第5章 死の秘宝
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第27話 救われたのは
「我輩のような男に抱かれることが、どれほど愚かなことか……!
ましてやそのように弱っている時に、自傷行為のように行うものではないのだぞ!」
声が荒れた。
抑えていた理性が軋む音を立て、空気を裂く。
「この手は奪ってきた。
守るためだと信じて、何度も壊してきた。
お前まで、その手で壊すわけにはいかぬ。」
スネイプは一歩、後ずさる。
胸の奥で何かが暴れていた。
欲望をぶつけること、それは支配だ。
彼の中でそれは愛ではなく、罪と同義だった。
自分が再び誰かを傷つける可能性に、彼は心底怯えていた。
「弱ってるからこそ、あなたを求めたの。
自分が正常な判断ができない状況でも、あなたがいいの。
あなたになら、壊されたっていい。」
イリスの声は静かだった。
涙もない。
ただ、その紅い瞳の奥で、確かな光が揺れている。
スネイプはその視線に飲み込まれそうになった。
なぜ、守ろうとする者たちは、いつも我輩に残酷な決断を迫るのか。
イリスに望まれた時、理性は既に限界まで削れていた。
再びここで心を揺らがせてしまえば、本当にイリスを壊してしまう。
壊したくない。
だからこそ、別の道を…。
そう考えた瞬間。
イリスがそっと、スネイプの手を取った。
「セブルス、お願い。あなたの温もりで塗り替えてほしい。」
その言葉が落ちた瞬間、スネイプは頭を殴られたような衝撃を受けた。
塗り替えて欲しい?
我輩を、あの男と同じにするのか。
ヴォルデモートと、同じ行為を望むのか。
リリーを殺した男と同等になれというのか。
支配を拒み続けてきたのに、再びその立場に立てというのか。
胸の奥で何かが深く裂けた。
酷く、痛かった。
「……我輩を、そんな男と同じ立場に立たせるのか。」
声が掠れる。
震えが混じり、言葉が上手く出ない。
その痛みは、怒りではなかった。
ただ、心を引き裂かれるような絶望だった。
イリスの唇が震えた。何かを言おうとして、言葉が出ない。
その沈黙が、スネイプの胸にさらに深く突き刺さった。
イリスは愛を求めていると思っていた。
だが今の言葉は、まるで確認のための行為のように聞こえた。
自分が選ばれたのではなく、ただ「安全だから」なのか。
そんな考えが一瞬、胸をかすめる。
分からない。
イリスが何を見て、何を感じているのか。
それでも、その瞳の奥に宿る苦しみだけは、偽りではなかった。
「違う……そうじゃないの。」
イリスの声が震える。
その目はまっすぐに彼を見つめていた。
「あなたの愛を知りたいからよ。
それに……あの男によって冷たい闇に晒されるのに、
あなたの温もりを、肉体の繋がりがもたらす愛を知らないままだと、
戻れない気がして、恐ろしいの。」
その言葉に、スネイプの呼吸が止まった。
イリスが求めていたのは、肉体の上書きではなかった。
闇に奪われた心の原点。
そこへ帰るための、救いだった。
胸の奥で、過去の記憶がよみがえる。
リリーを失ったあの日。
誰にも求められず、誰かを求めることを許されなかった自分。
あの時の痛みが、今、逆再生するように静かにほどけていく。
今度は、失う前に求められたのだ。
その事実が、恐ろしくも、救いだった。
拒めば、今度こそイリスを失う。
だが受け入れれば、自分の中の何かが壊れる。
長年積み上げてきた禁忌が音を立てて崩れていくのを感じた。
「愚かな女だ……これが本当に救いになるというのか。
こんな、我輩を求めるなど……自殺行為も甚だしい。」
「それでもセブルス、あなたがいい。
あなたに蝕まれるなら本望よ。」
「イリス……赦してくれ。」
声が震えた。
その一言は、祈りに近かった。
イリスはその手を取り、自らの胸へ導く。
その瞬間、理性がひび割れ、崩れ落ちた。
もう、戻れない。
それでもいい。
イリスが救われるなら、我輩の心がどうなろうと構わない。
スネイプはイリスをベッドに押し倒した。
奪うことしか知らなかったこの手で今、誰かを救えるのだろうか。
イリスの瞳が彼を見上げる。
その紅は悲しみでも絶望でもない。
ただ、静かな覚悟の光だけがそこにあった。
スネイプはそっと、彼女の頬に手を伸ばす。
恐れるように親指で涙を拭った。
触れた瞬間、凍っていた心がゆっくりと溶け出していく。
「……愚かな女だ。」
掠れた声が落ちる。
だが、そこには怒りも嘆きもなかった。
ただ、愛おしさと痛みが混ざっていた。
唇を額に落とす。
頬へ、そして唇へ。
触れるたび、彼女の呼吸が震え、喉の奥で音が重なる。
長く封じてきた感情が、静かに解けていく。
それは欲望ではなかった。
ただ、互いの存在を確かめ合う行為だった。
イリスの手が背を掴む。
細い指が震えながらも、確かに掴み返していた。
その指先が、凍りついたスネイプの心を呼び戻していく。
やがて、二人の体が静かに重なった。
痛みと熱が交錯し、境界が薄れていく。
息と息が溶け合い、鼓動が一つになる。
それでも、スネイプの胸に不安が過る。
イリスが壊れてしまうのではないか。
彼はその瞳を見つめ、確かめるように息を止めた。
イリスが微笑む。
「セブルス、大丈夫。
あなたの全てが温かい……。あなたの手は私を壊したりしないよ。」
その言葉が、闇を照らした。
わずかな光が、心の奥で静かに広がっていく。
イリスが彼の名を呼ぶ。
その声は祈りのようで、呪文よりも強く響いた。
こんなにも、赦されることが苦しいとは。
スネイプは彼女の髪に顔を埋め、震える息を吐いた。
「イリス……」
その名を呼ぶだけで胸が締め付けられる。
長い冬が終わりを告げ、凍てついていたものすべてが静かに融けていく。
闇はまだ外にある。
けれど、スネイプの中では確かに光が生まれていた。
それは彼女がくれた、赦しの灯。
彼はその光を抱きしめるようにイリスを抱き、
心の奥でただひとつの誓いを立てた。
もう誰にも、この光を奪わせはせぬと。
──そして、気づく。
救おうとしていたのは彼女ではなく、
またしても自分の方だったのだと。
愛を与えたつもりで、
初めて愛を受け取る、ということを知った。
その温もりが、
凍てついた過去を赦し、
壊れた心に生きるという感覚を取り戻していく。
この瞬間、セブルス・スネイプという男の心は、
もう独りではなくなっていた。
「我輩のような男に抱かれることが、どれほど愚かなことか……!
ましてやそのように弱っている時に、自傷行為のように行うものではないのだぞ!」
声が荒れた。
抑えていた理性が軋む音を立て、空気を裂く。
「この手は奪ってきた。
守るためだと信じて、何度も壊してきた。
お前まで、その手で壊すわけにはいかぬ。」
スネイプは一歩、後ずさる。
胸の奥で何かが暴れていた。
欲望をぶつけること、それは支配だ。
彼の中でそれは愛ではなく、罪と同義だった。
自分が再び誰かを傷つける可能性に、彼は心底怯えていた。
「弱ってるからこそ、あなたを求めたの。
自分が正常な判断ができない状況でも、あなたがいいの。
あなたになら、壊されたっていい。」
イリスの声は静かだった。
涙もない。
ただ、その紅い瞳の奥で、確かな光が揺れている。
スネイプはその視線に飲み込まれそうになった。
なぜ、守ろうとする者たちは、いつも我輩に残酷な決断を迫るのか。
イリスに望まれた時、理性は既に限界まで削れていた。
再びここで心を揺らがせてしまえば、本当にイリスを壊してしまう。
壊したくない。
だからこそ、別の道を…。
そう考えた瞬間。
イリスがそっと、スネイプの手を取った。
「セブルス、お願い。あなたの温もりで塗り替えてほしい。」
その言葉が落ちた瞬間、スネイプは頭を殴られたような衝撃を受けた。
塗り替えて欲しい?
我輩を、あの男と同じにするのか。
ヴォルデモートと、同じ行為を望むのか。
リリーを殺した男と同等になれというのか。
支配を拒み続けてきたのに、再びその立場に立てというのか。
胸の奥で何かが深く裂けた。
酷く、痛かった。
「……我輩を、そんな男と同じ立場に立たせるのか。」
声が掠れる。
震えが混じり、言葉が上手く出ない。
その痛みは、怒りではなかった。
ただ、心を引き裂かれるような絶望だった。
イリスの唇が震えた。何かを言おうとして、言葉が出ない。
その沈黙が、スネイプの胸にさらに深く突き刺さった。
イリスは愛を求めていると思っていた。
だが今の言葉は、まるで確認のための行為のように聞こえた。
自分が選ばれたのではなく、ただ「安全だから」なのか。
そんな考えが一瞬、胸をかすめる。
分からない。
イリスが何を見て、何を感じているのか。
それでも、その瞳の奥に宿る苦しみだけは、偽りではなかった。
「違う……そうじゃないの。」
イリスの声が震える。
その目はまっすぐに彼を見つめていた。
「あなたの愛を知りたいからよ。
それに……あの男によって冷たい闇に晒されるのに、
あなたの温もりを、肉体の繋がりがもたらす愛を知らないままだと、
戻れない気がして、恐ろしいの。」
その言葉に、スネイプの呼吸が止まった。
イリスが求めていたのは、肉体の上書きではなかった。
闇に奪われた心の原点。
そこへ帰るための、救いだった。
胸の奥で、過去の記憶がよみがえる。
リリーを失ったあの日。
誰にも求められず、誰かを求めることを許されなかった自分。
あの時の痛みが、今、逆再生するように静かにほどけていく。
今度は、失う前に求められたのだ。
その事実が、恐ろしくも、救いだった。
拒めば、今度こそイリスを失う。
だが受け入れれば、自分の中の何かが壊れる。
長年積み上げてきた禁忌が音を立てて崩れていくのを感じた。
「愚かな女だ……これが本当に救いになるというのか。
こんな、我輩を求めるなど……自殺行為も甚だしい。」
「それでもセブルス、あなたがいい。
あなたに蝕まれるなら本望よ。」
「イリス……赦してくれ。」
声が震えた。
その一言は、祈りに近かった。
イリスはその手を取り、自らの胸へ導く。
その瞬間、理性がひび割れ、崩れ落ちた。
もう、戻れない。
それでもいい。
イリスが救われるなら、我輩の心がどうなろうと構わない。
スネイプはイリスをベッドに押し倒した。
奪うことしか知らなかったこの手で今、誰かを救えるのだろうか。
イリスの瞳が彼を見上げる。
その紅は悲しみでも絶望でもない。
ただ、静かな覚悟の光だけがそこにあった。
スネイプはそっと、彼女の頬に手を伸ばす。
恐れるように親指で涙を拭った。
触れた瞬間、凍っていた心がゆっくりと溶け出していく。
「……愚かな女だ。」
掠れた声が落ちる。
だが、そこには怒りも嘆きもなかった。
ただ、愛おしさと痛みが混ざっていた。
唇を額に落とす。
頬へ、そして唇へ。
触れるたび、彼女の呼吸が震え、喉の奥で音が重なる。
長く封じてきた感情が、静かに解けていく。
それは欲望ではなかった。
ただ、互いの存在を確かめ合う行為だった。
イリスの手が背を掴む。
細い指が震えながらも、確かに掴み返していた。
その指先が、凍りついたスネイプの心を呼び戻していく。
やがて、二人の体が静かに重なった。
痛みと熱が交錯し、境界が薄れていく。
息と息が溶け合い、鼓動が一つになる。
それでも、スネイプの胸に不安が過る。
イリスが壊れてしまうのではないか。
彼はその瞳を見つめ、確かめるように息を止めた。
イリスが微笑む。
「セブルス、大丈夫。
あなたの全てが温かい……。あなたの手は私を壊したりしないよ。」
その言葉が、闇を照らした。
わずかな光が、心の奥で静かに広がっていく。
イリスが彼の名を呼ぶ。
その声は祈りのようで、呪文よりも強く響いた。
こんなにも、赦されることが苦しいとは。
スネイプは彼女の髪に顔を埋め、震える息を吐いた。
「イリス……」
その名を呼ぶだけで胸が締め付けられる。
長い冬が終わりを告げ、凍てついていたものすべてが静かに融けていく。
闇はまだ外にある。
けれど、スネイプの中では確かに光が生まれていた。
それは彼女がくれた、赦しの灯。
彼はその光を抱きしめるようにイリスを抱き、
心の奥でただひとつの誓いを立てた。
もう誰にも、この光を奪わせはせぬと。
──そして、気づく。
救おうとしていたのは彼女ではなく、
またしても自分の方だったのだと。
愛を与えたつもりで、
初めて愛を受け取る、ということを知った。
その温もりが、
凍てついた過去を赦し、
壊れた心に生きるという感覚を取り戻していく。
この瞬間、セブルス・スネイプという男の心は、
もう独りではなくなっていた。
