心の楔
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いつだって、傍にいたのだ。
彼女が総司のモノになっても
彼女が、辛くて泣いているときでさえ…
それなのに、自分はただ傍にいるだけで
何も出来なかった…
ユア
この手に抱きたい。
この手で奪いたい。
どんな時だってお前を見ている
愛しい人…
良順先生が、総司に言った労咳。
雪村がこっそり庭先で盗み聞きしているのを発見したあの日から
俺は奴と、いや…ユアとあまり目を合さなくなった。
話をすれば、口からこぼれそうになる。
ユアが悲しむ姿は見たくなかったからだ。
「一君。最近元気ない?それとも私を避けてる?」
「そんなことはない。」
不意に掛けられる声に、俺は無表情で答える。
隠さなくてはいけない事実を…
何より総司本人が伝えていないことを俺が言うわけにはいかなかった。
「そっか…んー…疲れてるの?最近死番多いから無理しないでね。」
「あぁ、分かっている」
さり気ないやさしさがうれしかった。あの綺麗な顔で微笑む顔も好きだった。
彼女が俺の為に言ってくれる言葉がうれしかった。この笑顔だけは守りたいと思ったのに…
「まぁ、元々女らしさないからね。私。飽きられてもしょうがないんじゃないかな」
その言葉で総司に殺意が沸いた。
俺がずっと欲しくて欲しくて仕方のなかった彼女を自分のものにしたくせに、自らの都合で遠ざけることが赦せなかった。
「ならいっそ、俺と一緒になるか…?」
そう言えたらどんなに楽だろう。
お前が俺のものになったら、どんなに幸せだろうか…
「そうはいっても、こればかりは総司と話し合わなくてはいけない件だ。きちんと向き合わないといけないことだ。」
「うん。分かってる。私も逃げてばかりはいられないもんね。」
力なく微笑むお前が痛々しくて、無理して汁粉を頬張るお前をじっと見つめていた。
不意に、店の外から視線を感じた。
総司と雪村だ。
二人でこちらを見つめては、何かを話している様子だった。
同時に感じる総司の射抜くような殺気を帯びた目。
知らない振りをして彼女に寄り添った。
うれしそうに汁粉を頬張るユアの頬をそっと撫でて…
「?一君どうしたの?」
「…。いや、頬に汁粉が付いていたから…」
「え!?嘘!やだ!」
ごしごし顔を擦るユア。
「冗談だ…」
「ちょ、ちょっと!一君!!」
頬を赤らめながら、ユアは不満げに抗議する。
「お前は、可愛いぞ。ユア」
「え…」
「お前は、可愛い…。だから、もう少し自分に自信を持て。」
「あ、なっ…何言ってるの?一君!冗談言ってると怒るからっ」
「冗談ではないが…」
じっと彼女を見つめて言うと、また顔を赤める。
「もう…一君なんか知らないっ!今後誘われても一緒に出かけないんだから!」
「っ!それはっ…困る!」
そっぽを向く彼女が可愛くて、素直に気持ちをぶつけすぎたのか、ユアは突然そんなことを言い出す。
俺は慌てて引き止めた。
「ぷっ…一君て本当に顔にすぐでるよね。皆一君は無表情で分かりにくいっていってるけど、私はすぐ分かるんだよね…あはは!慌てた一君の今の顔すごく面白かった!」
「……俺の事を分かりやすいなどという奴はお前くらいだぞ。」
「そっかなぁ?結構すぐわかる表情するよ?一君。うん!今もすごく照れてる」
そう言って綺麗に笑う。
「…その笑顔は反則だ。」
「ん?」
ぽつりと言った言葉を聞き返されて、俺は静かに席を立った。
「そろそろ行くぞ。」
「えー…もう少しゆっくりしたいー…」
「駄目だ。行くぞ。」
ぴしゃりというと、ユアは渋々席を立つ。会計を済ませて、二人で屯所へ向かう途中、狭い路地へ腕を引っ張られた。物陰に隠れた身体。恐る恐る遠慮がちに彼女が口を開いた。
「ねぇ一君。」
「…どうした。」
「もし、私が沖田君に振られたら…慰めてくれる?」
「…っ…」
泣き顔を見せない彼女の…
強くあれと決めた彼女の…
最後の求める救いの手だったのか…
「俺は、お前がいる限り…いつだって力になるし、いつだってお前を見てる。」
「ありがとう」
弱々しく言った彼女の…
その声が忘れられなかった。
数日後、総司の部屋へ足を運んだ。
「なんだ。珍しいね。こんな時間に来るなんて。」
「お前に、聞いておきたい事がある。」
「こほこほ…何?どんなこと?」
嫌な咳をする総司を横目に、俺は口を開いた。
「ユアを、好きか…?」
目を見開く総司。
次の瞬間、偉く殺気を含んだ視線を俺に送った。
「ユアを好きなの?斉藤君は…」
しんと静まり返った部屋で、その言葉が思いのほか大きく聞こえた。
「あぁ…。俺はずっとあいつが好きだった。」
初めて口にする彼女への思い。総司はしばしの沈黙の後、静かに笑った。
「…もし…もし僕が死んだら…ユアを幸せにしてあげて。」
「……」
「僕はもう長くない。僕が死んだら、彼女は一人になってしまうから…だから…」
「総司…」
切なげな目は、ユアを案じている顔で…
申し訳ない気持ちで一杯の淋しげな笑みを俺は見つめるだけだった。
「僕の代わりに、彼女を抱いて、僕の代わりに彼女に口づけをして、僕の代わりに…
ユアを守って欲しい…」
一緒に生きることは出来ない。
先のない自分には到底無理だと付け加えて視線を足元へ向けた。
「都合がいい願いだな。」
静かにそう返すと。
「仰るとおり…」
「…承知した。あいつを守る。お前の代わりに…」
「ありがとう…」
そこまで話し終えると、部屋の外から足音が聞こえた。
「沖田君っ!聞いて!土方さんから許可っ…あっ…は、一君っ」
「邪魔しているぞ」
息切れをして現れた彼女は、昼間に会ったときとは違いとても晴れやかな表情をしていた。
「随分急いで来たみたいだけど、どうしたのユア?」
「あ…う…うん。あのね、土方さんから、沖田君のお世話許可貰ったの!だからっ」
「本当?でも、僕のために無理はしないでね。一番組の方も今は大変だろうから…」
心配げな面持ちで言う総司に、俺はいたたまれなくて立ち上がった。
目の前には愛しい彼女。
二人の様子からして、総司が労咳であることを告げたのだろう…
「ユア…話し合いは出来たようだな。」
やるせない気持ちを押し殺して、出口へ向かって足を進める。
「それでは、俺はもう行く。今日は、昼の隊務がまだ残っているからな。」
「一君…」
「なんだ?」
「ありがとうね。」
「……。」
それが、俺にとって最初で最後の…
総司が生きていた時の感謝の言葉だった。
慶応 四年
「あいつは、静かに逝ったのか?」
「はい。最後の最後まで、私を気遣ってました。可笑しいですよね。今にもいなくなってしまうかもしれない人が、私の心配ばかり…」
風が少し熱を帯びてきた季節。
『総司』は逝ってしまった。笑ってと、ずっと見守っているといったあの人の最期は、とても穏やかな顔をしていた。
「これから、どうするんだ?」
松本先生の言葉に私は笑顔で答えた。
「試衛館に戻ります。私達の原点だった場所へ…」
貴方や近藤さん、そしてみんなの新選組を語り継ぐ人間が、一人位いてもいいでしょう。
私にはこれしかないのだ。最初からあの頃のようにはじめてもいいと思う。
大丈夫。最初の一歩はいつも貴方と一緒だよ。
私の太刀と小太刀は貴方の物だから…
それから数年後、土方さんの悲報や戦が終結した話を耳にはしたが私は変わらずここで剣術を教えていた。
「ユア先生!お疲れ様です!」
「お疲れ様です。また明日!」
笑顔で見送る私。
笑顔で手を振る私…
もう何度、こんな日々を過ごしているだろう…
「あ…いたいよ…」
壁にもたれかかる。
やるせないこの気持ち。
近藤さん
土方さん
総司
一君
私だけが生き残って
私だけがここにいて…
私だけが、京での皆の事を知っている…
大好きだった貴方たち。
思いを遂げられなかった私達…
「会いたい…一人ぼっちは嫌だよ。」
胸に残る思いもすべて消せたら楽なのに…
私だけがあの戦場にいられなくてごめん…
ずっと、一緒に居たかったんだよ。
「一君…ごめん…本当は…」
気づいていたのに…
気づかない振りしてたの…
私は総司を愛していたから…
甘えてばかりの私だったけど、今貴方はどうしていますか…?
せめて…貴方だけでも生きて…
幸せになってください…
「やっと、見つけた。」
静かな声。
聞き覚えのある声…
この声を間違うはずがない。
「一…君?」
目を見開く。
髪の毛をばっさり切ってしまってはいるが、間違いなく一君だ。
「約束を…総司との約束を守りに来た。」
「な…に…を?」
抱かれる腕。
懐かしい匂い。
懐かしい気配。
「お前を…守らせて欲しい…」
気づいているだろう?
ずっと気づかない振りをしていただろう?
俺の思いを…
だから…
「守らせてくれ。ずっと傍にいる。幸せにする。総司と重ねたってかまわない。」
―一緒に歩んで生きて欲しい。
エゴでもいい。
偽りでもいい。
ただ俺はお前が好きで、
ずっとずっと好きで、
自分のためにも、約束のためにも死ぬわけにはいかなかった。
「愛してる。好きだ…―お前を守らせてくれ。傍にいさせてほしい…」
自己満足といわれても、お前が傍で笑ってくれるなら…
俺はいつだってお前の傍にいる。
「一君…ありがとう。…お帰りなさい。」
『僕の代わりに、彼女を抱いて、僕の代わりに彼女に口づけをして、僕の代わりに…
ユアを守って欲しい…』
「ただいま…ユア。」
唇を重ねた。
この想いをしっかり告げるように…
愛してる。
いつだってお前は俺の全てで、守るべき大切な人だったから…
この楔と共に、ずっとお前を愛し続けるから…―
彼女が総司のモノになっても
彼女が、辛くて泣いているときでさえ…
それなのに、自分はただ傍にいるだけで
何も出来なかった…
ユア
この手に抱きたい。
この手で奪いたい。
どんな時だってお前を見ている
愛しい人…
良順先生が、総司に言った労咳。
雪村がこっそり庭先で盗み聞きしているのを発見したあの日から
俺は奴と、いや…ユアとあまり目を合さなくなった。
話をすれば、口からこぼれそうになる。
ユアが悲しむ姿は見たくなかったからだ。
「一君。最近元気ない?それとも私を避けてる?」
「そんなことはない。」
不意に掛けられる声に、俺は無表情で答える。
隠さなくてはいけない事実を…
何より総司本人が伝えていないことを俺が言うわけにはいかなかった。
「そっか…んー…疲れてるの?最近死番多いから無理しないでね。」
「あぁ、分かっている」
さり気ないやさしさがうれしかった。あの綺麗な顔で微笑む顔も好きだった。
彼女が俺の為に言ってくれる言葉がうれしかった。この笑顔だけは守りたいと思ったのに…
「まぁ、元々女らしさないからね。私。飽きられてもしょうがないんじゃないかな」
その言葉で総司に殺意が沸いた。
俺がずっと欲しくて欲しくて仕方のなかった彼女を自分のものにしたくせに、自らの都合で遠ざけることが赦せなかった。
「ならいっそ、俺と一緒になるか…?」
そう言えたらどんなに楽だろう。
お前が俺のものになったら、どんなに幸せだろうか…
「そうはいっても、こればかりは総司と話し合わなくてはいけない件だ。きちんと向き合わないといけないことだ。」
「うん。分かってる。私も逃げてばかりはいられないもんね。」
力なく微笑むお前が痛々しくて、無理して汁粉を頬張るお前をじっと見つめていた。
不意に、店の外から視線を感じた。
総司と雪村だ。
二人でこちらを見つめては、何かを話している様子だった。
同時に感じる総司の射抜くような殺気を帯びた目。
知らない振りをして彼女に寄り添った。
うれしそうに汁粉を頬張るユアの頬をそっと撫でて…
「?一君どうしたの?」
「…。いや、頬に汁粉が付いていたから…」
「え!?嘘!やだ!」
ごしごし顔を擦るユア。
「冗談だ…」
「ちょ、ちょっと!一君!!」
頬を赤らめながら、ユアは不満げに抗議する。
「お前は、可愛いぞ。ユア」
「え…」
「お前は、可愛い…。だから、もう少し自分に自信を持て。」
「あ、なっ…何言ってるの?一君!冗談言ってると怒るからっ」
「冗談ではないが…」
じっと彼女を見つめて言うと、また顔を赤める。
「もう…一君なんか知らないっ!今後誘われても一緒に出かけないんだから!」
「っ!それはっ…困る!」
そっぽを向く彼女が可愛くて、素直に気持ちをぶつけすぎたのか、ユアは突然そんなことを言い出す。
俺は慌てて引き止めた。
「ぷっ…一君て本当に顔にすぐでるよね。皆一君は無表情で分かりにくいっていってるけど、私はすぐ分かるんだよね…あはは!慌てた一君の今の顔すごく面白かった!」
「……俺の事を分かりやすいなどという奴はお前くらいだぞ。」
「そっかなぁ?結構すぐわかる表情するよ?一君。うん!今もすごく照れてる」
そう言って綺麗に笑う。
「…その笑顔は反則だ。」
「ん?」
ぽつりと言った言葉を聞き返されて、俺は静かに席を立った。
「そろそろ行くぞ。」
「えー…もう少しゆっくりしたいー…」
「駄目だ。行くぞ。」
ぴしゃりというと、ユアは渋々席を立つ。会計を済ませて、二人で屯所へ向かう途中、狭い路地へ腕を引っ張られた。物陰に隠れた身体。恐る恐る遠慮がちに彼女が口を開いた。
「ねぇ一君。」
「…どうした。」
「もし、私が沖田君に振られたら…慰めてくれる?」
「…っ…」
泣き顔を見せない彼女の…
強くあれと決めた彼女の…
最後の求める救いの手だったのか…
「俺は、お前がいる限り…いつだって力になるし、いつだってお前を見てる。」
「ありがとう」
弱々しく言った彼女の…
その声が忘れられなかった。
数日後、総司の部屋へ足を運んだ。
「なんだ。珍しいね。こんな時間に来るなんて。」
「お前に、聞いておきたい事がある。」
「こほこほ…何?どんなこと?」
嫌な咳をする総司を横目に、俺は口を開いた。
「ユアを、好きか…?」
目を見開く総司。
次の瞬間、偉く殺気を含んだ視線を俺に送った。
「ユアを好きなの?斉藤君は…」
しんと静まり返った部屋で、その言葉が思いのほか大きく聞こえた。
「あぁ…。俺はずっとあいつが好きだった。」
初めて口にする彼女への思い。総司はしばしの沈黙の後、静かに笑った。
「…もし…もし僕が死んだら…ユアを幸せにしてあげて。」
「……」
「僕はもう長くない。僕が死んだら、彼女は一人になってしまうから…だから…」
「総司…」
切なげな目は、ユアを案じている顔で…
申し訳ない気持ちで一杯の淋しげな笑みを俺は見つめるだけだった。
「僕の代わりに、彼女を抱いて、僕の代わりに彼女に口づけをして、僕の代わりに…
ユアを守って欲しい…」
一緒に生きることは出来ない。
先のない自分には到底無理だと付け加えて視線を足元へ向けた。
「都合がいい願いだな。」
静かにそう返すと。
「仰るとおり…」
「…承知した。あいつを守る。お前の代わりに…」
「ありがとう…」
そこまで話し終えると、部屋の外から足音が聞こえた。
「沖田君っ!聞いて!土方さんから許可っ…あっ…は、一君っ」
「邪魔しているぞ」
息切れをして現れた彼女は、昼間に会ったときとは違いとても晴れやかな表情をしていた。
「随分急いで来たみたいだけど、どうしたのユア?」
「あ…う…うん。あのね、土方さんから、沖田君のお世話許可貰ったの!だからっ」
「本当?でも、僕のために無理はしないでね。一番組の方も今は大変だろうから…」
心配げな面持ちで言う総司に、俺はいたたまれなくて立ち上がった。
目の前には愛しい彼女。
二人の様子からして、総司が労咳であることを告げたのだろう…
「ユア…話し合いは出来たようだな。」
やるせない気持ちを押し殺して、出口へ向かって足を進める。
「それでは、俺はもう行く。今日は、昼の隊務がまだ残っているからな。」
「一君…」
「なんだ?」
「ありがとうね。」
「……。」
それが、俺にとって最初で最後の…
総司が生きていた時の感謝の言葉だった。
慶応 四年
「あいつは、静かに逝ったのか?」
「はい。最後の最後まで、私を気遣ってました。可笑しいですよね。今にもいなくなってしまうかもしれない人が、私の心配ばかり…」
風が少し熱を帯びてきた季節。
『総司』は逝ってしまった。笑ってと、ずっと見守っているといったあの人の最期は、とても穏やかな顔をしていた。
「これから、どうするんだ?」
松本先生の言葉に私は笑顔で答えた。
「試衛館に戻ります。私達の原点だった場所へ…」
貴方や近藤さん、そしてみんなの新選組を語り継ぐ人間が、一人位いてもいいでしょう。
私にはこれしかないのだ。最初からあの頃のようにはじめてもいいと思う。
大丈夫。最初の一歩はいつも貴方と一緒だよ。
私の太刀と小太刀は貴方の物だから…
それから数年後、土方さんの悲報や戦が終結した話を耳にはしたが私は変わらずここで剣術を教えていた。
「ユア先生!お疲れ様です!」
「お疲れ様です。また明日!」
笑顔で見送る私。
笑顔で手を振る私…
もう何度、こんな日々を過ごしているだろう…
「あ…いたいよ…」
壁にもたれかかる。
やるせないこの気持ち。
近藤さん
土方さん
総司
一君
私だけが生き残って
私だけがここにいて…
私だけが、京での皆の事を知っている…
大好きだった貴方たち。
思いを遂げられなかった私達…
「会いたい…一人ぼっちは嫌だよ。」
胸に残る思いもすべて消せたら楽なのに…
私だけがあの戦場にいられなくてごめん…
ずっと、一緒に居たかったんだよ。
「一君…ごめん…本当は…」
気づいていたのに…
気づかない振りしてたの…
私は総司を愛していたから…
甘えてばかりの私だったけど、今貴方はどうしていますか…?
せめて…貴方だけでも生きて…
幸せになってください…
「やっと、見つけた。」
静かな声。
聞き覚えのある声…
この声を間違うはずがない。
「一…君?」
目を見開く。
髪の毛をばっさり切ってしまってはいるが、間違いなく一君だ。
「約束を…総司との約束を守りに来た。」
「な…に…を?」
抱かれる腕。
懐かしい匂い。
懐かしい気配。
「お前を…守らせて欲しい…」
気づいているだろう?
ずっと気づかない振りをしていただろう?
俺の思いを…
だから…
「守らせてくれ。ずっと傍にいる。幸せにする。総司と重ねたってかまわない。」
―一緒に歩んで生きて欲しい。
エゴでもいい。
偽りでもいい。
ただ俺はお前が好きで、
ずっとずっと好きで、
自分のためにも、約束のためにも死ぬわけにはいかなかった。
「愛してる。好きだ…―お前を守らせてくれ。傍にいさせてほしい…」
自己満足といわれても、お前が傍で笑ってくれるなら…
俺はいつだってお前の傍にいる。
「一君…ありがとう。…お帰りなさい。」
『僕の代わりに、彼女を抱いて、僕の代わりに彼女に口づけをして、僕の代わりに…
ユアを守って欲しい…』
「ただいま…ユア。」
唇を重ねた。
この想いをしっかり告げるように…
愛してる。
いつだってお前は俺の全てで、守るべき大切な人だったから…
この楔と共に、ずっとお前を愛し続けるから…―