第5章 死の秘宝
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第30話 沈黙の胎動
目覚めると、日はすでに高く昇っていた。
窓から差し込む光が、シーツの皺を照らしている。
隣の空間には、もうスネイプの姿はなかった。
それでも、イリスの心は静かに澄んでいた。
長く続いた夜が、ようやく明けたのだと感じた。
その日から、イリスはまた前を向き始めた。
闇の帝王は変わらずイリスを痛めつけ、弄んだ。
体を襲う感覚は何ひとつ変わらない。
だが、温もりを知った今のイリスには、
もはや恐怖という影はなかった。
ヴォルデモートはその変化を快く思わなかったのだろう。
彼女の体に刻まれる傷は日ごとに増えた。
だが肉体の痛みは、イリスにとって取るに足らない。
大地の力を取り込める彼女の体は、三日もあれば完全に癒えるのだから。
立ち直ったイリスを疎ましく思う者は彼以外にもいた。
──ベラトリックス。
その女の瞳の奥で燃えるものは、嫉妬にも似た熱を帯びていた。
────
気温が暖かくなったとある昼下がり。
呼び出しを終え、イリスが静かに部屋へ戻ろうとしたとき、
廊下の角に久しく対面していなかった女、ベラトリックスが立っていた。
薄笑いを浮かべ、手に杖を握りしめている。
「元気そうじゃないの、エルフの姫様。
あの人に飽きられたんじゃないかと思っていたわ。」
イリスは立ち止まる。
何も言わず、ただその視線を受け止めた。
ベラトリックスの声が尖る。
「可哀想に。
所詮、あの人にとってあなたなんて力を分け与えるための器でしかない。
遊ばれて、使い捨てられるだけの存在よ。」
その口元に浮かぶ笑みは、勝ち誇ったものではなく、どこか焦燥を孕んでいた。
だが、イリスが静かに瞬きを返したその瞬間、
ベラトリックスの顔に嫉妬が走る。
「でも私は違うの。
私はあの方の子を授かり、産んだのよ。
儀式によって選ばれた、ただ一人の女。
あなたのような穢れた器とは違うの。」
その言葉に、イリスの胸の奥が冷たく静まった。
選ばれた、という響きが空虚に響いた。
求められるということの意味を、
あの夜にようやく知ったばかりの彼女には、
それがどれほど脆く歪んだ幻想か、痛いほど分かっていた。
静かな声で、イリスは答える。
「私は選ばれたのではない。
ただ、あの人に力を分け与えるための存在。
それだけよ。」
その冷静な口調が、ベラトリックスの神経を逆撫でした。
女の瞳に怒りの光が走り、杖がゆらめく。
その瞬間、鋭い声が廊下に響いた。
「やめろ。」
スネイプだった。
黒い外套を翻し、二人の間に割って入る。
杖先からほとばしる光をひと睨みで鎮め、
彼はベラトリックスに視線を落とした。
「愚かな真似はよせ。
ここはお前の私闘の場ではない。」
ベラトリックスは歯噛みしながらも、何も言えずにその場を去った。
長い髪が廊下の奥で消えると、ようやく空気が落ち着いた。
────
2人きりになった途端、スネイプはイリスへ体を向け、顔を覗き込む。
「……怪我はないか。」
イリスは小さく頷いた。
けれど、その瞳の奥には、何かを理解してしまった静けさがあった。
「あの人は……子を成すことができないのね。」
囁くような声。
その響きには驚きよりも、納得があった。
「再誕の儀の代償だ。
あの男は、魂と肉体の均衡を自ら断ち切った。
人としての生殖も、継承も、
その瞬間に失ったのだろう。」
スネイプの声は淡々としていた。
だがその瞳の奥では、嫌悪と哀れみが交錯していた。
イリスは視線を伏せる。
「魔力を媒介にした儀式で命を生んだのなら……
何らかの代償はあるかもしれない。
けれど、それがどんな形で現れるのか、私にも分からない。」
沈黙が落ちた。
わずかな光が、二人の間を縫うように揺れる。
イリスはぽつりと呟いた。
「……ベラトリックスは、あの人を愛しているのよね。」
スネイプの眉がわずかに動いた。
「あれを愛と呼ぶのは、あまりにも歪だ。」
彼の声は冷たくはなかった。
ただ、疲れ果てた人間の声だった。
「あの女は相手を生かすためではなく、
自分を満たすためにあの男を信じている。
崇拝と愛を混同した末路だ。
……我輩は、そういうものをよく知っている。」
イリスは彼の横顔を見つめた。
その瞳の奥には、どこか遠い過去の影が揺れている。
「……愛が壊れていく時、人は自分まで壊すのね。」
「あぁ。」
スネイプは低く答えた。
「そして、壊すことでしか確かめられなくなるのだ。」
彼の声は、どこか遠い記憶をなぞっていた。
イリスは目を閉じ、しばらく沈黙の中でその言葉を反芻する。
愛、それは、生かすものでも、殺すものでもある。
相手を想うほどに、傷つけずにはいられない。
人間の愛とは、なんと複雑で、なんと脆く、美しいのだろう。
けれど、その不完全さの中にこそ、
確かに「生きている」証があるのだろう。
目覚めると、日はすでに高く昇っていた。
窓から差し込む光が、シーツの皺を照らしている。
隣の空間には、もうスネイプの姿はなかった。
それでも、イリスの心は静かに澄んでいた。
長く続いた夜が、ようやく明けたのだと感じた。
その日から、イリスはまた前を向き始めた。
闇の帝王は変わらずイリスを痛めつけ、弄んだ。
体を襲う感覚は何ひとつ変わらない。
だが、温もりを知った今のイリスには、
もはや恐怖という影はなかった。
ヴォルデモートはその変化を快く思わなかったのだろう。
彼女の体に刻まれる傷は日ごとに増えた。
だが肉体の痛みは、イリスにとって取るに足らない。
大地の力を取り込める彼女の体は、三日もあれば完全に癒えるのだから。
立ち直ったイリスを疎ましく思う者は彼以外にもいた。
──ベラトリックス。
その女の瞳の奥で燃えるものは、嫉妬にも似た熱を帯びていた。
────
気温が暖かくなったとある昼下がり。
呼び出しを終え、イリスが静かに部屋へ戻ろうとしたとき、
廊下の角に久しく対面していなかった女、ベラトリックスが立っていた。
薄笑いを浮かべ、手に杖を握りしめている。
「元気そうじゃないの、エルフの姫様。
あの人に飽きられたんじゃないかと思っていたわ。」
イリスは立ち止まる。
何も言わず、ただその視線を受け止めた。
ベラトリックスの声が尖る。
「可哀想に。
所詮、あの人にとってあなたなんて力を分け与えるための器でしかない。
遊ばれて、使い捨てられるだけの存在よ。」
その口元に浮かぶ笑みは、勝ち誇ったものではなく、どこか焦燥を孕んでいた。
だが、イリスが静かに瞬きを返したその瞬間、
ベラトリックスの顔に嫉妬が走る。
「でも私は違うの。
私はあの方の子を授かり、産んだのよ。
儀式によって選ばれた、ただ一人の女。
あなたのような穢れた器とは違うの。」
その言葉に、イリスの胸の奥が冷たく静まった。
選ばれた、という響きが空虚に響いた。
求められるということの意味を、
あの夜にようやく知ったばかりの彼女には、
それがどれほど脆く歪んだ幻想か、痛いほど分かっていた。
静かな声で、イリスは答える。
「私は選ばれたのではない。
ただ、あの人に力を分け与えるための存在。
それだけよ。」
その冷静な口調が、ベラトリックスの神経を逆撫でした。
女の瞳に怒りの光が走り、杖がゆらめく。
その瞬間、鋭い声が廊下に響いた。
「やめろ。」
スネイプだった。
黒い外套を翻し、二人の間に割って入る。
杖先からほとばしる光をひと睨みで鎮め、
彼はベラトリックスに視線を落とした。
「愚かな真似はよせ。
ここはお前の私闘の場ではない。」
ベラトリックスは歯噛みしながらも、何も言えずにその場を去った。
長い髪が廊下の奥で消えると、ようやく空気が落ち着いた。
────
2人きりになった途端、スネイプはイリスへ体を向け、顔を覗き込む。
「……怪我はないか。」
イリスは小さく頷いた。
けれど、その瞳の奥には、何かを理解してしまった静けさがあった。
「あの人は……子を成すことができないのね。」
囁くような声。
その響きには驚きよりも、納得があった。
「再誕の儀の代償だ。
あの男は、魂と肉体の均衡を自ら断ち切った。
人としての生殖も、継承も、
その瞬間に失ったのだろう。」
スネイプの声は淡々としていた。
だがその瞳の奥では、嫌悪と哀れみが交錯していた。
イリスは視線を伏せる。
「魔力を媒介にした儀式で命を生んだのなら……
何らかの代償はあるかもしれない。
けれど、それがどんな形で現れるのか、私にも分からない。」
沈黙が落ちた。
わずかな光が、二人の間を縫うように揺れる。
イリスはぽつりと呟いた。
「……ベラトリックスは、あの人を愛しているのよね。」
スネイプの眉がわずかに動いた。
「あれを愛と呼ぶのは、あまりにも歪だ。」
彼の声は冷たくはなかった。
ただ、疲れ果てた人間の声だった。
「あの女は相手を生かすためではなく、
自分を満たすためにあの男を信じている。
崇拝と愛を混同した末路だ。
……我輩は、そういうものをよく知っている。」
イリスは彼の横顔を見つめた。
その瞳の奥には、どこか遠い過去の影が揺れている。
「……愛が壊れていく時、人は自分まで壊すのね。」
「あぁ。」
スネイプは低く答えた。
「そして、壊すことでしか確かめられなくなるのだ。」
彼の声は、どこか遠い記憶をなぞっていた。
イリスは目を閉じ、しばらく沈黙の中でその言葉を反芻する。
愛、それは、生かすものでも、殺すものでもある。
相手を想うほどに、傷つけずにはいられない。
人間の愛とは、なんと複雑で、なんと脆く、美しいのだろう。
けれど、その不完全さの中にこそ、
確かに「生きている」証があるのだろう。
