【中編/松野千冬】シークレット・ナイト
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いつも二人で行っている居酒屋が、今日は臨時休業である事を知った私たちは、急遽代わりのお店を探していた。
けれどどこももう少しで閉店の時間を迎えるお店ばかりで、入れそうなところは見つからない。
「この時間に入れるの、やっぱりあのお店しかないよね」
「そうっすねえ。あー調べときゃ良かった~~!臨時休業とかまさかすぎる!」
「ほんとだねえ」
今日は、このままお開きだろうか。
こんな状況では仕方がないけど、でもせっかく松野くんと会えたのに。
松野くんと色々話したかったのになあ。
「……志織さん」
「ん?」
「良かったら今日うちで飲みます?」
「え!?」
予想もしなかった松野くんの発言に、思わず声が大きくなる。
周りにいた人たちが、こちらをチラチラと見ているのが分かって、恥ずかしくて死にそうだった。
「ご、ごめん……急に大きな声出して……」
「いや、俺も急に変な事言っちゃったんで。でもせっかくだし志織さんともっと話したいって思っちゃって」
「ま、松野くん……」
「あと、志織さんすごく残念そうな顔してたから、もしかしたら俺と同じ事思ってくれてるんじゃないかと思ったんですけど……」
違いましたか?
松野くんは少し困ったように笑って、そう言った。
その瞬間、何だか胸の奥がきゅーっと狭くなって、思わずバッグを持つ手に力が篭る。
「……違くない。松野くんの言う通りだよ」
そう伝えた途端に、体が熱を帯びていく。
思わず泣いてしまいそうになるくらい、胸が鼓動を刻むのを感じながら、私は真っ直ぐに松野くんを見つめた。
恥ずかしくて今すぐにでも視線を外してしまいたいのに、松野くんの反応が気になってしまって、それすら出来ない。
そんな私の心境を知ってか知らずか、松野くんは一瞬驚いたような表情を浮かべた後、ふわりと笑った。
「よかった!同じ事思ってた」
「うん。同じ事思ってたね」
震えてしまいそうになる声を必死に抑えながら、私も松野くんのように笑って見せた。
「志織さんが俺と同じ事思っててくれて、嬉しいっす!」
「わ、私もだよ……!」
「えへへ。……あ!でも心配しないで下さいね!?家来ませんかって言ってもそういう意味じゃ全然ないんで!何もしないんで!」
「ふふ、大丈夫。分かってるよ」
「はあ、良かった……」
大きく息を吐きながら脱力する松野くんに、思わず笑いが漏れる。
コロコロ変わる表情が、本当に見てて飽きない。
「じゃあ今日は俺の家って事で、いいですか?」
「うん、お邪魔させてもらうね」
「よし、じゃあコンビニで酒とかつまみとか買って帰りましょ!」
「うん!」
私たちはそのままコンビニに向かい、お酒やおつまみを買い込んでアパートに戻ってきた。
松野くんと二人だと品物を選ぶのですら楽しくて、とても食べきれそうにない量を買い込んでしまった。
けれど今日余った物はまた後日食べればいいかと思いながら、松野くんと二人で帰路に着いた。
部屋の前まで到着すると、松野くんは鍵を開け、どうぞ!と声をかけてくれた。
「お邪魔します」
「はい!」
続いて松野くんも部屋へ入り、玄関のドアがパタンと閉じられる。
部屋に置かれたテーブルの上に買ってきた物を並べながら、松野くんが口を開いた。
「なんか志織さんが部屋にいるの、変な感じしますね。そわそわするっていうか」
「私も。松野くんの部屋にいるなんてちょっと変な感じ」
「でも、志織さんとこんなに仲良くなれて嬉しいっす!俺、志織さんと初めてベランダで出会った時から、仲良くなりたいって思ってたんですよ」
「え、そうなの!?」
「はい!だから仲良くなれて嬉しいです!」
そう言って、松野くんはあの人懐っこい笑顔を私に見せてくれた。
松野くんの言葉全部が嬉しくて、私も思わず笑みが溢れる。
「私も、松野くんと仲良くなれてよかったよ」
「えへへ」
照れ臭そうに、松野くんが笑う。
それを見た私の心を、温かい感情がじんわりと埋め尽くしていった。
その感情の名前はまだ私には分からないけれど、でもその温かさは、私の心にとてもよく馴染んだ。
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