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ONE PIECE








"次は〜○○駅〜○○駅〜…お降りの際は足元にご注意ください………"




駅に到着するアナウンスが流れる。
それと同時に扉の前へとぞろぞろと人が移動をする。
初めての駅で勝手がわからない私は人の邪魔にならないように離れて立った。
電車が到着して扉が開く。ホームへ降り立ってキョロキョロと見渡す。人の流れは一方向に向かっていた。その流れに沿って歩く。すぐに下りエスカレーターが見えた。
列に並んでエスカレーターを降りるとすぐに改札があり、後ろをちらっと見るとお手洗いがあるだけで壁だった。どうやらここは改札がひとつしかないようだ。
それを確認して彼にトークを送る。




『駅に着きました。改札を出ても大丈ですか?』



「ごめん今向かってるからもう少し待ってくれ、改札は出て大丈夫」



到着がまだなことにふぅと息を吐く。
一応、騙されてるのも考慮して改札は出ないでおいた。もしこのまま彼が来なかった場合改札を出てしまったらまた切符を買い直さなくてはならなくなるからだ。
切らずに最寄り駅に戻れば親切な駅員さんなら払い戻しもしてくれるはずだ。
彼の到着を待つ。




「すまん遅れた!」




大きな声が響き渡る。
パっと顔を向けるとどこかで見たような顔がこっちを見ていた。
いや、トークで話していたときにアイコンになっていた顔だ。彼が来た。
小走りに切符を通して彼へ駆け寄る。
じっとこちらを見つめる彼にぺこっと少しお辞儀をした。少しだけくしゃっと笑って口を開いた。




「待たせてごめん、なんか食う?」



『いえいえ!着く前にトーク入れればよかったですね、何か食べましょうか』



「スーパーあるし何か買ってこ」




そう言ってスタスタと歩く彼の少し後ろを付いていく。
見慣れぬ風景、見慣れぬ男の背中、なんだかこの状況に少しワクワクしている自分がいた。普段刺激のない生活を送っていたからだろうか。
悪いことをしている裏で楽しんでいると言うかなんというか。
そんな感情が私の中にあった。
スーパーに入ると目の前の野菜コーナーには目もくれずに奥へと進む。入り口にあったカゴを両手で持って小走りに付いていく。
背が高い上に足が長い彼の歩幅は女子の中でも一応身長がある私でも少し遅れ気味になるようだ。
お肉のコーナーでようやく足を止めた彼は右から左、左から右へと肉を見つめ、大きなパックを手に取った。



「肉は何が好き?」


『えっ、えーと普段はよく鶏肉を食べます』


「じゃあ鶏にするか」



大きな牛肉のパックを戻して、鶏肉のパックを手に取り直し、私の持っているカゴに入れた。
そしてまた歩き出す。
隣にあった冷蔵品コーナーでウィンナーを手に取りカゴに入れ、そのまま厚揚げもカゴに入れた。
何を作るんだろう、と思いつつも並ぶ食材を見ながら「何がいいかなー」とつぶやく彼を見ていた。
そのまま後は何も入れずにレジへと向かった。『半分出します!』と言う私に制止しながらお会計を済ます彼にお礼を言ってせめて袋詰めは、と言ってカゴを運んだが袋を入れ終わると横から手を伸ばし袋を持ってくれた。
お会計を済ませた他のお客さんを避けつつ歩き出した彼を追うと2階へ上がるエスカレーターへと乗った。





「お酒飲む?」



『あ、はい。そんなに頻繁じゃないですけど』



「晩酌付き合ってよ」



そう言って彼は笑う。『少しだけですよ』と笑い返し、2階でアルコールを何本か買い、スーパーを出た私達はそのまま彼の家へと歩き出した。
道中は彼の話をずっと聞いていた。どんな仕事をしているだとか、出張のことだとか。
正直このあと彼の家に行くことに緊張しすぎて平静を装うことに必死で会話は覚えていない。
かろうじて駅までの帰り道を覚えてたくらい。
彼の家は大きなマンションだった。初めてのマンションに更に緊張を増しながらエレベーターへ乗り込む。密閉空間にふたりきり。
バクバクと聞こえそうなくらいに心臓が鳴る。彼の顔を見れずに少しだけ下を向いた。








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