忘れた筈恋慕
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そうなるべくしてなった関係だったと思う。
私もランティスも、好んでお互い別れたわけではない。
少なくともそう今でも思っている。
すがるモノがなかった自分が、あえて選んだ人間は兄であるザガートだった。
連れて行ってと、願ったけれどお前にはやるべきことがあるだろうと突き放された。
やるべき事ってなに?
姫を見守ること?
導師に牙を向くこと?
貴方の兄を最期まで見届けろって事?
傷ついて失敗して、それでもいつか貴方に会えると希望を抱いていた自分には、魔法騎士のお嬢さんと座り合っている姿なんて見たくなかった。
私はどうすればよかったのだろう。
あの頃に戻りたい。
過去の自分に追いかけろと言ってやりたい。
どうしてついていかなかったのだろう…
今はもう、どうにもならない現実に切なくて辛くて、分からない…
自分の目に止まるいつだったかの指輪。
私の想いをぶり返すように、鈍くおぞましく。その輝きだけは、未だに色褪せない。
☆☆☆☆
デボネア様に助けられて、今のは私はこのセフィーロの裏にいる。
柱を失ったこの国はかつての美しさはなく。岩と瓦礫に覆われたままになっている。
魔法であちら側の映像を覗く。
かつての、セフィーロの魔法剣士であり戦友だった男。
ランティスが、いつからか旅から戻ってきていた。私それがたまらなく複雑だった。
何故、今なの?
何故、戻ってきたの?
自分を捨てた筈だ。
あの時、私にあんな物を残したくせに…
会いにも来てくれなかった
冷静に考えれば、救われ囚われた自分に会いにこれるはずもないのに、私はそんな見当違いの恨み言をこぼす。
それがデボネア様にとって、心地の良い負の感情であったとしても止まらなかった。
『お前は、あのセフィーロの人間とはまた違う感情を私に与える…実に私にとって、頼もしく愛らしいモノだ』
いつだったかそう言われた言葉に、私は首を振った。私のこれ迄は後悔の連続だ。
一人の男を好いて、それに応えて貰ったことだけでよかったのだ。なのに、いつ間違った?いつから、壊れた。そして、今でも彼のそばにいるあの女が憎くて堪らない。
何故?
そこに居る筈なのは私だったはずだ。
何故?
そこで笑っていたのは私だった筈だ。
私が貴方を引き止めることができなかった事がいけなかったのだろうか?
あぁ、だから…私はここにいる。
ここから、抜けられない…
だから…
☆☆☆
「アルシオーネ」
対峙して、驚いた顔をして声をかけられる。
頭の中の靄が少しだけ晴れた気がした。
あの時の声と、瞳。
変わらない…貴方は元気そうだ。
変わったのは私だ。
「ザガート様っ愛しいザガート様!」
何が愛しいものか。
あの男は私に見向きもしなかったというのに…
魔法を炸裂させて、私は涙を流しながらしつこくしつこくそう口にする。
怨みごとのように…
「俺だっ!!ランティスだ!」
知っているわ。
かつて私が愛した人だ。
間違えるはずが無い。
ずっと待っていた。
ようやく会えたのに…
捉えられ抱きしめられた。
長い年月ずっと目にする事がなかった貴方…
「何故、なのよ…待っていた、のに私は…」
「…っ…」
「ズルいわ…今更…私は…」
この手は血にまみれて汚れたことばかりしてきた。
今更…
今更だ…
触れた手が、私の腕を掴んだまま力を込められる。
「お前に、会う資格が無いと俺は思っていたから…」
ポツリとつぶやくランティスは私をギュッと抱きしめた。
「やめて…」
貴方の同情なんていらないのよ。
私は、もう、あんな思いなんてしたくないのに…
辛くて苦しい思いはもう…
瞬間ガクンと感覚が自分の身体を走る。
瞬間、ボヤケる視界に手を伸ばす。
自分の指に彼の指が絡まる。
チラリと目に入るあの指輪が見えた気がした。
☆☆☆
かつての、私達はエメロード姫付きの魔法剣士と魔道師だった。
魔物が出れば、共に赴いて退治しては国の現状を見て回り治安に努めた。
いわば、戦友だったと思う。
言葉にはしなかったが、お互いを必要としていたことは肌で感じていた。少なくとも、私はランティスを好きだったし、戦いの場でも、頼り、頼られる存在であったと自負している。
命が下れば共に出る事は当たり前の事で、疑問もなく阿吽の呼吸で使命をこなしていた。
自然と、そうなる事が当たり前だったことは否定しない。それは、きっとランティスもそうだったと思うから…
「いつも魔法がとてもいいタイミングでアシストがくる。誰でもない、お前と組むのが俺は一番楽だ」
優しい表情でそう言われる事がとても嬉しかった。
だから、導師に付いて魔法を沢山勉強した。
もっと、がんばって、沢山のものを習得して、彼を一番補佐できるのは自分だと誰からにも言われたかったからだ。
雲行きが怪しくなったのは、ランティスが単騎任務に行って帰ってきたあたりだ。
「これを…」
手渡されたそれは虹色のとてもキレイな石で作られた指輪だった。以前どこかの本でこのくにてとても希少な石と読んだ事がある。ランティスはその指輪を私の指にスッとはめた。
「貰えないわ。こんな高価なもの」
「お前に、身につけて欲しいんだ…」
「でも、私達別に特別な関係では…」
「俺はそうは思ってない」
その時のランティスがあまりに真剣な顔をしていたから、私は言葉を失った。
「時間が無いんだ。俺にとって、これをお前に贈るのは俺の中の気持ちを形にしたかったからだ」
「ランティス…」
「これを贈る事で、もしかしたら俺はお前を傷つける事になるかもしれない。だが、そうせずにはいられない。俺の気持ちを知ってほしい」
そうして、触れるだけの唇が降ってくる。
私は嬉しくて、涙を流してはランティスは私の涙を自らの指で拭った。
「私…貴方の事好きだわ…好きなのよ」
優しく嬉しそうに微笑む彼に思わず抱きついた。気持ちを返されるその行為に、涙を流すあの頃の自分はとても若かったのだろう…
それから、私が任務に赴いている間に彼が消えた。姿を消したことを知ったのは、私が指輪を彼からもらって、ちょうど3ヶ月後の事だった。
☆☆☆
目が覚めて、最初に見た顔は私を置いて行った男だった。
「何故、殺さなかったの?」
無表情にそう口にする私に、ランティスは自分の手を握った。
「お前を殺せるわけがないだろう…総ては、俺の責任だから…」
「そう、貴方は私に何も言わずこの国から去って行ったのだものね…」
「…っ…」
私は顔をそらして、続けた。
「何も、言わないのね…。何も言ってくれない…貴方は肝心な時はいつもそう…」
「言おうとした…だが、お前を連れて行く事に俺は悩んでやめた」
「酷い、男だわ…」
「アルシオーネ…」
「私はあれから、壊れた…好きでもない男にかつての幻影を重ねて。その為に闘い、殺し、破れ、捨てられた。ここにいる事が私には奇跡なのよ…私はデボネア様に生かされている」
表情を変えずに自分の話を聞くランティスに、私は笑いながら言った。
「貴方にとって、私は過去の女なのよ。今更後悔した、なんて言うことないわ。彼女を、あの魔法騎士さんを守ってやりなさいな!他の誰でもない!あの子が大切なのでしょう?身体を張って護りたいと思うのでしょう!ならそうしてやりなさいよ!!!」
あぁ、馬鹿だ。
こんな嫉妬、したくなかったのに…
私は、何も言わずに殺されればいいだけの存在でよかった筈なのに…
何故、こんなに怒りや哀しみがこみ上げるんだろう。ランティスとはもう終わった筈なのに…何故なんだろう…おかしい…
「お前が、死んだと聞いていた…」
「だから何だというの!?」
「彼女と、お前を重ねていた…放っておけなかったのは事実だ。けれど、俺は…やはりあの時の悔いた気持ちをどうにもできなくて、ずっと消化できずにいた…」
「だからっ!!」
言いかけて、抱き寄せられる。
「何を言っても、お前にした事は決して無かったことにはならない…けれど、死んだと聞いたとき動揺して目の前か一瞬真っ暗になった…」
「だ…だからなんなの?」
「今からでも…俺に罪滅ぼしをさせてくれないか…?」
力の入ったその腕が、より一層込められる。
私は動揺して顔を見上げる。
「俺は、お前がいいんだ…」
「ランティス…」
「ようやく…名前で呼んでくれたな…」
あぁ、そうね…
出会ってからずっと一緒に居て
離れてからは一度も会わなかった
後悔をしてくれていたの…
それなら、私は貴方をちゃんと好きになれるかしら
憎しみのこもったそれでなく
かつての私達の様に…
「会いたかった…会いたかったのよランティス…好きで、ずっとこうして欲しかった…」
「あぁ…俺もだ…」
指輪が輝く。
時間を埋めるように…
私達の想いを確認していくように…
私もランティスも、好んでお互い別れたわけではない。
少なくともそう今でも思っている。
すがるモノがなかった自分が、あえて選んだ人間は兄であるザガートだった。
連れて行ってと、願ったけれどお前にはやるべきことがあるだろうと突き放された。
やるべき事ってなに?
姫を見守ること?
導師に牙を向くこと?
貴方の兄を最期まで見届けろって事?
傷ついて失敗して、それでもいつか貴方に会えると希望を抱いていた自分には、魔法騎士のお嬢さんと座り合っている姿なんて見たくなかった。
私はどうすればよかったのだろう。
あの頃に戻りたい。
過去の自分に追いかけろと言ってやりたい。
どうしてついていかなかったのだろう…
今はもう、どうにもならない現実に切なくて辛くて、分からない…
自分の目に止まるいつだったかの指輪。
私の想いをぶり返すように、鈍くおぞましく。その輝きだけは、未だに色褪せない。
☆☆☆☆
デボネア様に助けられて、今のは私はこのセフィーロの裏にいる。
柱を失ったこの国はかつての美しさはなく。岩と瓦礫に覆われたままになっている。
魔法であちら側の映像を覗く。
かつての、セフィーロの魔法剣士であり戦友だった男。
ランティスが、いつからか旅から戻ってきていた。私それがたまらなく複雑だった。
何故、今なの?
何故、戻ってきたの?
自分を捨てた筈だ。
あの時、私にあんな物を残したくせに…
会いにも来てくれなかった
冷静に考えれば、救われ囚われた自分に会いにこれるはずもないのに、私はそんな見当違いの恨み言をこぼす。
それがデボネア様にとって、心地の良い負の感情であったとしても止まらなかった。
『お前は、あのセフィーロの人間とはまた違う感情を私に与える…実に私にとって、頼もしく愛らしいモノだ』
いつだったかそう言われた言葉に、私は首を振った。私のこれ迄は後悔の連続だ。
一人の男を好いて、それに応えて貰ったことだけでよかったのだ。なのに、いつ間違った?いつから、壊れた。そして、今でも彼のそばにいるあの女が憎くて堪らない。
何故?
そこに居る筈なのは私だったはずだ。
何故?
そこで笑っていたのは私だった筈だ。
私が貴方を引き止めることができなかった事がいけなかったのだろうか?
あぁ、だから…私はここにいる。
ここから、抜けられない…
だから…
☆☆☆
「アルシオーネ」
対峙して、驚いた顔をして声をかけられる。
頭の中の靄が少しだけ晴れた気がした。
あの時の声と、瞳。
変わらない…貴方は元気そうだ。
変わったのは私だ。
「ザガート様っ愛しいザガート様!」
何が愛しいものか。
あの男は私に見向きもしなかったというのに…
魔法を炸裂させて、私は涙を流しながらしつこくしつこくそう口にする。
怨みごとのように…
「俺だっ!!ランティスだ!」
知っているわ。
かつて私が愛した人だ。
間違えるはずが無い。
ずっと待っていた。
ようやく会えたのに…
捉えられ抱きしめられた。
長い年月ずっと目にする事がなかった貴方…
「何故、なのよ…待っていた、のに私は…」
「…っ…」
「ズルいわ…今更…私は…」
この手は血にまみれて汚れたことばかりしてきた。
今更…
今更だ…
触れた手が、私の腕を掴んだまま力を込められる。
「お前に、会う資格が無いと俺は思っていたから…」
ポツリとつぶやくランティスは私をギュッと抱きしめた。
「やめて…」
貴方の同情なんていらないのよ。
私は、もう、あんな思いなんてしたくないのに…
辛くて苦しい思いはもう…
瞬間ガクンと感覚が自分の身体を走る。
瞬間、ボヤケる視界に手を伸ばす。
自分の指に彼の指が絡まる。
チラリと目に入るあの指輪が見えた気がした。
☆☆☆
かつての、私達はエメロード姫付きの魔法剣士と魔道師だった。
魔物が出れば、共に赴いて退治しては国の現状を見て回り治安に努めた。
いわば、戦友だったと思う。
言葉にはしなかったが、お互いを必要としていたことは肌で感じていた。少なくとも、私はランティスを好きだったし、戦いの場でも、頼り、頼られる存在であったと自負している。
命が下れば共に出る事は当たり前の事で、疑問もなく阿吽の呼吸で使命をこなしていた。
自然と、そうなる事が当たり前だったことは否定しない。それは、きっとランティスもそうだったと思うから…
「いつも魔法がとてもいいタイミングでアシストがくる。誰でもない、お前と組むのが俺は一番楽だ」
優しい表情でそう言われる事がとても嬉しかった。
だから、導師に付いて魔法を沢山勉強した。
もっと、がんばって、沢山のものを習得して、彼を一番補佐できるのは自分だと誰からにも言われたかったからだ。
雲行きが怪しくなったのは、ランティスが単騎任務に行って帰ってきたあたりだ。
「これを…」
手渡されたそれは虹色のとてもキレイな石で作られた指輪だった。以前どこかの本でこのくにてとても希少な石と読んだ事がある。ランティスはその指輪を私の指にスッとはめた。
「貰えないわ。こんな高価なもの」
「お前に、身につけて欲しいんだ…」
「でも、私達別に特別な関係では…」
「俺はそうは思ってない」
その時のランティスがあまりに真剣な顔をしていたから、私は言葉を失った。
「時間が無いんだ。俺にとって、これをお前に贈るのは俺の中の気持ちを形にしたかったからだ」
「ランティス…」
「これを贈る事で、もしかしたら俺はお前を傷つける事になるかもしれない。だが、そうせずにはいられない。俺の気持ちを知ってほしい」
そうして、触れるだけの唇が降ってくる。
私は嬉しくて、涙を流してはランティスは私の涙を自らの指で拭った。
「私…貴方の事好きだわ…好きなのよ」
優しく嬉しそうに微笑む彼に思わず抱きついた。気持ちを返されるその行為に、涙を流すあの頃の自分はとても若かったのだろう…
それから、私が任務に赴いている間に彼が消えた。姿を消したことを知ったのは、私が指輪を彼からもらって、ちょうど3ヶ月後の事だった。
☆☆☆
目が覚めて、最初に見た顔は私を置いて行った男だった。
「何故、殺さなかったの?」
無表情にそう口にする私に、ランティスは自分の手を握った。
「お前を殺せるわけがないだろう…総ては、俺の責任だから…」
「そう、貴方は私に何も言わずこの国から去って行ったのだものね…」
「…っ…」
私は顔をそらして、続けた。
「何も、言わないのね…。何も言ってくれない…貴方は肝心な時はいつもそう…」
「言おうとした…だが、お前を連れて行く事に俺は悩んでやめた」
「酷い、男だわ…」
「アルシオーネ…」
「私はあれから、壊れた…好きでもない男にかつての幻影を重ねて。その為に闘い、殺し、破れ、捨てられた。ここにいる事が私には奇跡なのよ…私はデボネア様に生かされている」
表情を変えずに自分の話を聞くランティスに、私は笑いながら言った。
「貴方にとって、私は過去の女なのよ。今更後悔した、なんて言うことないわ。彼女を、あの魔法騎士さんを守ってやりなさいな!他の誰でもない!あの子が大切なのでしょう?身体を張って護りたいと思うのでしょう!ならそうしてやりなさいよ!!!」
あぁ、馬鹿だ。
こんな嫉妬、したくなかったのに…
私は、何も言わずに殺されればいいだけの存在でよかった筈なのに…
何故、こんなに怒りや哀しみがこみ上げるんだろう。ランティスとはもう終わった筈なのに…何故なんだろう…おかしい…
「お前が、死んだと聞いていた…」
「だから何だというの!?」
「彼女と、お前を重ねていた…放っておけなかったのは事実だ。けれど、俺は…やはりあの時の悔いた気持ちをどうにもできなくて、ずっと消化できずにいた…」
「だからっ!!」
言いかけて、抱き寄せられる。
「何を言っても、お前にした事は決して無かったことにはならない…けれど、死んだと聞いたとき動揺して目の前か一瞬真っ暗になった…」
「だ…だからなんなの?」
「今からでも…俺に罪滅ぼしをさせてくれないか…?」
力の入ったその腕が、より一層込められる。
私は動揺して顔を見上げる。
「俺は、お前がいいんだ…」
「ランティス…」
「ようやく…名前で呼んでくれたな…」
あぁ、そうね…
出会ってからずっと一緒に居て
離れてからは一度も会わなかった
後悔をしてくれていたの…
それなら、私は貴方をちゃんと好きになれるかしら
憎しみのこもったそれでなく
かつての私達の様に…
「会いたかった…会いたかったのよランティス…好きで、ずっとこうして欲しかった…」
「あぁ…俺もだ…」
指輪が輝く。
時間を埋めるように…
私達の想いを確認していくように…
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