【連載】幻界時間 共通プロローグ
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「ふぁ~~~~~~~あ!」
デカい欠伸と伸びを一つ。
ドカドカと廊下を歩く。
今回の任務は随時と長かったので、彼女はコキコキと首を鳴らしながら、自室へ向かっていた。任務明けのこの瞬間位は熱いお風呂にでも入って休もうか…と、そう思案していたところで、誰かに呼び止められた。
「ユア」
組織のメンバーの1人が軽く手を挙げて挨拶をした。
「シノブ?どうしたの?」
「どうしたのって…俺は仕事だよ仕事。お前は?任務明けか?」
「そんなとこ。…今回もキッチリ、戦闘経験だけ持って帰りました!」
ブイとイタズラっぽく指を作ると、シノブは苦笑いをする。
「マスターの気まぐれにゃ前から困ってたが、お前も苦労してんな」
「まーね。まぁ、それでも『外』にいくよりはマシでしょ。それなりに楽しんでるし、誰かの役に立つことは嬉しいから、馴れたわ私も…」
「まぁ、確かに、今ここから出ることは余りオススメしないよなぁ。今のこのご時世に、好き好んで死にに行く奴はいねーわな」
「そうそう。だから、ここにいられるだけで今の所は満足って感じかな。」
そう言うと2人は少し重い息を吐いた。
「悪ィ。疲れてんだよな。そろそろ俺行くわ。マスターに呼ばれてるんだ。呼び止めて悪かった」
思い出したかのように、急いで歩いていくシノブの後ろ姿を確認したあと、ユアはバイバイと手を振ると欠伸をかみ殺しながら、再び自室へ向かって行った。
「う~」
殺風景な部屋の端にある自分のベッドにダイブする。異界に行くたびに、この疲れが出るのは、きっといつも自分が全力で任務をこなしてしまうから。
「…疲れた。眠い~。でも身体気持ち悪い~」
そう言って眠い自分に叱咤しながら、起き上がる。睡眠は風呂上がりでも出来る。とにかく、この身体のベタベタを何とかしようと風呂場に向かった。
しばらくして、サッパリした表情で部屋に戻るとユアは先程と同じように、ベッドにダイブした。
「眠れる~。眠い~」
目が重く、既に夢の中。
これから伝えられる任務を、彼女はまだ、知らない。
「…ぃ…お……起きろ!ユア!!」
「…うわあああああ!」
声の主の叫び声と同時に飛び上がって目を覚ます。
何事だと辺りを見回すと、呆れた顔で自分を見下ろす男がいた。
「…何だスウェルかぁ。ビックリした…脅かさないでよ。」
「…お前なぁ…今何時だか分かっててそれ言ってるのか?」
スウェルはユアの頭をぐりぐり回しながら言った。
「いたたた。徹夜明けで疲れている人にそれはないんじゃないの?」
不機嫌そうに答えるユアに、スウェルは眉間に皺を寄せて聞き返す。
「ユア…誰が徹夜明けだって?」
「…誰って、私以外の誰がいるのよこの部屋に…」
プイッと横を向いてふてくされた表情をするユアに、男は強引に彼女の顔をこちらに向かせると青筋をたてながら叫んだ。
「いいか、寝ぼけてるようだから言っておくが、お前が仕事明けたのは…
一 昨 日 だ !」
「は?」
「因みに、任務の指令時間過ぎてるから。」
「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「何で起こしてくれないのよ!せっかくの休日を寝て過ごしちゃったじゃないよ!」
「知るか。オレはおまえ以上に忙しいんだ。一々把握なんてしてられるわけないだろう。もっと早く走れ。」
「わ…分かってるけど、これが限界なのっ!」
ボサボサ頭のまま、とりあえず仕事服にだけ着替えて、ユアは組織の長の元に向かう。スウェルはユアの酷い格好にため息をつきながら、彼女の先を走っていく行く。
「だらしないな。それでも上位ナンバーなのかよ。」
「関係ないでしょそれ!男と女じゃ身体のつくりが根本的に違うんだから文句言ってんじゃないわよ!」
「ハイハイ…スミマセンデシタ。」
「うわああ…殴りたい!スッゴい殴りたい!」
そうこうしているうちに、目的地にたどり着く。
彼女は深呼吸を一つすると、凄い勢いで指令室へ入っていく。
「スミマセン!遅れました!!!!!!」
頭を下げてから、チラリと顔を上げると組織の長である女性と、シノブがそこにいた。
「あら…おそようユア。」
ニコリと綺麗に笑う女性は、この組織の長であるエレーナ。
彼女は分厚い書類から視線を外すと、軽く手をあげた。
「スウェル、ご苦労様。貴方は此方へ…。それにしても随分と遅かったのですねユア…私の指令はそれほどに気に入りませんか?」
「い、いえ…そんな事は…。申し訳ありません!マスター!」
「それならば良いのです。貴女もこちらに…今回の指令をくだします。」
こくりと頷いて、シノブの隣に歩いていくと彼と目が合った。何故か体が震えていたが、その内堪えられなくなったのか、勢いよく吹き出した。
「ぶっ…はっ!お前、何それ!起きぬけで来たのか?」
「なによ。マスターの指令時間過ぎてるのに、準備に時間かけるわけにはいかないでしょ?…喧嘩売ってるの?」
「いや…売ってねーけどさ。その髪なおした方がいいぜ。受けるから!」
けたけた笑うシノブに、ユアは髪の毛を直す素振りをすると、彼は再び笑った。
「くす…2人とも仲が良いのですね。そろそろ本題に入ってもいいかしら。」
存在を忘れられて、不機嫌なのか、エレーナは黒い笑みを張り付けながらそう言った。
「「はい、すんません。ゴメンナサイ。」」
焦った2人は同時に謝って、聞く体制に入った。
「今回貴女に向かって貰いたい世界は、中つ国と呼ばれる世界」
「中つ国?」
「えぇ…この世界へ向かい、ある人物を助けて欲しいのです。」
「救援…ですか。」
「…救援というとお前レベルでは簡単そうに聞こえるが、今回の任務は、本来死ぬべき者を生かすという使命も組み込まれている。」
難しい顔をして言うスウェルに、ユアも事の重大さを察知したようで、険しい顔つきになる。エレーナは自分の隣にある球体で、中つ国の映像を見せると、話を続けた。
「そしてこの世界は闇の力が強すぎるどころか、指輪を巡る争いが起きているのです。」
「…指輪?」
「サウロンと呼ばれる者が、その世界を我が物にしようとしているのです…指輪は、サウロンが世界を滅してしまう為の危険なもの。主を呼び寄せる為に、持ち主の精神もきたしてしまうのです。今は別の者の手に有りますが、一歩間違えばただではすまない…貴女には指輪を葬る旅に出ている者達の援護をしてもらいたいのです。」
「要するに…私が送られる世界は油断ができない切迫した状況にあるって事ですね。」
「えぇ…そういうことです。」
「いかに迅速に、被害を最小限に抑えるか…お前にかかっているんだ。任せたぞ。」
「…了解しました。」
ユアがぺこりとお辞儀をすると、エレーナは隣に立つスウェルに命じて、二つのリングと彼が持つ布に巻かれた長形の物を差し出した。
「これは…」
「分かっていると思いますが、今回の世界では『幻界魔術』をフルに活用しなければ、勝てる見込みのない世界です。このリングは術の威力は変わらず、幻界時間の消耗を抑制するもの。」
「そんでこっちは…」
包まれた布を取ると、見覚えのある剣が現れた。
「ブライディル…オレの剣だ。」
「な…なんでスウェルの剣を私に?」
「コイツは闇の力を吸い取る能力があるからさ…。異世界任務の殆どなくなったオレには宝の持ち腐れってやつなんだ。だから、お前が使え。コイツも喜ぶだろうよ。」
重みのある剣を渡されて、彼女は益々緊張した面持ちでエレーナとスウェルを見つめるとこくりと頷いた。
「それともう一つ。…シノブ」
「はい。」
呼ばれて横の彼が顔を真っ直ぐにエレーナに向ける。
「貴方には…異世界へ彼女のパートナーとして共に行動をしてもらいます。勿論幻界時間が尽きるまでです。」
「…了解しました。」
「準備が出来次第転送の間へ。宜しくお願いしますね。」
そう言って綺麗に微笑むのと同時に、二人は指令室から退出した。
自室へ戻って準備をはじめる。
長旅になりそうなので、より身軽に必要最低限の物を選んでバックに詰め込んだ。
あれやこれやと、悩んで準備を整えてから、スウェルに借りたブライディルを手にする。
黒く光るその剣は、アンティークばりによくできた精密な柄になっていて、ユアは恐る恐るそれを引き抜いた。
―シャアアアア…
金属の独特の音が聞こえ、そのまま全部引き抜くとブライディルの刃先が吸い込まれそうな程の妖しい光を放っていた。
ユアは誘われるように剣を構えると、目を瞑り精神を集中した。
―ヒュン…ヒュン…ビュア!!!!
「…これ…何だか…」
彼に手渡された時よりも、振る度に軽く扱いやすくなるブライディル。ユアは困った顔をして剣を見つめた。
「主を選ぶんだ。そいつは。」
後ろから声が聞こえて振り返る。
「スウェル…」
「重さが軽くなったろ?…お前を主に認めた証拠。準備出来たのか?」
「あ…うん」
慌てて鞘に剣を納めると、彼女は青い顔をして腰のベルトにくくりつける。
スウェルは見透かすような笑みを浮かべると彼女の頭をわしわしと撫でた。
「バーカ怖がるな。そいつはオレと死地を共にしたすごいもんなんだぞ…大事に使え。きっと助けてくれる。」
「う…うん。ごめん。」
そう言って、彼女は安心したかのように微笑み返すと彼と共に部屋から出て行った。
転送の間に行くと、シノブが既に旅の格好をして立っていた。
「…遅せぇ。」
「悪い悪い。」
そう言ってスウェルは、部屋の端にある機会に向かって歩いていく。
「座標は…入ってるな。よし。あ、そうだ。一応中つ国での簡単な地図な。渡しておく。それと、必要な知識や常識は転送と一緒にお前等の中に入れとくから役立ててくれ。」
二人がこくりと頷いて転送機のに移動すると、スウェルは満足そうに笑った。
「そいじゃ、行ってこい。…早く帰ってくるの待ってるからな。」
強烈な光に包まれながら、二人はその場から同時に消える。
「じゃあな…No.2ユア、No.4シノブ。」
後に残されたスウェルは、どこか覚悟をしたかのような顔をすると、自らが常に身につけている剣を握りしめながら、転送の間から出て行った。
デカい欠伸と伸びを一つ。
ドカドカと廊下を歩く。
今回の任務は随時と長かったので、彼女はコキコキと首を鳴らしながら、自室へ向かっていた。任務明けのこの瞬間位は熱いお風呂にでも入って休もうか…と、そう思案していたところで、誰かに呼び止められた。
「ユア」
組織のメンバーの1人が軽く手を挙げて挨拶をした。
「シノブ?どうしたの?」
「どうしたのって…俺は仕事だよ仕事。お前は?任務明けか?」
「そんなとこ。…今回もキッチリ、戦闘経験だけ持って帰りました!」
ブイとイタズラっぽく指を作ると、シノブは苦笑いをする。
「マスターの気まぐれにゃ前から困ってたが、お前も苦労してんな」
「まーね。まぁ、それでも『外』にいくよりはマシでしょ。それなりに楽しんでるし、誰かの役に立つことは嬉しいから、馴れたわ私も…」
「まぁ、確かに、今ここから出ることは余りオススメしないよなぁ。今のこのご時世に、好き好んで死にに行く奴はいねーわな」
「そうそう。だから、ここにいられるだけで今の所は満足って感じかな。」
そう言うと2人は少し重い息を吐いた。
「悪ィ。疲れてんだよな。そろそろ俺行くわ。マスターに呼ばれてるんだ。呼び止めて悪かった」
思い出したかのように、急いで歩いていくシノブの後ろ姿を確認したあと、ユアはバイバイと手を振ると欠伸をかみ殺しながら、再び自室へ向かって行った。
「う~」
殺風景な部屋の端にある自分のベッドにダイブする。異界に行くたびに、この疲れが出るのは、きっといつも自分が全力で任務をこなしてしまうから。
「…疲れた。眠い~。でも身体気持ち悪い~」
そう言って眠い自分に叱咤しながら、起き上がる。睡眠は風呂上がりでも出来る。とにかく、この身体のベタベタを何とかしようと風呂場に向かった。
しばらくして、サッパリした表情で部屋に戻るとユアは先程と同じように、ベッドにダイブした。
「眠れる~。眠い~」
目が重く、既に夢の中。
これから伝えられる任務を、彼女はまだ、知らない。
「…ぃ…お……起きろ!ユア!!」
「…うわあああああ!」
声の主の叫び声と同時に飛び上がって目を覚ます。
何事だと辺りを見回すと、呆れた顔で自分を見下ろす男がいた。
「…何だスウェルかぁ。ビックリした…脅かさないでよ。」
「…お前なぁ…今何時だか分かっててそれ言ってるのか?」
スウェルはユアの頭をぐりぐり回しながら言った。
「いたたた。徹夜明けで疲れている人にそれはないんじゃないの?」
不機嫌そうに答えるユアに、スウェルは眉間に皺を寄せて聞き返す。
「ユア…誰が徹夜明けだって?」
「…誰って、私以外の誰がいるのよこの部屋に…」
プイッと横を向いてふてくされた表情をするユアに、男は強引に彼女の顔をこちらに向かせると青筋をたてながら叫んだ。
「いいか、寝ぼけてるようだから言っておくが、お前が仕事明けたのは…
一 昨 日 だ !」
「は?」
「因みに、任務の指令時間過ぎてるから。」
「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「何で起こしてくれないのよ!せっかくの休日を寝て過ごしちゃったじゃないよ!」
「知るか。オレはおまえ以上に忙しいんだ。一々把握なんてしてられるわけないだろう。もっと早く走れ。」
「わ…分かってるけど、これが限界なのっ!」
ボサボサ頭のまま、とりあえず仕事服にだけ着替えて、ユアは組織の長の元に向かう。スウェルはユアの酷い格好にため息をつきながら、彼女の先を走っていく行く。
「だらしないな。それでも上位ナンバーなのかよ。」
「関係ないでしょそれ!男と女じゃ身体のつくりが根本的に違うんだから文句言ってんじゃないわよ!」
「ハイハイ…スミマセンデシタ。」
「うわああ…殴りたい!スッゴい殴りたい!」
そうこうしているうちに、目的地にたどり着く。
彼女は深呼吸を一つすると、凄い勢いで指令室へ入っていく。
「スミマセン!遅れました!!!!!!」
頭を下げてから、チラリと顔を上げると組織の長である女性と、シノブがそこにいた。
「あら…おそようユア。」
ニコリと綺麗に笑う女性は、この組織の長であるエレーナ。
彼女は分厚い書類から視線を外すと、軽く手をあげた。
「スウェル、ご苦労様。貴方は此方へ…。それにしても随分と遅かったのですねユア…私の指令はそれほどに気に入りませんか?」
「い、いえ…そんな事は…。申し訳ありません!マスター!」
「それならば良いのです。貴女もこちらに…今回の指令をくだします。」
こくりと頷いて、シノブの隣に歩いていくと彼と目が合った。何故か体が震えていたが、その内堪えられなくなったのか、勢いよく吹き出した。
「ぶっ…はっ!お前、何それ!起きぬけで来たのか?」
「なによ。マスターの指令時間過ぎてるのに、準備に時間かけるわけにはいかないでしょ?…喧嘩売ってるの?」
「いや…売ってねーけどさ。その髪なおした方がいいぜ。受けるから!」
けたけた笑うシノブに、ユアは髪の毛を直す素振りをすると、彼は再び笑った。
「くす…2人とも仲が良いのですね。そろそろ本題に入ってもいいかしら。」
存在を忘れられて、不機嫌なのか、エレーナは黒い笑みを張り付けながらそう言った。
「「はい、すんません。ゴメンナサイ。」」
焦った2人は同時に謝って、聞く体制に入った。
「今回貴女に向かって貰いたい世界は、中つ国と呼ばれる世界」
「中つ国?」
「えぇ…この世界へ向かい、ある人物を助けて欲しいのです。」
「救援…ですか。」
「…救援というとお前レベルでは簡単そうに聞こえるが、今回の任務は、本来死ぬべき者を生かすという使命も組み込まれている。」
難しい顔をして言うスウェルに、ユアも事の重大さを察知したようで、険しい顔つきになる。エレーナは自分の隣にある球体で、中つ国の映像を見せると、話を続けた。
「そしてこの世界は闇の力が強すぎるどころか、指輪を巡る争いが起きているのです。」
「…指輪?」
「サウロンと呼ばれる者が、その世界を我が物にしようとしているのです…指輪は、サウロンが世界を滅してしまう為の危険なもの。主を呼び寄せる為に、持ち主の精神もきたしてしまうのです。今は別の者の手に有りますが、一歩間違えばただではすまない…貴女には指輪を葬る旅に出ている者達の援護をしてもらいたいのです。」
「要するに…私が送られる世界は油断ができない切迫した状況にあるって事ですね。」
「えぇ…そういうことです。」
「いかに迅速に、被害を最小限に抑えるか…お前にかかっているんだ。任せたぞ。」
「…了解しました。」
ユアがぺこりとお辞儀をすると、エレーナは隣に立つスウェルに命じて、二つのリングと彼が持つ布に巻かれた長形の物を差し出した。
「これは…」
「分かっていると思いますが、今回の世界では『幻界魔術』をフルに活用しなければ、勝てる見込みのない世界です。このリングは術の威力は変わらず、幻界時間の消耗を抑制するもの。」
「そんでこっちは…」
包まれた布を取ると、見覚えのある剣が現れた。
「ブライディル…オレの剣だ。」
「な…なんでスウェルの剣を私に?」
「コイツは闇の力を吸い取る能力があるからさ…。異世界任務の殆どなくなったオレには宝の持ち腐れってやつなんだ。だから、お前が使え。コイツも喜ぶだろうよ。」
重みのある剣を渡されて、彼女は益々緊張した面持ちでエレーナとスウェルを見つめるとこくりと頷いた。
「それともう一つ。…シノブ」
「はい。」
呼ばれて横の彼が顔を真っ直ぐにエレーナに向ける。
「貴方には…異世界へ彼女のパートナーとして共に行動をしてもらいます。勿論幻界時間が尽きるまでです。」
「…了解しました。」
「準備が出来次第転送の間へ。宜しくお願いしますね。」
そう言って綺麗に微笑むのと同時に、二人は指令室から退出した。
自室へ戻って準備をはじめる。
長旅になりそうなので、より身軽に必要最低限の物を選んでバックに詰め込んだ。
あれやこれやと、悩んで準備を整えてから、スウェルに借りたブライディルを手にする。
黒く光るその剣は、アンティークばりによくできた精密な柄になっていて、ユアは恐る恐るそれを引き抜いた。
―シャアアアア…
金属の独特の音が聞こえ、そのまま全部引き抜くとブライディルの刃先が吸い込まれそうな程の妖しい光を放っていた。
ユアは誘われるように剣を構えると、目を瞑り精神を集中した。
―ヒュン…ヒュン…ビュア!!!!
「…これ…何だか…」
彼に手渡された時よりも、振る度に軽く扱いやすくなるブライディル。ユアは困った顔をして剣を見つめた。
「主を選ぶんだ。そいつは。」
後ろから声が聞こえて振り返る。
「スウェル…」
「重さが軽くなったろ?…お前を主に認めた証拠。準備出来たのか?」
「あ…うん」
慌てて鞘に剣を納めると、彼女は青い顔をして腰のベルトにくくりつける。
スウェルは見透かすような笑みを浮かべると彼女の頭をわしわしと撫でた。
「バーカ怖がるな。そいつはオレと死地を共にしたすごいもんなんだぞ…大事に使え。きっと助けてくれる。」
「う…うん。ごめん。」
そう言って、彼女は安心したかのように微笑み返すと彼と共に部屋から出て行った。
転送の間に行くと、シノブが既に旅の格好をして立っていた。
「…遅せぇ。」
「悪い悪い。」
そう言ってスウェルは、部屋の端にある機会に向かって歩いていく。
「座標は…入ってるな。よし。あ、そうだ。一応中つ国での簡単な地図な。渡しておく。それと、必要な知識や常識は転送と一緒にお前等の中に入れとくから役立ててくれ。」
二人がこくりと頷いて転送機のに移動すると、スウェルは満足そうに笑った。
「そいじゃ、行ってこい。…早く帰ってくるの待ってるからな。」
強烈な光に包まれながら、二人はその場から同時に消える。
「じゃあな…No.2ユア、No.4シノブ。」
後に残されたスウェルは、どこか覚悟をしたかのような顔をすると、自らが常に身につけている剣を握りしめながら、転送の間から出て行った。