第5章 死の秘宝
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第23話 灰の静寂の中で
夜明け前、屋敷は息を潜めていた。
風が窓を撫で、雪が静かに落ちている。
その音を聞きながら、スネイプはイリスのベッドのそばに座っていた。
彼女はまだ深い眠りの中にいた。
頬は青白く、唇は色を失っている。
それでも、胸がわずかに上下するのを見て、スネイプはようやく息をした。
彼はいつものように、薬を手に取り、丁寧に包帯を替える。
血が滲む箇所を布で押さえるたび、
自分の手の震えが止まらなくなる。
──これが守るということなのか。
守るという名を借りて彼女を連れ出し、残酷な仕打ちをしているだけでは無いのか?
結局、ヴォルデモートの傍で、
痛めつけられる姿をただ見つめることしか出来ぬのに。
イリスを連れ帰ったあの日の選択が、
正しかったなどと言えぬ。
彼女の光を守るつもりで、
自ら闇の檻に閉じ込めてしまったのかもしれぬ。
スネイプは眉間を押さえ、深く息を吐いた。
心の奥に溜まった後悔が、
冷たい血のように流れていく。
──彼女にとって、我輩は何だ。
守護者か、それとも監視者か。
安心を与える存在でありながら、
その安心の裏で彼女を縛りつけているだけではないのか。
ホグワーツの青い空を、
自由に歩く彼女の姿がふと脳裏をよぎる。
もしあのままにしておけば、
彼女はまだ笑えていたのではないか。
スネイプは小さく首を振った。
そんな想像は、いくらでも心を裂くだけだった。
──それでも、我輩は彼女を離せなかった。
あの夜、理性よりも先に身体が動いた。
心のどこかで、
彼女の傍にいたいと願ってしまったのだ。
そのわずかな欲が、
再び大切な者を苦しめる結果になった。
それが何よりも、許せなかった。
───
ふと、視界の端で小さな動きがあった。
本を閉じ、スネイプは顔を上げる。
イリスが目を開けていた。
呼吸が浅く、焦点の定まらぬ瞳。
それでも、確かにこちらを見ていた。
スネイプは静かに椅子を離れ、
ベッドの傍へ歩み寄る。
だが、イリスはすぐに顔を背けた。
拒絶ではない、恐れにも似た動き。
胸の奥がきしむ音がした。
それだけで、心がひどく痛んだ。
「……ごめんなさい。
私は、穢れているの。」
掠れた声が、空気を震わせた瞬間、
スネイプの中で何かが軋む音を立てて崩れた。
彼女が“穢れ”という言葉を口にする。
それは、あまりに人間的な痛みだった。
彼女の声の中に、かつての自分を見た。
誰にも触れられぬ化け物と呼ばれた少年の影が、
一瞬で蘇る。
──あぁ、まただ。
我輩は、彼女の中に自分の影を見てしまっている。
救いたいと願いながら、
その実、彼女を鏡にして自分を赦そうとしている。
その事実に気づいた瞬間、
胸の奥で息が詰まった。
抱きしめたい。
それだけが本音だった。
けれど、その手を伸ばせば、
自分の中の何かが壊れてしまう気がした。
「お前は、穢れてなどいない。
穢れているのは、奪うことでしか満たされぬ我輩たちの方なのだ。」
その言葉は、怒りではなく、懺悔だった。
声の奥が微かに震えた。
それは怒りでも、悲しみでもない。
長い時間をかけて積もった後悔が、
形を持たずに零れ落ちたような震えだった。
その一瞬で、彼女の視線が揺れた。
「セブルス……
あなたは、私を気持ち悪いと思う?」
沈黙。
その問いは、刃よりも鋭かった。
スネイプは唇を噛み、
目を逸らすことも出来ず、ただ彼女を見つめた。
心臓が軋む。
彼女の痛みが、
自分の罪そのものに思えた。
──どうしてそんなことを問うのだ。
我輩が、お前を……。
言葉にならなかった。
喉の奥が塞がれ、息が震える。
「……生きてくれ。
それだけでいい。」
声が低く沈み、掠れた。
それ以上、何を言えばいいか分からなかった。
イリスがゆっくりと体を起こし、
スネイプの胸に額を寄せた。
その小さな動きに、彼の身体が強張る。
だが、次の瞬間にはそのまま、
彼女の髪を包み込むように抱き寄せた。
冷えた指先が、白い髪をなぞる。
雪のような感触。
そこに生きているという証があった。
この抱擁が罪ならば、我輩はその罪に沈もう。
お前が闇の中で一人にならぬように。
スネイプは目を閉じた。
胸の奥に静かな痛みが広がる。
それは罰であり、祈りでもあった。
夜が明ける気配はまだない。
ただ、窓の外で降り続く雪が、
二人の世界を覆い尽くしていた。
その灰の静寂の中で、
スネイプはただ黙って彼女を抱きしめていた。
夜明け前、屋敷は息を潜めていた。
風が窓を撫で、雪が静かに落ちている。
その音を聞きながら、スネイプはイリスのベッドのそばに座っていた。
彼女はまだ深い眠りの中にいた。
頬は青白く、唇は色を失っている。
それでも、胸がわずかに上下するのを見て、スネイプはようやく息をした。
彼はいつものように、薬を手に取り、丁寧に包帯を替える。
血が滲む箇所を布で押さえるたび、
自分の手の震えが止まらなくなる。
──これが守るということなのか。
守るという名を借りて彼女を連れ出し、残酷な仕打ちをしているだけでは無いのか?
結局、ヴォルデモートの傍で、
痛めつけられる姿をただ見つめることしか出来ぬのに。
イリスを連れ帰ったあの日の選択が、
正しかったなどと言えぬ。
彼女の光を守るつもりで、
自ら闇の檻に閉じ込めてしまったのかもしれぬ。
スネイプは眉間を押さえ、深く息を吐いた。
心の奥に溜まった後悔が、
冷たい血のように流れていく。
──彼女にとって、我輩は何だ。
守護者か、それとも監視者か。
安心を与える存在でありながら、
その安心の裏で彼女を縛りつけているだけではないのか。
ホグワーツの青い空を、
自由に歩く彼女の姿がふと脳裏をよぎる。
もしあのままにしておけば、
彼女はまだ笑えていたのではないか。
スネイプは小さく首を振った。
そんな想像は、いくらでも心を裂くだけだった。
──それでも、我輩は彼女を離せなかった。
あの夜、理性よりも先に身体が動いた。
心のどこかで、
彼女の傍にいたいと願ってしまったのだ。
そのわずかな欲が、
再び大切な者を苦しめる結果になった。
それが何よりも、許せなかった。
───
ふと、視界の端で小さな動きがあった。
本を閉じ、スネイプは顔を上げる。
イリスが目を開けていた。
呼吸が浅く、焦点の定まらぬ瞳。
それでも、確かにこちらを見ていた。
スネイプは静かに椅子を離れ、
ベッドの傍へ歩み寄る。
だが、イリスはすぐに顔を背けた。
拒絶ではない、恐れにも似た動き。
胸の奥がきしむ音がした。
それだけで、心がひどく痛んだ。
「……ごめんなさい。
私は、穢れているの。」
掠れた声が、空気を震わせた瞬間、
スネイプの中で何かが軋む音を立てて崩れた。
彼女が“穢れ”という言葉を口にする。
それは、あまりに人間的な痛みだった。
彼女の声の中に、かつての自分を見た。
誰にも触れられぬ化け物と呼ばれた少年の影が、
一瞬で蘇る。
──あぁ、まただ。
我輩は、彼女の中に自分の影を見てしまっている。
救いたいと願いながら、
その実、彼女を鏡にして自分を赦そうとしている。
その事実に気づいた瞬間、
胸の奥で息が詰まった。
抱きしめたい。
それだけが本音だった。
けれど、その手を伸ばせば、
自分の中の何かが壊れてしまう気がした。
「お前は、穢れてなどいない。
穢れているのは、奪うことでしか満たされぬ我輩たちの方なのだ。」
その言葉は、怒りではなく、懺悔だった。
声の奥が微かに震えた。
それは怒りでも、悲しみでもない。
長い時間をかけて積もった後悔が、
形を持たずに零れ落ちたような震えだった。
その一瞬で、彼女の視線が揺れた。
「セブルス……
あなたは、私を気持ち悪いと思う?」
沈黙。
その問いは、刃よりも鋭かった。
スネイプは唇を噛み、
目を逸らすことも出来ず、ただ彼女を見つめた。
心臓が軋む。
彼女の痛みが、
自分の罪そのものに思えた。
──どうしてそんなことを問うのだ。
我輩が、お前を……。
言葉にならなかった。
喉の奥が塞がれ、息が震える。
「……生きてくれ。
それだけでいい。」
声が低く沈み、掠れた。
それ以上、何を言えばいいか分からなかった。
イリスがゆっくりと体を起こし、
スネイプの胸に額を寄せた。
その小さな動きに、彼の身体が強張る。
だが、次の瞬間にはそのまま、
彼女の髪を包み込むように抱き寄せた。
冷えた指先が、白い髪をなぞる。
雪のような感触。
そこに生きているという証があった。
この抱擁が罪ならば、我輩はその罪に沈もう。
お前が闇の中で一人にならぬように。
スネイプは目を閉じた。
胸の奥に静かな痛みが広がる。
それは罰であり、祈りでもあった。
夜が明ける気配はまだない。
ただ、窓の外で降り続く雪が、
二人の世界を覆い尽くしていた。
その灰の静寂の中で、
スネイプはただ黙って彼女を抱きしめていた。
