短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
"無敵のマイキー"と呼ばれる彼は、いつしか強さの象徴みたいな存在になっていった。
確かに彼は、昔から喧嘩だけは強かった。
道場に通っていた時から何かと周りの目を引いていたし、喧嘩でも自分よりも年や体格が上回る相手さえ、何て事ないように一撃で倒してしまっていた。
そんな強さを、彼は持っている。
けれど心はまだ弱さや幼さを孕んでいて、それはとても繊細で脆かった。
大切なものを失う度、重たいものを背負う度、彼の心は静かに崩れて、壊れていく。
けれど彼は15歳という若さで、それに必死に抗っているのだ。
それに気付いているのに、救いたいと思うのに、幸せになってほしいと思うのに、彼と同じたった15歳の私では、彼を暗くて苦しい場所から救い出す事なんて到底出来るはずがない。
悔しいけれど、たった15歳の私に出来る事は、ただひたすら彼に好きだと伝え、彼を優しく抱き締める事だけだった。
「万次郎、好き」
「ん」
「大好き」
「俺も」
「ずっと一緒だよ」
「ん」
何度も何度もそう呟いて私はそっと彼を抱き締める。
重たいものを背負った背中を擦れば、彼の腕が私の背中に周り、ぎゅっと力が籠る。
その腕には力が込められているはずなのにどこか弱々しさを感じて、私は彼に一人じゃないと伝えるように彼の背中を擦った。
けれど彼はきっと、こんな微温い優しさは求めていないのだ。
こんな事しか出来ない今の自分に、心の底から腹が立った。
もっと年を重ねて色んな力を持つことが出来れば、彼が望む言葉をかけてあげる事が出来るのだろうか。
そんな一縷の淡い希望を抱いては、私は縋るように早く大人になりたいと、強くなりたいと心の中で繰り返し願った。
「万次郎」
「ん?」
「私、強くなりたい」
「なんで?」
「そうしたら万次郎も、何も気にせず私に寄りかかれるでしょう?」
私のそんな言葉に万次郎は何も言わず、少し困ったような笑顔を浮かべていた。
違う、そんな顔をさせたいのではないのに。
自分の無力さをまざまざと感じて、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
でも私はここで彼の手を離すわけにはいかないから、痛む心を抑えながらも言葉を紡ぎ続けた。
「万次郎。私絶対強くなるから、だから少しだけ待っててね」
「……強くなるより、お前には幸せになってほしい」
「私は万次郎と一緒じゃないと、幸せになれない」
私はそう言うと、再び彼の背中に腕を回してそっと抱き締めた。
彼の匂いがふわりと私の鼻腔を刺激したのを認識したのと同時に、万次郎の両腕が少々遠慮がちに、私の背中へ回された。
その手は、少し震えているように感じられた。
私はその手の震えを少しでも抑えたくて、先ほどよりも彼を抱き締める腕に力を込める。
私たちは一ミリの隙間もないくらい、ぴったりと密着して触れ合った。
「頑固だな、志織は」
「そうだよ。だって万次郎が好きだもん」
「ん。俺も好き」
私は誓った。
いつか絶対に貴方のその不安定な心を、辛さからも苦しみからも救い出すと。
だからどうか、大切な人たちといつまでも笑っている貴方の幸せそうな顔を、私に見せてほしい。
.