trap


車を飛ばして着いた場所は、都内の高級ホテルだった。
駐車場に車を停め、朱音はカツカツとヒール音を響かせながら、慣れた手つきでエレベーターのボタンを押した。

倖田は最上階に自身のオフィス兼住居を置いており、最上階に行くには２つ下の階で降り、インターフォンで倖田に許可をもらい、守衛に付き添われ階段で1階上がる必要がある。

最後に荷物確認と指紋採取と厳重すぎるセキュリティを通りやっと倖田のいる部屋の扉への階段を上ることができる。

(いつも思うけど、滑稽なくらい厳重だわ。 不安で仕方ありません、って言ってるようなものよね。)

朱音は階段を登りながら、心の中で悪態をつく。
そんなことを思っているうちに、大きな扉の前についた。


コンコンコンと三度ノックし、いつもより少し高い声で倖田に声をかける。
「社長、奈津子です。入って宜しいですか？」
奈津子とは今回の任務で与えられた偽名だ。

「あぁ、入っておいで」

声をかけて、すぐに倖田から返事があった。

扉を開けると全面窓の広大な空間が広がり、大きなソファがあり、その横の仕事机に倖田は座っていた。

「奈津子、待っていたよ。
早くこっちにおいで。」

倖田は右手をこちらに差し出し、鼻の下を伸ばした下品な顔で朱音の身体を、舐めるように上から下まで見た。

「えぇ、私も会いたくて仕方がなかったわ」

満面の笑みを倖田に向け、ゆっくり近付き倖田の手をとった。