬い。けれど驚くほど優しい。
イリスはその手に頬を寄せた。
血の匂い、灰の匂い、彼の呼吸の音が、全て現実の証のように感じられた。
「お前を一人にする訳にはいかぬからな。」
ほんの刹那、彼の口元がほどけた。霧の中で灯る火のような、柔らかな微笑が見えた。
それは、これまで見たどんな光よりも静かで、優しかった。
「約束よ。私、待ってるから。」
二人は抱きしめ合った。
互いの無事を祈るように、
確かめ合うように、息が混ざった。
そして唇を重ねた瞬間、紅い石が小さく震え、
温もりが胸の奥へ沈んでいく。
───
別れの後、イリスは走り出した。
空は悲鳴を上げ、炎が舞い、
石畳が焦げ、影が溶けていく。
光の閃光が、まるで誰かの絶叫のように夜を裂いた。
胸元の石が熱を帯びるたび、心が少しだけ強くなる。
彼の名を心の中で呼ぶたび、
恐怖の中にも、どこか確かな道筋が見える気がした。
そしてハリーたちを探し回り、角を曲がった先で生徒たちが杖を構えていた。
瞳には恐怖と怒り。
涙と憎しみの入り混じる声が突き刺さる。
「裏切り者!」
叫びが空気を震わせる。
イリスは瞬時に防御の姿勢を取る。
弾ける光が頬をかすめ、髪が風に流れる。
戦いたくない。その一心で身を翻す。
「戦いたくないの。お願い、聞いて……」
しかし声は届かない。
怒りが、彼らの耳を塞いでいた。
そのとき、胸の石が強く脈打った。
次々と放たれた呪文が触れる寸前に、柔らかな光が彼女の全身を包む。
その光が魔法吸収し、イリスの肌に届くのは冷たい風のみだった。
スネイプの魔法が守ってくれている。
その確信に、涙が滲んだ。
だが、その瞬間近くで悲鳴が上がった。
声の方を見ると──。
巨人族の足が生徒を踏み潰そうとしていた。
イリスは考えるより早く動いた。
巨人族へ向けて掌を振る。
周囲の瓦礫が空を舞い、唸りを上げて巨人の足へ叩きつけられた。
鈍い音とともに地面が震え、巨体が崩れ落ちる。
巨人族が倒れるのに巻き込まれ、崩れる柱。
だがその瞬間、柱の破片がイリスの方へ飛び出し肩にぶつかる。
その衝撃で、後ろに倒れ込むイリス。
すぐに体勢を整えようとするも、生徒たちの杖からは呪文が放たれていた。
イリスは避けるのに間に合わないと確信し、地面に着いていた手に魔力を込める。
その瞬間、地面から生えるように岩の壁が立ち上がった。
壁の向こうから「卑怯者!」という怒声。
それでも、彼女はもう何も言い返さなかった。
涙は出ない。ただ胸が、熱く痛んだ。
「援護する!」
背後から黒い外套がひとつ駆けてくる。
死喰い人がイリスの側に躍り出て、生徒たちへ容赦なく呪文を浴びせかけた。
イリスは突然現れた望まぬ援護に動揺し、この状況をどうすべきなのかをすぐに判断できなかった。
その間も光が生徒の頬をかすめ、悲鳴が上がる。
生徒たちは恐怖で手元が狂い、防御の呪文すら崩れかけていた。
目の前の生徒たちが追い詰められていく。
巨人族への攻撃は巻き込んでしまった、と言えばごまかせるだろう。
だが、死喰い人への、人間への攻撃は本当に闇を裏切ることになると感じ躊躇してしまう。
そして予想よりも早く裏切ってしまうことが本当に正しいのだろうか。
そんな葛藤がイリスの心を揺する。
生徒たちは武装解除魔法でとうとう杖を飛ばされてしまった。
死喰い人が楽しそうに笑いながら近づいていく。
その光景を見ていたイリスは、体が勝手に動いていた。
素早く死喰い人の背後へ回り込み、短く掌を払う。
散っていた瓦礫が低く唸り、死喰い人の後頭部へ重く叩き込まれた。
男は目を見開き、そのまま崩れ落ちる。外套がひるがえり、静寂が一瞬だけ戻った。
生徒たちはイリスを見て、引きつった顔で後ずさった。恐怖と混乱が混じる瞳。口が命乞いの言葉を形作ろうとしているのを、イリスは掌で制した。
「ハリーポッターはどこ。」
「お、大広間で──」
「そう。どうか生き延びて。」
イリスは必要なことを聞くと、生徒たちに一言のこして再び走り出す。
飛び交う呪文の中、紅い石を握る。
その石は、危険が近づくたび胸の上で温度を上げ、薄い膜のような気配でイリスを包んだ。
幾つもの呪文がかすめるのに、痛みはなかった。
───
大広間は地獄だった。
倒れた机、焦げた壁、空を切り裂く光。誰かの名を叫ぶ声。
イリスは目と耳を凝らした。だが、ハリーの姿はどこにもない。
魔力を探ろうと心を集中させたが、あまりに多くの気配が渦を巻いていて、ひとつを拾い上げることはできなかった。
踏み込めば誰かを倒してしまう。足を止めれば誰かが倒れる。
彼女は歯を食いしばり、走路を変えた。通りすがりに、崩れ落ちる壁の角度を変え、倒れかけの梁の軋みにそっと力を加え、誰にも気づかれぬように命が潰れないよう支え続けた。
ハリー達がいない。
焦燥が胸を焼く。
そして、ふと立ち止まり思い出す。
故郷の教えを。
エルフと自然の繋がりは魔力だけにあらず。
しかし風は魔法で狂っており、獣は逃げ、近寄れない。
植物も近くのものは焼かれ、潰されている。
けれど1つだけまだ息をしている。
決して揺るぐことのないもの。
──大地。
