第5章 死の秘宝
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第22話 灰の抱擁
目を開けると、世界は灰色に沈んでいた。
雪の降る音も、遠い。
壁も、窓も、光さえも、何もかもが薄く滲んで見える。
イリスはベッドの上にいた。
自分の指が動くのを確かめてから、ようやく息を吸う。
けれど、胸の奥には何もない。
心が置き去りにされたように、空洞だった。
部屋の隅に、誰かの気配がある。
スネイプが椅子に腰かけ、開いた本を静かに閉じる。
その音が、やけに遠く響いた。
彼は立ち上がり、そっと歩み寄る。
長い黒衣が床をかすめ、雪の匂いが混ざる。
イリスは顔を向けられなかった。
その目を見たら、何かが壊れてしまう気がした。
「……ごめんなさい。
私は、穢れているの。」
掠れた声が、自分のものとは思えなかった。
「お前のどこが穢れているというのだ。」
低い声。
それでも、ほんの僅かに震えている。
「私はもう綺麗じゃない。
……ううん。出会った時から綺麗なんかじゃなかったの。」
スネイプの眉がわずかに動く。
沈黙が、落ちた。
拳が膝の上で強く握られる。
その音さえ聞こえそうだった。
「……お前は、穢れてなどいない。
穢れているのは、奪うことでしか満たされぬ我輩たちの方なのだ。」
その言葉は、怒りではなかった。
まるで懺悔のように低く、
彼の喉の奥からこぼれ落ちた。
イリスは目を伏せたまま、
その声の奥に人間の悲しみを感じていた。
それが、ヴォルデモートの支配よりもずっと重いものだと分かってしまう。
静寂が二人を包む。
雪が窓を打つ音だけが、かすかに生の証を残していた。
「セブルス……」
「……なんだ。」
「あなたは、私を気持ち悪いと思う?」
彼の肩が、わずかに揺れた。
唇が固く結ばれ、噛みしめた歯の音が小さく響く。
そして、顔が歪む。
痛みに耐えるような表情で。
そのまま長い沈黙。
やがて彼は、イリスの頬に手を伸ばした。
冷たい指先が、震えながらも優しく触れる。
「……生きてくれ。それだけでよい。」
イリスは、目を閉じた。
その言葉が、胸の奥のどこかに落ちていく。
消えかけた灯に、小さな熱を与えるように。
涙は出なかった。
泣く力すら残っていない。
それでも、イリスは静かにスネイプの胸に身を寄せた。
「ねぇ、セブルス。
穢れって、どうしたら消えるの?」
彼は答えなかった。
ただ、彼女の髪に指を沈め、
息をするように静かに抱き寄せる。
窓の外で雪が舞う。
遠くから、ヴォルデモートの怒号が微かに響いた。
その音もすぐに途絶え、
屋敷は再び、永遠のような静寂に包まれた。
その中で二人は、
世界のどこにも属さぬ灰の抱擁を交わしていた。
それは、壊れかけた魂が
かろうじて形を保つための、最後の祈りのようだった。
目を開けると、世界は灰色に沈んでいた。
雪の降る音も、遠い。
壁も、窓も、光さえも、何もかもが薄く滲んで見える。
イリスはベッドの上にいた。
自分の指が動くのを確かめてから、ようやく息を吸う。
けれど、胸の奥には何もない。
心が置き去りにされたように、空洞だった。
部屋の隅に、誰かの気配がある。
スネイプが椅子に腰かけ、開いた本を静かに閉じる。
その音が、やけに遠く響いた。
彼は立ち上がり、そっと歩み寄る。
長い黒衣が床をかすめ、雪の匂いが混ざる。
イリスは顔を向けられなかった。
その目を見たら、何かが壊れてしまう気がした。
「……ごめんなさい。
私は、穢れているの。」
掠れた声が、自分のものとは思えなかった。
「お前のどこが穢れているというのだ。」
低い声。
それでも、ほんの僅かに震えている。
「私はもう綺麗じゃない。
……ううん。出会った時から綺麗なんかじゃなかったの。」
スネイプの眉がわずかに動く。
沈黙が、落ちた。
拳が膝の上で強く握られる。
その音さえ聞こえそうだった。
「……お前は、穢れてなどいない。
穢れているのは、奪うことでしか満たされぬ我輩たちの方なのだ。」
その言葉は、怒りではなかった。
まるで懺悔のように低く、
彼の喉の奥からこぼれ落ちた。
イリスは目を伏せたまま、
その声の奥に人間の悲しみを感じていた。
それが、ヴォルデモートの支配よりもずっと重いものだと分かってしまう。
静寂が二人を包む。
雪が窓を打つ音だけが、かすかに生の証を残していた。
「セブルス……」
「……なんだ。」
「あなたは、私を気持ち悪いと思う?」
彼の肩が、わずかに揺れた。
唇が固く結ばれ、噛みしめた歯の音が小さく響く。
そして、顔が歪む。
痛みに耐えるような表情で。
そのまま長い沈黙。
やがて彼は、イリスの頬に手を伸ばした。
冷たい指先が、震えながらも優しく触れる。
「……生きてくれ。それだけでよい。」
イリスは、目を閉じた。
その言葉が、胸の奥のどこかに落ちていく。
消えかけた灯に、小さな熱を与えるように。
涙は出なかった。
泣く力すら残っていない。
それでも、イリスは静かにスネイプの胸に身を寄せた。
「ねぇ、セブルス。
穢れって、どうしたら消えるの?」
彼は答えなかった。
ただ、彼女の髪に指を沈め、
息をするように静かに抱き寄せる。
窓の外で雪が舞う。
遠くから、ヴォルデモートの怒号が微かに響いた。
その音もすぐに途絶え、
屋敷は再び、永遠のような静寂に包まれた。
その中で二人は、
世界のどこにも属さぬ灰の抱擁を交わしていた。
それは、壊れかけた魂が
かろうじて形を保つための、最後の祈りのようだった。
