穏やかな顔で少し気恥ずかしそうに笑う彼に惹かれていた。
戦いではとても激しいし、一度変身したら手がつけられないけど、普段の彼は優しくて女性慣れしてないながらもぎこち無く接してくれる彼に好感を持った。

「君は、僕が怖くないのかい？」

「どうして？バナーは優しい人じゃない」

不思議そうな顔をして返す私に、バナーは苦笑いした。

「これは、なんというかもう一人の僕を出さないように押さえ込んでいる結果だよ」

こうして仲間であるのに自分から私を遠ざけようとしてくるのはいつものことだ。

「バナーもハルクも、どちらも貴方でしょ？」

「我を忘れて君に襲いかかるかもしれない。事実、何度か戦いの時に他の皆もハルクの攻撃を受けて怪我をしている…」

「ナターシャには心を開いたのに、私は駄目なのかぁ…」

「えっ…」

いたずらっぽい声で言うと、バナーの目が見開かれる。私はニヤニヤしながら、バナーに近づいて、頬に手をあてた。

「悪いけど、僕にそれを期待しない方がいいよ？僕は君の気持ちに応えられないし、その…僕はハルクだ」

「私だって、人ならざる力を持ってる。この力を昔から嫌ってるし、ソーに誘われなかったらここにはいなかった」

「あぁ…そういえばそうだね。君とはソーと一緒に会ったんだった。死ねない身体…強い治癒の能力か…その気になれば細胞から相手を死にいたらしめる。確かに、他人からしたら羨ましいモノでも、当人からしたら迷惑極まりない話だ。君のその力は…」

饒舌に言葉を発するバナーに、私は少し怒った顔をする。

「そういう話をしたいわけじゃないんだけど私…」

「あ、あぁ、そうかすまない…」

いつもの遠慮がちな顔をして、バナーは私に謝罪をした。

「ねぇ、キスしていい？」

「えっ！？いや、それは…」



言いかけて、私は彼に口付けた。
触れるだけ、ほんの一瞬の事だった。

「…っ！！だから、ユア…僕はっ！」

「考えておいて。貴方を気にしている人がいるって。無理に私を選べとは言わないから…」

「でも…」

「ゆっくりでいいから。貴方の中にナターシャが居る間は私これ以上何もしないから。でも、そばには居させてね…」

そこまで言うと、恥ずかしそうに視線を反らして頭をかく素振りをするバナーに、少なくとも少しは意識してくれていると思って満足した私は、踵を返してラボの外へ歩いていく。

少し考え込むバナーに、私はくすりと笑ってしまった。