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鳥肌が立つような肌寒さを感じて、落ちていた意識が浮上した。
ぼんやり目を開けると、見慣れた天井が視界に入る。
そのままもぞもぞと動いて枕元に置いたスマホを見てみれば、時刻はまだ5時を過ぎたところだった。
夏が終わり秋を超え、冬に向かっていくこの時期の朝晩は、確かに冷え込むものだ。
それにしたって、この寒さはなんだろうか。
つい数ヶ月前を思えば溶け出しそうな暑さにうんざりしていたところだったのに、そんな季節があっという間に過ぎ去ってしまったなんて、俄に信じがたい。
だがそんな現実逃避をしたところで、肌で感じる寒さは紛れもなく本物なのだ。
私は寒さから身を守るように布団の中で蹲り、隣で眠っている万次郎に体を密着させ、彼の首筋にそっと顔を埋めた。
人肌に触れた事で、感じていた寒さは少し和らいだ。
このままもう一眠りしようと思い、私は万次郎の体温を感じながらそっと目を閉じる。
「お前顔冷た……」
不意に頭上から、少し掠れた声が聞こえてきた。
万次郎の首筋から顔を離して視線を上げると、眠気眼の万次郎と目が合った。
「起きてたの?」
「寒くてさっき起きた」
万次郎はそう言うと、布団の中から手を出して私の頬に触れた。
「冷えてる」
「万次郎の手あったか」
「布団の中で大事にあっためてたからな」
万次郎の優しい手が、私の冷えた頬をそっと包む。
眠さと心地よさが混ざり合って目を閉じると、頬に感じる万次郎の体温が心にまで染み渡ってくるような感覚を覚えた。
「寝る?」
「んーん。万次郎の手あったかいなーって思ってただけ」
「そっか」
「うん。私も万次郎の頬っぺたあっためてあげる」
そう言って私は布団の中にしまっていた手を出して、万次郎の頬をそっと包む。
冷たい空気に晒されていた頬は、私のそれと同じく冷たくなっていた。
「あったかい?」
「うん、あったかい」
「よかった。もう少し厚手の布団出さないとだめだね」
「そうだね。これからどんどん布団から出るの辛くなるな」
「それは本当にしんどいから嫌だけど、でも冬嫌いじゃないんだよね」
「なんで?」
「寒いからって口実で万次郎にくっつけるから」
「ふっ何それ。ていうか口実とか本人に言っちゃダメじゃん。バレバレじゃん」
「おっと、口が勝手に」
「別に口実とか考えなくても、くっつきたいときにくっつけばいいじゃん。俺もそうするし」
「じゃあ早速だけど、もっとくっついていい?」
「いいよ」
「よいしょ」
ほとんど隙間なんてなかった距離を私は更に縮めたくて、万次郎の脚に自分の脚を絡ませた。
温かい布団の中にある脚はお互いポカポカで、思わず笑いが溢れる。
「何笑ってんの」
「何でもないよ」
「変な奴」
「万次郎、大好きだよ」
「俺もだよ」
「変な奴でも?」
「うん。志織がどんな変人でも変態でも好き」
「変態は万次郎じゃん」
「男はみんな変態だろ」
「開き直るなよ」
「変態でも好きでしょ?」
「好きだけど」
そう答えると万次郎は嬉しそうに笑って、私の鼻先に軽くキスを落とした。
不意を突かれた私の唇から、間抜けな声が小さく漏れた。
万次郎はまた笑いながら、私の頬を包んでいた優しい手で私の髪を撫でる。
「もうちょっと寝ようか。今日も仕事あるし」
「うん、このまま起きてたら絶対仕事中やばいね」
「うんやばい。じゃあおやすみ志織」
「おやすみー万次郎」
私たちはもう一度ぴったりと体をくっつけて抱き締め合うと、目を閉じて眠りに落ちていった。
その温かさが心地よくて、二人揃って小さな寝坊をするのは数時間後のお話。
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