第5章 死の秘宝
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第12話 闇の兆し
曇り空の下、ホグワーツの尖塔に冬の気配が忍び込んでいた。
風は弱く、空は灰に沈んでいる。
世界全体が何かを待っているように、静かだった。
イリスの謹慎が解けた日。
スネイプは廊下の奥から、その姿を見つめていた。
紅い瞳、透けるような白い髪。
彼女はまるで、壊れかけた魂の殻を脱ぎ捨てたかのように、
静かで、そして堂々としていた。
彼女の歩む道に、相変わらず生徒たちの冷たい視線が突き刺さる。
けれど、イリスはそれに怯えず、ただ前を見て歩いた。
もう、他人の蔑みなど届かないほど、心の奥で何かが定まっているように見えた。
スネイプは、その姿に安堵を覚える。
あの夜、折れた杖を拾い、何もできなかった自分。
その手の届かぬ場所で、彼女は自ら立ち上がっていた。
守ることも癒すこともできなかった。
あの沈黙の夜、何も渡せぬまま背を向けた。
なのに彼女は──
我輩の想像を超えて強くなった。
痛みを飲み込み、凜として前を歩く。
その姿に、胸の奥が軋むような誇らしさが混ざった。
───
数日後。
左腕に刻まれた闇の印が、熱を持つように疼いた。
痛みではない。呼び声だ。
スネイプは静かに部屋を出た。
転移のあと、闇の中に立つ。
冷たい石の床、蛇のように湿った空気。
その中心に、主がいた。
「スネイプ。奴らの動きはどうだ。あの女は従順か。」
低く、滑るような声。
「はい、我が君。彼女は順調に……。」
「ならばよい。」
しばしの沈黙。
そのあと、吐き捨てるように言葉が落ちる。
「だが、俺様は気が短いのだ。もう長くは待てぬぞ。
俺様を失望させるなよ、セブルス。」
スネイプは膝をついたまま、微動だにしなかった。
その一言が、背中に氷の刃のように刺さる。
──いずれ、この手であの子を差し出さねばならぬ。
それを思うだけで、血が冷える。
闇の主が去り、部屋に静寂が戻る。
スネイプはゆっくりと手を見下ろした。
イリスの折れた杖を拾い上げたときの感触が、まだ皮膚に残っている。
あのとき掴んだのは、杖ではなく自分の無力さだった。
守るための手が、今や差し出すために震えている。
そんな自分を、心の底から憎んだ。
初めから分かっていた。
それでも、覚悟とは痛みの消えるものではない。
───
季節は変わり、雪が降り始めた。
ホグワーツの塔の上には、白い霧が重く垂れ込めている。
悲鳴が日常となり、笑い声は消えた。
生徒たちの目は疲弊しきっていた。
その中で、報せが入る。
──ハリー・ポッター、ホグズミードに現れた。
スネイプは窓辺に立ち、霜の結晶を指で砕いた。
外は雪に覆われ、森さえも沈黙している。
「……ポッター。お前は闇の帝王も知らぬ分霊箱となった。」
その言葉が、誰に向けたものか、自分でも分からない。
ダンブルドアの声が脳裏に蘇る。
“ハリーに伝えねばならない。死なねば、終わらぬと。”
使命は、近づいている。
それがすなわち、すべての終わりの始まりでもあることを、スネイプは悟っていた。
───
夜。
スネイプは全生徒を大広間に集めた。
吹き抜ける風が扉を震わせ、
炎の灯りが天井の影を揺らす。
「ポッターを庇うこと。
情報を隠すこと。
──いずれも処罰の対象とする。」
その声が響くたび、空気が冷えた。
誰も目を上げない。
石の床に響くのは、息と鼓動の音だけ。
長い沈黙。
その静けさを裂くように、前列から声がした。
「ここは厳重に守られているようですが、警備に穴があるようですね、校長。」
振り返ると、そこに立っていたのは──ハリー・ポッター。
その瞬間、扉が破られた。
不死鳥の騎士団がなだれ込み、光が一気に空間を塗り替える。
ハリーの後ろに並び杖を構える一行。
ハリーもまたスネイプへと杖を向ける。
スネイプは応えるように杖を構える。
だが同時にマクゴナガルもハリーの前へ出て、杖を構える。
彼女の瞳は燃えるように強く、迷いがない。
一瞬動揺を見せたがスネイプも無言で杖を掲げた。
光と光が衝突し、床が鳴る。
呪文が交錯し、火花が散る。
その音の向こうで、生徒たちの叫びがかすかに聞こえた。
だが、スネイプの心は奇妙なほど静かだった。
──ようやく、この時が来た。
不死鳥の騎士団やマクゴナガルがいれば、この場所は守られる。
もう、子供たちを怯えさせずに済む。
呪文が壁を砕き、火が散る。
追い詰められたスネイプは、杖を振り、マクゴナガルの呪文を逸らして
カロー兄妹を巻き込み、気絶させた。
一瞬の静寂。
スネイプはローブを掴み、風を切る。
──イリス。
これで本当に別れだ。
そう思いながら飛び立つ。
凍てつく風が頬を打ち、雪が視界を覆う。
だが、ふとその白の中に見えた。
ひときわ淡く光る影。
紅い瞳が、まっすぐこちらを見ていた。
雪を割って立つイリス。
その瞬間、世界が一度、音を失った。
曇り空の下、ホグワーツの尖塔に冬の気配が忍び込んでいた。
風は弱く、空は灰に沈んでいる。
世界全体が何かを待っているように、静かだった。
イリスの謹慎が解けた日。
スネイプは廊下の奥から、その姿を見つめていた。
紅い瞳、透けるような白い髪。
彼女はまるで、壊れかけた魂の殻を脱ぎ捨てたかのように、
静かで、そして堂々としていた。
彼女の歩む道に、相変わらず生徒たちの冷たい視線が突き刺さる。
けれど、イリスはそれに怯えず、ただ前を見て歩いた。
もう、他人の蔑みなど届かないほど、心の奥で何かが定まっているように見えた。
スネイプは、その姿に安堵を覚える。
あの夜、折れた杖を拾い、何もできなかった自分。
その手の届かぬ場所で、彼女は自ら立ち上がっていた。
守ることも癒すこともできなかった。
あの沈黙の夜、何も渡せぬまま背を向けた。
なのに彼女は──
我輩の想像を超えて強くなった。
痛みを飲み込み、凜として前を歩く。
その姿に、胸の奥が軋むような誇らしさが混ざった。
───
数日後。
左腕に刻まれた闇の印が、熱を持つように疼いた。
痛みではない。呼び声だ。
スネイプは静かに部屋を出た。
転移のあと、闇の中に立つ。
冷たい石の床、蛇のように湿った空気。
その中心に、主がいた。
「スネイプ。奴らの動きはどうだ。あの女は従順か。」
低く、滑るような声。
「はい、我が君。彼女は順調に……。」
「ならばよい。」
しばしの沈黙。
そのあと、吐き捨てるように言葉が落ちる。
「だが、俺様は気が短いのだ。もう長くは待てぬぞ。
俺様を失望させるなよ、セブルス。」
スネイプは膝をついたまま、微動だにしなかった。
その一言が、背中に氷の刃のように刺さる。
──いずれ、この手であの子を差し出さねばならぬ。
それを思うだけで、血が冷える。
闇の主が去り、部屋に静寂が戻る。
スネイプはゆっくりと手を見下ろした。
イリスの折れた杖を拾い上げたときの感触が、まだ皮膚に残っている。
あのとき掴んだのは、杖ではなく自分の無力さだった。
守るための手が、今や差し出すために震えている。
そんな自分を、心の底から憎んだ。
初めから分かっていた。
それでも、覚悟とは痛みの消えるものではない。
───
季節は変わり、雪が降り始めた。
ホグワーツの塔の上には、白い霧が重く垂れ込めている。
悲鳴が日常となり、笑い声は消えた。
生徒たちの目は疲弊しきっていた。
その中で、報せが入る。
──ハリー・ポッター、ホグズミードに現れた。
スネイプは窓辺に立ち、霜の結晶を指で砕いた。
外は雪に覆われ、森さえも沈黙している。
「……ポッター。お前は闇の帝王も知らぬ分霊箱となった。」
その言葉が、誰に向けたものか、自分でも分からない。
ダンブルドアの声が脳裏に蘇る。
“ハリーに伝えねばならない。死なねば、終わらぬと。”
使命は、近づいている。
それがすなわち、すべての終わりの始まりでもあることを、スネイプは悟っていた。
───
夜。
スネイプは全生徒を大広間に集めた。
吹き抜ける風が扉を震わせ、
炎の灯りが天井の影を揺らす。
「ポッターを庇うこと。
情報を隠すこと。
──いずれも処罰の対象とする。」
その声が響くたび、空気が冷えた。
誰も目を上げない。
石の床に響くのは、息と鼓動の音だけ。
長い沈黙。
その静けさを裂くように、前列から声がした。
「ここは厳重に守られているようですが、警備に穴があるようですね、校長。」
振り返ると、そこに立っていたのは──ハリー・ポッター。
その瞬間、扉が破られた。
不死鳥の騎士団がなだれ込み、光が一気に空間を塗り替える。
ハリーの後ろに並び杖を構える一行。
ハリーもまたスネイプへと杖を向ける。
スネイプは応えるように杖を構える。
だが同時にマクゴナガルもハリーの前へ出て、杖を構える。
彼女の瞳は燃えるように強く、迷いがない。
一瞬動揺を見せたがスネイプも無言で杖を掲げた。
光と光が衝突し、床が鳴る。
呪文が交錯し、火花が散る。
その音の向こうで、生徒たちの叫びがかすかに聞こえた。
だが、スネイプの心は奇妙なほど静かだった。
──ようやく、この時が来た。
不死鳥の騎士団やマクゴナガルがいれば、この場所は守られる。
もう、子供たちを怯えさせずに済む。
呪文が壁を砕き、火が散る。
追い詰められたスネイプは、杖を振り、マクゴナガルの呪文を逸らして
カロー兄妹を巻き込み、気絶させた。
一瞬の静寂。
スネイプはローブを掴み、風を切る。
──イリス。
これで本当に別れだ。
そう思いながら飛び立つ。
凍てつく風が頬を打ち、雪が視界を覆う。
だが、ふとその白の中に見えた。
ひときわ淡く光る影。
紅い瞳が、まっすぐこちらを見ていた。
雪を割って立つイリス。
その瞬間、世界が一度、音を失った。
