第5章 死の秘宝
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第8話 信念の衝突
あれから日々は変わらず進み数ヶ月。
──雪が降り始めていた。
白い粉が塔の窓辺に積もり、夜の空気は痛いほど冷たい。
イリスは校内の静けさを感じながら、足を止める。
ネビルが、少し気まずそうに視線を泳がせた。
「……イリス、こっちへ。グリフィンドールの寮に、今夜は……来てほしいんだ。」
その声音には、何かを迷うような、頼るような響きがあった。
イリスは静かに頷き、彼の後を歩き出した。
───
寮の扉を開いた瞬間、温かな光が溢れた。
歓声と笑い声、そして懐かしい顔。
だが、イリスが一歩踏み入れた途端、空気が変わる。
誰かが声を止め、誰かが俯く。
笑みが、波のように消えた。
沈黙。
その沈黙こそが、何よりも雄弁だった。
「……イリス!」
ハリーの声が響いた。
彼は立ち上がり、ためらいもなく駆け寄る。
そのまま強く抱きしめた。
続いてハーマイオニーとロンも寄り添い、言葉より先に涙がにじむ。
「君も……無事でよかった……」
暖炉の火が静かに揺れている。
ハリーたちは、これまでの旅の話を語った。
逃亡の苦しみ、仲間の喪失、見えない闇との戦い。
イリスは何も遮らず、穏やかに耳を傾けていた。
時折、微笑を浮かべながら。
だが、ハーマイオニーの視線が彼女の服に落ちる。
その表情が険しく変わった。
イリスの服は擦り切れ、袖口はほつれ、布地は薄く色を失っていた。
その姿が、彼らの目に現実を突きつけた。
「イリス……あなた、どうしたの?何があったの?」
「気にしないで。必要なことだったの。」
「…必要なこと?」
ハーマイオニーの声が震える。
彼女は周囲の生徒たちに目を向けた。
「まさか……あなたたち、何かしたの?」
誰も答えない。
ただ、誰かが椅子を軋ませ、誰かが拳を握りしめた。
その沈黙が答えだった。
イリスは小さく息を吐いた。
「ハーマイオニー、本当に気にしないで。
私はもう慣れているから。
それに、ここで私がいることで、壊れずにいられる人もいるの。」
「そんなこと……」
「あるの。人間は時々、痛みを誰かに分けないと自分を保てない。
私はその役に向いているだけ。」
部屋の空気が重く沈んだ。
その時、ネビルが立ち上がりイリスに近寄る。
「……ごめん。
僕は、見て見ぬふりをした。
君がどんな目にあっていたか、分かってたのに。
怖かったんだ。自分が標的になるのが。」
それに続き、他の生徒たちも口を開く。
「……すまなかった。」
「俺も、助けられなかった。」
イリスは首を振った。
「謝らないで。
私も空気を読めない行動で、みんなに辛い思いをさせてしまった。
だから、おあいこでしょう?
痛いことはあったけど、慣れてるから平気。
慣れてないあなたたちの方が、きっとずっと苦しかったと思う。」
ハーマイオニーは両手で口を抑え涙を浮かべている。
ロンはなんとも言えない表情で静かにイリスを見つめていた。
ハリーもまた沈黙のまま、イリスを見つめていた。
だがその目には、迷いと決意が混ざっていた。
「……一緒に来ないか?」
イリスは目を細めた。
「どこへ?」
「僕たちと一緒に。ここにいたら、君が壊れてしまう。
君をこれ以上、こんな場所に置いておけない。」
短い沈黙。
イリスは小さく首を振った。
「ありがとう、ハリー。
でも私はもう、自分の道を決めてるの。
ここで守りたいものがある。
私がここを離れたら、壊れる人がいるの。」
「誰のために?」
「ひとりの人のために。
そして、ここにいるみんなのために。」
「それって……」
ハーマイオニーが息を呑んだ。
その表情には驚きと、どこか怯えるような色があった。
イリスは、ゆっくりと頷く。
「ハーマイオニーの想像してる通りよ。」
「……スネイプを守るっていうのか?」
ハリーの声は震えていた。
「君、本気で言ってるのか? あいつはダンブルドアを殺したんだぞ!」
その瞬間、部屋の空気が一気に張り詰めた。
誰もが息を呑み、炎の音さえ止まったようだった。
ハリーの目には怒りと混乱、そして深い悲しみが宿っていた。
「君も……あの夜、見ただろ?僕は塔の上で全部見た。
ダンブルドアがあいつに懇願していたのに、スネイプは冷たく、何のためらいもなく……!」
喉が詰まり、声が途切れる。
「それを見て君は……どうしてまだ、あんな奴を信じられるんだ!?」
静寂。
ハリーの拳が震えていた。
その震えが、彼の怒りの深さを物語っていた。
その声は怒鳴りではなく、悲鳴に近かった。
スネイプへの憎しみよりも、理解できない現実への痛み。
そして、イリスまでもがその男を“信じている”という矛盾への絶望。
ハーマイオニーが小さく息を呑み、ロンがそっとハリーの肩を掴む。
「ハリー……」
ロンの声には戸惑いが混じっていた。だが止められない。
ハリーの胸から噴き出しているのは、長年溜め続けた痛みそのものだった。
それでも、イリスは一歩も引かない。
彼女はゆっくりとハリーの方を向き、穏やかに言葉を落とした。
「……ええ、見たわ。あの夜のことも、あなたの苦しみも。」
静かな声に、炎の音が再びかすかに戻る。
「でもね、ハリー。あなたが見たのは“結末”であって、“理由”じゃないの。」
ハリーが眉をひそめる。
イリスの目はまっすぐ彼を見据えていた。
「その人は、あの瞬間でさえ誰かを守っていた。
それだけは、私が保証する。」
「守ってた?誰を?何を?
ダンブルドアを殺しておいて?」
ハリーの声が震える。怒りと戸惑いが混じった声。
「君は騙されてたんだ、イリス!
あいつは君を置いていった!
君が泣いても、振り向きもしなかった!
君があんなに感情を乱して泣くほど辛かったのに、
あの夜……あいつは、お前を……捨てたんだ!!」
ハリーが如何にスネイプを憎んでいるのか、
そしてイリスを心配し、思ってくれているのか、
イリスはそれをわかった上で首を横に振った。
「見えるものがすべてじゃない。
私が信じる理由は、きっと今のあなたには届かない。
でも、それでいいの。いつか分かる時が来るから。」
ハリーは未だ理解できないといった様子で言葉を失い、俯く。
誰もが何も言葉を発さない中、ハーマイオニーが唇を噛みしめながら小さく呟く。
「……何か理由があるのね。イリス、あなたにも。」
ロンはまだ言葉を失っているハリーの背に手を置いた。
イリスは微笑を浮かべ、暖炉の方へ視線を移す。
炎が静かに揺れ、赤い光が彼女の頬を照らす。
「信じるって、痛いことなの。
でも、痛みのない信頼なんて、きっと本物じゃない。
私はそれを、あの人から教わったの。」
ハリーは顔を上げた。
イリスの言葉が彼の胸の奥に残響を落とす。
理解できないけれど、否定できない。
「イリス、僕はただ、君が壊れないか心配なんだ。
あいつを信じて……君まで巻き込まれたら、もう嫌なんだ。大事な友達をこれ以上失いたくはないんだ。」
ハリーの声は震えていた。
それは怒りでも疑いでもなく、純粋な“恐れ”だった。
大切な誰かを、また失うことへの恐れ。
イリスはその気持ちを痛いほど理解していた。
静かに息を吐き、ハリーを見つめて微笑む。
「……ありがとう、ハリー。
心配してくれているのは、ちゃんと分かってる。
あなたの優しさは、いつだって人を救ってるわ。」
その言葉に、ハリーは小さく息を詰めた。
何かを言おうとしていたが、結局言葉は出てこなかった。
イリスは再び暖炉の火へと視線を移す。
炎が揺れ、赤い光がゆらゆらと頬を撫でた。
その瞳の奥には、ほんの少しだけ影が宿っている。
時が来たら、この優しい少年をも傷つけてしまう。
そう分かっていながら、それを止める術はなかった。
「……ごめんね、ハリー。」
その声は、炎の音にかき消されるほど小さかった。
ハリーは顔を上げたが、彼女が何を言ったのかは聞き取れなかった。
ただ、揺らめく光の中で見た彼女の微笑みが、
なぜかとても遠く感じられた。
暖炉の火がぱちりと弾ける。
その音が、まるで小さな別れの合図のように響いた。
あれから日々は変わらず進み数ヶ月。
──雪が降り始めていた。
白い粉が塔の窓辺に積もり、夜の空気は痛いほど冷たい。
イリスは校内の静けさを感じながら、足を止める。
ネビルが、少し気まずそうに視線を泳がせた。
「……イリス、こっちへ。グリフィンドールの寮に、今夜は……来てほしいんだ。」
その声音には、何かを迷うような、頼るような響きがあった。
イリスは静かに頷き、彼の後を歩き出した。
───
寮の扉を開いた瞬間、温かな光が溢れた。
歓声と笑い声、そして懐かしい顔。
だが、イリスが一歩踏み入れた途端、空気が変わる。
誰かが声を止め、誰かが俯く。
笑みが、波のように消えた。
沈黙。
その沈黙こそが、何よりも雄弁だった。
「……イリス!」
ハリーの声が響いた。
彼は立ち上がり、ためらいもなく駆け寄る。
そのまま強く抱きしめた。
続いてハーマイオニーとロンも寄り添い、言葉より先に涙がにじむ。
「君も……無事でよかった……」
暖炉の火が静かに揺れている。
ハリーたちは、これまでの旅の話を語った。
逃亡の苦しみ、仲間の喪失、見えない闇との戦い。
イリスは何も遮らず、穏やかに耳を傾けていた。
時折、微笑を浮かべながら。
だが、ハーマイオニーの視線が彼女の服に落ちる。
その表情が険しく変わった。
イリスの服は擦り切れ、袖口はほつれ、布地は薄く色を失っていた。
その姿が、彼らの目に現実を突きつけた。
「イリス……あなた、どうしたの?何があったの?」
「気にしないで。必要なことだったの。」
「…必要なこと?」
ハーマイオニーの声が震える。
彼女は周囲の生徒たちに目を向けた。
「まさか……あなたたち、何かしたの?」
誰も答えない。
ただ、誰かが椅子を軋ませ、誰かが拳を握りしめた。
その沈黙が答えだった。
イリスは小さく息を吐いた。
「ハーマイオニー、本当に気にしないで。
私はもう慣れているから。
それに、ここで私がいることで、壊れずにいられる人もいるの。」
「そんなこと……」
「あるの。人間は時々、痛みを誰かに分けないと自分を保てない。
私はその役に向いているだけ。」
部屋の空気が重く沈んだ。
その時、ネビルが立ち上がりイリスに近寄る。
「……ごめん。
僕は、見て見ぬふりをした。
君がどんな目にあっていたか、分かってたのに。
怖かったんだ。自分が標的になるのが。」
それに続き、他の生徒たちも口を開く。
「……すまなかった。」
「俺も、助けられなかった。」
イリスは首を振った。
「謝らないで。
私も空気を読めない行動で、みんなに辛い思いをさせてしまった。
だから、おあいこでしょう?
痛いことはあったけど、慣れてるから平気。
慣れてないあなたたちの方が、きっとずっと苦しかったと思う。」
ハーマイオニーは両手で口を抑え涙を浮かべている。
ロンはなんとも言えない表情で静かにイリスを見つめていた。
ハリーもまた沈黙のまま、イリスを見つめていた。
だがその目には、迷いと決意が混ざっていた。
「……一緒に来ないか?」
イリスは目を細めた。
「どこへ?」
「僕たちと一緒に。ここにいたら、君が壊れてしまう。
君をこれ以上、こんな場所に置いておけない。」
短い沈黙。
イリスは小さく首を振った。
「ありがとう、ハリー。
でも私はもう、自分の道を決めてるの。
ここで守りたいものがある。
私がここを離れたら、壊れる人がいるの。」
「誰のために?」
「ひとりの人のために。
そして、ここにいるみんなのために。」
「それって……」
ハーマイオニーが息を呑んだ。
その表情には驚きと、どこか怯えるような色があった。
イリスは、ゆっくりと頷く。
「ハーマイオニーの想像してる通りよ。」
「……スネイプを守るっていうのか?」
ハリーの声は震えていた。
「君、本気で言ってるのか? あいつはダンブルドアを殺したんだぞ!」
その瞬間、部屋の空気が一気に張り詰めた。
誰もが息を呑み、炎の音さえ止まったようだった。
ハリーの目には怒りと混乱、そして深い悲しみが宿っていた。
「君も……あの夜、見ただろ?僕は塔の上で全部見た。
ダンブルドアがあいつに懇願していたのに、スネイプは冷たく、何のためらいもなく……!」
喉が詰まり、声が途切れる。
「それを見て君は……どうしてまだ、あんな奴を信じられるんだ!?」
静寂。
ハリーの拳が震えていた。
その震えが、彼の怒りの深さを物語っていた。
その声は怒鳴りではなく、悲鳴に近かった。
スネイプへの憎しみよりも、理解できない現実への痛み。
そして、イリスまでもがその男を“信じている”という矛盾への絶望。
ハーマイオニーが小さく息を呑み、ロンがそっとハリーの肩を掴む。
「ハリー……」
ロンの声には戸惑いが混じっていた。だが止められない。
ハリーの胸から噴き出しているのは、長年溜め続けた痛みそのものだった。
それでも、イリスは一歩も引かない。
彼女はゆっくりとハリーの方を向き、穏やかに言葉を落とした。
「……ええ、見たわ。あの夜のことも、あなたの苦しみも。」
静かな声に、炎の音が再びかすかに戻る。
「でもね、ハリー。あなたが見たのは“結末”であって、“理由”じゃないの。」
ハリーが眉をひそめる。
イリスの目はまっすぐ彼を見据えていた。
「その人は、あの瞬間でさえ誰かを守っていた。
それだけは、私が保証する。」
「守ってた?誰を?何を?
ダンブルドアを殺しておいて?」
ハリーの声が震える。怒りと戸惑いが混じった声。
「君は騙されてたんだ、イリス!
あいつは君を置いていった!
君が泣いても、振り向きもしなかった!
君があんなに感情を乱して泣くほど辛かったのに、
あの夜……あいつは、お前を……捨てたんだ!!」
ハリーが如何にスネイプを憎んでいるのか、
そしてイリスを心配し、思ってくれているのか、
イリスはそれをわかった上で首を横に振った。
「見えるものがすべてじゃない。
私が信じる理由は、きっと今のあなたには届かない。
でも、それでいいの。いつか分かる時が来るから。」
ハリーは未だ理解できないといった様子で言葉を失い、俯く。
誰もが何も言葉を発さない中、ハーマイオニーが唇を噛みしめながら小さく呟く。
「……何か理由があるのね。イリス、あなたにも。」
ロンはまだ言葉を失っているハリーの背に手を置いた。
イリスは微笑を浮かべ、暖炉の方へ視線を移す。
炎が静かに揺れ、赤い光が彼女の頬を照らす。
「信じるって、痛いことなの。
でも、痛みのない信頼なんて、きっと本物じゃない。
私はそれを、あの人から教わったの。」
ハリーは顔を上げた。
イリスの言葉が彼の胸の奥に残響を落とす。
理解できないけれど、否定できない。
「イリス、僕はただ、君が壊れないか心配なんだ。
あいつを信じて……君まで巻き込まれたら、もう嫌なんだ。大事な友達をこれ以上失いたくはないんだ。」
ハリーの声は震えていた。
それは怒りでも疑いでもなく、純粋な“恐れ”だった。
大切な誰かを、また失うことへの恐れ。
イリスはその気持ちを痛いほど理解していた。
静かに息を吐き、ハリーを見つめて微笑む。
「……ありがとう、ハリー。
心配してくれているのは、ちゃんと分かってる。
あなたの優しさは、いつだって人を救ってるわ。」
その言葉に、ハリーは小さく息を詰めた。
何かを言おうとしていたが、結局言葉は出てこなかった。
イリスは再び暖炉の火へと視線を移す。
炎が揺れ、赤い光がゆらゆらと頬を撫でた。
その瞳の奥には、ほんの少しだけ影が宿っている。
時が来たら、この優しい少年をも傷つけてしまう。
そう分かっていながら、それを止める術はなかった。
「……ごめんね、ハリー。」
その声は、炎の音にかき消されるほど小さかった。
ハリーは顔を上げたが、彼女が何を言ったのかは聞き取れなかった。
ただ、揺らめく光の中で見た彼女の微笑みが、
なぜかとても遠く感じられた。
暖炉の火がぱちりと弾ける。
その音が、まるで小さな別れの合図のように響いた。
