【中編/松野千冬】シークレット・ナイト
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乾かし終わった髪をバレッタで軽くまとめ、気休め程度に色付きリップを塗り、緩めのワンピースに袖を通すと、バッグを掴んで部屋を出た。
少しくらい化粧した方が良いかとも考えたが、そもそも松野くんと会う時はいつもすっぴんだし、何よりそんな事で松野くんを待たせてしまうのは良くないだろうと思い、化粧をするのはやめた。
家の鍵を閉め松野くんの部屋の前まで行くと、緊張に胸を高鳴らせながら、私はインターホンのボタンを押した。
するとすぐに部屋の中からパタパタと足音がして、ガチャッと目の前の扉が開いた。
そして、松野くんがひょっこりと顔を出す。
ああ…、部屋間違えてなくて良かった。
「お、お待たせしました」
「全然です!じゃあ行きましょうか!」
松野くんはそう言って、あの太陽みたいな笑顔を私に向けた。
というか、明るいところで見ると更に破壊力が増す。
問答無用で顔が良い……。
そんな事を考えながら、鍵を締める松野くんの手元を、私はぼんやりと見つめていた。
「よし!志織さんなんか食いたいモンとかあります?」
「え?うーん、特にはない、です。時間も時間だし、入れるお店があればどこでも」
「それもそうすね!じゃあ適当に駅前とかブラついてみましょ!」
「うん……!」
歩き出す松野くんの後を小走りで着いて行って、少し後ろを歩く。
急に真横に並ぶのは、私には少しハードルが高いし。
そう思って少しだけ後ろを歩いていたのに、歩幅を合わせてくれたのか、いつの間にか松野くんは私の真横を歩いていた。
チラリと横に視線をやれば、楽しそうに笑う松野くんが映って、ドキドキと心臓が脈を打った。
なんだか松野くんといると、調子が狂う。
でも、全然嫌じゃない。
「志織さんは、お酒なら何が好きですか?」
「私?私は……いちばん飲むのはビールだけど、お店で飲むならサワーとかも頼む、かな」
「そうなんすね!俺もそんな感じです!自分でフルーツ絞って作るやつとか結構好きで!」
「あ、あれ美味しいですよね!」
「はい!入れる店にあったら頼もうかな!」
「そうですね」
そんな話をしながら、私たちの住むアパートの共有玄関を出て、駅に向かって歩く。
松野くんと一緒にいるだけで、見慣れたこの道がなんだか特別なものに見えた。
駅の近くまで来ると、チェーン店の居酒屋やカラオケはまだ営業しているようだった。
私たちはその中から、割とリーズナブルな価格帯の居酒屋を選択した。
松野くんの後に続くように店内へと入ると、私たちに気付いた店員さんがこちらへやって来た。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「二人です!」
「こちらへどうぞ!」
「はーい!」
松野くんは店員さんに元気よく返事をして、店内へ足を進めていく。
それに続くように、私も松野くんの後ろに付いて歩いた。
店内にはまだチラホラとお客さんがいるようだったけれど、私たちが案内されたのはお店の奥のスペースには特に誰もおらず、とても静かだった。
席に着いてとりあえず生ビールを二つ注文し、二人でメニューを覗き込むようにしながら、おつまみを何にしようかと相談する。
「きゅうりの浅漬け、美味そうですね!」
「ほんとだ。あとこのポテトサラダも美味しそう」
「そうッスね!そしたらとりあえずきゅうりの浅漬けとポテトサラダにしましょうか!」
「そうですね…!」
松野くんがテーブルの上に置いてあった店員呼び出しのボタンを押すと、すぐに店員さんがやって来た。
入店した時と同様、松野くんが手早く注文を済ませてくれた。
とりとめのない会話を二、三交わしているうちに、注文していたビールとお通しの枝豆が運ばれて来た。
そしてそのすぐ後に、きゅうりの浅漬けとポテトサラダも運ばれてきて、注文の品が揃った。
「はい、じゃあお疲れ様です!」
「お疲れ様です…!」
松野くんが差し出したジョッキに自分のジョッキを軽く当てれば、カツンという音が小さく鳴り響いた。
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