守れない
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なぁーんだ!つまらないの!私って弱いのね…」
「ぐ、く…」
ボロボロの状態で横たわる私に、斬魄刀の嘩月を向ける『私』は不敵な笑みを向けてそう言った。
「楽しめるかと思ったのに全然面白くないんだもの…生きてる意味ないわよ。あんた。」
「あ、あんたに、…偽物のあんたに言われる筋合いはないわね。」
そう言うと、眉間に皺を寄せて嘩月の刃先を勢いよく私の手に突き刺される。
「あっ、あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「偽物…に、ここまでやられてるのは誰よ!?あぁ!?言ってみなさいよ!誰なのよ!!!ふざけんじゃないわよ!!!」
「あぐ!くっ!!!」
激情して斬魄刀をそのままぐりぐりと左右に揺らされながら、自分に何度も蹴りつけられる。自分の姿そのままとはいえ、狂気に満ちたような笑みに我ながら嫌悪した。
「あんたより私の方が強いのよ。分るでしょ?あんたより、私の方が優秀で賢いのよ。分かるでしょ!?!?!?!?!」
―グギィ!!!!!
「が、ぁ…あ…ぁ…」
蹴りつけられた右腕が鈍い音を発する。痛みで言葉が出ない私は、目を見開いて懸命に耐えるしかなくて、それでも霊骸の彼女は未だ気が済まないのか私の身体を蹴りつける。
「おい、ユア…その辺にしておけ。」
彼女の後ろから聞こえる元同僚と同じ姿の霊骸が言った。
「だって…一角…この女弱いくせに生意気なのよ…」
「ぐっ…」
蹴る動作をやめて、近寄ってくる一角にそういう霊骸。痛みに震えながら、私は顔を上げた。
「普段のお前もそんなようなもんだろうが…早く行けよ。影狼佐からの命令…忘れたわけじゃねぇだろ…」
「何言ってるのよ。せっかくの機会なんだから、この女殺さないと…」
ズブッと刺さった手から斬魄刀が引き抜かれると、構えるように私に刃先を向ける霊骸。
「やめとけ。今回の俺達の任務は九条望実の確保だ。原種を殺すことじゃねぇ…。行け」
「くっ…分ったわよ…命拾いしたわね…原種様っ…」
そう言って瞬歩でいなくなる【私】に言いようのない不愉快さを感じる。
―悔しい…
一角や弓親達もやられてる。
修兵や大前田副隊長だって…
助っ人に入ったはずなのに、
助けるどころか返り討ちにあうなんて…
「まぁ、そんな顔すんな。俺は霊骸のお前より原種の方のユアの方が好きだぜ?」
「っ…何を…」
片膝ついて震える私の顔をそちらに向かせる一角は、いつも以上の不敵な笑みを浮かべて言った。
「弱くて、きゃんきゃん吠えてるお前の方が、俺の好みだって言ってんだよ…」
「何…っ」
「あっちのお前はよ、自己主張激しすぎてどうも苦手でよ…俺は。お前みたいに普段強がってるくせに、弱いところ隠そうと必死になってるお前の方が好みだって言ってるんだ」
「ぐっ…嬉しくない褒め言葉ね…元十一番隊の者として聞いてあきれる話だわ…」
「あぁ、原種のお前だったらそう言うと思ったぜ…けどな…俺はそういうお前の、無理に強がる表情に堪らなくゾクゾクするんだ!」
―ガギィ!!!
「がっ!あっ…ぐっ…あぁぁぁぁぁ!!!」
刺された手を勢いよく踏みつけられて、そのまま叫び声を上げる。それに気を良くしたのか男の口角は上がったまま私を見下ろした。
「いい声で啼くぜ…たまらねぇ…」
「あっ…あぅ…うぁ…やめ…いっ…かく…」
まるで、本物の彼にいたぶられているかのような錯覚すら起こす。ぐりぐりと動かされる度、血は出て意識を失いそうになる。
「その傷のまま犯したらどうなる?なぁユアよ…たまらねぇだろうなぁ…はははは!!!!!」
「いっ…かく…やめ…あが…いっ…っ!」
高らかに笑い狂う一角の霊骸の声が耳に響き渡る。次の瞬間、意識がゆっくりと遠のいていった。
「あん?なんだ。気を失いやだったか…」
ボロボロで横たわる彼女を見下ろす霊骸は、片膝をついてユアを抱えて巨木に降ろした。
「悪ぃな…ユア。」
守りたいモノがあるとすれば、何十年も記憶にの中に残る自分の【女】の彼女なのに…
偽物として存在する自分にはどうすることもできないもどかしさがあった。
「俺はよ…原種とは違うから…お前を助けることも傍にいてやることもできねぇんだ…傷つけるだけしか…」
血だらけの彼女の髪をさらりと梳いてやる。
その表情は、先ほどとは違い優しげな笑みそのものだった。
「お前を守りたい俺は、俺じゃない…。だったら、お前を傷つける俺がいてもいいだろ…」
間違っていることは分っている。
けれど、自分は霊骸で彼女のよく知るあの原種の一角にはなり得ない。だったらいっそ、傷つけて、傷つけて、傷つけて記憶に残してやることが、自分の存在意義なのではないか…。偽物である一角は歪んだ考えの答えを見つけた。
「原種の一角じゃなくて【俺】を覚えておけよ…」
守りたいのに守れないもどかしさを抱えながら、そっと彼女に触れるだけの口づけをする。
「俺だって、お前が好きで守ってやりてぇんだ…ユア」
数秒後、偽物の一角は、何かを察知するとその場から一瞬で姿を消した。
嘲笑うような声
繰り出される重い力
降り続く攻撃
彼であって彼でない、私であって私ではない。
守りたいのに守れない
どんなことしたって弱い私には
皆を守ることすらできないのだ。
「っ…!」
目を覚ますと、乱菊や朽木さんが横たわって寝ていた。
「ここ…は…」
震える体を起して、そのまま辺りを見回す。
「よぉ、起きたか?」
「え、あ…一護…ここ…」
「ここは浦原商店だ。怪我をしてる皆をここに運んできたんだ。」
様子を見に来たのか、襖を開けた間から相変わらず眉間にしわを寄せながらゆっくりと話す一護。瞬間、思い出したように皆の事を思い出した。
「怪我…一角は!?修兵と弓親、大前田副隊長は!?」
「大丈夫だ。井上のおかげで傷はだいぶ回復してる。お前も酷かったんだぜ?全身骨はやられてるし、手傷の出血も半端なかったし…」
「っ…」
リフレインする自分の彼らとの戦いに悔しくて唇をかんだ。
「あの程度で…やられるなんて情けない…」
「そう気負うなよ…起きたなら外の空気でも吸ってくるといい。」
ポンと、肩を叩かれて一護を見る。
「ありがと…一護…。そうね…。少し空気吸ってくるよ。織姫ちゃんや皆によろしく伝えておいて。」
「あぁ。」
そそくさと、そのまま部屋を出て行く。
私はどうしょうもない感覚に見舞われて、そこから去るしかなかった。
「あ…」
「よぉ。」
「やぁ、ユア。目が覚めたんだね」
別室が開け放たれた状態で、包帯を巻かれた一角たちがそこにいた。
「本物?一角?」
「あん?霊骸であってたまるかよ。」
ぶすっとした表情をする彼は、いつもの彼だったが私にはあの時の表情と笑い声がリフレインしてしまって中々動けなかった。
「くっ…」
「おい、どうした。つっ立ってないでこっち来いよ。」
近寄ってくる一角は、あの霊骸とは違うはずなのに、私は無意識に後ずさりしてしまう。
「ユア?どうしたの?」
「あ…あ、あぁ…」
「おい!ユア」
顔が、声が、身体が…
あの霊骸とシンクロして麻痺を起す。
違うのに…
違うはずなのに、恐怖で動けない。
こんなはずないのに、
私の知るアイツが
あんなことするはずない。
近寄れば抱き締めてくれるはずなのに
近寄れば安心させてくれるはずなのに…
それなのに…
一角、
私
貴方が怖いの…
「一体、何があったの?」
浦原商店の外で、弓親は私に言った。怒っているような、呆れているような表情をし、酷く軽蔑しているように見えた。
「ごめん…」
「謝ってもわからないけど…話してくれなくちゃどうにもできないんだけど…」
ため息をついて壁にもたれ掛かる弓親に、顔を俯かせることしかできなくて私は自分の服の裾をぎゅっと掴んだ。
「…この間の戦いで、私の霊骸とその…」
「一角の霊骸に乱暴でもされたわけ?」
「っ!」
図星をつかれて、思わず顔を見る。その反応にさらに、ため息をつく弓親は私の頭に手を置いて撫でた。
「まぁ、あれだけの傷を君が負うってことはたいていそんなものかなとは思ったけど…」
「私は、アレが偽物だってわかっているのに本物の一角に攻撃されているみたいに錯覚を起こした。それが怖くて…動けなくて…」
「いいんじゃないの?それだけ一角のこと好きだってことでしょ?」
「っ…」
さらりとそう言った弓親に、再び目を見開いて顔を見るとこいつは思いの外楽しげに笑った。
「ホントに好きだからそう思うんだろ?好きだから警戒するんだろ?だったら、それでいいんじゃない?」
「でも、私の態度でアイツ、傷ついた顔してた。」
「だから、そのために取る行動なんてひとつだろ。キチンと話さなきゃ、改善も何もないだろ。互いに傷ついた表情をしてたって、状況は悪くなる一方なんだから…」
「うん…」
気まずい表情をして、私はそのまま浦原商店の中に入っていく。一角と、こんなことで別れるなんてしたくないし、これから大きな戦いに巻き込まれていくのに、終わりたくもない。
「一角?」
先程の部屋に戻れば、彼しかいない部屋にボーっと座り込むアイツ。そんな姿めったに見たことなくて、傷つけたことが苦しくて、それでもやっぱり近寄るのが怖くて…
「おう、大丈夫か?」
気難しい顔をして、それでも普通に接してくれる一角が、本当に…
「ごめんね…怖くて……バカみたいに怖くて…私、アンタに手傷踏まれながら弄られてあんた自身にされたことと錯覚して、でも、違うのわかってるのに近寄れなくて…」
自分でも、なんて弱いんだろうと思った。でも、彼を守り尊敬し、見つめてきた私には酷な出来事だった。霊骸である一角と目の前の一角は違うのに…
「はぁ…、全くお前は…そう言うことは最初に俺に言えよ。どうして弓親にワンクッション与えて話すかな…」
「だって、嫌われるかと…っ」
「嫌うわけねぇだろ。忘れたのかよ。柄にもなく告白したの俺なんだぜ?お前に惚れてるのは俺も一緒だっつーんだよ」
近寄って抱き寄せられる。また、怖くて若干の震えが起きて私は目を瞑った。
―タンッ
静かに襖の閉まる音がして、抱きしめられて温もりを確認する。
「安心するまで抱きしめててやっから、錯覚起こすなよ。俺の女はそんなに弱くねぇだろ。俺を好きだって自覚、もっと強く持てよ。」
「うん…ありがと…」
顔を上げて、笑いあう私達は自然と口づけを交わす。いつも、激しくキスを落とす一角なのに、今日はなんだかその感触が優しくて思わず笑ってしまった。
「ごめんね、もっと…強く自覚する…。あんたが好きなこと…」
「あぁ…。」
「一角、好き…っ」
「あぁ。」
首に腕を巻き付けて、涙をこらえて抱きついた。彼を好きなこと、これからまた再び出会うであろう霊骸との覚悟を胸に…
数日後、行われた尸魂界での霊骸との戦い。目の前に立ちはだかる複数の霊骸の群れとの戦いに、私達はお互いに背中を任し皆で任され決戦に備えることになる。
「大丈夫、もう迷わない。」
覚悟を決めて、共に…
それでも、寂しげに最後まで自分を見つめて去っていく霊骸の一角はどこか哀愁漂うようで…
―愛してる
自分を見つめてそう言った霊骸が、私にはとても切なく見えた。
あぁ、貴方は…そうでもしなければ記憶に残れないと思ったのか…
斬魄刀を片手に視線を送る先に、砕けた多くの霊骸が粉々になっていった。
「ぐ、く…」
ボロボロの状態で横たわる私に、斬魄刀の嘩月を向ける『私』は不敵な笑みを向けてそう言った。
「楽しめるかと思ったのに全然面白くないんだもの…生きてる意味ないわよ。あんた。」
「あ、あんたに、…偽物のあんたに言われる筋合いはないわね。」
そう言うと、眉間に皺を寄せて嘩月の刃先を勢いよく私の手に突き刺される。
「あっ、あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「偽物…に、ここまでやられてるのは誰よ!?あぁ!?言ってみなさいよ!誰なのよ!!!ふざけんじゃないわよ!!!」
「あぐ!くっ!!!」
激情して斬魄刀をそのままぐりぐりと左右に揺らされながら、自分に何度も蹴りつけられる。自分の姿そのままとはいえ、狂気に満ちたような笑みに我ながら嫌悪した。
「あんたより私の方が強いのよ。分るでしょ?あんたより、私の方が優秀で賢いのよ。分かるでしょ!?!?!?!?!」
―グギィ!!!!!
「が、ぁ…あ…ぁ…」
蹴りつけられた右腕が鈍い音を発する。痛みで言葉が出ない私は、目を見開いて懸命に耐えるしかなくて、それでも霊骸の彼女は未だ気が済まないのか私の身体を蹴りつける。
「おい、ユア…その辺にしておけ。」
彼女の後ろから聞こえる元同僚と同じ姿の霊骸が言った。
「だって…一角…この女弱いくせに生意気なのよ…」
「ぐっ…」
蹴る動作をやめて、近寄ってくる一角にそういう霊骸。痛みに震えながら、私は顔を上げた。
「普段のお前もそんなようなもんだろうが…早く行けよ。影狼佐からの命令…忘れたわけじゃねぇだろ…」
「何言ってるのよ。せっかくの機会なんだから、この女殺さないと…」
ズブッと刺さった手から斬魄刀が引き抜かれると、構えるように私に刃先を向ける霊骸。
「やめとけ。今回の俺達の任務は九条望実の確保だ。原種を殺すことじゃねぇ…。行け」
「くっ…分ったわよ…命拾いしたわね…原種様っ…」
そう言って瞬歩でいなくなる【私】に言いようのない不愉快さを感じる。
―悔しい…
一角や弓親達もやられてる。
修兵や大前田副隊長だって…
助っ人に入ったはずなのに、
助けるどころか返り討ちにあうなんて…
「まぁ、そんな顔すんな。俺は霊骸のお前より原種の方のユアの方が好きだぜ?」
「っ…何を…」
片膝ついて震える私の顔をそちらに向かせる一角は、いつも以上の不敵な笑みを浮かべて言った。
「弱くて、きゃんきゃん吠えてるお前の方が、俺の好みだって言ってんだよ…」
「何…っ」
「あっちのお前はよ、自己主張激しすぎてどうも苦手でよ…俺は。お前みたいに普段強がってるくせに、弱いところ隠そうと必死になってるお前の方が好みだって言ってるんだ」
「ぐっ…嬉しくない褒め言葉ね…元十一番隊の者として聞いてあきれる話だわ…」
「あぁ、原種のお前だったらそう言うと思ったぜ…けどな…俺はそういうお前の、無理に強がる表情に堪らなくゾクゾクするんだ!」
―ガギィ!!!
「がっ!あっ…ぐっ…あぁぁぁぁぁ!!!」
刺された手を勢いよく踏みつけられて、そのまま叫び声を上げる。それに気を良くしたのか男の口角は上がったまま私を見下ろした。
「いい声で啼くぜ…たまらねぇ…」
「あっ…あぅ…うぁ…やめ…いっ…かく…」
まるで、本物の彼にいたぶられているかのような錯覚すら起こす。ぐりぐりと動かされる度、血は出て意識を失いそうになる。
「その傷のまま犯したらどうなる?なぁユアよ…たまらねぇだろうなぁ…はははは!!!!!」
「いっ…かく…やめ…あが…いっ…っ!」
高らかに笑い狂う一角の霊骸の声が耳に響き渡る。次の瞬間、意識がゆっくりと遠のいていった。
「あん?なんだ。気を失いやだったか…」
ボロボロで横たわる彼女を見下ろす霊骸は、片膝をついてユアを抱えて巨木に降ろした。
「悪ぃな…ユア。」
守りたいモノがあるとすれば、何十年も記憶にの中に残る自分の【女】の彼女なのに…
偽物として存在する自分にはどうすることもできないもどかしさがあった。
「俺はよ…原種とは違うから…お前を助けることも傍にいてやることもできねぇんだ…傷つけるだけしか…」
血だらけの彼女の髪をさらりと梳いてやる。
その表情は、先ほどとは違い優しげな笑みそのものだった。
「お前を守りたい俺は、俺じゃない…。だったら、お前を傷つける俺がいてもいいだろ…」
間違っていることは分っている。
けれど、自分は霊骸で彼女のよく知るあの原種の一角にはなり得ない。だったらいっそ、傷つけて、傷つけて、傷つけて記憶に残してやることが、自分の存在意義なのではないか…。偽物である一角は歪んだ考えの答えを見つけた。
「原種の一角じゃなくて【俺】を覚えておけよ…」
守りたいのに守れないもどかしさを抱えながら、そっと彼女に触れるだけの口づけをする。
「俺だって、お前が好きで守ってやりてぇんだ…ユア」
数秒後、偽物の一角は、何かを察知するとその場から一瞬で姿を消した。
嘲笑うような声
繰り出される重い力
降り続く攻撃
彼であって彼でない、私であって私ではない。
守りたいのに守れない
どんなことしたって弱い私には
皆を守ることすらできないのだ。
「っ…!」
目を覚ますと、乱菊や朽木さんが横たわって寝ていた。
「ここ…は…」
震える体を起して、そのまま辺りを見回す。
「よぉ、起きたか?」
「え、あ…一護…ここ…」
「ここは浦原商店だ。怪我をしてる皆をここに運んできたんだ。」
様子を見に来たのか、襖を開けた間から相変わらず眉間にしわを寄せながらゆっくりと話す一護。瞬間、思い出したように皆の事を思い出した。
「怪我…一角は!?修兵と弓親、大前田副隊長は!?」
「大丈夫だ。井上のおかげで傷はだいぶ回復してる。お前も酷かったんだぜ?全身骨はやられてるし、手傷の出血も半端なかったし…」
「っ…」
リフレインする自分の彼らとの戦いに悔しくて唇をかんだ。
「あの程度で…やられるなんて情けない…」
「そう気負うなよ…起きたなら外の空気でも吸ってくるといい。」
ポンと、肩を叩かれて一護を見る。
「ありがと…一護…。そうね…。少し空気吸ってくるよ。織姫ちゃんや皆によろしく伝えておいて。」
「あぁ。」
そそくさと、そのまま部屋を出て行く。
私はどうしょうもない感覚に見舞われて、そこから去るしかなかった。
「あ…」
「よぉ。」
「やぁ、ユア。目が覚めたんだね」
別室が開け放たれた状態で、包帯を巻かれた一角たちがそこにいた。
「本物?一角?」
「あん?霊骸であってたまるかよ。」
ぶすっとした表情をする彼は、いつもの彼だったが私にはあの時の表情と笑い声がリフレインしてしまって中々動けなかった。
「くっ…」
「おい、どうした。つっ立ってないでこっち来いよ。」
近寄ってくる一角は、あの霊骸とは違うはずなのに、私は無意識に後ずさりしてしまう。
「ユア?どうしたの?」
「あ…あ、あぁ…」
「おい!ユア」
顔が、声が、身体が…
あの霊骸とシンクロして麻痺を起す。
違うのに…
違うはずなのに、恐怖で動けない。
こんなはずないのに、
私の知るアイツが
あんなことするはずない。
近寄れば抱き締めてくれるはずなのに
近寄れば安心させてくれるはずなのに…
それなのに…
一角、
私
貴方が怖いの…
「一体、何があったの?」
浦原商店の外で、弓親は私に言った。怒っているような、呆れているような表情をし、酷く軽蔑しているように見えた。
「ごめん…」
「謝ってもわからないけど…話してくれなくちゃどうにもできないんだけど…」
ため息をついて壁にもたれ掛かる弓親に、顔を俯かせることしかできなくて私は自分の服の裾をぎゅっと掴んだ。
「…この間の戦いで、私の霊骸とその…」
「一角の霊骸に乱暴でもされたわけ?」
「っ!」
図星をつかれて、思わず顔を見る。その反応にさらに、ため息をつく弓親は私の頭に手を置いて撫でた。
「まぁ、あれだけの傷を君が負うってことはたいていそんなものかなとは思ったけど…」
「私は、アレが偽物だってわかっているのに本物の一角に攻撃されているみたいに錯覚を起こした。それが怖くて…動けなくて…」
「いいんじゃないの?それだけ一角のこと好きだってことでしょ?」
「っ…」
さらりとそう言った弓親に、再び目を見開いて顔を見るとこいつは思いの外楽しげに笑った。
「ホントに好きだからそう思うんだろ?好きだから警戒するんだろ?だったら、それでいいんじゃない?」
「でも、私の態度でアイツ、傷ついた顔してた。」
「だから、そのために取る行動なんてひとつだろ。キチンと話さなきゃ、改善も何もないだろ。互いに傷ついた表情をしてたって、状況は悪くなる一方なんだから…」
「うん…」
気まずい表情をして、私はそのまま浦原商店の中に入っていく。一角と、こんなことで別れるなんてしたくないし、これから大きな戦いに巻き込まれていくのに、終わりたくもない。
「一角?」
先程の部屋に戻れば、彼しかいない部屋にボーっと座り込むアイツ。そんな姿めったに見たことなくて、傷つけたことが苦しくて、それでもやっぱり近寄るのが怖くて…
「おう、大丈夫か?」
気難しい顔をして、それでも普通に接してくれる一角が、本当に…
「ごめんね…怖くて……バカみたいに怖くて…私、アンタに手傷踏まれながら弄られてあんた自身にされたことと錯覚して、でも、違うのわかってるのに近寄れなくて…」
自分でも、なんて弱いんだろうと思った。でも、彼を守り尊敬し、見つめてきた私には酷な出来事だった。霊骸である一角と目の前の一角は違うのに…
「はぁ…、全くお前は…そう言うことは最初に俺に言えよ。どうして弓親にワンクッション与えて話すかな…」
「だって、嫌われるかと…っ」
「嫌うわけねぇだろ。忘れたのかよ。柄にもなく告白したの俺なんだぜ?お前に惚れてるのは俺も一緒だっつーんだよ」
近寄って抱き寄せられる。また、怖くて若干の震えが起きて私は目を瞑った。
―タンッ
静かに襖の閉まる音がして、抱きしめられて温もりを確認する。
「安心するまで抱きしめててやっから、錯覚起こすなよ。俺の女はそんなに弱くねぇだろ。俺を好きだって自覚、もっと強く持てよ。」
「うん…ありがと…」
顔を上げて、笑いあう私達は自然と口づけを交わす。いつも、激しくキスを落とす一角なのに、今日はなんだかその感触が優しくて思わず笑ってしまった。
「ごめんね、もっと…強く自覚する…。あんたが好きなこと…」
「あぁ…。」
「一角、好き…っ」
「あぁ。」
首に腕を巻き付けて、涙をこらえて抱きついた。彼を好きなこと、これからまた再び出会うであろう霊骸との覚悟を胸に…
数日後、行われた尸魂界での霊骸との戦い。目の前に立ちはだかる複数の霊骸の群れとの戦いに、私達はお互いに背中を任し皆で任され決戦に備えることになる。
「大丈夫、もう迷わない。」
覚悟を決めて、共に…
それでも、寂しげに最後まで自分を見つめて去っていく霊骸の一角はどこか哀愁漂うようで…
―愛してる
自分を見つめてそう言った霊骸が、私にはとても切なく見えた。
あぁ、貴方は…そうでもしなければ記憶に残れないと思ったのか…
斬魄刀を片手に視線を送る先に、砕けた多くの霊骸が粉々になっていった。