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いつも通りの時間にセットしておいた目覚まし時計が、枕元でけたたましい音を鳴らしながら私の睡眠を阻害する。
手探りで目覚まし時計を探してそれを止め、体を起こした時に、私は自身の異変に気付いた。
全身を倦怠感が支配し、いつもより重たく、そして熱く感じる体。
おまけに視界がゆらゆらと揺れていて、私は起こした体を再びベッドへ沈めた。
異変を自覚したらもう再び体を起こすなんて事は到底出来なくて、転がり落ちるようにしてなんとかベッドから抜け出す。
そして重たい体を引きずりながら這って移動し、勉強机の引き出しに保管しておいた体温計を取り出した。
熱を計ってみれば、私の今の体温は38度を軽々越えていた。
通りでしんどいわけだと、私はぼんやりと体温計に表示された数字を見つめた。
けれどどうしようか。
今この家には、私一人しかいない。
一緒に住んでいる母は、数日前から出張に出掛けていて不在だ。
再び這いつくばるようにして再びベッドに戻った私は、残された力を振り絞って学校に欠席の連絡を入れた。
そして彼氏である三ツ谷にも、学校を休むとメールを入れておいた。
メールの送信完了画面を見届けたのを最後に力尽きた私は、半ば気絶するように眠りに落ちた。
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目を覚ますと、部屋の窓から沈みかけの西日が差し込んでいた。
どうやらあれから私は一度も目を覚ます事なく、夕方まで寝続けてしまったようだ。
たっぷり寝たお陰で全身の怠さや熱っぽさはだいぶ軽くなったが、ほとんど同じ姿勢を取り続けたせいで体が固まっている。
体を伸ばして枕元に置いていた携帯を取ると、三ツ谷からメールが一通来ていた。
内容は、学校が終わったらお見舞いに行くから待ってて、というもの。
時刻はもう夕方なので、今まさにこちらに向かっているか、既に家の前に到着しているかもしれない。
急いで返信をしなければと思ったその矢先、メールの着信を知らせるバイブレーションが鳴った。
新着メールは三ツ谷からのもので、もうすぐ私の家に着くが起きているかという確認のメールだった。
私は慌てて三ツ谷の番号を表示し、通話ボタンを押した。
2コールも鳴らないうちに三ツ谷が出て、大好きな声が鼓膜を揺らす。
「もしもし、体調大丈夫か?」
「あ、うん。だいぶ良くなった」
「そっか、なら良かった。今向かってるから、もうちょっと待っててな」
「でも、私さっきまで寝てて髪ボサボサだよ?寝汗もかいてるし」
「そんなの気にしないって。志織の親御さん今出張でいないんだろ?こんな時くらい彼氏に甘えてもいいじゃん」
な?と優しく問いかける声に、少し涙腺が緩みかけた気がした。
「飯食った?」
「ずっと寝てたから、何も食べてない」
「そっか、じゃあ材料色々買ってきたから、そっち着いたら何か作るな。何食べたい?」
「うーん…雑炊とか?卵のやつ、食べたい」
「りょーかい。っと…お前ん家着いたけど、玄関開けられる?」
「ん、すぐ行くから待ってて」
「ゆっくりでいいから、気をつけて来いよ」
「ありがと」
通話を切りベッドを出ると、私は三ツ谷が待つ玄関へと向かった。
鍵を回して扉を開けると、そこには食材が入ったスーパーの袋を持った三ツ谷がいた。
三ツ谷は私の顔を見ると、少し安心したような表情を浮かべた。
「よかった、思ったより顔色良いな」
そう言って、三ツ谷の指が優しく頬に触れる。
「でもまだ少し熱いな」
「三ツ谷の手、気持ちいい」
「また酷くならねえように、ちゃんと飯食って薬飲んで寝ような。傍にいるから」
「ん…ありがとう、三ツ谷」
「礼はいいって。飯作るから、その間に着替えて来な」
「うん、分かった」
「着替え、手伝ってやろうか?」
「い、いいよ…!自分で出来るから」
「そっか、残念」
私の反応に、三ツ谷は悪戯な笑みを浮かべながら笑っていた。
そんな事を話しながら家に入り、三ツ谷はリビング、私は自室へ向かった。
汗拭きシートで体を軽く拭いて、洗濯済みの部屋着へと着替えると、私は再び自室を出てリビングへと戻る。
キッチンの方から具材を切る心地良い音が聞こえて来て、私はそのままキッチンへ入った。
「三ツ谷、手伝うよ」
「ばか。お前は病人なんだから、大人しく待ってていいんだよ」
そう言いながら三ツ谷は持っていた包丁を置いてサッと手を洗い、私をリビングのソファに寝かせ、近くにあったブランケットをかけてくれた。
「すぐ出来るからな。あとゼリーとかヨーグルトとか、食べやすいもんも買って来たから冷蔵庫に入れてある。食べられそうな時に食えよ」
「うん、ありがとう。そういえば三ツ谷、今日東卍の集会じゃなかった?行かなくて大丈夫なの?」
「ああ、マイキーに事情話して、今日は欠席させてもらった」
「そうなんだ…ごめんね、迷惑かけて」
「迷惑なんて思ってねえよ。マイキーも他のみんなも早く行ってやれって言ってくれたからさ、大丈夫」
「うん、ありがとう。大好き三ツ谷」
「俺も」
三ツ谷はそう言って優しく微笑むと、私の額に軽く唇を落とす。
そしてポンポンと頭を撫でて、再びキッチンへ戻っていった。
それから少しして、三ツ谷が出来上がった卵雑炊を持ってリビングへと戻ってきた。
具沢山で良い匂いがして、空っぽだった腹の虫がぐうぐうと鳴き始める。
「熱いから気をつけて食えよ」
「うん。頂きます」
「食べさせてやろうか?」
「え?だ、大丈夫、自分で食べられるから…」
そっかと笑いながら、三ツ谷は私の体を起こしてくれた。
そして三ツ谷が作ってくれた卵雑炊の前に座ると、私は早速蓮華を手に取って熱々の卵雑炊を掬った。
湯気が立ち込める卵雑炊にふうふうと息を吹き掛け、ゆっくりと口に運んでいく。
優しい出汁の味が、口の中に一瞬で広がった。
「美味しい……」
三ツ谷が作ってくれた美味しい卵雑炊を食べたら何だか泣けて来て、私の頬を涙がぽろぽろと伝っていった。
それを見た三ツ谷は少し困ったように笑って、私の髪を優しく撫でてくれた。
「よしよし、しんどかったな」
「うう…」
「雑炊、まだあるから好きなだけ食えよ」
「うん、ありがとう三ツ谷」
袖でごしごしと目を擦りながら、次々と卵雑炊を口へ運んでいく。
そんな私を見た三ツ谷は、私を腕を優しく掴んで、代わりに指先で優しく涙を拭ってくれた。
「そんな擦ったら、目腫れちまうだろ」
「う…」
「いっぱい食って早く治そうな」
「うん、いっぱい食べる。早く治す」
「ん、いい子」
三ツ谷がくれる優しさが、妙に心に沁みて仕方なかった。
三ツ谷が作ってくれた卵雑炊を一口一口しっかりと味わいながら、私は三ツ谷がいてくれる尊さを改めて噛み締めていた。
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