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ONE PIECE







「少し電話せん?」





思わぬ返事に目を丸くする。
移動のときもそうだったが急に突拍子も無く展開を飛び越えて来る彼に度々驚かされる。
何を思ったかわからないがうーん、と考える。
高校生の頃、インターネットで知り合った人と通話をすることは多々あった。趣味が同じだったりそういうきっかけで仲良くなった人とよくしていた。
だが、これはそれとはまた違う。
何も知らない見ず知らずの人。
ぃゃ、もしかしたらこれから一緒に住むことになるかもしれない人、と自分を鼓舞して了承した。
返事を送ったあとに心臓が張り裂けるのが先か体を突き破るのか先かわからないくらいにバクバクと動いている。
こんなにも人と通話をすることに緊張することはなかった。職場の上司から電話がかかってきたときよりも緊張している。



〜♫



かかってきた。
ふぅ、と一息ついて震える指で応答ボタンを横へスライドする。
通じたのを確認してから耳へ当てる。
少し低い声が耳元で響いた。



「もしもし?」



『…っもしもし』




「初めまして、でええんかな」



『初めまして、ですね』



「そっかそっか、あのささっきの話だけど」



さっきの話…?トークのことだろう。
トークでした最後の話は住居の不便さに関してのことだ。
その話をしたときに通話に持ってきたからそのことであってるだろうか。




『はい?お家の話ですか?』



「そうそう、もし良ければ俺ん家来やん?」



『…?!』




思わぬ展開にむせる。
咳払いを何回かすると、心配そうに笑う声が聞こえた。
あ、この人笑ったらきっと顔がくしゃってするんだろうな、と頭で考えながらむせた原因を思い出す。
これはどう取るべきか、と頭の会議室を開く。
ひとつは、下心目的で家に置いてやるからなんとやらと言う輩なのか。
ひとつは、何か事情があるのか。
ほぼほぼこの時は前者にしか思えなかった。頭の会議室では判決は前者だった。



『あはは、えっとお家に来ないかってどういうことですか?』


「ぃゃ、引っ越そうかなって考えてるのなら、俺これから仕事で家開けることになるだろうからその間で良ければ住んでもええかなって。この部屋手放したくないし」



真実は後者だった。それにも驚いた。
なんだか嵌められているかのように事が進むことに戸惑いを隠せない。
そんな様子の私に彼は笑いかけながら「考えといてくれ」とだけ言った。
そのあとは卒なく世間話が始まり、初めての通話で2時間程話して終わった。
通話が終わったあとベットに倒れ込む。そして彼の言った言葉を思い出す。
これは紛れもないチャンス。家具や電化製品諸々を集めることなく初期費用なども無く転がり込める上に彼は別のところへ行くと言うんだ。
これほど美味しい話があっていいのだろうか。
騙されてはいないだろうか。
色々と不安材料はあるが、今月末まではまだ少しだけ時間がある。その間に彼が信頼できるか、騙してはいないか、そこを見極めていこう。


そう思いながら、今日は眠りについた。








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