【中編/松野千冬】シークレット・ナイト
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隣に住む彼に会えずに残念がっていた気持ちも、それを恥ずかしいと思っていた気持ちも、彼に会えた事で全て吹き飛んでいた。
それどころか、眠れない私を案じて雑談に誘ってくれた事も本当に嬉しくて、私の心は溢れ出しそうなくらいの温かい感情で満たされていた。
つくづく単純だなと自分でも思うが、今はそんな事はどうでもいいと思えるくらい、嬉しくて仕方ない。
「そしたらまずはプロフィールから話しましょうか!」
「え、プロフィール?」
「はい!えー、松野千冬!ハタチです!誕生日は91年12月19日、いて座のO型!尊敬する人は場地さんです!」
「ば、バジさん……?」
「はい!中学ん時に出会ったんです!場地さんはすげえかっけー人で、喧嘩も強くて、とにかくめちゃめちゃ尊敬してます!」
喧嘩…?
もしかして松野くん、元ヤンとかそういう類いの人……?
こんな可愛い顔で?
一瞬そう思ったが、他人の過去を根掘り葉掘り詮索するのは良くない。
喧嘩という気になりすぎるワードを必死にスルーして、私はそのまま会話を続けた。
「バジさんて人が凄いのは、とても伝わりました」
「ほんとすか!場地さんの凄さは話せばもっとありますけどとりあえずこれくらいに。あ、ちなみに今場地さんとは、一緒にペットショップでバイトしてます!」
「そうなんですか!?一緒にバイトとかすごい仲良し…!」
「えへへ」
私がそう言うと、松野くんは照れ臭そうに笑った。
えへへ、が様になる成人男性って、とても貴重だと思う。
めちゃめちゃ余談だけど。
「次、志織さんの番ですよ!」
「えと、篠崎志織です。21歳で、今大学三年生です」
「あれ?三年て事は同い年?!」
「あ、私一年休学してた事があるんです。だから本当は四年の年で、90年生まれです」
「あ、そうなんすね!て事は場地さんと志織さん、同い年だ!」
出た、またバジさん。
本当に何者なのだろうか。
気になるけれど、この短時間で松野くんがバジさんに相当ご執心なのは分かったし、無闇に話を広げると長くなりそうだ。
止めておくに越した事はない。
私はひとまずそうなんですね、と返しておいた。
「志織さんはどこの大学すか?」
「××大に通ってます」
「あ、俺△△大です!隣駅ですね!」
「△△大だったら、どこかですれ違った事あるかもですね」
「そうすね!」
それから松野くんの大学での話とか、バイトの話とか、実家で飼っているペットの話とか色んな話をした。
話していた時間は思っていたよりも短かったけれど、すごく楽しかった。
まあ、色んな話にちょこちょこバジさんが登場してきて、一体君たちはどんだけ仲良しなのだと、心の中で突っ込んでしまったのは内緒だけれど。
「ていうか志織さん」
「はい?」
「敬語、使わなくていいっすよ!志織さん場地さんと同い年だし、俺あんまり敬語で話されるのに慣れてないから!」
「いや、でも…」
バジさんと同い年だからという理由はよく分からないが、そもそも知り合って間もない相手にタメ口で話す事にハードルを感じるタイプの人間なので、どうしても躊躇してしまう。
「ダメっすか?」
「ダメというか…私人見知りで、色々考えちゃうというか…」
「じゃあ少しずつでいいんで!」
「うん…分かりました、それなら…」
「ありがとうございます!あと、志織さんの事名前で呼んでもいいっすか?って言っても、もう呼んでるけど」
「あ、全然大丈夫です」
「やった!じゃあこれからも志織さんって呼びますね!」
「は、はい」
「“はい“じゃなくて、“うん“でいいんすよ!」
「う、うん…!」
私がそう返事をすると、松野くんは嬉しそうな表情を浮かべて笑っていた。
その笑顔を見て、私はなんだか心がとても暖かくなったのを感じた。
「志織さん、寝られそうですか?」
「うん、今日はなんだかいつもより寝られそうです」
「ならよかった!そしたら今日はこの辺にして寝ましょうか!」
「はい。あの、松野くん」
「はい?」
「あ、ありがとう…!」
「全然ですよ!それじゃ、おやすみなさい志織さん!」
「ん、おやすみなさい」
松野くんのあの人懐っこい笑顔に手を振って、私は部屋の中へと戻った。
そのままベッドへ向かい、ぼふん、と倒れ込んで目を閉じた。
松野くんとの雑談は本当に楽しくて、まだ心の中がじんわり温かい。
その温かさのおかげなのか、いつもよりもほんの少しだけ、眠りに入るのが早かった気がした。
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