【中編/松野千冬】シークレット・ナイト
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あれから松野くんとは、予定が合う時にたまに飲みに行くようになった。
たまたま隣同士に住んでいて、たまたまベランダで鉢合わせただけなのに、まさかここまで関係が深まるなんて思ってもみない事だった。
けれど松野くんと過ごす時間は楽しくて、なんだか気持ちが落ち着いて、変に気を遣わなくて済むから、とても楽だ。
たまに心臓が壊れそうな程ドキドキしたり、全身の体温が上がって顔が火照ったりする事もあるけれど、全然嫌な感じはない。
松野くんに対してどうしてこんな風に思うのか、まだ自分でもよく分からないけれど、松野くんと過ごす時間が私の中でとても大切なものになっていっているのは確かだった。
今日もバイトの後、松野くんと会う予定だ。
明日はお互い休みだから、時間を気にせずゆっくり出来る。
バイト中から楽しみで仕方なくて、つい何度も時計を確認してしまう始末だ。
やっとお店を閉めて閉店後の掃除を終えると、私は一目散にタイムカードを切って、私服に着替えた。
「お疲れ様でしたー!」
パタパタと急ぎ足でお店を出て、駅へ向かう。
改札を抜けると丁度電車が到着したところで、私は駆け足でその電車に飛び乗った。
終電間近の電車は人もまばらで、私は空いていた端の席に腰を下ろした。
バッグからスマホを取り出して、アプリを開き、松野くんとのトーク画面をタップする。
『電車に乗ったよ』と一言だけ送ると、すぐに既読のマークが付き、『了解!』というスタンプが送られてきた。
そして続けて、『バイトお疲れ様です!もう少ししたら俺も駅向かいますね!』と返信が返って来た。
その後も何度かやり取りをして、私はスマホをバッグにしまう。
車内の電光掲示板に目を向ければ、自宅の最寄りまで丁度あと二駅というところだった。
松野くんに早く会いたい。
そんな気持ちが、静かに降り積もっていく。
もしかしたら私は、松野くんに恋をしているのかもしれない。
最近、よくそう思う。
けれど、まともに人を好きになった事もない恋愛経験皆無の私には、これが恋心なのかどうか判断する事は出来なかった。
世の中の人たちは、どうやって恋か否かを判断しているのだろうか。
そんな事をぼんやりと考えていたら、最寄り駅に到着していて、私は慌てて降車した。
階段を降りて改札を出ると、キョロキョロと辺りを見渡す松野くんの姿を見つけた。
松野くんが探しているのが私だという事実だけで、なんだか心が温かくなる。
松野くんが私を見つけると、彼は両手を高く上げて、元気よく私に手を振ってくれた。
「志織さーん!」
私は松野くんに手を振り返すと、小走りで松野くんの元へ向かった。
「松野くんお待たせ…!」
「全然待ってないですよ!バイトお疲れ様です!」
「ありがとう。松野くんもお疲れ様」
「ありがとうございます!じゃあ行きましょうか!」
「うん」
二人並んで、駅を出る。
向かう先は、松野くんと初めて飲んだ時に入ったあの居酒屋だ。
私も松野くんもあのお店がすっかり気に入っていて、二人で会う時は大体そのお店を利用していた。
今日は何を食べようかと話をしながら歩いていると、あっという間にお店へ到着した。
けれど……。
「臨時休業!?」
「ほ、ほんとだ…!貼り紙してある……」
お店の扉には、今日は臨時休業にするという旨の貼り紙が貼られていた。
密かにこのお店のご飯を食べられるのを楽しみにしていた私は、軽いショックを受けた。
「まじか……。どうします?別のお店探してみます……?」
「そうだね……そうしよっか」
二人でがくりと肩を落としながら、とりあえずこの時間でも入れそうなお店を探す為に、私たちは再び駅前を散策し始めたのだった。
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