はらり
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決して結ばれない。
それはわかっているの…
だって、貴方には…
はらり
―周瑜様は何を考えておられるのだろう…あんな娘をいつまでもそばに置いて…
―小喬様が御可愛そうに思われないのだろうか…
「・・・・・・。」
通り過ぎた人の中、立ち止まって振り返ると口々に言っていた人々はそっぽを向いた。
「ユア?」
立ち止まったことに気がついた彼は、心配そうな面持ちで私の元へ歩みよってくる。
「どうした?」
彼はそう一言言った。
私は、彼らの言葉を押し殺すかのように首を振った。
「何でもありません。周瑜様。」
「・・・・そうか。」
周瑜は不満そうな顔をしていたが、
見なかったことにした。
―言ったら、お終いだ。
なぜだかそんな感情が生まれた。
悔しかった。憎かった。
けれど、それを出したら負けな気がして
私はただ、じっと耐えた。
元は、私は蜀の人間だった。
平民出の私は武に特に秀でているわけではなかった。
そして、蜀での仕事は武将という形ではなく、隠密…影の仕事や
伝達の仕事をしていた。
ある日、軍師殿の命で呉国の軍師をしとめて来いと言われた。元々暗殺などやりなれていた私は、その命令をすんなり受け入れて行動を起こした。
―けれど、不覚にも私はその任務を失敗した。
何者かによって情報が漏れていたのだ。
私は彼に返り討ちに会い、不覚にも敵国の捕虜となった。
…そしてなぜだかわからない…。それからしばらくして、彼の護衛をしろと言われ今にいたるのだが…
「ユア、無理をしなくていいんだ。お前はもう我が国の人間だ…」
そう言ってくださる周瑜の言葉が嬉しかった。
だが、周りの人間が彼を心配する理由もわかるのだ。
私は周瑜を殺そうとしたことのある人間。
心配しているのがわかるから、何もいえなかった。
「周瑜さまぁ!まだこんな人側に置いてるのぉ?周瑜様にはきちんと護衛がいるのにぃ!」
執務中に彼の仕事を覗きに来た小喬は、
不満げな声をあげながら彼にまとわりつく。
「小喬。今は執務中だ。こういうことなら後で頼む…」
「えーだって最近いっつも忙しくて、あたしに会いに来てくれないじゃん!周瑜様のケチぃーー!」
首に腕を回して、いちゃつく二人。
何故か、その時とても苦しかった。
「いいかげんにするんだ。私は仕事をしているんだ。さぁ行きなさい。」
「ぶー!」
彼の言葉に不満げな声をあげる小喬。
ふいに、こちらに顔を向けると、思いもよらぬことを言う。
「どうせ、あたしじゃなくてこの女といちゃついてるんでしょ?暇つぶしされてるのも知らないで良く平気な顔をしていられるね。」
歩みよって来る小喬は、私に対して汚い言葉で罵っていく。
「周瑜様は優しいからぁ。だからあんたみたいな元捕虜でもぉ有効に使ってくれんだよぉ。身の程をわきまえればぁ?平民風情がその汚らしい手で、彼に触れないでよね。」
「………っ………」
―パシン
乾いた音が響いた。
目の前で、自分を罵っていた彼女を主人が叩いていた。
「小喬。言ってはならぬことがある。非常識だ。」
「……なっなんでぇ!周瑜様があたしのこと!!」
「仕事で忙しい。それはわかっているだろう。なぜユアにあたる?」
鋭い視線で、自分の妻と呼ばれるものをにらみつける。
女は食らいつくように叫んだ。
「だって!周瑜様はあたしよりこんな女とぉ!!!」
「彼女は私の護衛をしているだけだ。」
一言そういう。機嫌が悪いのだろう。いつもの彼の表情ではない。
「平民上がりのこんな女より、城で鍛えられた護衛兵を使わない周瑜様が悪いんだぁ!」
その言葉で、一瞬彼の眉が動いた気がした。
「彼女だって好きで平民に生まれたわけじゃない。」
「……私だって、好きで名家に生まれたわけじゃない。」
ビシッと言った周瑜。
傍らにいた小喬は目を見開いて、ワナワナと体を震わせていた。
「周瑜様の…馬鹿!!」
乱暴に扉が開かれ、そして閉じられる。
バタバタという音が遠ざかると、彼はため息をついた。
そして、私の方に顔を向けるとあの優しい表情になり言うのだ。
「…すまなかった。」
「いえ…事実。本当のことですから…成りあがりの平民出身であり、貴方様を殺そうとしました。曲げられぬ事実です。」
さらりとそう答える。
「だが…」
言いかけると、私は彼を嬉しそうに眺めながら再び口を開く。
「次の戦で、私も兵として参戦させていただくことになったのです。」
「…!…。」
「ですから、もう私は周瑜様の悩みの種にはなりません。」
ぺこりとお辞儀をすると部屋を出て行こうとする。
「待てユア!私は!」
「もうすぐ…散ります…」
半開きになった扉から、そっと顔を覗かせながら私は言う。そう、こんなこと…終わりにしなきゃ…
扉を閉じようとした時、隙間から彼の手がそれを阻止した。
「誰が、死んでも良いと言った…」
力のある彼は、扉を無理矢理開くと再び私を乱暴に中に押し入れた。
「っ!!」
入るなり、壁に無造作に押し当てられた。
「私の言葉が、そなたには絶対だ。私以外の命で命を落とすことは許されない。」
いつになく怖い顔で、彼は自分を見つめる。そんなことを言っても、私はもう耐えられない。
人々の私に対する評価。正妻のあの態度。
心のよりどころとする方にはもう決まった方がいて、かと言って、私はこの方の側室になれるわけでもない。
「私は…」
「私の側にいればいい。戦場には出る必要などない。だから…」
高ぶる気持ち。
貴方のその言葉だけで、十分だ。
「私は…」
裾をぎゅっと掴む。
嬉しくて、私を唯一見てくれているこの方の言葉が…
「ユア…なぜ…もっと早く、出会わなかったのか…」
「…!…」
「だから、ユア…散るだなんて…言うな…私の側にいて欲しい…」
初めから、あの任務を遂行する時何かを感じ取っていたのかもしれない。
『呉国、周瑜殿…彼の動向を探り、あわよくば殺しなさい。』
不可能だとわかっているのに、私にその命を押し付けた軍師殿。
あの時から、歯車はカラカラと回っていたのかもしれない。
「…散りません。ずっと、お側に居ります。周瑜様。」
それはわかっているの…
だって、貴方には…
はらり
―周瑜様は何を考えておられるのだろう…あんな娘をいつまでもそばに置いて…
―小喬様が御可愛そうに思われないのだろうか…
「・・・・・・。」
通り過ぎた人の中、立ち止まって振り返ると口々に言っていた人々はそっぽを向いた。
「ユア?」
立ち止まったことに気がついた彼は、心配そうな面持ちで私の元へ歩みよってくる。
「どうした?」
彼はそう一言言った。
私は、彼らの言葉を押し殺すかのように首を振った。
「何でもありません。周瑜様。」
「・・・・そうか。」
周瑜は不満そうな顔をしていたが、
見なかったことにした。
―言ったら、お終いだ。
なぜだかそんな感情が生まれた。
悔しかった。憎かった。
けれど、それを出したら負けな気がして
私はただ、じっと耐えた。
元は、私は蜀の人間だった。
平民出の私は武に特に秀でているわけではなかった。
そして、蜀での仕事は武将という形ではなく、隠密…影の仕事や
伝達の仕事をしていた。
ある日、軍師殿の命で呉国の軍師をしとめて来いと言われた。元々暗殺などやりなれていた私は、その命令をすんなり受け入れて行動を起こした。
―けれど、不覚にも私はその任務を失敗した。
何者かによって情報が漏れていたのだ。
私は彼に返り討ちに会い、不覚にも敵国の捕虜となった。
…そしてなぜだかわからない…。それからしばらくして、彼の護衛をしろと言われ今にいたるのだが…
「ユア、無理をしなくていいんだ。お前はもう我が国の人間だ…」
そう言ってくださる周瑜の言葉が嬉しかった。
だが、周りの人間が彼を心配する理由もわかるのだ。
私は周瑜を殺そうとしたことのある人間。
心配しているのがわかるから、何もいえなかった。
「周瑜さまぁ!まだこんな人側に置いてるのぉ?周瑜様にはきちんと護衛がいるのにぃ!」
執務中に彼の仕事を覗きに来た小喬は、
不満げな声をあげながら彼にまとわりつく。
「小喬。今は執務中だ。こういうことなら後で頼む…」
「えーだって最近いっつも忙しくて、あたしに会いに来てくれないじゃん!周瑜様のケチぃーー!」
首に腕を回して、いちゃつく二人。
何故か、その時とても苦しかった。
「いいかげんにするんだ。私は仕事をしているんだ。さぁ行きなさい。」
「ぶー!」
彼の言葉に不満げな声をあげる小喬。
ふいに、こちらに顔を向けると、思いもよらぬことを言う。
「どうせ、あたしじゃなくてこの女といちゃついてるんでしょ?暇つぶしされてるのも知らないで良く平気な顔をしていられるね。」
歩みよって来る小喬は、私に対して汚い言葉で罵っていく。
「周瑜様は優しいからぁ。だからあんたみたいな元捕虜でもぉ有効に使ってくれんだよぉ。身の程をわきまえればぁ?平民風情がその汚らしい手で、彼に触れないでよね。」
「………っ………」
―パシン
乾いた音が響いた。
目の前で、自分を罵っていた彼女を主人が叩いていた。
「小喬。言ってはならぬことがある。非常識だ。」
「……なっなんでぇ!周瑜様があたしのこと!!」
「仕事で忙しい。それはわかっているだろう。なぜユアにあたる?」
鋭い視線で、自分の妻と呼ばれるものをにらみつける。
女は食らいつくように叫んだ。
「だって!周瑜様はあたしよりこんな女とぉ!!!」
「彼女は私の護衛をしているだけだ。」
一言そういう。機嫌が悪いのだろう。いつもの彼の表情ではない。
「平民上がりのこんな女より、城で鍛えられた護衛兵を使わない周瑜様が悪いんだぁ!」
その言葉で、一瞬彼の眉が動いた気がした。
「彼女だって好きで平民に生まれたわけじゃない。」
「……私だって、好きで名家に生まれたわけじゃない。」
ビシッと言った周瑜。
傍らにいた小喬は目を見開いて、ワナワナと体を震わせていた。
「周瑜様の…馬鹿!!」
乱暴に扉が開かれ、そして閉じられる。
バタバタという音が遠ざかると、彼はため息をついた。
そして、私の方に顔を向けるとあの優しい表情になり言うのだ。
「…すまなかった。」
「いえ…事実。本当のことですから…成りあがりの平民出身であり、貴方様を殺そうとしました。曲げられぬ事実です。」
さらりとそう答える。
「だが…」
言いかけると、私は彼を嬉しそうに眺めながら再び口を開く。
「次の戦で、私も兵として参戦させていただくことになったのです。」
「…!…。」
「ですから、もう私は周瑜様の悩みの種にはなりません。」
ぺこりとお辞儀をすると部屋を出て行こうとする。
「待てユア!私は!」
「もうすぐ…散ります…」
半開きになった扉から、そっと顔を覗かせながら私は言う。そう、こんなこと…終わりにしなきゃ…
扉を閉じようとした時、隙間から彼の手がそれを阻止した。
「誰が、死んでも良いと言った…」
力のある彼は、扉を無理矢理開くと再び私を乱暴に中に押し入れた。
「っ!!」
入るなり、壁に無造作に押し当てられた。
「私の言葉が、そなたには絶対だ。私以外の命で命を落とすことは許されない。」
いつになく怖い顔で、彼は自分を見つめる。そんなことを言っても、私はもう耐えられない。
人々の私に対する評価。正妻のあの態度。
心のよりどころとする方にはもう決まった方がいて、かと言って、私はこの方の側室になれるわけでもない。
「私は…」
「私の側にいればいい。戦場には出る必要などない。だから…」
高ぶる気持ち。
貴方のその言葉だけで、十分だ。
「私は…」
裾をぎゅっと掴む。
嬉しくて、私を唯一見てくれているこの方の言葉が…
「ユア…なぜ…もっと早く、出会わなかったのか…」
「…!…」
「だから、ユア…散るだなんて…言うな…私の側にいて欲しい…」
初めから、あの任務を遂行する時何かを感じ取っていたのかもしれない。
『呉国、周瑜殿…彼の動向を探り、あわよくば殺しなさい。』
不可能だとわかっているのに、私にその命を押し付けた軍師殿。
あの時から、歯車はカラカラと回っていたのかもしれない。
「…散りません。ずっと、お側に居ります。周瑜様。」