第5章 死の秘宝
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第14話 闇の門
冷たい風が森を抜け、黒い館の塔を撫でた。
その音は、まるで墓の中から響く嘆きのようだった。
冬はまだ浅い。けれど、この場所には季節の概念さえない。
スネイプは長い廊下を歩いていた。
その後ろには、足音を忍ばせて歩くイリスの気配。
石畳の上で衣の裾が擦れる音だけが、二人の存在を確かめていた。
やがて扉が開かれる。
そこは闇の主の間。
炎の代わりに冷気が揺らめくような、光の届かぬ空間。
ヴォルデモートが玉座のような椅子に腰掛けていた。
その目は蛇のように細く、静かな歓喜を湛えている。
「……セブルス。よく戻ったな。」
声は低く、部屋全体を這うように広がる。
スネイプは片膝をつき、頭を垂れた。
「……我が君の御命のままに。イリスをお連れいたしました。」
その言葉とともに、背後の扉が軋む。
イリスが前に進み出る。
白い髪が、蝋燭の微光に淡く染まる。
ヴォルデモートはゆっくりと立ち上がる。
薄く笑い、彼女を見下ろした。
「久しいな。森の姫君よ。
ようやく、俺様の元に戻ってきたか。」
空気が凍る。
スネイプは目を上げず静かに頭を垂れ続けていた。
その背に、イリスのわずかな震えを感じ取っていた。
それと同時にスネイプもまた同じ恐怖が静かに胸の奥を侵食していく。
イリスを引き渡してしまったことで、彼女が今後受けるであろう苦痛を悟ってしまったから。
──これが最善だ。
これでいいのだ。
我輩がそばにいれば、監視という名で守ることができる。
そう言い聞かせながらも、胸の奥に冷たい痛みが滲む。
彼女の横顔。
あの紅い瞳が、不安に曇る。
それが見えた瞬間、
喉の奥から、何かが叫びたがるのを押し殺した。
ヴォルデモートは手を振り、冷たく命じた。
「連れて行け。
この女には、我が意志を正しく理解させる必要がある。」
闇の下僕たちが現れ、イリスの両側に立つ。
鎖はない。だが、その空気自体が束縛のようだった。
「セブルス、あとで話すとしよう。」
ヴォルデモートはそうとだけ言い、連れていかれたイリスに続き部屋を後にした。
スネイプは一歩も動けなかった。
そのまま扉が閉まるまで、目を逸らすことができなかった。
──彼女の表情が、頭から離れない。
最後に交わした視線。
あれは恐怖ではない。信頼だった。
だからこそ、余計に苦しかった。
静寂の残る部屋に、ひとり立ち尽くす。
壁の隙間を抜ける風が、ローブの裾を揺らした。
「……これでいい。これが最善だ。」
呟きは霧のように消え、
そのまま心に戻ることはなかった。
───
冷たい石の廊下を進むたび、足音が反響する。
イリスは歩いていた。
スネイプと引き離された後の世界は、異様に静かだった。
ヴォルデモートの後ろ姿が遠くに見える。
その黒い外套が、まるで闇そのもののように揺れている。
胸の奥が軋む。
覚悟していた。
何度も想像し、受け入れると決めた。
それでも──いざその姿を前にすると、
過去が蘇る。
痛みと恐怖。
あの呪文の閃光、焦げた空気、倒れた身体。
どんなに遠く離れても、記憶は肉の奥に焼きついていた。
吐息が震える。
唇を噛む。
歩調を乱すな。
せめて、弱いところを見せるな。
ヴォルデモートは足を止めた。
その背がわずかに動き、声が落ちる。
「……震えているな。だが、それでいい。
お前の恐怖こそ、我が支配の証だ。」
声が、皮膚の内側に這い入ってくるようだった。
体が反射的に強張る。
それでも、イリスは顔を上げた。
紅い瞳が、暗闇の奥をまっすぐ見据える。
恐怖と誇りが、静かにせめぎ合っている。
──セブルス。見ていて。
あなたが選んだ道を、私は歩く。
あなたのために。あの日、あなたが差し出した覚悟を、今度は私が抱くために。
その想いだけが、崩れそうな心を支えていた。
ヴォルデモートはゆっくりと微笑む。
その笑みの奥に、底のない闇が渦を巻いていた。
そして扉が再び閉まる。
重い音が響き、光が絶たれる。
世界は再び沈黙した。
雪は、まだ外で降り続いている。
スネイプのいる遠い空の下で。
冷たい風が森を抜け、黒い館の塔を撫でた。
その音は、まるで墓の中から響く嘆きのようだった。
冬はまだ浅い。けれど、この場所には季節の概念さえない。
スネイプは長い廊下を歩いていた。
その後ろには、足音を忍ばせて歩くイリスの気配。
石畳の上で衣の裾が擦れる音だけが、二人の存在を確かめていた。
やがて扉が開かれる。
そこは闇の主の間。
炎の代わりに冷気が揺らめくような、光の届かぬ空間。
ヴォルデモートが玉座のような椅子に腰掛けていた。
その目は蛇のように細く、静かな歓喜を湛えている。
「……セブルス。よく戻ったな。」
声は低く、部屋全体を這うように広がる。
スネイプは片膝をつき、頭を垂れた。
「……我が君の御命のままに。イリスをお連れいたしました。」
その言葉とともに、背後の扉が軋む。
イリスが前に進み出る。
白い髪が、蝋燭の微光に淡く染まる。
ヴォルデモートはゆっくりと立ち上がる。
薄く笑い、彼女を見下ろした。
「久しいな。森の姫君よ。
ようやく、俺様の元に戻ってきたか。」
空気が凍る。
スネイプは目を上げず静かに頭を垂れ続けていた。
その背に、イリスのわずかな震えを感じ取っていた。
それと同時にスネイプもまた同じ恐怖が静かに胸の奥を侵食していく。
イリスを引き渡してしまったことで、彼女が今後受けるであろう苦痛を悟ってしまったから。
──これが最善だ。
これでいいのだ。
我輩がそばにいれば、監視という名で守ることができる。
そう言い聞かせながらも、胸の奥に冷たい痛みが滲む。
彼女の横顔。
あの紅い瞳が、不安に曇る。
それが見えた瞬間、
喉の奥から、何かが叫びたがるのを押し殺した。
ヴォルデモートは手を振り、冷たく命じた。
「連れて行け。
この女には、我が意志を正しく理解させる必要がある。」
闇の下僕たちが現れ、イリスの両側に立つ。
鎖はない。だが、その空気自体が束縛のようだった。
「セブルス、あとで話すとしよう。」
ヴォルデモートはそうとだけ言い、連れていかれたイリスに続き部屋を後にした。
スネイプは一歩も動けなかった。
そのまま扉が閉まるまで、目を逸らすことができなかった。
──彼女の表情が、頭から離れない。
最後に交わした視線。
あれは恐怖ではない。信頼だった。
だからこそ、余計に苦しかった。
静寂の残る部屋に、ひとり立ち尽くす。
壁の隙間を抜ける風が、ローブの裾を揺らした。
「……これでいい。これが最善だ。」
呟きは霧のように消え、
そのまま心に戻ることはなかった。
───
冷たい石の廊下を進むたび、足音が反響する。
イリスは歩いていた。
スネイプと引き離された後の世界は、異様に静かだった。
ヴォルデモートの後ろ姿が遠くに見える。
その黒い外套が、まるで闇そのもののように揺れている。
胸の奥が軋む。
覚悟していた。
何度も想像し、受け入れると決めた。
それでも──いざその姿を前にすると、
過去が蘇る。
痛みと恐怖。
あの呪文の閃光、焦げた空気、倒れた身体。
どんなに遠く離れても、記憶は肉の奥に焼きついていた。
吐息が震える。
唇を噛む。
歩調を乱すな。
せめて、弱いところを見せるな。
ヴォルデモートは足を止めた。
その背がわずかに動き、声が落ちる。
「……震えているな。だが、それでいい。
お前の恐怖こそ、我が支配の証だ。」
声が、皮膚の内側に這い入ってくるようだった。
体が反射的に強張る。
それでも、イリスは顔を上げた。
紅い瞳が、暗闇の奥をまっすぐ見据える。
恐怖と誇りが、静かにせめぎ合っている。
──セブルス。見ていて。
あなたが選んだ道を、私は歩く。
あなたのために。あの日、あなたが差し出した覚悟を、今度は私が抱くために。
その想いだけが、崩れそうな心を支えていた。
ヴォルデモートはゆっくりと微笑む。
その笑みの奥に、底のない闇が渦を巻いていた。
そして扉が再び閉まる。
重い音が響き、光が絶たれる。
世界は再び沈黙した。
雪は、まだ外で降り続いている。
スネイプのいる遠い空の下で。
