第5章 死の秘宝
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第18話 雪の檻
スネイプの声が震えていた。
それは怒りでも冷静さでもなく、深く抑え込んだ痛みの響きだった。
「……お前の光を、絶やさせはせぬ。
この闇がいくらお前を喰らおうと、我輩が支える。
奪わせはせん。
お前の心だけは、我輩に守らせてくれ。」
その声音の弱さに、イリスは胸が締め付けられた。
あの人が、自分を責めている。
また“守れなかった”と、自分を罰しているそんな気がした。
イリスは彼の頬に手を伸ばした。
指先に、微かに震える体温が触れる。
「セブルス、後悔してる?」
彼は答えない。
沈黙がすべてを語っていた。
わずかに揺れたその瞳の奥に、後悔と恐怖が渦巻いている。
「私は、後悔していないよ。
痛みも、苦しみもあったけど、心は静かだったの。
あなたの声が、存在が、私を現実に引き戻してくれた。
あの人の声も、過去の影も……あなたが全部遠ざけてくれたの。
……だから、あなたまで過去に囚われないで。」
スネイプは言葉もなく、頬に触れているイリスの手を握り、目を閉じた。
指先が強く絡む。
そのわずかな力だけで、彼の心がいくつも崩れ落ちていくのを感じた。
やがて静かな吐息が落ちる。
それは悲しみでも後悔でもなく、安堵の色を帯びていた。
「……ありがとう、セブルス。」
その言葉を残して、イリスは彼の胸に顔を寄せた。
雪の降る夜が、二人の呼吸を覆い隠す。
沈黙の中で、傷だらけの心が、互いを確かめ合うように寄り添っていた。
───
スネイプが任務で屋敷を離れたとある夜、
イリスはひとり、閉ざされた部屋で月を見ていた。
冷たい石の壁に囲まれ、空だけが自由だった。
月光を浴びて雪は輝いていた。
囚われても、世界は美しいままだ。
闇に囚われたのは体だけ。この美しさを感じることが出来るうちは決して心は闇に染まることはない。
その事実がイリスの心の灯を変わらず燃やし続ける。
しかし、その静けさを破る音がした。
ノックもなく扉が開かれる。
黒い影が差し込む。
ベラトリックス・レストレンジ。
その姿は、闇と嫉妬をまとっていた。
「お前のような半端者が……
なぜあのお方に選ばれたのか、理解できない。」
彼女は唇を吊り上げる。
ゆっくりと歩み寄り、杖を構える。
次の瞬間、杖の先が鞭のように振り抜かれ、
イリスの頬を斜めに裂いた。
乾いた音。
白い肌に赤が走る。
「穢れた血が……汚らしい!
そんな顔であのお方を見たのか?」
頬に走る痛みよりも、その声の方が冷たかった。
ベラトリックスはイリスの髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。
「セブルスもそうやってお前に触れたのか?
そうなのだろう?あの陰気な男も結局は同じ。
欲望に飢えた哀れな男だ。
お前のような妖精まがいの身体に惑わされて。」
その言葉が、鋭く胸に刺さる。
唇を噛みしめても、血の味しかしない。
ベラトリックスは笑った。
声は美しく、内容は酷薄だった。
「セブルスの顔を見た時、分かった。
あれは忠誠ではない、渇きだ。
“あのお方”のために働きながら、
心の底ではお前を抱きたいと願っているのだろう。
滑稽な男だ。」
イリスは否定できなかった。
何を言えば、彼を守れるか分からなかった。
自分が何かを言うことで彼の足を引っ張ることだけは避けたかった。
その沈黙は屈辱よりも痛かった。
「なぜ答えない?図星なのか?」
ベラトリックスは冷笑を浮かべ、杖を構えた。
瞬間、イリスの体中に裂ける痛みがはしる。
骨が鳴り、筋肉が軋む。
磔の呪いだった。
「お前の身体を見た時から虫唾が走っるほど不快だった。
あのお方に抱かれ、セブルスに守られる。
二人の愛を乞いながら、澄ました顔をする。
あのお方のものでなければ殺していた。」
吐き捨てるような声。
杖がさらに押し上げられ、胸の奥まで熱が広がる。
「無様でいい顔。お前にはそれがお似合いだ。
セブルスも、こうやってお前の声を聞いたのか?
それともそうやって永遠に黙って耐えるのか?
哀れな女。」
視界が滲む。
痛みが脈を打つ。
痛みのあまり涙が無意識に溢れる。
それでも決して声は出さなかった。
痛みで声を上げてしまえば、あの人の誓いを裏切る気がしたから。
──お前の心だけは、我輩に守らせてくれ。
あの声が、どんな呪いよりも深く響いていた。
痛みを貫き、胸の奥に灯をともす。
だから、耐えた。耐えられた。
どれほどの時間が過ぎたのか分からない。
だがベラトリックスは愉快そうに笑いながら杖を下ろした。
「これから二度とその澄ました顔で立ち上がれないようにしてあげる。」
そして満足げに裾を翻し、部屋を出ていった。
扉が閉まり、静寂だけが残る。
崩れ落ちた体が冷たい床に沈む。
息が荒くても、瞳はまだ光を宿していた。
──セブルス。
あなたが言ってくれた言葉が、
今も私の中で灯り続けている。
───
動けるようになるまで、どれほど時間が経っただろう。
痛む体をゆっくりと起こし、イリスは窓辺に立つ。
頬に残る傷を、夜の光が淡く照らしていた。
雪は絶え間なく降り、闇を白く包んでいく。
その向こうに、彼の姿が見える気がした。
──私はここにいる。
あなたが帰る場所として。
イリスはその光景を見つめ、静かに息を吐いた。
凜とした背中に、月の光が降り注ぐ。
イリスは静かに、けれど確かな意志を宿した瞳で、
スネイプが帰ってくるその時を待ち望んでいた。
スネイプの声が震えていた。
それは怒りでも冷静さでもなく、深く抑え込んだ痛みの響きだった。
「……お前の光を、絶やさせはせぬ。
この闇がいくらお前を喰らおうと、我輩が支える。
奪わせはせん。
お前の心だけは、我輩に守らせてくれ。」
その声音の弱さに、イリスは胸が締め付けられた。
あの人が、自分を責めている。
また“守れなかった”と、自分を罰しているそんな気がした。
イリスは彼の頬に手を伸ばした。
指先に、微かに震える体温が触れる。
「セブルス、後悔してる?」
彼は答えない。
沈黙がすべてを語っていた。
わずかに揺れたその瞳の奥に、後悔と恐怖が渦巻いている。
「私は、後悔していないよ。
痛みも、苦しみもあったけど、心は静かだったの。
あなたの声が、存在が、私を現実に引き戻してくれた。
あの人の声も、過去の影も……あなたが全部遠ざけてくれたの。
……だから、あなたまで過去に囚われないで。」
スネイプは言葉もなく、頬に触れているイリスの手を握り、目を閉じた。
指先が強く絡む。
そのわずかな力だけで、彼の心がいくつも崩れ落ちていくのを感じた。
やがて静かな吐息が落ちる。
それは悲しみでも後悔でもなく、安堵の色を帯びていた。
「……ありがとう、セブルス。」
その言葉を残して、イリスは彼の胸に顔を寄せた。
雪の降る夜が、二人の呼吸を覆い隠す。
沈黙の中で、傷だらけの心が、互いを確かめ合うように寄り添っていた。
───
スネイプが任務で屋敷を離れたとある夜、
イリスはひとり、閉ざされた部屋で月を見ていた。
冷たい石の壁に囲まれ、空だけが自由だった。
月光を浴びて雪は輝いていた。
囚われても、世界は美しいままだ。
闇に囚われたのは体だけ。この美しさを感じることが出来るうちは決して心は闇に染まることはない。
その事実がイリスの心の灯を変わらず燃やし続ける。
しかし、その静けさを破る音がした。
ノックもなく扉が開かれる。
黒い影が差し込む。
ベラトリックス・レストレンジ。
その姿は、闇と嫉妬をまとっていた。
「お前のような半端者が……
なぜあのお方に選ばれたのか、理解できない。」
彼女は唇を吊り上げる。
ゆっくりと歩み寄り、杖を構える。
次の瞬間、杖の先が鞭のように振り抜かれ、
イリスの頬を斜めに裂いた。
乾いた音。
白い肌に赤が走る。
「穢れた血が……汚らしい!
そんな顔であのお方を見たのか?」
頬に走る痛みよりも、その声の方が冷たかった。
ベラトリックスはイリスの髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。
「セブルスもそうやってお前に触れたのか?
そうなのだろう?あの陰気な男も結局は同じ。
欲望に飢えた哀れな男だ。
お前のような妖精まがいの身体に惑わされて。」
その言葉が、鋭く胸に刺さる。
唇を噛みしめても、血の味しかしない。
ベラトリックスは笑った。
声は美しく、内容は酷薄だった。
「セブルスの顔を見た時、分かった。
あれは忠誠ではない、渇きだ。
“あのお方”のために働きながら、
心の底ではお前を抱きたいと願っているのだろう。
滑稽な男だ。」
イリスは否定できなかった。
何を言えば、彼を守れるか分からなかった。
自分が何かを言うことで彼の足を引っ張ることだけは避けたかった。
その沈黙は屈辱よりも痛かった。
「なぜ答えない?図星なのか?」
ベラトリックスは冷笑を浮かべ、杖を構えた。
瞬間、イリスの体中に裂ける痛みがはしる。
骨が鳴り、筋肉が軋む。
磔の呪いだった。
「お前の身体を見た時から虫唾が走っるほど不快だった。
あのお方に抱かれ、セブルスに守られる。
二人の愛を乞いながら、澄ました顔をする。
あのお方のものでなければ殺していた。」
吐き捨てるような声。
杖がさらに押し上げられ、胸の奥まで熱が広がる。
「無様でいい顔。お前にはそれがお似合いだ。
セブルスも、こうやってお前の声を聞いたのか?
それともそうやって永遠に黙って耐えるのか?
哀れな女。」
視界が滲む。
痛みが脈を打つ。
痛みのあまり涙が無意識に溢れる。
それでも決して声は出さなかった。
痛みで声を上げてしまえば、あの人の誓いを裏切る気がしたから。
──お前の心だけは、我輩に守らせてくれ。
あの声が、どんな呪いよりも深く響いていた。
痛みを貫き、胸の奥に灯をともす。
だから、耐えた。耐えられた。
どれほどの時間が過ぎたのか分からない。
だがベラトリックスは愉快そうに笑いながら杖を下ろした。
「これから二度とその澄ました顔で立ち上がれないようにしてあげる。」
そして満足げに裾を翻し、部屋を出ていった。
扉が閉まり、静寂だけが残る。
崩れ落ちた体が冷たい床に沈む。
息が荒くても、瞳はまだ光を宿していた。
──セブルス。
あなたが言ってくれた言葉が、
今も私の中で灯り続けている。
───
動けるようになるまで、どれほど時間が経っただろう。
痛む体をゆっくりと起こし、イリスは窓辺に立つ。
頬に残る傷を、夜の光が淡く照らしていた。
雪は絶え間なく降り、闇を白く包んでいく。
その向こうに、彼の姿が見える気がした。
──私はここにいる。
あなたが帰る場所として。
イリスはその光景を見つめ、静かに息を吐いた。
凜とした背中に、月の光が降り注ぐ。
イリスは静かに、けれど確かな意志を宿した瞳で、
スネイプが帰ってくるその時を待ち望んでいた。
