第5章 死の秘宝
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第20話 崩れゆく王
イリスはヴォルデモートの前に立っていた。
男は豪奢な椅子に深く腰を下ろし、
蛇のような眼で、ただ彼女を見つめていた。
「……面白いものだな。お前の力は、質が良い。」
その声は低く、陶酔に濡れている。
イリスは視線を落としたまま、静かに息を整える。
「先ほど、マグルを愛しているなどとほざく愚か者どもと遭遇してな。
多少は遊べるかと思ったが、呆気なく死んでしまった。
どうやら俺様の力は、さらに研ぎ澄まされているようだ。
やはり自然の加護を当然のように受けたエルフの力は素晴らしい。」
彼の言葉には確信があった。
まるで、イリスの存在が自らの力を完成させたと信じて疑わぬように。
だが、イリスはその信仰を冷ややかに見つめていた。
エルフの力は“与えられる”ものではなく、“共に在る”もの。
奪うことで手にできるものではない。
それでも彼は、自らの欲望を正義と呼び、信じている。
そこに、彼が決して捨てきれぬ人間らしさを感じた。
哀れな人。
力を神と誤解し、支配を愛と呼ぶ。
それでも、どこかで“触れたい”と願ってしまう、壊れた魂。
ヴォルデモートが立ち上がる。
その足音が、石床を這う蛇のように近づいてくる。
呼吸が首筋をかすめ、衣の布が擦れる。
指先が髪をすくい、白い喉元をなぞった。
「お前の体と血は、力を呼ぶ。」
言葉と同時に、冷たい唇が皮膚を掠めた。
瞬間、痛みとも熱ともつかぬものが背を走る。
世界が沈黙に沈む中で、イリスはただ息を殺した。
衣が床に落ちる音と微かな息遣い。
部屋の奥で、炎が揺れる音だけが現実だった。
時間の感覚が失われていく。
触れられるたび、体が遠くへ引き裂かれていくようで、
心だけが冷たく残された。
───
夜は果てしなく続いた。
部屋の奥、冷えた空気の中でイリスは再び倒れていた。
ヴォルデモートは椅子に座りそんなイリスに満足そうな笑みを浮かべ、その目には歪んだ歓喜が宿っていた。
痛みの名残が体の奥に沈み、呼吸のたびに熱が滲む。
腕や首には痕が残り、背を走る疼きが絶えない。
それでも、もう泣くことはなかった。
視界の端で、床に赤が滲む。
その静かな色を見つめながら、
イリスは何も感じない自分を確かめていた。
扉が開く。
冷気とともに、あの人の気配が流れ込む。
「……我が君、お呼びでしょうか?。」
スネイプの声が低く響く。
ヴォルデモートは上機嫌だった。
蛇のように笑みを浮かべ、指先で空を撫でる。
「イリスを連れて行け。
今夜は立つこともままならぬようだからな。」
スネイプが無言で頷き、イリスを抱き上げる。
彼女の体が腕に収まった瞬間、
彼の喉の奥で微かに息が詰まる音がした。
そして、扉の前まで来た時───。
「……あぁ、待てセブルス。」
呼び止められ、スネイプが足を止める。
「俺様は今日、機嫌がよい。
望むならそいつを可愛がってやってもよいぞ。
お前に心を寄せているようだからな。
早く壊れてしまってはつまらん。」
その言葉が、石壁よりも冷たく空気を裂いた。
イリスはスネイプの腕の中で、
彼の手にわずかに力がこもるのを感じた。
その圧が痛いほど、怒りを堪えている証だった。
イリスはスネイプの怒る理由がよく分かる。
大切な存在が、弄ばれるように言葉で穢される。
それは、イリス自身が彼に同じことを言われたら
胸が張り裂けるほどの怒りと悔しさを覚えるに違いなかった。
スネイプの目が闇の奥で燃える。
だが、声は出さない。
返す言葉は、耐える呼吸に変わった。
ヴォルデモートは興味を失ったように手を振り、部屋の奥に視線を戻す。
スネイプは部屋を後にし長い廊下を歩く。
イリスはスネイプの胸に顔を埋め、
彼の匂いを吸い込んだ。
あの人の手の温もり。
その腕の震え。
怒りと痛みと優しさが混ざり合って、
胸の奥がじんわりと熱くなる。
イリスはスネイプの手が自分の傷に触れるたび、
その指先の微かな震えを感じ取っていた。
──彼は苦しんでいる。
自分の体につけられた痕跡を、見るたびに。
けれどイリスには、その痛みの理由が分からなかった。
エルフにとって、肌はただの殻だ。
傷つけられても、奪われることは無い。
それでもこの人間は、自分を見て心を痛めている。
「……ごめんなさい、セブルス。
あなたを苦しませてしまって。」
かすれた声でそう告げると、
スネイプの動きが一瞬止まった。
「謝るな。」
短く、それだけを返す声の奥に、
人間という存在の脆さと、
イリスに対するどうしようもない愛しさが滲んでいた。
そんな彼の、体温が、匂いが、存在全てがイリスを安心させる。
歩く度に響く振動が心地よく、気づけば瞼が重くなる。
───
眠りの縁で、
イリスは先ほどの光景を思い出していた。
荒々しくイリスの体を貪る彼の姿が、
血を啜る彼の姿が、鮮明に浮かぶ。
力に飢え、支配に酔う男。
それでもなお、人の形を捨てきれない哀れな存在。
ヴォルデモート。
彼は、愛を知らぬまま愛をどこかで望んでいる。
温もりを奪うことでしか、それを理解できない。
その姿は痛ましかった。
己を神と信じながら、
その信仰が虚ろであることにも気づけぬ。
部下たちの忠誠は恐怖で繋がれている。
ハリーたちが壊していく分霊箱と同じように、
この組織もまた、内側から崩れていくのだろう。
それでも彼は気づかない。
信じたいものだけを見て、信じたい自分に縋っている。
それがどれほど脆く愚かなことなのか──。
イリスはわずかに息を吐いた。
そして胸の奥で小さく祈る。
この男が滅びるその瞬間まで、2人で未来を歩めますようにと。
その祈りは、誰に向けたものでもなく、
静かに闇の中へ溶けていった。
そのころヴォルデモートの部屋では、誰も知らぬまま蝋燭の炎がひとつ、静かに消えたのだった。
イリスはヴォルデモートの前に立っていた。
男は豪奢な椅子に深く腰を下ろし、
蛇のような眼で、ただ彼女を見つめていた。
「……面白いものだな。お前の力は、質が良い。」
その声は低く、陶酔に濡れている。
イリスは視線を落としたまま、静かに息を整える。
「先ほど、マグルを愛しているなどとほざく愚か者どもと遭遇してな。
多少は遊べるかと思ったが、呆気なく死んでしまった。
どうやら俺様の力は、さらに研ぎ澄まされているようだ。
やはり自然の加護を当然のように受けたエルフの力は素晴らしい。」
彼の言葉には確信があった。
まるで、イリスの存在が自らの力を完成させたと信じて疑わぬように。
だが、イリスはその信仰を冷ややかに見つめていた。
エルフの力は“与えられる”ものではなく、“共に在る”もの。
奪うことで手にできるものではない。
それでも彼は、自らの欲望を正義と呼び、信じている。
そこに、彼が決して捨てきれぬ人間らしさを感じた。
哀れな人。
力を神と誤解し、支配を愛と呼ぶ。
それでも、どこかで“触れたい”と願ってしまう、壊れた魂。
ヴォルデモートが立ち上がる。
その足音が、石床を這う蛇のように近づいてくる。
呼吸が首筋をかすめ、衣の布が擦れる。
指先が髪をすくい、白い喉元をなぞった。
「お前の体と血は、力を呼ぶ。」
言葉と同時に、冷たい唇が皮膚を掠めた。
瞬間、痛みとも熱ともつかぬものが背を走る。
世界が沈黙に沈む中で、イリスはただ息を殺した。
衣が床に落ちる音と微かな息遣い。
部屋の奥で、炎が揺れる音だけが現実だった。
時間の感覚が失われていく。
触れられるたび、体が遠くへ引き裂かれていくようで、
心だけが冷たく残された。
───
夜は果てしなく続いた。
部屋の奥、冷えた空気の中でイリスは再び倒れていた。
ヴォルデモートは椅子に座りそんなイリスに満足そうな笑みを浮かべ、その目には歪んだ歓喜が宿っていた。
痛みの名残が体の奥に沈み、呼吸のたびに熱が滲む。
腕や首には痕が残り、背を走る疼きが絶えない。
それでも、もう泣くことはなかった。
視界の端で、床に赤が滲む。
その静かな色を見つめながら、
イリスは何も感じない自分を確かめていた。
扉が開く。
冷気とともに、あの人の気配が流れ込む。
「……我が君、お呼びでしょうか?。」
スネイプの声が低く響く。
ヴォルデモートは上機嫌だった。
蛇のように笑みを浮かべ、指先で空を撫でる。
「イリスを連れて行け。
今夜は立つこともままならぬようだからな。」
スネイプが無言で頷き、イリスを抱き上げる。
彼女の体が腕に収まった瞬間、
彼の喉の奥で微かに息が詰まる音がした。
そして、扉の前まで来た時───。
「……あぁ、待てセブルス。」
呼び止められ、スネイプが足を止める。
「俺様は今日、機嫌がよい。
望むならそいつを可愛がってやってもよいぞ。
お前に心を寄せているようだからな。
早く壊れてしまってはつまらん。」
その言葉が、石壁よりも冷たく空気を裂いた。
イリスはスネイプの腕の中で、
彼の手にわずかに力がこもるのを感じた。
その圧が痛いほど、怒りを堪えている証だった。
イリスはスネイプの怒る理由がよく分かる。
大切な存在が、弄ばれるように言葉で穢される。
それは、イリス自身が彼に同じことを言われたら
胸が張り裂けるほどの怒りと悔しさを覚えるに違いなかった。
スネイプの目が闇の奥で燃える。
だが、声は出さない。
返す言葉は、耐える呼吸に変わった。
ヴォルデモートは興味を失ったように手を振り、部屋の奥に視線を戻す。
スネイプは部屋を後にし長い廊下を歩く。
イリスはスネイプの胸に顔を埋め、
彼の匂いを吸い込んだ。
あの人の手の温もり。
その腕の震え。
怒りと痛みと優しさが混ざり合って、
胸の奥がじんわりと熱くなる。
イリスはスネイプの手が自分の傷に触れるたび、
その指先の微かな震えを感じ取っていた。
──彼は苦しんでいる。
自分の体につけられた痕跡を、見るたびに。
けれどイリスには、その痛みの理由が分からなかった。
エルフにとって、肌はただの殻だ。
傷つけられても、奪われることは無い。
それでもこの人間は、自分を見て心を痛めている。
「……ごめんなさい、セブルス。
あなたを苦しませてしまって。」
かすれた声でそう告げると、
スネイプの動きが一瞬止まった。
「謝るな。」
短く、それだけを返す声の奥に、
人間という存在の脆さと、
イリスに対するどうしようもない愛しさが滲んでいた。
そんな彼の、体温が、匂いが、存在全てがイリスを安心させる。
歩く度に響く振動が心地よく、気づけば瞼が重くなる。
───
眠りの縁で、
イリスは先ほどの光景を思い出していた。
荒々しくイリスの体を貪る彼の姿が、
血を啜る彼の姿が、鮮明に浮かぶ。
力に飢え、支配に酔う男。
それでもなお、人の形を捨てきれない哀れな存在。
ヴォルデモート。
彼は、愛を知らぬまま愛をどこかで望んでいる。
温もりを奪うことでしか、それを理解できない。
その姿は痛ましかった。
己を神と信じながら、
その信仰が虚ろであることにも気づけぬ。
部下たちの忠誠は恐怖で繋がれている。
ハリーたちが壊していく分霊箱と同じように、
この組織もまた、内側から崩れていくのだろう。
それでも彼は気づかない。
信じたいものだけを見て、信じたい自分に縋っている。
それがどれほど脆く愚かなことなのか──。
イリスはわずかに息を吐いた。
そして胸の奥で小さく祈る。
この男が滅びるその瞬間まで、2人で未来を歩めますようにと。
その祈りは、誰に向けたものでもなく、
静かに闇の中へ溶けていった。
そのころヴォルデモートの部屋では、誰も知らぬまま蝋燭の炎がひとつ、静かに消えたのだった。
