それでも私は
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時々、貴女は私でも錯覚するくらい別人のような表情をする。
その細く傷ついた腕を優しくなでながら、
…貴女は窓から何を求めてそんな顔をなさるのですか…
それでも私は
「はぁ…」
あの日の戦から帰還して3ヶ月が過ぎた。相変わらず、私は腕を満足に動かすこともできず寝台に横になっている。先の戦では、私の活躍は大いに貢献をしたと多大に評価された。劣勢にもかかわらず、少数部隊を率いて味方の全滅を防いだからだ。その働きというわけではないらしいが、連日殿が私の顔を伺いにくる。
「ユア…調子はどうだ?」
再びため息をついた後、しんとした部屋の外から声が聞こえた。そう。先ほどまで考えていた御方。劉備元徳だ。
「毎日顔を出して頂いて申し訳ありません。殿…」
ベットから起き上がって、礼儀といわんばかりに跪こうとするとそなたは横になっていなさい。と一言言われて、寝台に戻された。
「して…腕の調子はどうだ?」
落ち着いた声で私に話し掛ける殿。
私は冗談交じりにそんなに早く治りませんよというと、彼は優しい表情でそのまま笑った。
「先の戦…諸葛亮と姜維。二人と共によく戦ってくれた。私は民も兵も大切にするそなたが心配でならぬのだ…」
「殿。その言葉は毎日聞いてますよ。
褒めてくださるのはもう十分ですよ…恥ずかしいから…」
「お、おぉ…そうか…すまないな…」
苦笑いをして、頬をかくようなそぶりをする殿。私は思わずクスリと笑った。
「私は、そなたの腕が治ったら一度…そなたの戦う所を見てみたい。」
「…え?」
包み込むような、そんな雰囲気をした顔。私は殿に頭をなでられながら上目遣いに劉備様を眺めた。
「今一度…そなたの生きる証であるあの剣を…振れると良いな…」
そう一言言い終わると、彼はそのまま部屋を出て行った。
「生きる…証…か…」
『戦に出る』ことと、『自分が女』ということに関して今まで生きてきた中でこれほど何度も深く考えるキーワードはないだろう。
幼いころから…いや、むしろ物心つく前から自分の父親に剣術を仕込まれてきた。それは、自分の家計に父を継ぐ男児がいなかったから…母親は私を生んですぐに他界した。
それが私を、より一層一武将としての気質を高めたのか…
もし、私に兄弟がいてそれが上でも下でもどちらかいたとしたら…私の今の運命は変わっていたんだろうか…戦に行く自分の愛するものの帰りを待ち、いつ終わるのか分からない乱世の日々を震えながら過ごす。そんな生活をしていたのだろうか…
否、他国の将の元へ己の意見もお構いなく…
まるで使い回しをされる…少し高級な人形のように知らない男の下へと嫁がされていたのかもしれない…
「…そんなの…ごめんだわ…」
思わずため息をついて、すっと白い鳥が大きな庭の木の枝に止まり戯れている様を眺めた。自由に羽ばたこうとするそれが、なぜだかうらやましく感じる。
きっと、今とは違う人生だったらそう思うんだろうな…
「ユア…殿?」
「ぇ?」
突然声が聞こえて、そちら側を向いたらそこには姜維の顔のドアップがあった。
「わーーーー!!!!いつからいたの!?」
「え?さっきからいましたよ?ボーっとしてて呼んでも返事がなかったので勝手にお茶を頂いてました。」
「えぁ…そ、そう…」
焦った表情から、再びため息が漏れた。
ふと、視線を壁際へ移した。愛用の剣が立てかけてある…ユアは、どこか苦痛そうな顔をしてただその剣だけをじっと見つめた。
「…ユア…殿?」
―…それでも私は…
「ねぇ姜維…私、もう一度剣を握りたい。」
「え?」
凛とした声でそう言った。迷いなどない。ただ、その声は希望に向かって行きたい…そんな雰囲気にもとれた。
「もう一度、剣を握って…私の部下や私の守るべき人々のために剣を振るいたい…」
「ユア殿…」
「姜維…こんな私でもあなたと一緒にこの国を守れるかしら…足手まといにはならない?」
今の自分でなければ彼には出会わなかったかもしれない。そして、共に戦うことも勝利を勝ち取る喜びを分かち合うこともできなかったかもしれない。
―ねぇだから、私はあなたの何かになれるかしら…
―一緒に、殿のためにこの世界を幸せにできるかしら…
「ユア殿…私は貴女と共に生きていたいんですよ。だから足手まといだなんて思ったことは一度もない。」
微笑む貴方のその顔を見て、なんだかほっとした。
「貴女が好きです…今までも、これからも…だから…」
そこから先は、姜維と唇を重ねてしまって聞くことはなかった。
けれど、なんとなく分かるから…
言葉にしなくても、分かるから…
―今までも、これからもずっと…ずっと貴女のそばに…
その細く傷ついた腕を優しくなでながら、
…貴女は窓から何を求めてそんな顔をなさるのですか…
それでも私は
「はぁ…」
あの日の戦から帰還して3ヶ月が過ぎた。相変わらず、私は腕を満足に動かすこともできず寝台に横になっている。先の戦では、私の活躍は大いに貢献をしたと多大に評価された。劣勢にもかかわらず、少数部隊を率いて味方の全滅を防いだからだ。その働きというわけではないらしいが、連日殿が私の顔を伺いにくる。
「ユア…調子はどうだ?」
再びため息をついた後、しんとした部屋の外から声が聞こえた。そう。先ほどまで考えていた御方。劉備元徳だ。
「毎日顔を出して頂いて申し訳ありません。殿…」
ベットから起き上がって、礼儀といわんばかりに跪こうとするとそなたは横になっていなさい。と一言言われて、寝台に戻された。
「して…腕の調子はどうだ?」
落ち着いた声で私に話し掛ける殿。
私は冗談交じりにそんなに早く治りませんよというと、彼は優しい表情でそのまま笑った。
「先の戦…諸葛亮と姜維。二人と共によく戦ってくれた。私は民も兵も大切にするそなたが心配でならぬのだ…」
「殿。その言葉は毎日聞いてますよ。
褒めてくださるのはもう十分ですよ…恥ずかしいから…」
「お、おぉ…そうか…すまないな…」
苦笑いをして、頬をかくようなそぶりをする殿。私は思わずクスリと笑った。
「私は、そなたの腕が治ったら一度…そなたの戦う所を見てみたい。」
「…え?」
包み込むような、そんな雰囲気をした顔。私は殿に頭をなでられながら上目遣いに劉備様を眺めた。
「今一度…そなたの生きる証であるあの剣を…振れると良いな…」
そう一言言い終わると、彼はそのまま部屋を出て行った。
「生きる…証…か…」
『戦に出る』ことと、『自分が女』ということに関して今まで生きてきた中でこれほど何度も深く考えるキーワードはないだろう。
幼いころから…いや、むしろ物心つく前から自分の父親に剣術を仕込まれてきた。それは、自分の家計に父を継ぐ男児がいなかったから…母親は私を生んですぐに他界した。
それが私を、より一層一武将としての気質を高めたのか…
もし、私に兄弟がいてそれが上でも下でもどちらかいたとしたら…私の今の運命は変わっていたんだろうか…戦に行く自分の愛するものの帰りを待ち、いつ終わるのか分からない乱世の日々を震えながら過ごす。そんな生活をしていたのだろうか…
否、他国の将の元へ己の意見もお構いなく…
まるで使い回しをされる…少し高級な人形のように知らない男の下へと嫁がされていたのかもしれない…
「…そんなの…ごめんだわ…」
思わずため息をついて、すっと白い鳥が大きな庭の木の枝に止まり戯れている様を眺めた。自由に羽ばたこうとするそれが、なぜだかうらやましく感じる。
きっと、今とは違う人生だったらそう思うんだろうな…
「ユア…殿?」
「ぇ?」
突然声が聞こえて、そちら側を向いたらそこには姜維の顔のドアップがあった。
「わーーーー!!!!いつからいたの!?」
「え?さっきからいましたよ?ボーっとしてて呼んでも返事がなかったので勝手にお茶を頂いてました。」
「えぁ…そ、そう…」
焦った表情から、再びため息が漏れた。
ふと、視線を壁際へ移した。愛用の剣が立てかけてある…ユアは、どこか苦痛そうな顔をしてただその剣だけをじっと見つめた。
「…ユア…殿?」
―…それでも私は…
「ねぇ姜維…私、もう一度剣を握りたい。」
「え?」
凛とした声でそう言った。迷いなどない。ただ、その声は希望に向かって行きたい…そんな雰囲気にもとれた。
「もう一度、剣を握って…私の部下や私の守るべき人々のために剣を振るいたい…」
「ユア殿…」
「姜維…こんな私でもあなたと一緒にこの国を守れるかしら…足手まといにはならない?」
今の自分でなければ彼には出会わなかったかもしれない。そして、共に戦うことも勝利を勝ち取る喜びを分かち合うこともできなかったかもしれない。
―ねぇだから、私はあなたの何かになれるかしら…
―一緒に、殿のためにこの世界を幸せにできるかしら…
「ユア殿…私は貴女と共に生きていたいんですよ。だから足手まといだなんて思ったことは一度もない。」
微笑む貴方のその顔を見て、なんだかほっとした。
「貴女が好きです…今までも、これからも…だから…」
そこから先は、姜維と唇を重ねてしまって聞くことはなかった。
けれど、なんとなく分かるから…
言葉にしなくても、分かるから…
―今までも、これからもずっと…ずっと貴女のそばに…