終わりではなく、はじまりである
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隣に当たり前にいた存在を
ずっと大事にしていきたいと思ってた。
でも、やっぱりそんなこと叶わなくて
気持ちを伝えようか迷っていた矢先のことだった。
「いーっかくーーーー!!!」
―ベシ!!!!
「いって!」
背後から、高い声とともに後頭部を攻撃される。
「お前な…」
思いの外ニコニコしているコイツ、見細ユアに俺は青筋をたてながらにらみつける。
「いやぁぁぁん!こわ~い!睨んじゃいやん!斑目三席ぃ~!」
「き、気持ちわりぃなお前…」
「あぁ?」
バカみたいな態度を取る割には、気に入らないことを言われればすぐ口が悪くなる。これはいつもの事だ。
「こほん、まぁ、まぁ、まぁ、つるりん」
「お前っ!!!」
胸ぐら掴んで間近で睨みつける俺の目線など見ることはなく、こいつは明後日の方向を向いた。
「お前とは、一回本気でやりあわねぇとわからねぇみたいだな!」
「知らないわよそんなの。」
「あ?」
そう言いかけると、突然こいつの手が顔に向かって押し出すように伸びてくる。
「お、まっえっ…ぐ、くく…」
元の位置に顔を戻そうとするも、伸ばされた手の力に微妙に抵抗できない。
「おう、ユア。さっきの話の続きだ。」
ギャイギャイ絡んでいると、隊長がユアに声をかける。絡めていた力を抜いてそちらへ顔を向ける。
「はーい!隊長!」
「おい、何かあるのか?」
「ムフー、イイこと!」
再びペチペチと俺の頭を叩いて、隊長の後を追う。なんだか、いつも以上に機嫌が良くて、いつも以上におかしなテンションだった。
「異隊命令、出たらしいよ。ユア」
「あん?」
「この時期に、異例の昇進だってさ。」
話しかけてくる弓親。
あいつに叩かれた部分をさすりながら、俺は話を聞く。
「モノ好きもいるもんだな。どこの隊だ?」
「九番隊。三席だって。」
「あぁ、檜佐木のとこか…」
なるほど、と納得して椅子座る。
「うちの四席の穴埋めはどうするんだ?」
「さぁ?僕はそこまでは聞いていないよ。ユア本人から聞いた話だし、これから隊長から聞かされるんじゃない?」
「なるほどな…」
視線を隊長室の扉へ向ける。
あいつがいなくなることに、違和感を覚える。
「うるせぇのがいなくなるな。」
「寂しそうだよ。一角…」
「そんなことねぇよ…」
立ち上がって隊舎の出口へ向かった。
道場へ行くために…。
「来週から、お前の所属が九番隊になる。必要なものはまとめておけ。」
「はい。」
「ユアちゃん居なくなるのさびしいなぁ…一緒に剣ちゃんの肩乗れなくなっちゃう…」
うーっと寂しげな表情をする副隊長。
「イタズラもできなくなりますねぇ…」
「うん…でも、遊びに行くね!お菓子用意しておいてね!」
「喜んで!」
二人でにっこりと笑い合う。
ここに来てからというもの、副隊長とはお友達のような感覚でいつも一緒にいた。
「俺は、うるせぇのが居なくなっていいんだがな…」
「あ、隊長!そんなこと言っていいんですか!これから私が代りにやってた二人分の書類隊長が全部やるはめになるんですからね!」
むっと、しながら言うと鼻で笑われた。
「糞真面目にあんなものやるバカが何処にいるんだ。放置だそんなもん」
「剣ちゃんそれいけないんだぁ~~!」
「お前が言うんじゃねーよ!」
「あはは!!!」
和やかな空間で、笑いを振りまく。
あと数日で、この空気も吸うことが無くなってしまうんだなと…
「…寂しい…ですねぇ…」
ポツリとつぶやけば、二人が私に視線を向ける。先程の笑みとは違い、静かに口角を上げた。
「昇進なんだ。胸張っていけ。お前の実力を外に出してこい。」
「そうだよ!ユアちゃんうちに来てすっごく強くなったんだから!」
「自信もって挑んでこい。」
その言葉が本当にありがたくて、本当に嬉しくて…
「ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げる。
この隊に異隊してから数十年。
私にとっては、掛けがえのない【家】だった。
前を向いて、隊長室を出る。
ここで培ってきたもの。
無駄には絶対しない。
そう誓った。
別に、十一番隊から離れることが嬉しいわけじゃない。
あいつと同じ立場になれることが嬉しい。
純粋に…
だって、私は彼に戦い方のほとんどを教わった。
私の戦いのすべてが
あいつの教えだったから…
「よぉ、昇進だってな。」
道場へ行くと、一角に声をかけられる。
「なんだ、知ってたんだ…。あたしから直接言いたかったのに…」
隅にいた弓親をひと睨みする。
相変わらず、こいつはシレっとしていて明後日の方向を向いていた。
「いいじゃねぇか…。めでたいことだ。そういうことは、早めに広まった方が他の連中のテンションも上がるだろ?」
「それはそうなんだけどねぇ…。こういう時くらいは自分の口から言いたいじゃない。」
「むくれるなよ。」
「別にむくれてないわよ。ちょっとがっかりしただけ。」
そう言うと、ポイッと木刀を投げられる。
受け取ると、合図かのようにそのまま道場の中央へ移動する一角。けれど、彼の手には斬魄刀が握られていた。
「さて、久々に付き合えよ。ユア。」
楽しげな表情で構える一角。
それを私は苦笑いしながら見つめる。
「三席に見合うかどうかの試験でもするつもり?」
「俺と対等の地位になるんだ。お前を鍛えて強くしたのは俺だろ。試験の審査をするのも俺だ。」
「やーねぇ、変なところでかっこいいんだから…あんたって…。」
ニヤニヤ笑って、自分も彼にならって中央に歩いていく。手渡された木刀ではなく、自分の腰にある斬魄刀を手にしてだ。
「どうせなら、いつものとこに行かない?あそこなら暴れ放題よ?」
「あん?仕方ねぇな…」
「いいの?最後かもしれないのに、そんなに軽く引き受けて…」
弓親が呼びとめる。
後ろで片膝をつく彼に、私は身体の向きを一角に向けたまま言葉を紡ぐ。
「最後だからこそ、楽しんで挑むんじゃない。あいつとの楽しい最後の仕合よ。」
「怪我、するかもしれないよ。」
「本望よ。あたしはまだ、十一番隊の死神だもの。」
これからは、一角の後ろを守るんじゃない。檜佐木修兵を守るための剣。
それでも、この剣を鍛え、与えてくれたのは目の前の一角なのだ。
だったら、この手で信念で全力で応えるべきだ。
広くガランとしたいつもの鍛練場。
カランと、鞘を落とす。
「行くわ。」
―認めさせる。
「来い!!!!」
あたしたちに、涙なんて必要ない。
あるのは、覚悟と力だ。
「あーーー!もう、やっぱり、だめかっ」
腕、足、腹部に背中…
あちこちの打撲に深い傷。
先に倒れたのは私だ。
「惜しかったな…」
そう言う一角も、全然平気そうじゃなくて同じ系統の斬魄刀を持つ私達の仕合はかなりのモノだった。
「嘩月の意識強奪は、なかったね。」
血だらけの私に、弓親が言った。
「つくづく可笑しなやつよね。こいつも…。あんたと戦って喜んでやがんの。」
ほぼ半壊でボロボロの私の斬魄刀の『嘩月』
の音は未だに鳴り響いているものの、いつもと違い耳障りな音ではなく一定の音で心地が良かった。
「俺がそいつと一番戦ってるんだぜ?当たり前だ。」
ニヤリと笑みを作る一角。
私は痛む身体を起こして、彼に近づいた。
「エライご機嫌だわ。複数属性調子に乗って4つまとめて出してくるもんだから、霊力の消費が激しいったらない。」
「はっ!そりゃ大盤振る舞いでいいこった!」
隣に座る。掌に力をためて一角の身体にあてる。
「バカ、何やってんだ。俺よりお前の方が傷多いんだぞ。自分から先に…っ」
身体を自分から引き離そうとする一角の手を握る。
「いいから、最後の最後まであんたの怪我を治させて。この役目を、他の誰にもさせたくないの。」
真剣な目で見つめた。
それは、私の役目だったことだ。
「お前…」
「じゃあ、その間僕がいつもみたいに、ユアの傷を一角のアレで血止めしてあげるよ。」
「弓親…っ」
いつも一緒だった。
それが当たり前だった。
最後まで、最期まで一緒のつもりだったんだけど…
「ありがとね…二人とも…」
「バカ野郎…そんな顔して治すんじゃねぇよ…。」
力を使いながら、彼の腕に抱かれた。
どうしてだろ…
涙が止まらなかった。
―ガン!!!
「あいたーーー!!!」
「バカか、お前は」
傷が完治しなくて四番隊で2日間、入院することになった私に隊長が来るなりゲンコツをお見舞いする。
「痛いですよ!隊長!暴力反対!」
「おめーがバカだからだ。」
―ゴツン!!!!
「痛い!!」
本日二度目のゲンコツ。
「荷造りしろって言ったのに、バカやってるんじゃねぇよ…。」
「だって…」
―ガツン!!!!!
「あっ!!!いった!!!」
「だってもクソもねぇんだ。こんなとこで入院してて、どうすんだ。おめーの仕事は書類係だろ、最後までしていけ。」
「ひどっ!隊長ひどい!けが人に仕事押し付け反対!」
「もう一回、頭に食らうか?」
「い、いりませんっ!」
威圧するように、言う隊長に慌ててお断りをする。むーと唇を尖らせて拗ねていると、隊長の手が私の頭を撫でた。
「一足先に、居なくなって隊舎寂しくすんな。最後まで騒がしくしてろ。お前の役目だろうがよ。」
「隊長、顔に似合わず時々くっさいセリフ吐きますよね。」
―ガッツン!!!!!!!
「あーーーーーー!!!!!!」
「と、言うわけで急遽、卯ノ花隊長に治して頂きまして…最後まで騒がしくすることにしました。」
横に立つ隊長にビクビクしながら、私は隊舎にいる皆にそう言って挨拶をする。
「来週から居なくなるからな。聞きたいことあるなら今のうちに聞いておけ。やり残したこともないか考えろ。んで、書類もやっておけ。」
「ひどっ!!!」
言いかけて、目の色がぎろりと変わるのを感じておとなしくなる。
「バカじゃねーかお前。」
「うるせーやい!ハゲ!!」
「あぁ!?俺はハゲじゃねぇ!!!」
いつも通りのやりとりと、騒がしさ。
その日常がもう少しで変わってしまう。
それがさびしい。
けど、この日々が無くなったって誰かがいなくなるわけじゃない。私がいた場所がなくなるだけで、月日が過ぎて行くだけだ。
「今日は宴会だ。早くそこのヤツ終わらせてから来いよ。ユア。」
「何それ、隊長!!私一人だけで居残り途中参加!?ひっどい!」
またもや口答えするとゆっくりと、後ろを振り返って拳を見せる。
「先に行っててください!更木隊長様!!!!!」
ゾロゾロ出て行く一向に、ガランと誰も居なくなる隊舎。私はなんだかそれがちょっぴりさびしくて、ゆっくりと全体を見回した。
「ふぅ…」
数枚程度でそんなに多くない書類に手をかける。皆の書類を代行してやるのはあと何回くらいだろうと…。かみしめればかみしめるほど、なんだかせつない気持ちになる。
「…やり残したこと…か…」
仕事を終えて、考えた。
やり残したことなんて、一つしかなかった。
でも、こればっかりはなかなか恥ずかしくて言えなかった…
「チキンだよなぁ…あたしも…」
一角を尊敬し、愛されたいと思った。
でも、傍にいることでいつの間にか満足していた自分は消えることになる。気持ちを伝える事をするべきか否か…彼のぐちゃぐちゃの机を見つめながら考える。
別に怖くはない。多分、あいつも同じ気持ちなのは知ってる。でも、口に出すのと態度に出すのとではやっぱり違うのだ。背中を任し、任される存在で、私にとって一角とはそういう位置にある人だからこそ、この想いを口に出していいものか悩んだ。
「一角のハーゲ、バーカ、つーるりーん」
本人のいないことをいいことに好き放題。こんなこと、もうめったに言えなくなる。
だから、誰もいないこの空間で、普段言えないことを思いきり言ってやるのだ。
「かっこよくて、男気溢れてて、優しくて、強くて…それから……好……」
唇が震えた。
言えるわけがなかった。
この言葉を口にするのは、本人の前でと決めていたのだ。
「匂いも、全部…何もかも…あたしのモノになればいいのに…」
そしたら、どんなに幸せだろう。
彼を全部手に入れられたらどんなに嬉しいだろう。
机に突っ伏したまま動かない。どうするべきなのか、わからないから余計に困ってしまう。今ならそばにいるのに、いつでも言えるのに…
「あたしじゃ、駄目かなー…一角…」
ぼそりとぼやく。
それしかできないかのように。
「何言ってやがる、もう全部俺はお前のもんだろうが…。」
頭の上から聞こえる声。
その声が誰のものかはすぐに理解できた。
振り返ると覆いかぶさるように自分を愛しげに見つめてくる一角。
「知ってるよ。そんなの…」
「バーカ…」
ついばむ様なキスから、舌を絡めた。
「頑張れよ。ユア…」
「うん。」
別れなんかじゃない。
終わりなんかでもない。
寂しいけれど
これは始まりで
私達にとって
もっとも大切なきっかけだった。
数日後、九番隊第三席を拝命する。
でも、私の帰る場所は貴方の部屋で
貴方の腕の中…
ずっと大事にしていきたいと思ってた。
でも、やっぱりそんなこと叶わなくて
気持ちを伝えようか迷っていた矢先のことだった。
「いーっかくーーーー!!!」
―ベシ!!!!
「いって!」
背後から、高い声とともに後頭部を攻撃される。
「お前な…」
思いの外ニコニコしているコイツ、見細ユアに俺は青筋をたてながらにらみつける。
「いやぁぁぁん!こわ~い!睨んじゃいやん!斑目三席ぃ~!」
「き、気持ちわりぃなお前…」
「あぁ?」
バカみたいな態度を取る割には、気に入らないことを言われればすぐ口が悪くなる。これはいつもの事だ。
「こほん、まぁ、まぁ、まぁ、つるりん」
「お前っ!!!」
胸ぐら掴んで間近で睨みつける俺の目線など見ることはなく、こいつは明後日の方向を向いた。
「お前とは、一回本気でやりあわねぇとわからねぇみたいだな!」
「知らないわよそんなの。」
「あ?」
そう言いかけると、突然こいつの手が顔に向かって押し出すように伸びてくる。
「お、まっえっ…ぐ、くく…」
元の位置に顔を戻そうとするも、伸ばされた手の力に微妙に抵抗できない。
「おう、ユア。さっきの話の続きだ。」
ギャイギャイ絡んでいると、隊長がユアに声をかける。絡めていた力を抜いてそちらへ顔を向ける。
「はーい!隊長!」
「おい、何かあるのか?」
「ムフー、イイこと!」
再びペチペチと俺の頭を叩いて、隊長の後を追う。なんだか、いつも以上に機嫌が良くて、いつも以上におかしなテンションだった。
「異隊命令、出たらしいよ。ユア」
「あん?」
「この時期に、異例の昇進だってさ。」
話しかけてくる弓親。
あいつに叩かれた部分をさすりながら、俺は話を聞く。
「モノ好きもいるもんだな。どこの隊だ?」
「九番隊。三席だって。」
「あぁ、檜佐木のとこか…」
なるほど、と納得して椅子座る。
「うちの四席の穴埋めはどうするんだ?」
「さぁ?僕はそこまでは聞いていないよ。ユア本人から聞いた話だし、これから隊長から聞かされるんじゃない?」
「なるほどな…」
視線を隊長室の扉へ向ける。
あいつがいなくなることに、違和感を覚える。
「うるせぇのがいなくなるな。」
「寂しそうだよ。一角…」
「そんなことねぇよ…」
立ち上がって隊舎の出口へ向かった。
道場へ行くために…。
「来週から、お前の所属が九番隊になる。必要なものはまとめておけ。」
「はい。」
「ユアちゃん居なくなるのさびしいなぁ…一緒に剣ちゃんの肩乗れなくなっちゃう…」
うーっと寂しげな表情をする副隊長。
「イタズラもできなくなりますねぇ…」
「うん…でも、遊びに行くね!お菓子用意しておいてね!」
「喜んで!」
二人でにっこりと笑い合う。
ここに来てからというもの、副隊長とはお友達のような感覚でいつも一緒にいた。
「俺は、うるせぇのが居なくなっていいんだがな…」
「あ、隊長!そんなこと言っていいんですか!これから私が代りにやってた二人分の書類隊長が全部やるはめになるんですからね!」
むっと、しながら言うと鼻で笑われた。
「糞真面目にあんなものやるバカが何処にいるんだ。放置だそんなもん」
「剣ちゃんそれいけないんだぁ~~!」
「お前が言うんじゃねーよ!」
「あはは!!!」
和やかな空間で、笑いを振りまく。
あと数日で、この空気も吸うことが無くなってしまうんだなと…
「…寂しい…ですねぇ…」
ポツリとつぶやけば、二人が私に視線を向ける。先程の笑みとは違い、静かに口角を上げた。
「昇進なんだ。胸張っていけ。お前の実力を外に出してこい。」
「そうだよ!ユアちゃんうちに来てすっごく強くなったんだから!」
「自信もって挑んでこい。」
その言葉が本当にありがたくて、本当に嬉しくて…
「ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げる。
この隊に異隊してから数十年。
私にとっては、掛けがえのない【家】だった。
前を向いて、隊長室を出る。
ここで培ってきたもの。
無駄には絶対しない。
そう誓った。
別に、十一番隊から離れることが嬉しいわけじゃない。
あいつと同じ立場になれることが嬉しい。
純粋に…
だって、私は彼に戦い方のほとんどを教わった。
私の戦いのすべてが
あいつの教えだったから…
「よぉ、昇進だってな。」
道場へ行くと、一角に声をかけられる。
「なんだ、知ってたんだ…。あたしから直接言いたかったのに…」
隅にいた弓親をひと睨みする。
相変わらず、こいつはシレっとしていて明後日の方向を向いていた。
「いいじゃねぇか…。めでたいことだ。そういうことは、早めに広まった方が他の連中のテンションも上がるだろ?」
「それはそうなんだけどねぇ…。こういう時くらいは自分の口から言いたいじゃない。」
「むくれるなよ。」
「別にむくれてないわよ。ちょっとがっかりしただけ。」
そう言うと、ポイッと木刀を投げられる。
受け取ると、合図かのようにそのまま道場の中央へ移動する一角。けれど、彼の手には斬魄刀が握られていた。
「さて、久々に付き合えよ。ユア。」
楽しげな表情で構える一角。
それを私は苦笑いしながら見つめる。
「三席に見合うかどうかの試験でもするつもり?」
「俺と対等の地位になるんだ。お前を鍛えて強くしたのは俺だろ。試験の審査をするのも俺だ。」
「やーねぇ、変なところでかっこいいんだから…あんたって…。」
ニヤニヤ笑って、自分も彼にならって中央に歩いていく。手渡された木刀ではなく、自分の腰にある斬魄刀を手にしてだ。
「どうせなら、いつものとこに行かない?あそこなら暴れ放題よ?」
「あん?仕方ねぇな…」
「いいの?最後かもしれないのに、そんなに軽く引き受けて…」
弓親が呼びとめる。
後ろで片膝をつく彼に、私は身体の向きを一角に向けたまま言葉を紡ぐ。
「最後だからこそ、楽しんで挑むんじゃない。あいつとの楽しい最後の仕合よ。」
「怪我、するかもしれないよ。」
「本望よ。あたしはまだ、十一番隊の死神だもの。」
これからは、一角の後ろを守るんじゃない。檜佐木修兵を守るための剣。
それでも、この剣を鍛え、与えてくれたのは目の前の一角なのだ。
だったら、この手で信念で全力で応えるべきだ。
広くガランとしたいつもの鍛練場。
カランと、鞘を落とす。
「行くわ。」
―認めさせる。
「来い!!!!」
あたしたちに、涙なんて必要ない。
あるのは、覚悟と力だ。
「あーーー!もう、やっぱり、だめかっ」
腕、足、腹部に背中…
あちこちの打撲に深い傷。
先に倒れたのは私だ。
「惜しかったな…」
そう言う一角も、全然平気そうじゃなくて同じ系統の斬魄刀を持つ私達の仕合はかなりのモノだった。
「嘩月の意識強奪は、なかったね。」
血だらけの私に、弓親が言った。
「つくづく可笑しなやつよね。こいつも…。あんたと戦って喜んでやがんの。」
ほぼ半壊でボロボロの私の斬魄刀の『嘩月』
の音は未だに鳴り響いているものの、いつもと違い耳障りな音ではなく一定の音で心地が良かった。
「俺がそいつと一番戦ってるんだぜ?当たり前だ。」
ニヤリと笑みを作る一角。
私は痛む身体を起こして、彼に近づいた。
「エライご機嫌だわ。複数属性調子に乗って4つまとめて出してくるもんだから、霊力の消費が激しいったらない。」
「はっ!そりゃ大盤振る舞いでいいこった!」
隣に座る。掌に力をためて一角の身体にあてる。
「バカ、何やってんだ。俺よりお前の方が傷多いんだぞ。自分から先に…っ」
身体を自分から引き離そうとする一角の手を握る。
「いいから、最後の最後まであんたの怪我を治させて。この役目を、他の誰にもさせたくないの。」
真剣な目で見つめた。
それは、私の役目だったことだ。
「お前…」
「じゃあ、その間僕がいつもみたいに、ユアの傷を一角のアレで血止めしてあげるよ。」
「弓親…っ」
いつも一緒だった。
それが当たり前だった。
最後まで、最期まで一緒のつもりだったんだけど…
「ありがとね…二人とも…」
「バカ野郎…そんな顔して治すんじゃねぇよ…。」
力を使いながら、彼の腕に抱かれた。
どうしてだろ…
涙が止まらなかった。
―ガン!!!
「あいたーーー!!!」
「バカか、お前は」
傷が完治しなくて四番隊で2日間、入院することになった私に隊長が来るなりゲンコツをお見舞いする。
「痛いですよ!隊長!暴力反対!」
「おめーがバカだからだ。」
―ゴツン!!!!
「痛い!!」
本日二度目のゲンコツ。
「荷造りしろって言ったのに、バカやってるんじゃねぇよ…。」
「だって…」
―ガツン!!!!!
「あっ!!!いった!!!」
「だってもクソもねぇんだ。こんなとこで入院してて、どうすんだ。おめーの仕事は書類係だろ、最後までしていけ。」
「ひどっ!隊長ひどい!けが人に仕事押し付け反対!」
「もう一回、頭に食らうか?」
「い、いりませんっ!」
威圧するように、言う隊長に慌ててお断りをする。むーと唇を尖らせて拗ねていると、隊長の手が私の頭を撫でた。
「一足先に、居なくなって隊舎寂しくすんな。最後まで騒がしくしてろ。お前の役目だろうがよ。」
「隊長、顔に似合わず時々くっさいセリフ吐きますよね。」
―ガッツン!!!!!!!
「あーーーーーー!!!!!!」
「と、言うわけで急遽、卯ノ花隊長に治して頂きまして…最後まで騒がしくすることにしました。」
横に立つ隊長にビクビクしながら、私は隊舎にいる皆にそう言って挨拶をする。
「来週から居なくなるからな。聞きたいことあるなら今のうちに聞いておけ。やり残したこともないか考えろ。んで、書類もやっておけ。」
「ひどっ!!!」
言いかけて、目の色がぎろりと変わるのを感じておとなしくなる。
「バカじゃねーかお前。」
「うるせーやい!ハゲ!!」
「あぁ!?俺はハゲじゃねぇ!!!」
いつも通りのやりとりと、騒がしさ。
その日常がもう少しで変わってしまう。
それがさびしい。
けど、この日々が無くなったって誰かがいなくなるわけじゃない。私がいた場所がなくなるだけで、月日が過ぎて行くだけだ。
「今日は宴会だ。早くそこのヤツ終わらせてから来いよ。ユア。」
「何それ、隊長!!私一人だけで居残り途中参加!?ひっどい!」
またもや口答えするとゆっくりと、後ろを振り返って拳を見せる。
「先に行っててください!更木隊長様!!!!!」
ゾロゾロ出て行く一向に、ガランと誰も居なくなる隊舎。私はなんだかそれがちょっぴりさびしくて、ゆっくりと全体を見回した。
「ふぅ…」
数枚程度でそんなに多くない書類に手をかける。皆の書類を代行してやるのはあと何回くらいだろうと…。かみしめればかみしめるほど、なんだかせつない気持ちになる。
「…やり残したこと…か…」
仕事を終えて、考えた。
やり残したことなんて、一つしかなかった。
でも、こればっかりはなかなか恥ずかしくて言えなかった…
「チキンだよなぁ…あたしも…」
一角を尊敬し、愛されたいと思った。
でも、傍にいることでいつの間にか満足していた自分は消えることになる。気持ちを伝える事をするべきか否か…彼のぐちゃぐちゃの机を見つめながら考える。
別に怖くはない。多分、あいつも同じ気持ちなのは知ってる。でも、口に出すのと態度に出すのとではやっぱり違うのだ。背中を任し、任される存在で、私にとって一角とはそういう位置にある人だからこそ、この想いを口に出していいものか悩んだ。
「一角のハーゲ、バーカ、つーるりーん」
本人のいないことをいいことに好き放題。こんなこと、もうめったに言えなくなる。
だから、誰もいないこの空間で、普段言えないことを思いきり言ってやるのだ。
「かっこよくて、男気溢れてて、優しくて、強くて…それから……好……」
唇が震えた。
言えるわけがなかった。
この言葉を口にするのは、本人の前でと決めていたのだ。
「匂いも、全部…何もかも…あたしのモノになればいいのに…」
そしたら、どんなに幸せだろう。
彼を全部手に入れられたらどんなに嬉しいだろう。
机に突っ伏したまま動かない。どうするべきなのか、わからないから余計に困ってしまう。今ならそばにいるのに、いつでも言えるのに…
「あたしじゃ、駄目かなー…一角…」
ぼそりとぼやく。
それしかできないかのように。
「何言ってやがる、もう全部俺はお前のもんだろうが…。」
頭の上から聞こえる声。
その声が誰のものかはすぐに理解できた。
振り返ると覆いかぶさるように自分を愛しげに見つめてくる一角。
「知ってるよ。そんなの…」
「バーカ…」
ついばむ様なキスから、舌を絡めた。
「頑張れよ。ユア…」
「うん。」
別れなんかじゃない。
終わりなんかでもない。
寂しいけれど
これは始まりで
私達にとって
もっとも大切なきっかけだった。
数日後、九番隊第三席を拝命する。
でも、私の帰る場所は貴方の部屋で
貴方の腕の中…