幼い頃に、大きな怪我をした。

それは即死でもおかしくないような大怪我だった。

ダンプカーに跳ねられそうになった男の子を、助けた事で私は天寿をまっとうするはずだったのだ。

気がついたら、病院だった。
男の子は無事だったそうだが、何故か私を轢いたはずのドライバーはこの世にはいなくなっていた。私自身も助かったことは奇跡で、本当なら身体を思うように動かせる事自体出来なくなっていたはずだろうと、医者は言っていた。

筈なのに…。

私は何故かここ【S.H.I.E.L.D.】にいる。
今も元気で、しかも五体満足で…。

あれから10数年たった今でも不思議である。
当時の事故の傷1つ残っていない。
それが不気味すぎて、私はここに身を寄せるようになった。アカデミーに入学し【S.H.I.E.L.D.】のエージェントとして今は活動をしているのだ。

「さっきの援護の仕方は何？後20秒遅かったら人質が殺されてしまうところだった。いつも言ってるでしょ？時間との勝負なんだって！あなたの一秒の遅れで皆が死ぬこともあるんだからね！」

基地についてそうそう、合流した部下たちに私は厳しい言葉でそういった。先の作戦で、遅れを取った事で大切な仲間を2人も失ってしまった。結果、自分が出ざる負えなくなり更に一人の犠牲を出してしまったのだ。

「しかしっ！」

「言い訳はいい。貴方達それぞれのミスで大事な仲間が死んだ。この事実は変わらないの。それをきちんと肝に銘じて。甘えてなんていられない。次は絶対にやり遂げて。そして生きてまたここに帰ってきて。いいわね？」

踵を返して、私はシャワー室に向かう。部下を目の前で失った。自分の姿は血だらけで真っ赤だ。服を脱いで、お湯でなく水のシャワーを自分に最大で浴びる。

最も信頼する一人である部下を失った。それがあまりにショックで生き残った者たちを労うこともできないだなんて…
自分はなんて愚かなのだろうか…

「…くそっ！！」

こんな思いを何度繰り返す。また失った。また、助けられなかった。自分にもっと力があればいいのに…最悪だ…


「相変わらず、気持ちのコントロールが苦手なのね」

シャワー室から出ると、気配がないところに聞こえた声に思わず振り返ると、そこには見知った人間がいた。

「ロマノフ…」

「久しぶり」

当たり前のように私の部屋の椅子に座って、彼女は一言そう言った。

「何しにきたの？」

「貴女の辞令を伝えに」

表情を変えずに言うロマノフに、私は顔色を変える。

「…諜報には向かないわね。戦闘スキルは私並みにある筈なのに」

「司令を出す側にも向かないと自分でも思う。いっそ出される側に戻りたい」

コーヒーを入れて彼女に渡すと、私はそのままの向かい側に座った。

「フューリーからそれだけ期待されてるってことでしょ？」

「長官は私の事そういう風には見てないと思う。私はただの駒だから…。所で辞令って？」

「…アベンジャーズ計画の手助けをしてほしい」

「冗談、以前長官と話した時に辞退した筈だけど？」

「時は一刻を争う」

「私は役に立たない」

「戦闘においては、貴女の力を含めたら私以上の力を発揮する」

淡々と話すロマノフに、私は皮肉たっぷりな顔をして自分の胸に手を当てながら言った。

「コレを、使えと？」

「そう、今がその時」

「体細胞の急速な活性化をする程度が？」

「フューリーは少なくとも、その力を必要としてる」

「断る」

「何故？」

「役に立たないからよ」

「それを決めるのはフューリーだから、貴女じゃない」

じわりじわりと、追い詰められる感覚に私は首を左右に振った。

「バートンが、敵の手に落ちた」

「えっ…」

「戦力が欲しいの、貴女の力が…」

「わかった…」

目の色を変えて私は即答をする。
彼の名前が出てしまったのなら、行かなきゃ。

「そう言ってくれると思ってた」

ようやくニコリと笑うロマノフは、私に資料のはいった封筒を渡すとそのまま出ていった。