軍団長とエルフ①中編-エルフの章
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「エオメル!そなたの部隊はユアと共に左翼を進め!」
「はい!陛下!」
「ギャムリング、王の旗を立て中軍を行け!」
馬を軍勢の前で走らせながら、セオデン陛下は大きな声を上げる。
「グリンボルト!城壁を過ぎたところで、右翼へ広がれ!進め!闇を恐れるな!」
配置にそれぞれが付くと、剣を掲げて叫ぶ。
「今こそ奮い立て!セオデンの騎士よ!槍を突き立てよ!敵の盾を砕け!戦いだ!赤き血で、日の出の前に野を染めよ!!」
「ユア…行けるか」
「ええ。心配しないで」
そう一言言って突き放す。
これから生きるか死ぬかの戦いだ。私がここで気を緩めて戦う事は許されない。
鼓舞する陛下の声に、私は身震いをして剣を抜く。レゴラスとサヨナラはした。旅のみんなと会えないことはすこし残念だけど。
スンと、マントの匂いをかいだ。レゴラスの匂いがする。
「時は今!時は今!今ぞ!戦え!戦って共に死のう!死のう!死のう!死のう!!!!!!」
大きな波のような鼓舞に兵達の声が木霊する。
「大丈夫死なない。裂け谷でレゴラスと会うんだ…私を守って」
ポツリとつぶやく。かき消されたその言葉を聞くものはいない。セオデン陛下は剣を高らかに上げて叫ぶ。
「進め!エオルの子らよーーー!!!」
馬の腹を蹴って、私は彼らと共に駆け出して行った。
☆☆☆☆☆
オークや、兵達の叫び声と共に奇襲は成功したかに見えた。
「隊列を組め!!」
角笛と共に現れた大きな角と鋭い棘を装備し左右に首を振った動物が何十頭も現れる。
合図と共に、馬で駆けてゆく兵達はムマキルの動きで踏みつぶされていく。
角笛が鳴く。
私は距離を取りながら、迫るオークを切りつける。
「上か…」
頭の上で、操縦する者と背中に射手がいる。あれを弓が届く範囲でくずせば陣形が崩れる。
「よし」
狙いを定めて、弓を構えて射る。
ムマキルの頭に乗る男の頭に見事に命中し、操縦している者がガクリと倒れて背中の敵兵たち共々一気に落ちた。
太い縄にからまって大きな動物は地面に倒れていく。私はオークらと交戦しつつ、頭の上にいる敵を射ていった。
「ユアっ!!」
駈けてくるエオメルさんに苦笑いした。
「ムマキルの対策を事前に立てていたのか?」
「いいえ、付け焼き刃で思いついた対策だったけれど…上手くいったみたい」
「そうか、数名の兵を貸す。お前に任せてもいいか?」
「いえ、私だけで十分です。ムマキルの最期仕留める方をお願いします」
そう言って別の的を射る。
「馬鹿を言え!一体何体いると思っているんだ!戦いながら、敵の目をかいくぐってアレを掃討するなんて不可能だ!」
少し怒りながら言うエオメルさんに、私はひと息息を吐いてから口を開く。
「なら、弓に自信のある者と、彼らを守る為の兵を貸してください。100もいらない。半々の50でいい。私が指揮を取る」
頷いて駆けていく彼にため息。
我ながら、この気持ちの変わりように驚いている。心配してくれることはとても嬉しい。けど、私は貴方のなにかにはなれないのだ。
今更、大切な人が誰なのか気付いてしまうなんて馬鹿だ。
「ユア殿!」
近寄ってきた少数の部隊横目に、私はムマキルの上の兵を仕留めていく。
「流石ですね。アラゴルン殿のご息女だけはあられる」
「固まるな!敵のいい的だ。移動しろ!」
その声に彼らがついてくる。後方に移動してオーク達の姿を確認する。コチラにまでは来ていないようで、私は言葉を発する。
「ムマキルの頭の上には、あれを操縦する人間がいる。弓兵はそれを移動しつつ撃破せよ。弓兵とそれを守る者、各二人計四人での行動をする。同じ場所での狙撃はするな。一体倒したら、移動をして。敵の的になるからいい?」
「ユア殿はどうされる!?」
「私は一人で十分事足りる」
「無茶ですよ!オークがワラワラいるのに、乱戦の今に一人で仕留めるなんて!」
止に入る兵達を静止してニッコリ笑う。
「死ぬつもりはないよ。こんな所でくたばってたまるか!私は生きる。生きてこの戦いを終わらせるんだから!!…できるだけ数を減らして、無理にやる必要はない。無理になったら散開して。貴方達の命に変わりは無いんだから!」
そう言って、私は兵達に掛け声をかける。
散開した各グループは、私の言葉に鼓舞され勢い良くかけていった。
アラゴルンや、レゴラスは凄いなぁ。
こんな事、ずっとやってきたんだ…
私には無理だ。さっきの短い時間にも、声が震えて、手だって少し震えた。
乱戦状態になった戦場で、少しばかりムマキルが減ってきていた。
もう少し、減らしたくて、私は馬を駆ける
‐‐ギャアアアアア!!!!
「ナズグルだー!!!!!」
けたたましい叫び声と誰かの声と共に、私は空を見上げる。
「来た…」
急いでそちらの方へ馬を走らせる。
低空飛行をしているやつらだ。何かを企んでいるに違いない。
金切り音に耳を抑える兵達。
私の耳にも響くその音に懸命に耐えながら、私は弓を構えた。
‐‐捉えた。
一気に弓を引く刹那…
‐‐ドスッ
「えっ…」
脇腹に激痛が走り…
落馬した。
☆☆☆
「う、あ、ぁあ…」
落馬の衝撃と、矢傷に私は声にならない声を上げる。
這うように、死体の山へ自分の身を隠すように私は口から血を流す。
ふと、ミナス・ティリスの船着場から青白い大群の何かが溢れてこちらに向かってきていた。
「な、に…」
息をするのも苦しくて、私は痛む体をそちらに向ける。視線の先には、レゴラスがムマキルに登って敵兵を倒していた。
「レゴラス…」
死ぬ間際に貴方を目にするなんて、神様は本当に意地悪だ。私の未練を呼び起こしてこんな事するなんて…
しかし、視線の先にはオークが彼に狙いをつけていて、私は痛む体に鞭打って転がっている弓でそのオークに狙いを定める。
「駄目だよ。レゴラスは死なないから」
私が守るんだ。
守ってもらった。
守ってもらってきたんだから今度は私が守るんだ。
だから…
「レゴラスーーー!!!!!」
ムマキルの鼻先からトンと、着地した瞬間に名前を叫んだ。オークの気をこちらに向かせた瞬間に、私はその弓を射る。
‐‐ストン
「あっ…」
勢い良く右胸に刺さる弓。
背後からの、剣に私は短く声を漏らすとその場に崩れ落ちた。
あぁ…困ったなぁ…
これじゃあ…
裂け谷に帰れない…や…
「…今…」
ユアの声だった気がする。
おかしい。そんなわけがない。
レゴラスはオーク達と応戦しながらそう考えを巡らす。
いいや、彼女は先日裂け谷に帰ると言った。こんな場所にいる訳がないのだ。
その疑念を頭から排除して、彼は戦いに専念した。
☆☆☆
「…いき、てる?」
どのくらい経ったのか…辺りには静けさがあり、目を覚したら、全身血だらけで倒れている自分がいた。自分の周りには、人間、オーク様々な死体が転がっている。
「あーぁ…しぶとく生き残っちゃったよ…」
私は力なく笑った。
予定では無傷で生還して、裂け谷に行くつもりだったのになぁ…なんて、ありえない筈の自分の戦いの理想を思い浮かべて、私は咳き込んだ。口から血が吐き出されて苦笑いをする。
改めて、自分て弱かったんだなぁと実感した。
ふと見上げると、私が乗っていた馬がそこに居た。
「お、前…律儀に迎えに来てくれたの?」
顔を擦り寄らせて、私の頬を舐めてくれる。
「そ、うだね…帰ろう…戦いが終わったなら…か、えらなきゃ…」
途切れ途切れに言うと、それを察したかのように、馬は屈んで私を背にのせてくれようとする。時間はかかったけれど、背に跨る事ができたが、プチリと何かが落ちた。レゴラスと交換したガラドリエル様から頂いたブローチだ。
「あっ…」
拾おうとして、それをやめた。
今降りたらきっともう二度と馬に跨がれない気がしたから…
ぎゅっと、マントを握る。これさえあればいいじゃないか。これだけでも、レゴラスに抱きしめられてる気がする。だってこれは彼の身につけていたものだ。これがあれば…
無理やり納得させて私は小さくなるブローチを名残惜しげに見つつ、ゆっくりと去って行った。
戦場から少し離れて、馬は私を背に乗せてゆっくりゆっくり歩いていく。
☆☆☆
意識が朦朧とする。
力が入らない。
「これ、はやばいかなぁ…」
自分の血で馬の背中が汚れている。流石に、血を流しすぎていると思う。
ブルブルと、寒気が襲ってくる。
震えが収まらない。これは自分でもかなりやばいなぁ…なんて、他人事の様にぼんやり考えていた。
‐‐あぁ…こんな所で私、終わるんだなぁ…
一人で寂しい最期だ…
ズルズルと、身体が傾いてゆっくりと地面に落ちた。顔をペロペロ舐められて、私は力なく微笑んで言う。
「ごめ、ん、ちょ…と…休憩…」
もう目が開かなくて、私はニコッと微笑む。
『ユア』
「レゴラス?」
手が宙を舞う。目の前に居るのに何で触れられないの?
おかしいなぁ…こんなにもハッキリといつもの笑顔を私に向けて微笑んでくれているのに…
おかしいなぁ…ねぇ…あのね…私本当はね…ずっとレゴラスの事…
困った顔をして私を見る彼は幼い頃に見たあの顔だった。ねぇ、知ってる?私ね、その顔に最初に気がついた時…すごく嬉しくて…だから、ずっと見てたの。見てたから気付いたんだよ?まだ、タウリエルさんの事、好き?まだ、忘れられない?
『違うよ…好きなんかじゃないよ』
「本当…?」
『あぁ、私が好きなのはユアだから…』
嬉しいなぁ…
ずっと言われてた言葉なのに…
嬉しいなぁ…
最期にその言葉が聞けた…
「ホントは、私もずっと好きだったんだ…ごめんね…」
そうして返すとレゴラスに抱きしめられた。
視線の先に、アラゴルンの姿が見えた気がした。
ねぇ、アラゴルン…聞いて…
私、沢山頑張ったんだよ?
レゴラスの事助けられたよ?
言ったでしょ?彼は死なないって…
私が守ったんだよ?
凄いでしょ?褒めてよ…お父さん…
父は微笑んで私の頭を撫でた。
よくやったなと、聞こえた気がした…
「はい!陛下!」
「ギャムリング、王の旗を立て中軍を行け!」
馬を軍勢の前で走らせながら、セオデン陛下は大きな声を上げる。
「グリンボルト!城壁を過ぎたところで、右翼へ広がれ!進め!闇を恐れるな!」
配置にそれぞれが付くと、剣を掲げて叫ぶ。
「今こそ奮い立て!セオデンの騎士よ!槍を突き立てよ!敵の盾を砕け!戦いだ!赤き血で、日の出の前に野を染めよ!!」
「ユア…行けるか」
「ええ。心配しないで」
そう一言言って突き放す。
これから生きるか死ぬかの戦いだ。私がここで気を緩めて戦う事は許されない。
鼓舞する陛下の声に、私は身震いをして剣を抜く。レゴラスとサヨナラはした。旅のみんなと会えないことはすこし残念だけど。
スンと、マントの匂いをかいだ。レゴラスの匂いがする。
「時は今!時は今!今ぞ!戦え!戦って共に死のう!死のう!死のう!死のう!!!!!!」
大きな波のような鼓舞に兵達の声が木霊する。
「大丈夫死なない。裂け谷でレゴラスと会うんだ…私を守って」
ポツリとつぶやく。かき消されたその言葉を聞くものはいない。セオデン陛下は剣を高らかに上げて叫ぶ。
「進め!エオルの子らよーーー!!!」
馬の腹を蹴って、私は彼らと共に駆け出して行った。
☆☆☆☆☆
オークや、兵達の叫び声と共に奇襲は成功したかに見えた。
「隊列を組め!!」
角笛と共に現れた大きな角と鋭い棘を装備し左右に首を振った動物が何十頭も現れる。
合図と共に、馬で駆けてゆく兵達はムマキルの動きで踏みつぶされていく。
角笛が鳴く。
私は距離を取りながら、迫るオークを切りつける。
「上か…」
頭の上で、操縦する者と背中に射手がいる。あれを弓が届く範囲でくずせば陣形が崩れる。
「よし」
狙いを定めて、弓を構えて射る。
ムマキルの頭に乗る男の頭に見事に命中し、操縦している者がガクリと倒れて背中の敵兵たち共々一気に落ちた。
太い縄にからまって大きな動物は地面に倒れていく。私はオークらと交戦しつつ、頭の上にいる敵を射ていった。
「ユアっ!!」
駈けてくるエオメルさんに苦笑いした。
「ムマキルの対策を事前に立てていたのか?」
「いいえ、付け焼き刃で思いついた対策だったけれど…上手くいったみたい」
「そうか、数名の兵を貸す。お前に任せてもいいか?」
「いえ、私だけで十分です。ムマキルの最期仕留める方をお願いします」
そう言って別の的を射る。
「馬鹿を言え!一体何体いると思っているんだ!戦いながら、敵の目をかいくぐってアレを掃討するなんて不可能だ!」
少し怒りながら言うエオメルさんに、私はひと息息を吐いてから口を開く。
「なら、弓に自信のある者と、彼らを守る為の兵を貸してください。100もいらない。半々の50でいい。私が指揮を取る」
頷いて駆けていく彼にため息。
我ながら、この気持ちの変わりように驚いている。心配してくれることはとても嬉しい。けど、私は貴方のなにかにはなれないのだ。
今更、大切な人が誰なのか気付いてしまうなんて馬鹿だ。
「ユア殿!」
近寄ってきた少数の部隊横目に、私はムマキルの上の兵を仕留めていく。
「流石ですね。アラゴルン殿のご息女だけはあられる」
「固まるな!敵のいい的だ。移動しろ!」
その声に彼らがついてくる。後方に移動してオーク達の姿を確認する。コチラにまでは来ていないようで、私は言葉を発する。
「ムマキルの頭の上には、あれを操縦する人間がいる。弓兵はそれを移動しつつ撃破せよ。弓兵とそれを守る者、各二人計四人での行動をする。同じ場所での狙撃はするな。一体倒したら、移動をして。敵の的になるからいい?」
「ユア殿はどうされる!?」
「私は一人で十分事足りる」
「無茶ですよ!オークがワラワラいるのに、乱戦の今に一人で仕留めるなんて!」
止に入る兵達を静止してニッコリ笑う。
「死ぬつもりはないよ。こんな所でくたばってたまるか!私は生きる。生きてこの戦いを終わらせるんだから!!…できるだけ数を減らして、無理にやる必要はない。無理になったら散開して。貴方達の命に変わりは無いんだから!」
そう言って、私は兵達に掛け声をかける。
散開した各グループは、私の言葉に鼓舞され勢い良くかけていった。
アラゴルンや、レゴラスは凄いなぁ。
こんな事、ずっとやってきたんだ…
私には無理だ。さっきの短い時間にも、声が震えて、手だって少し震えた。
乱戦状態になった戦場で、少しばかりムマキルが減ってきていた。
もう少し、減らしたくて、私は馬を駆ける
‐‐ギャアアアアア!!!!
「ナズグルだー!!!!!」
けたたましい叫び声と誰かの声と共に、私は空を見上げる。
「来た…」
急いでそちらの方へ馬を走らせる。
低空飛行をしているやつらだ。何かを企んでいるに違いない。
金切り音に耳を抑える兵達。
私の耳にも響くその音に懸命に耐えながら、私は弓を構えた。
‐‐捉えた。
一気に弓を引く刹那…
‐‐ドスッ
「えっ…」
脇腹に激痛が走り…
落馬した。
☆☆☆
「う、あ、ぁあ…」
落馬の衝撃と、矢傷に私は声にならない声を上げる。
這うように、死体の山へ自分の身を隠すように私は口から血を流す。
ふと、ミナス・ティリスの船着場から青白い大群の何かが溢れてこちらに向かってきていた。
「な、に…」
息をするのも苦しくて、私は痛む体をそちらに向ける。視線の先には、レゴラスがムマキルに登って敵兵を倒していた。
「レゴラス…」
死ぬ間際に貴方を目にするなんて、神様は本当に意地悪だ。私の未練を呼び起こしてこんな事するなんて…
しかし、視線の先にはオークが彼に狙いをつけていて、私は痛む体に鞭打って転がっている弓でそのオークに狙いを定める。
「駄目だよ。レゴラスは死なないから」
私が守るんだ。
守ってもらった。
守ってもらってきたんだから今度は私が守るんだ。
だから…
「レゴラスーーー!!!!!」
ムマキルの鼻先からトンと、着地した瞬間に名前を叫んだ。オークの気をこちらに向かせた瞬間に、私はその弓を射る。
‐‐ストン
「あっ…」
勢い良く右胸に刺さる弓。
背後からの、剣に私は短く声を漏らすとその場に崩れ落ちた。
あぁ…困ったなぁ…
これじゃあ…
裂け谷に帰れない…や…
「…今…」
ユアの声だった気がする。
おかしい。そんなわけがない。
レゴラスはオーク達と応戦しながらそう考えを巡らす。
いいや、彼女は先日裂け谷に帰ると言った。こんな場所にいる訳がないのだ。
その疑念を頭から排除して、彼は戦いに専念した。
☆☆☆
「…いき、てる?」
どのくらい経ったのか…辺りには静けさがあり、目を覚したら、全身血だらけで倒れている自分がいた。自分の周りには、人間、オーク様々な死体が転がっている。
「あーぁ…しぶとく生き残っちゃったよ…」
私は力なく笑った。
予定では無傷で生還して、裂け谷に行くつもりだったのになぁ…なんて、ありえない筈の自分の戦いの理想を思い浮かべて、私は咳き込んだ。口から血が吐き出されて苦笑いをする。
改めて、自分て弱かったんだなぁと実感した。
ふと見上げると、私が乗っていた馬がそこに居た。
「お、前…律儀に迎えに来てくれたの?」
顔を擦り寄らせて、私の頬を舐めてくれる。
「そ、うだね…帰ろう…戦いが終わったなら…か、えらなきゃ…」
途切れ途切れに言うと、それを察したかのように、馬は屈んで私を背にのせてくれようとする。時間はかかったけれど、背に跨る事ができたが、プチリと何かが落ちた。レゴラスと交換したガラドリエル様から頂いたブローチだ。
「あっ…」
拾おうとして、それをやめた。
今降りたらきっともう二度と馬に跨がれない気がしたから…
ぎゅっと、マントを握る。これさえあればいいじゃないか。これだけでも、レゴラスに抱きしめられてる気がする。だってこれは彼の身につけていたものだ。これがあれば…
無理やり納得させて私は小さくなるブローチを名残惜しげに見つつ、ゆっくりと去って行った。
戦場から少し離れて、馬は私を背に乗せてゆっくりゆっくり歩いていく。
☆☆☆
意識が朦朧とする。
力が入らない。
「これ、はやばいかなぁ…」
自分の血で馬の背中が汚れている。流石に、血を流しすぎていると思う。
ブルブルと、寒気が襲ってくる。
震えが収まらない。これは自分でもかなりやばいなぁ…なんて、他人事の様にぼんやり考えていた。
‐‐あぁ…こんな所で私、終わるんだなぁ…
一人で寂しい最期だ…
ズルズルと、身体が傾いてゆっくりと地面に落ちた。顔をペロペロ舐められて、私は力なく微笑んで言う。
「ごめ、ん、ちょ…と…休憩…」
もう目が開かなくて、私はニコッと微笑む。
『ユア』
「レゴラス?」
手が宙を舞う。目の前に居るのに何で触れられないの?
おかしいなぁ…こんなにもハッキリといつもの笑顔を私に向けて微笑んでくれているのに…
おかしいなぁ…ねぇ…あのね…私本当はね…ずっとレゴラスの事…
困った顔をして私を見る彼は幼い頃に見たあの顔だった。ねぇ、知ってる?私ね、その顔に最初に気がついた時…すごく嬉しくて…だから、ずっと見てたの。見てたから気付いたんだよ?まだ、タウリエルさんの事、好き?まだ、忘れられない?
『違うよ…好きなんかじゃないよ』
「本当…?」
『あぁ、私が好きなのはユアだから…』
嬉しいなぁ…
ずっと言われてた言葉なのに…
嬉しいなぁ…
最期にその言葉が聞けた…
「ホントは、私もずっと好きだったんだ…ごめんね…」
そうして返すとレゴラスに抱きしめられた。
視線の先に、アラゴルンの姿が見えた気がした。
ねぇ、アラゴルン…聞いて…
私、沢山頑張ったんだよ?
レゴラスの事助けられたよ?
言ったでしょ?彼は死なないって…
私が守ったんだよ?
凄いでしょ?褒めてよ…お父さん…
父は微笑んで私の頭を撫でた。
よくやったなと、聞こえた気がした…