第5章 死の秘宝
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第16話 歪んだ渇き
行為の終わりを告げるように、室内の空気が重く沈んでいた。
冷たい石の床の上に、イリスは倒れていた。
裂かれた衣が肌を晒し、月明かりが白い体を淡く照らす。
その光さえ、穢れを見ぬふりをしているようだった。
息をするたび、体の奥で鈍い痛みが広がる。
腕には焼け付くような闇の印。
そして首筋には、歯型が深く刻まれていた。
そこから滲む血が乾かず、どくどくと熱を放っている。
ヴォルデモートは背後でゆっくりと衣を整えていた。
その所作には、奇妙な満足と恍惚が滲んでいる。
「……見ろ、この力を。
お前の血が、身体が、俺様をさらに完全な存在へと近づける。」
低く、蛇のように滑る声。
それは悦びというより、狂気の祈りに近かった。
ヴォルデモートはイリスを見下ろし、唇の端をわずかに吊り上げる。
「お前の中には、まだ使われぬ力が眠っている。
いずれそれも、俺様のものになるだろう。」
そう告げると、背を翻し、音もなく部屋を出ていった。
扉が閉まる音が、深い闇の底へ落ちていく。
残されたイリスは、しばらく動けなかった。
痛みが、体という枷の存在を思い出させる。
それでも、心は不思議と静かだった。
窓の向こう、月が丸く光っていた。
その光は冷たく、どこまでも遠い。
──あぁ、可哀想な人。
力に飢え、支配に酔い、それでも誰かに触れようとする。
ヴォルデモートの目に映るのは、支配ではなく歪んだ欲。
奪うことでしか繋がれない哀れな人間の残骸。
彼はきっと、人間を捨てたふりをしてもなお、
人間であることを諦めきれない。
そのことが、痛いほど分かってしまった。
そしてその理解が、なぜか胸を締めつけた。
───
どれほど時間が過ぎただろう。
イリスは月光の中でぼんやりと息を整えていた。
瞼を閉じれば、まだ耳の奥にあの声が残っている。
その不快な余韻を振り払おうとしたとき、
唐突に扉が開いた。
黒い衣が空気を裂く。
現れたのは、黒髪を巻き上げた女──ベラトリックス・レストレンジ。
狂気を孕んだ瞳が、イリスを射抜く。
「お前のような純血でも人間でもない半端者が、
なぜあのお方に……」
彼女はゆっくりと歩み寄り、イリスの傍に膝をついた。
その視線は顔から首筋へ、さらに血の滲む傷口へと滑る。
「お前の血であのお方が穢されるなんて……許せない。」
その囁きの直後、杖が傷口に押し当てられる。
焼けた鉄を押し付けられたような熱が走った。
圧迫で喉が詰まり、息ができない。
咳が漏れるが、声にはならない。
「認めない。私はお前を受け入れない……!」
ベラトリックスは狂ったように繰り返す。
その顔には怒りと悲哀が入り混じっていた。
それは嫉妬。そして信仰を汚された信徒の怒り。
杖の先が離れると、彼女は低く呟いた。
「……このままじゃ気が済まない。どうしてやろうか。」
イリスの上に跨り、杖先を眼球の前に突き出す。
冷たい魔力の気配が瞼を刺す。
しかしその瞬間、再び扉が勢いよく開かれた。
「……何をしている、ベラトリックス。」
低く鋭い声が、空気を一瞬で支配した。
イリスの鼓動が跳ねる。
「チッ。セブルス、邪魔をするな。」
ベラトリックスは振り向きざまに杖を向ける。
だがスネイプは動じず、ゆっくりと前へ歩み出た。
「それはできぬ話だ。
我輩がこやつの監視役となった。
……あまり痛めつけられては、あのお方が相手をする時に楽しみが減るだろう。
……これ以上はやめておけ。」
静かな声だった。
しかしその言葉の裏には、殺意に近い怒りが滲んでいた。
ベラトリックスは唇を噛み、何も言わずに立ち上がる。
黒い裾を翻し、荒々しい足音を響かせて部屋を去った。
扉が閉まる。
その音が止むのと同時に、スネイプは駆け寄った。
イリスの身体を抱き起こし、腕の中へ引き寄せる。
「……セブルス。」
弱い声で名を呼ぶ。
イリスは力の入らぬ手で、彼の胸に顔を埋めた。
「……イリス。」
「あぁ、セブルス……。」
スネイプの手が、微かに震えていた。
それでも抱き寄せる力は、決して弱まらなかった。
月光が差し込み、二人の影を重ねる。
静まり返った屋敷の中、
その光だけが、まだ生の証のように揺れていた。
行為の終わりを告げるように、室内の空気が重く沈んでいた。
冷たい石の床の上に、イリスは倒れていた。
裂かれた衣が肌を晒し、月明かりが白い体を淡く照らす。
その光さえ、穢れを見ぬふりをしているようだった。
息をするたび、体の奥で鈍い痛みが広がる。
腕には焼け付くような闇の印。
そして首筋には、歯型が深く刻まれていた。
そこから滲む血が乾かず、どくどくと熱を放っている。
ヴォルデモートは背後でゆっくりと衣を整えていた。
その所作には、奇妙な満足と恍惚が滲んでいる。
「……見ろ、この力を。
お前の血が、身体が、俺様をさらに完全な存在へと近づける。」
低く、蛇のように滑る声。
それは悦びというより、狂気の祈りに近かった。
ヴォルデモートはイリスを見下ろし、唇の端をわずかに吊り上げる。
「お前の中には、まだ使われぬ力が眠っている。
いずれそれも、俺様のものになるだろう。」
そう告げると、背を翻し、音もなく部屋を出ていった。
扉が閉まる音が、深い闇の底へ落ちていく。
残されたイリスは、しばらく動けなかった。
痛みが、体という枷の存在を思い出させる。
それでも、心は不思議と静かだった。
窓の向こう、月が丸く光っていた。
その光は冷たく、どこまでも遠い。
──あぁ、可哀想な人。
力に飢え、支配に酔い、それでも誰かに触れようとする。
ヴォルデモートの目に映るのは、支配ではなく歪んだ欲。
奪うことでしか繋がれない哀れな人間の残骸。
彼はきっと、人間を捨てたふりをしてもなお、
人間であることを諦めきれない。
そのことが、痛いほど分かってしまった。
そしてその理解が、なぜか胸を締めつけた。
───
どれほど時間が過ぎただろう。
イリスは月光の中でぼんやりと息を整えていた。
瞼を閉じれば、まだ耳の奥にあの声が残っている。
その不快な余韻を振り払おうとしたとき、
唐突に扉が開いた。
黒い衣が空気を裂く。
現れたのは、黒髪を巻き上げた女──ベラトリックス・レストレンジ。
狂気を孕んだ瞳が、イリスを射抜く。
「お前のような純血でも人間でもない半端者が、
なぜあのお方に……」
彼女はゆっくりと歩み寄り、イリスの傍に膝をついた。
その視線は顔から首筋へ、さらに血の滲む傷口へと滑る。
「お前の血であのお方が穢されるなんて……許せない。」
その囁きの直後、杖が傷口に押し当てられる。
焼けた鉄を押し付けられたような熱が走った。
圧迫で喉が詰まり、息ができない。
咳が漏れるが、声にはならない。
「認めない。私はお前を受け入れない……!」
ベラトリックスは狂ったように繰り返す。
その顔には怒りと悲哀が入り混じっていた。
それは嫉妬。そして信仰を汚された信徒の怒り。
杖の先が離れると、彼女は低く呟いた。
「……このままじゃ気が済まない。どうしてやろうか。」
イリスの上に跨り、杖先を眼球の前に突き出す。
冷たい魔力の気配が瞼を刺す。
しかしその瞬間、再び扉が勢いよく開かれた。
「……何をしている、ベラトリックス。」
低く鋭い声が、空気を一瞬で支配した。
イリスの鼓動が跳ねる。
「チッ。セブルス、邪魔をするな。」
ベラトリックスは振り向きざまに杖を向ける。
だがスネイプは動じず、ゆっくりと前へ歩み出た。
「それはできぬ話だ。
我輩がこやつの監視役となった。
……あまり痛めつけられては、あのお方が相手をする時に楽しみが減るだろう。
……これ以上はやめておけ。」
静かな声だった。
しかしその言葉の裏には、殺意に近い怒りが滲んでいた。
ベラトリックスは唇を噛み、何も言わずに立ち上がる。
黒い裾を翻し、荒々しい足音を響かせて部屋を去った。
扉が閉まる。
その音が止むのと同時に、スネイプは駆け寄った。
イリスの身体を抱き起こし、腕の中へ引き寄せる。
「……セブルス。」
弱い声で名を呼ぶ。
イリスは力の入らぬ手で、彼の胸に顔を埋めた。
「……イリス。」
「あぁ、セブルス……。」
スネイプの手が、微かに震えていた。
それでも抱き寄せる力は、決して弱まらなかった。
月光が差し込み、二人の影を重ねる。
静まり返った屋敷の中、
その光だけが、まだ生の証のように揺れていた。
