誓いのシルシ
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
先のない見えない道を歩く自分には
無惨に切り刻まれて死に行く映像しか浮かんでこない。
それでも、あの人を思う気持ちは
きっと、嘘ではないだろう。
芯の心まで羅刹に身を売った訳ではないのだから…
「はい、ダメ!打ち込みが弱すぎるっ」
バシーン!!!!
道場に広がる痛々しい竹刀の音。
新人隊士との手合いで、私は相手を力強く叩きつけた。
「覇気がないんだ。覇気が!相手は待ってはくれないぞ。」
竹刀を片手に言うと、彼は礼をして道場の脇へ退いていく。
「ようユア。相変わらず早いなお前は。」
「どーも、おはようございます。」
ぺこりとお辞儀をして、私は次の隊士にはじめっと叫び声を上げる。
「お!なんだ気合い入ってるな。」
「新八さん程じゃないですよ?えぇ、この人手不足の時に呑気に飲みに行っちゃう新八さん程じゃ!」
「偉く突っかかるな。なんだよ。どうした?」
「いえ、別に。」
ふいっと首をそらすと、私は手合いを再開する。
「お!なんだ千鶴ちゃんじゃないか!珍しいな!」
その遠くから聞こえる声に私は悪態をつく。
―あーダルい、イライラする。
いつからこんな体になったのか、つい最近までは日の光に当たってポカポカする事が私の唯一の楽しみだったのに…
隊務で呆気なくご臨終する程のへまをするとは思わなかった。自分の腕に、多少は自信があったから…
お察しの通り、私はつい先日、あの薬を飲んだ。それは、まだ死にたくなかったことと、女の私を私として認めてくれた近藤さんにまだ恩返しが出来ていなかったからだ。
「死人のくせに…女々しいでやんの」
視線の先には片思いの新八さん。
手合いの合間の休憩時間の間に見るあの人を、私はただ見つめるだけだ。
「おい、ユア。お前何してんだ。」
私は目の前にいるだろう声の主に顔を向けた。
「土方さん、あのっ…あた!」
ポカリと叩かれて、私は涙目になる。
「痛いです。」
「おーそりゃいてぇだろうよ。今のは加減しなかったからな。」
「うっ」
眉間のシワをいつも以上に深くする土方さんに苦笑いした。
「少し、顔貸せ。」
「あ、いやこれには色々深い訳が…」
「あぁ、言い訳なら俺の部屋でたっぷり聞いてやる。とにかく来い。」
鬼の副長の眼光に負け、私は渋々その場を後にした。
「お前な、少しは自覚しろ。」
土方さんの第一声はそれだった。
「ごめんなさい。」
素直に謝って、申し訳無さそうに体を縮こませると、副長はため息をついた。
「羅刹は夜じゃないと活動出来ないのはしってるだろうが!昼間無理に動くんじゃねぇよ。」
そうは言っても、私は新八さんに会いたいのだ。実ることのない片思い。羅刹として生き延びる事を選んだ私には、この思いを伝える権利がなかったとしても…
「もう少しだけ…駄目ですか?」
いずれ血を欲するだろう自分には、どうあってもあの人を諦めなければいけないときがくる。なら、もう少しだけ…
再び呆れたように息をもらしながら後、土方さんから許可を貰えなかった私はその部屋を泣く泣く後にした。
「なあ、ユア。お前昼間外に出て無理してないか?」
新撰組の屯所で、平助くんが話しかけてくる。
「無理は、してないよ。少しダルいけど…」
ごろりと横になって、私は目を瞑る。
「青白い顔してよく言うな。無理してるの分かるんだぜ俺。」
サラリと平助くんの指が私の髪の毛を梳いた。
「平助くん…」
「ん~?」
油小路の件で、羅刹になった平助くんは何かと私を心配してくれる。同じ位の年なのに、彼はやんちゃだけど、凄く気配りのできる人だと思う。だから、甘えてしまうんだ。
「私、新撰組になった自分が怖くてたまらないの。」
ピクリと梳いていた手が止まると、平助くんは私の顔を覗き込んだ。
「新八っつあんに言うのが、怖いのか?」
「それもある。」
私が羅刹になったことを知っているのは、近藤さんと土方さん、山南さん平助くんくらいだ。幹部の一部にしか知られていないのは、私が公表する事を拒んだから…
新八さんにその事を知られるのが怖かったのだ。
けれど、思いを告げられない自分が苦しくてたまらない。
あの人の視線の先には、いつも彼女がいるから…
「潮時だよね。」
諦めの息を漏らすと、平助くんは突然立ち上がる。
「なぁユア。外行こうぜ!」
出会った頃と変わらない笑みを向ける平助くんは私の手を引いて外に出ようとする。
「山南さん。ちょっと出てくるな!」
「えぇ、行ってらっしゃい。」
頭から布を被って、古ぼけた寺へ歩いていく。
「平助くん、突然どうしたの?」
床に腰掛けると木のきしむ音が聞こえる。私は隣に座る平助くんの横顔を見つめる。
「俺さ、正直俺も羅刹になるの迷ったんだ。」
「そうなの?」
「うん。だって、薬を飲むって事は俺が人間じゃなくなるってことだろ?」
「うん。」
「それってすげー辛い事だしたえられないかも知れないって思ったんだ。その時はいいかもしれないけど、何年かたって、自分が生きながら狂って行くのは辛いなぁってさ…」
「それは…」
それは私もそうだ。
まだ強い吸血衝動はないにせよ。私は羅刹だ。いつ、何時この身が狂って行くかしれない。
「…それでも…俺は…生きたかった…」
「…それでも…私は…生きたかった…」
同時に呟く言葉に、思わず2人で吹き出してしまう。
「ねぇ、平助くん。私生きていてもいいんだよね。」
理由がどうあれ、生に執着した自分には最期まで人間らしく散ってみたいと思う。それだけは、先の見える自らの願いなのだ。狂い朽ちて殺されていく末路が己の最期だとしても…
「あぁ!…俺はずっと、ユアの味方だからな!」
平助くんが何時もの笑みを作ると、私もつられて笑った。
「ありがとう!私も平助くんの味方だからね!」
「おう!ありがとうなっ」
今のこの時を大切にしていこう。
この想いだけは、偽らず素直に受け止められる真実だから…
2人で手を繋いで屯所に歩いていく。
三日月が雲から顔を出し、辺りを照らした。
「今日は月が綺麗だね。」
「ん?あぁ、そうだな。」
走って走って走ってきた私は、ここしばらくまともに月なんて見ていなかった。
「試衛館に居たときが懐かしいね。」
空を仰いで言うと平助くんが私の手をぎゅっと握り返す。
「懐かしいけど、俺は今の方が幸せだから…」
「?…なんで?」
きょとんとした顔で聞き返すと、平助は柔らかく笑って口を開く。
「ユアがこんなに近くにいるから。」
「…なっ……っ…」
瞬間顔が熱くなる。
思ってもなかった台詞にどうしたらいいか分からなくなる。
「わっ私?隣に居ても何もないよ!?」
「そんな事ねぇよ。だって…だってさ、俺はユアの事…」
「…っ!…んくっ…ぁ…」
「…ユア?」
突然、何とも言えない感覚が襲ってくる。
「…はっ…あ…」
「お前…っ」
しゃがみ込んで、襲いくる感覚を抑え込もうと私は自らの体を両腕で抱き締める。
「うっ…ぁ…」
―血が、欲しい
慌てて私の肩に手をかける平助くんに、私は顔を微かに上げる。
必死で抑えこんでいるためか、目の前が涙で歪んで見える。
「だ…めっ………触らないっ…でっ」
今までに味わった事のない急激にくる衝動に手を振り払うこともできず首を左右に振った。
―血が、欲しい
もう一人の狂者は私にただ、そうささやく。
―血ガ、欲シイ…
どくどくと異様に脈打つ体。衝動は極限まできていた。これ以上はだめだ。ここにいては、平助くんに迷惑がかかる。
ヨロヨロと立ち上がろうとすると
「飲めよ。ユア」
抱き込まれて、私は目を丸くする。
「俺ので良ければ、飲めよ。早くっ」
目の前には、平助くんの首元。
―欲シイ…
「だっ、めっ!私はっ」
「良いから飲めよ!俺はユアにならいくらやったって構わないんだから!!」
逆に背に回された腕に力が入る。
「ご、め…ん。」
礼を言って、おずおずと彼の喉元に唇を寄せる。
―ブツッ
皮膚の破れる音と一緒に、待ち焦がれたその液体を潤すように飲んだ。
「はっ…はぁ…はぁっ」
ようやく唇を離す。
傷口から、一滴落ちるのを勿体無いと舌で舐めあげる私は狂った羅刹そのものだ。
「落ち着いたか?」
耳元で、艶っぽい声を聞き私は彼の腕の仲で縮こまって頷いた。
「ありがとう。平助くん。」
「別に、いいって。俺ユアの為なら苦にならないからさ。立てるか?」
頼りなげに歩く私を支える平助くん。
私は、どういえばいいのかわからず押し黙ってしまう。
「女の子に、がっつかれるのも悪くないな」
照れくさそうに笑う平助くんに、私は表情を曇らせた。
「…?どうしたんだよ。そんな暗い顔してさ!」
「私は、平助くんから血をもらったのに、何も恩返し出来ないと思って…」
「別に気にしなくてもいいってば!俺別に苦じゃ…」
「私が嫌なの!!!!!」
叫び声をあげて平助くんに向き合ってしがみつく。
彼は優しすぎるんだ。私が新八さんを好きな事を知ってるくせに…こんな事をされたら…
「私は羅刹なのに…好きになってしまう…」
呟く言葉。
先の自分を考えればしてはいけないこと…
それでも、貴方は私を気にかけてくれますか?
「うん。大丈夫。ずっと、俺ユアの事好きだったから…」
唇にあたる感触。
抱かれる温もり…
貴方が私を好きだという限り、私は貴方にだけ血を捧げます。
だからねぇ、貴方の血を私だけのものにさせて…
平助くん…
例えこの身が狂おうとも、私は貴方の側にいるから…
無惨に切り刻まれて死に行く映像しか浮かんでこない。
それでも、あの人を思う気持ちは
きっと、嘘ではないだろう。
芯の心まで羅刹に身を売った訳ではないのだから…
「はい、ダメ!打ち込みが弱すぎるっ」
バシーン!!!!
道場に広がる痛々しい竹刀の音。
新人隊士との手合いで、私は相手を力強く叩きつけた。
「覇気がないんだ。覇気が!相手は待ってはくれないぞ。」
竹刀を片手に言うと、彼は礼をして道場の脇へ退いていく。
「ようユア。相変わらず早いなお前は。」
「どーも、おはようございます。」
ぺこりとお辞儀をして、私は次の隊士にはじめっと叫び声を上げる。
「お!なんだ気合い入ってるな。」
「新八さん程じゃないですよ?えぇ、この人手不足の時に呑気に飲みに行っちゃう新八さん程じゃ!」
「偉く突っかかるな。なんだよ。どうした?」
「いえ、別に。」
ふいっと首をそらすと、私は手合いを再開する。
「お!なんだ千鶴ちゃんじゃないか!珍しいな!」
その遠くから聞こえる声に私は悪態をつく。
―あーダルい、イライラする。
いつからこんな体になったのか、つい最近までは日の光に当たってポカポカする事が私の唯一の楽しみだったのに…
隊務で呆気なくご臨終する程のへまをするとは思わなかった。自分の腕に、多少は自信があったから…
お察しの通り、私はつい先日、あの薬を飲んだ。それは、まだ死にたくなかったことと、女の私を私として認めてくれた近藤さんにまだ恩返しが出来ていなかったからだ。
「死人のくせに…女々しいでやんの」
視線の先には片思いの新八さん。
手合いの合間の休憩時間の間に見るあの人を、私はただ見つめるだけだ。
「おい、ユア。お前何してんだ。」
私は目の前にいるだろう声の主に顔を向けた。
「土方さん、あのっ…あた!」
ポカリと叩かれて、私は涙目になる。
「痛いです。」
「おーそりゃいてぇだろうよ。今のは加減しなかったからな。」
「うっ」
眉間のシワをいつも以上に深くする土方さんに苦笑いした。
「少し、顔貸せ。」
「あ、いやこれには色々深い訳が…」
「あぁ、言い訳なら俺の部屋でたっぷり聞いてやる。とにかく来い。」
鬼の副長の眼光に負け、私は渋々その場を後にした。
「お前な、少しは自覚しろ。」
土方さんの第一声はそれだった。
「ごめんなさい。」
素直に謝って、申し訳無さそうに体を縮こませると、副長はため息をついた。
「羅刹は夜じゃないと活動出来ないのはしってるだろうが!昼間無理に動くんじゃねぇよ。」
そうは言っても、私は新八さんに会いたいのだ。実ることのない片思い。羅刹として生き延びる事を選んだ私には、この思いを伝える権利がなかったとしても…
「もう少しだけ…駄目ですか?」
いずれ血を欲するだろう自分には、どうあってもあの人を諦めなければいけないときがくる。なら、もう少しだけ…
再び呆れたように息をもらしながら後、土方さんから許可を貰えなかった私はその部屋を泣く泣く後にした。
「なあ、ユア。お前昼間外に出て無理してないか?」
新撰組の屯所で、平助くんが話しかけてくる。
「無理は、してないよ。少しダルいけど…」
ごろりと横になって、私は目を瞑る。
「青白い顔してよく言うな。無理してるの分かるんだぜ俺。」
サラリと平助くんの指が私の髪の毛を梳いた。
「平助くん…」
「ん~?」
油小路の件で、羅刹になった平助くんは何かと私を心配してくれる。同じ位の年なのに、彼はやんちゃだけど、凄く気配りのできる人だと思う。だから、甘えてしまうんだ。
「私、新撰組になった自分が怖くてたまらないの。」
ピクリと梳いていた手が止まると、平助くんは私の顔を覗き込んだ。
「新八っつあんに言うのが、怖いのか?」
「それもある。」
私が羅刹になったことを知っているのは、近藤さんと土方さん、山南さん平助くんくらいだ。幹部の一部にしか知られていないのは、私が公表する事を拒んだから…
新八さんにその事を知られるのが怖かったのだ。
けれど、思いを告げられない自分が苦しくてたまらない。
あの人の視線の先には、いつも彼女がいるから…
「潮時だよね。」
諦めの息を漏らすと、平助くんは突然立ち上がる。
「なぁユア。外行こうぜ!」
出会った頃と変わらない笑みを向ける平助くんは私の手を引いて外に出ようとする。
「山南さん。ちょっと出てくるな!」
「えぇ、行ってらっしゃい。」
頭から布を被って、古ぼけた寺へ歩いていく。
「平助くん、突然どうしたの?」
床に腰掛けると木のきしむ音が聞こえる。私は隣に座る平助くんの横顔を見つめる。
「俺さ、正直俺も羅刹になるの迷ったんだ。」
「そうなの?」
「うん。だって、薬を飲むって事は俺が人間じゃなくなるってことだろ?」
「うん。」
「それってすげー辛い事だしたえられないかも知れないって思ったんだ。その時はいいかもしれないけど、何年かたって、自分が生きながら狂って行くのは辛いなぁってさ…」
「それは…」
それは私もそうだ。
まだ強い吸血衝動はないにせよ。私は羅刹だ。いつ、何時この身が狂って行くかしれない。
「…それでも…俺は…生きたかった…」
「…それでも…私は…生きたかった…」
同時に呟く言葉に、思わず2人で吹き出してしまう。
「ねぇ、平助くん。私生きていてもいいんだよね。」
理由がどうあれ、生に執着した自分には最期まで人間らしく散ってみたいと思う。それだけは、先の見える自らの願いなのだ。狂い朽ちて殺されていく末路が己の最期だとしても…
「あぁ!…俺はずっと、ユアの味方だからな!」
平助くんが何時もの笑みを作ると、私もつられて笑った。
「ありがとう!私も平助くんの味方だからね!」
「おう!ありがとうなっ」
今のこの時を大切にしていこう。
この想いだけは、偽らず素直に受け止められる真実だから…
2人で手を繋いで屯所に歩いていく。
三日月が雲から顔を出し、辺りを照らした。
「今日は月が綺麗だね。」
「ん?あぁ、そうだな。」
走って走って走ってきた私は、ここしばらくまともに月なんて見ていなかった。
「試衛館に居たときが懐かしいね。」
空を仰いで言うと平助くんが私の手をぎゅっと握り返す。
「懐かしいけど、俺は今の方が幸せだから…」
「?…なんで?」
きょとんとした顔で聞き返すと、平助は柔らかく笑って口を開く。
「ユアがこんなに近くにいるから。」
「…なっ……っ…」
瞬間顔が熱くなる。
思ってもなかった台詞にどうしたらいいか分からなくなる。
「わっ私?隣に居ても何もないよ!?」
「そんな事ねぇよ。だって…だってさ、俺はユアの事…」
「…っ!…んくっ…ぁ…」
「…ユア?」
突然、何とも言えない感覚が襲ってくる。
「…はっ…あ…」
「お前…っ」
しゃがみ込んで、襲いくる感覚を抑え込もうと私は自らの体を両腕で抱き締める。
「うっ…ぁ…」
―血が、欲しい
慌てて私の肩に手をかける平助くんに、私は顔を微かに上げる。
必死で抑えこんでいるためか、目の前が涙で歪んで見える。
「だ…めっ………触らないっ…でっ」
今までに味わった事のない急激にくる衝動に手を振り払うこともできず首を左右に振った。
―血が、欲しい
もう一人の狂者は私にただ、そうささやく。
―血ガ、欲シイ…
どくどくと異様に脈打つ体。衝動は極限まできていた。これ以上はだめだ。ここにいては、平助くんに迷惑がかかる。
ヨロヨロと立ち上がろうとすると
「飲めよ。ユア」
抱き込まれて、私は目を丸くする。
「俺ので良ければ、飲めよ。早くっ」
目の前には、平助くんの首元。
―欲シイ…
「だっ、めっ!私はっ」
「良いから飲めよ!俺はユアにならいくらやったって構わないんだから!!」
逆に背に回された腕に力が入る。
「ご、め…ん。」
礼を言って、おずおずと彼の喉元に唇を寄せる。
―ブツッ
皮膚の破れる音と一緒に、待ち焦がれたその液体を潤すように飲んだ。
「はっ…はぁ…はぁっ」
ようやく唇を離す。
傷口から、一滴落ちるのを勿体無いと舌で舐めあげる私は狂った羅刹そのものだ。
「落ち着いたか?」
耳元で、艶っぽい声を聞き私は彼の腕の仲で縮こまって頷いた。
「ありがとう。平助くん。」
「別に、いいって。俺ユアの為なら苦にならないからさ。立てるか?」
頼りなげに歩く私を支える平助くん。
私は、どういえばいいのかわからず押し黙ってしまう。
「女の子に、がっつかれるのも悪くないな」
照れくさそうに笑う平助くんに、私は表情を曇らせた。
「…?どうしたんだよ。そんな暗い顔してさ!」
「私は、平助くんから血をもらったのに、何も恩返し出来ないと思って…」
「別に気にしなくてもいいってば!俺別に苦じゃ…」
「私が嫌なの!!!!!」
叫び声をあげて平助くんに向き合ってしがみつく。
彼は優しすぎるんだ。私が新八さんを好きな事を知ってるくせに…こんな事をされたら…
「私は羅刹なのに…好きになってしまう…」
呟く言葉。
先の自分を考えればしてはいけないこと…
それでも、貴方は私を気にかけてくれますか?
「うん。大丈夫。ずっと、俺ユアの事好きだったから…」
唇にあたる感触。
抱かれる温もり…
貴方が私を好きだという限り、私は貴方にだけ血を捧げます。
だからねぇ、貴方の血を私だけのものにさせて…
平助くん…
例えこの身が狂おうとも、私は貴方の側にいるから…