第5章 死の秘宝
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第7話 沈黙の盾
ドラコが落ち着いたのを確認し、イリスは彼に先に戻るよう伝えた。
扉が閉まり、静寂が戻る。
教室の床には破れた制服の欠片が散らばっていた。
そのひとつひとつに手をかざし思い描く。
繊維が再び結びつき、ひとつの形を取り戻す姿を。
破片たちは微かに震え、音もなく寄り合いはじめた。
細い糸が絡み合い、ちぎれた布地が静かに継ぎ合わされていく。
まるで心の中の、裂かれた何かが縫い直されていくようだった。
イリスは再び整った服を確認し、纏う。
冷たい教室に、わずかに残る温もりがあった。
───
夕刻。
窓の外では灰色の雲が流れ、沈みかけた光が塔の石壁を赤く染めていた。
イリスは静かな廊下を歩きながら、足音を数えるように思考を巡らせた。
なぜ、人間はこうも集団で誰かを痛めつけようとするのだろう。
たったひとりを標的にして、言葉と嘲笑で削り、追い詰めていく。
そこに喜びのような熱を帯びた狂気がある。
思い出すのは、見世物小屋の夜だった。
酔った男たちが檻の前に群がり、口々に罵りながら金を投げた。
誰かが笑うと、他の誰かも笑う。
誰かが石を投げると、次の者も真似をする。
そしていつの間にか、それが“正しい行為”のように思い込んでいた。
あの群衆と、今ホグワーツにいる生徒たちは何が違うのだろう。
違いは──。
いや、同じ人間なのだ違いなんてない。
ただ、置かれている状況が同じになってしまったのだろう。
見えない檻の中で怯える彼らは、自分より弱い存在を求める。
そしてその存在を貶めることで、自分の自由を錯覚する。
恐怖の連鎖の中で、自分が“支配されている側”であることを一瞬でも忘れたいのだ。
支配され抑圧された人間は共通の敵、見下した存在を集団で攻撃する。
そうでなければ、恐怖と不安に染まった自身の環境にストレスに耐えられないから。
それが人間の本能なのだろう。
弱さを覆い隠すために、他者を踏みつける。
自分が壊れないために、誰かを壊す。
それは理不尽で、醜く、そしてとても人間らしい。
イリスは思う。
彼らの狂気の奥には、「生きたい」という願いがある。
弱さが人を狂わせ、狂気の中に“生”が宿る。
だからこそ、怒りも憎しみも湧かない。
彼らを責める気にもなれない。
自分もまた、檻の中で人間の欲に晒され、ただ生き延びてきた。
彼らと違うのは、怒りを超えて“見てしまった”ことだ。
人間の弱さも、醜さも、哀れさも。
だからこそ、理解できてしまう。
───
イリスは廊下の窓辺で立ち止まる。
外の闇が塔を飲み込み、遠くで風が鳴いていた。
この学校では毎日のように罰があり、叫び声が響く。
それでも、不思議なことに死人は出ない。
カロー兄妹の罰は確かに残酷だ。
それなのに、誰一人として“死んでいない”という事実。
それは偶然ではないはずだ。
スネイプが何を考えているのか、誰も知らない。
だがイリスは考えた。
わざわざ憎まれる立場を選んでまで、彼が校長になった理由を。
それはイリスを守るためだけでなくこの学校を、そして生徒たちを守るためではないかと。
あの人は闇の中で光を失わずにいる。
見えない形で、生徒を守っている。
冷たく、孤独に。
誰にも気づかれないままに。
イリスは小さく息を吐き、掌を胸に当てた。
「スネイプが守ろうとするものなら、私も守る。」
その言葉は、誰にも届かず、石造りの廊下に吸い込まれた。
見世物小屋で全てを搾取され続けたイリスにはもう、プライドも痛めつけられることへの抵抗もない。
無いものは、これ以上奪われようがない。
痛みも屈辱も、スネイプという光が残る限り、恐れるに足りない。
多少自分が犠牲になっても、生徒たちの心が壊れないのなら、それでいい。
痛みを吸い上げることで誰かが生き延びるなら、その役を自分が担えばいい。
人間にとって生きることは、愚かさを繰り返すことなのかもしれない。
それでも、その愚かさの中で誰かを想い、守ろうとする。
その矛盾こそが、この世界をまだ動かしている。
イリスは歩きながら、ひとつ息を吐いた。
その吐息は、誰に届くこともなく、静かに夜へ溶けていった。
ドラコが落ち着いたのを確認し、イリスは彼に先に戻るよう伝えた。
扉が閉まり、静寂が戻る。
教室の床には破れた制服の欠片が散らばっていた。
そのひとつひとつに手をかざし思い描く。
繊維が再び結びつき、ひとつの形を取り戻す姿を。
破片たちは微かに震え、音もなく寄り合いはじめた。
細い糸が絡み合い、ちぎれた布地が静かに継ぎ合わされていく。
まるで心の中の、裂かれた何かが縫い直されていくようだった。
イリスは再び整った服を確認し、纏う。
冷たい教室に、わずかに残る温もりがあった。
───
夕刻。
窓の外では灰色の雲が流れ、沈みかけた光が塔の石壁を赤く染めていた。
イリスは静かな廊下を歩きながら、足音を数えるように思考を巡らせた。
なぜ、人間はこうも集団で誰かを痛めつけようとするのだろう。
たったひとりを標的にして、言葉と嘲笑で削り、追い詰めていく。
そこに喜びのような熱を帯びた狂気がある。
思い出すのは、見世物小屋の夜だった。
酔った男たちが檻の前に群がり、口々に罵りながら金を投げた。
誰かが笑うと、他の誰かも笑う。
誰かが石を投げると、次の者も真似をする。
そしていつの間にか、それが“正しい行為”のように思い込んでいた。
あの群衆と、今ホグワーツにいる生徒たちは何が違うのだろう。
違いは──。
いや、同じ人間なのだ違いなんてない。
ただ、置かれている状況が同じになってしまったのだろう。
見えない檻の中で怯える彼らは、自分より弱い存在を求める。
そしてその存在を貶めることで、自分の自由を錯覚する。
恐怖の連鎖の中で、自分が“支配されている側”であることを一瞬でも忘れたいのだ。
支配され抑圧された人間は共通の敵、見下した存在を集団で攻撃する。
そうでなければ、恐怖と不安に染まった自身の環境にストレスに耐えられないから。
それが人間の本能なのだろう。
弱さを覆い隠すために、他者を踏みつける。
自分が壊れないために、誰かを壊す。
それは理不尽で、醜く、そしてとても人間らしい。
イリスは思う。
彼らの狂気の奥には、「生きたい」という願いがある。
弱さが人を狂わせ、狂気の中に“生”が宿る。
だからこそ、怒りも憎しみも湧かない。
彼らを責める気にもなれない。
自分もまた、檻の中で人間の欲に晒され、ただ生き延びてきた。
彼らと違うのは、怒りを超えて“見てしまった”ことだ。
人間の弱さも、醜さも、哀れさも。
だからこそ、理解できてしまう。
───
イリスは廊下の窓辺で立ち止まる。
外の闇が塔を飲み込み、遠くで風が鳴いていた。
この学校では毎日のように罰があり、叫び声が響く。
それでも、不思議なことに死人は出ない。
カロー兄妹の罰は確かに残酷だ。
それなのに、誰一人として“死んでいない”という事実。
それは偶然ではないはずだ。
スネイプが何を考えているのか、誰も知らない。
だがイリスは考えた。
わざわざ憎まれる立場を選んでまで、彼が校長になった理由を。
それはイリスを守るためだけでなくこの学校を、そして生徒たちを守るためではないかと。
あの人は闇の中で光を失わずにいる。
見えない形で、生徒を守っている。
冷たく、孤独に。
誰にも気づかれないままに。
イリスは小さく息を吐き、掌を胸に当てた。
「スネイプが守ろうとするものなら、私も守る。」
その言葉は、誰にも届かず、石造りの廊下に吸い込まれた。
見世物小屋で全てを搾取され続けたイリスにはもう、プライドも痛めつけられることへの抵抗もない。
無いものは、これ以上奪われようがない。
痛みも屈辱も、スネイプという光が残る限り、恐れるに足りない。
多少自分が犠牲になっても、生徒たちの心が壊れないのなら、それでいい。
痛みを吸い上げることで誰かが生き延びるなら、その役を自分が担えばいい。
人間にとって生きることは、愚かさを繰り返すことなのかもしれない。
それでも、その愚かさの中で誰かを想い、守ろうとする。
その矛盾こそが、この世界をまだ動かしている。
イリスは歩きながら、ひとつ息を吐いた。
その吐息は、誰に届くこともなく、静かに夜へ溶けていった。
