第5章 死の秘宝
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第21話 穢れの意味
季節は巡り、冷えた屋敷にも春の兆しが漂い始めていた。
三月。
それでも、イリスにとって日々は何も変わらなかった。
ヴォルデモートの呼び出しは続き、ベラトリックスの暴言と呪いも止むことはない。
痛みと侮辱に塗れた日々の中で、イリスはただ静かに息をしていた。
──スネイプもイリスも変わらず生きている。
それだけが、確かな事実だった。
だが、その均衡は唐突に崩れた。
分霊箱のひとつが壊されたことを感じ取り、ヴォルデモートは狂ったように怒りをあらわにした。
そして壊されたものを補うかのように、イリスを呼びつけた。
ヴォルデモートは彼女の身体を貪り続けた。
その夜、いや、幾つもの夜を跨いで──。
何度も、何度も。
傷をつけられ血が吸われ、体温が奪われ、痛みと熱の境界が消えていく。
感覚が一つの塊になり、どこまでが自分かさえ分からなくなっていく。
荒々しく衣を裂く音、シーツが擦れる音、ベッドが軋む音、肌をなぞる冷たい呼気、触れてくる冷たい指先。
遠のく意識の中で、イリスは自分の喉から漏れる声を聞いた。
それは自分のものではないような、掠れた音だった。
痛みなのか、嘆きなのか、
それとも───。
理解が追いつかない。
痛みと熱が混ざり合い、
体が自分の知らない反応を示していく。
動かすことも抗うこともできないのに、
脈のように湧き上がる何かが、心を軋ませた。
──どうして。
こんなにも、体が勝手に……。
やがて夜が明けた頃、
イリスは床に横たわっていた。
腕も脚も、まるで鉛のように重い。
どこにいるのかも分からず、
立っているのか、倒れているのかさえ曖昧だった。
そのとき、ヴォルデモートの声が降ってきた。
「お前は良い声で鳴く。そんなによがり喜ぶとはな。
もうあの男のことなど忘れて、俺様になびくとは……愛など、つまらぬ幻想だ。」
冷たい笑い声が、イリスの耳を刺す。
──忘れた?
そんなはずはない。
セブルスの声、手、匂い、あの瞳。
何ひとつ、忘れたことなどないのに。
頭の奥で何かがぐらりと揺れた。
混乱と恐怖が一度に押し寄せ、
現実の輪郭が溶けていく。
自分の身体が知らぬ声を上げたこと。
それが“喜び”と呼ばれるものなのか。
彼の言う通り、自分はよがっていたのか。
分からない。
分かりたくない。
イリスは引き込まれるように目を閉じ、意識を闇に沈めた。
───
闇の中で声がした。
「穢らわしい。」
その言葉は遠くから、何度も何度も繰り返し届いた。
やがて、輪郭を持ちはじめる。
「お前は色んな男に抱かれた、穢れた体だ。
本来なら、その薄汚れた体で闇の帝王に触れるなど許されぬ。
セブルスも、そんな身体をよく抱けたものだな。」
ベラトリックスの声だった。
笑い混じりの冷たい嘲り。
だが、その声が告げる“穢れ”という言葉が、
イリスには理解できなかった。
──穢れ?
エルフにとって、性は命を繋ぐ行いでしかない。
それは季節の巡りのように、淡々と在るもの。
愛とは、時間と共に流れる光のようなもの。
そこに優劣も、恥もない。
だから、今までは気にも留めなかった。
だが──。
「穢れた体」「汚らわしい」
その響きが、鋭い刃のように心に刺さる。
イリスは初めて、人間の穢れという概念を理解した。
それは血や痛みのことではなく、
触れてはならないもの、という烙印。
生き物の価値を、言葉ひとつで切り捨てる感覚。
理解した瞬間、頭の奥で何かが砕けた。
胸の奥に、黒い波が広がる。
ヴォルデモートに嘲られた声。
シーツに顔を埋め、痛みと湧き上がってくる快楽の狭間で
自分の喉から零れた声。
それらが蘇る。
──私は……穢れたの?
自分の身体が、自分の知らない反応を示した。
それは人間の尺度で言えば、穢れたことなのか。
スネイプも、そう思っているのだろうか。
手当てをし、清めてくれたあの指先。
あれは憐れみだったのか?
穢れたものを、黙って拭っていただけなのか?
いいや、そんなはずはない。
けれど──。
そう思いたいのに、声が出なかった。
意識の底がぐらりと揺れる。
感覚が遠ざかり、音も光も消えていく。
体は生きている。
それなのに、心がどこにも無い。
宙に浮いたように、すべてが曖昧になっていく。
最後に聞こえたのは、
遠くで微かに囁くスネイプの声だった。
──イリス、お前の光を絶やすな。
けれど、その言葉に手を伸ばすことはできなかった。
この日、闇に囚われたのは体ではなかった。
穢れという言葉を理解してしまった心の方だった。
季節は巡り、冷えた屋敷にも春の兆しが漂い始めていた。
三月。
それでも、イリスにとって日々は何も変わらなかった。
ヴォルデモートの呼び出しは続き、ベラトリックスの暴言と呪いも止むことはない。
痛みと侮辱に塗れた日々の中で、イリスはただ静かに息をしていた。
──スネイプもイリスも変わらず生きている。
それだけが、確かな事実だった。
だが、その均衡は唐突に崩れた。
分霊箱のひとつが壊されたことを感じ取り、ヴォルデモートは狂ったように怒りをあらわにした。
そして壊されたものを補うかのように、イリスを呼びつけた。
ヴォルデモートは彼女の身体を貪り続けた。
その夜、いや、幾つもの夜を跨いで──。
何度も、何度も。
傷をつけられ血が吸われ、体温が奪われ、痛みと熱の境界が消えていく。
感覚が一つの塊になり、どこまでが自分かさえ分からなくなっていく。
荒々しく衣を裂く音、シーツが擦れる音、ベッドが軋む音、肌をなぞる冷たい呼気、触れてくる冷たい指先。
遠のく意識の中で、イリスは自分の喉から漏れる声を聞いた。
それは自分のものではないような、掠れた音だった。
痛みなのか、嘆きなのか、
それとも───。
理解が追いつかない。
痛みと熱が混ざり合い、
体が自分の知らない反応を示していく。
動かすことも抗うこともできないのに、
脈のように湧き上がる何かが、心を軋ませた。
──どうして。
こんなにも、体が勝手に……。
やがて夜が明けた頃、
イリスは床に横たわっていた。
腕も脚も、まるで鉛のように重い。
どこにいるのかも分からず、
立っているのか、倒れているのかさえ曖昧だった。
そのとき、ヴォルデモートの声が降ってきた。
「お前は良い声で鳴く。そんなによがり喜ぶとはな。
もうあの男のことなど忘れて、俺様になびくとは……愛など、つまらぬ幻想だ。」
冷たい笑い声が、イリスの耳を刺す。
──忘れた?
そんなはずはない。
セブルスの声、手、匂い、あの瞳。
何ひとつ、忘れたことなどないのに。
頭の奥で何かがぐらりと揺れた。
混乱と恐怖が一度に押し寄せ、
現実の輪郭が溶けていく。
自分の身体が知らぬ声を上げたこと。
それが“喜び”と呼ばれるものなのか。
彼の言う通り、自分はよがっていたのか。
分からない。
分かりたくない。
イリスは引き込まれるように目を閉じ、意識を闇に沈めた。
───
闇の中で声がした。
「穢らわしい。」
その言葉は遠くから、何度も何度も繰り返し届いた。
やがて、輪郭を持ちはじめる。
「お前は色んな男に抱かれた、穢れた体だ。
本来なら、その薄汚れた体で闇の帝王に触れるなど許されぬ。
セブルスも、そんな身体をよく抱けたものだな。」
ベラトリックスの声だった。
笑い混じりの冷たい嘲り。
だが、その声が告げる“穢れ”という言葉が、
イリスには理解できなかった。
──穢れ?
エルフにとって、性は命を繋ぐ行いでしかない。
それは季節の巡りのように、淡々と在るもの。
愛とは、時間と共に流れる光のようなもの。
そこに優劣も、恥もない。
だから、今までは気にも留めなかった。
だが──。
「穢れた体」「汚らわしい」
その響きが、鋭い刃のように心に刺さる。
イリスは初めて、人間の穢れという概念を理解した。
それは血や痛みのことではなく、
触れてはならないもの、という烙印。
生き物の価値を、言葉ひとつで切り捨てる感覚。
理解した瞬間、頭の奥で何かが砕けた。
胸の奥に、黒い波が広がる。
ヴォルデモートに嘲られた声。
シーツに顔を埋め、痛みと湧き上がってくる快楽の狭間で
自分の喉から零れた声。
それらが蘇る。
──私は……穢れたの?
自分の身体が、自分の知らない反応を示した。
それは人間の尺度で言えば、穢れたことなのか。
スネイプも、そう思っているのだろうか。
手当てをし、清めてくれたあの指先。
あれは憐れみだったのか?
穢れたものを、黙って拭っていただけなのか?
いいや、そんなはずはない。
けれど──。
そう思いたいのに、声が出なかった。
意識の底がぐらりと揺れる。
感覚が遠ざかり、音も光も消えていく。
体は生きている。
それなのに、心がどこにも無い。
宙に浮いたように、すべてが曖昧になっていく。
最後に聞こえたのは、
遠くで微かに囁くスネイプの声だった。
──イリス、お前の光を絶やすな。
けれど、その言葉に手を伸ばすことはできなかった。
この日、闇に囚われたのは体ではなかった。
穢れという言葉を理解してしまった心の方だった。
