【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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気が付くと、武道はいつの間にか八戒に背負われていた。
「ん?」
「気付いたか」
「タケミチくん!よかった!心配したんだよ!」
武道の目に、安堵の涙を流す日向の姿がぼんやりと映る。
「ヒナ……」
恋人の名を呼びながらも、武道の心は後悔に満ちていた。
八戒のおかげで、武道は助かった。
けれど八戒は、大寿の暴力から武道を解放する為、東卍を脱退する道を選んだのだ。
──東卍を辞める……だからタケミっちを離せ!
大寿に必死に頼み込む八戒の姿が、武道の目から離れなかった。
「ごめんな八戒。俺のせいで東卍を……」
「お前のせいじゃねぇよ、前から決めてたんだ。それより、柚葉庇ってくれてありがとな」
武道の表情は見えなかったが、声色から武道が責任を感じていると悟った八戒は、なるべく明るい声でそう言った。
「びっくりしたろ?黒龍の総長が俺の兄貴で」
「……うん」
けれど、武道の気持ちは晴れなかった。
自分のせいだと、思考がぐるぐると嫌な巡り方をする。
そんな中、武道はふとある事に気付いた。
現代で聞いた八戒の人物像──それは金の為に先代を殺し、黒龍を乗っ取ったというものだった。
羽宮のこの話が事実であれば、八戒が大寿を殺すと言う事になる。
「俺……黒龍でやる事があるんだ」
そう呟いた八戒の真意が何なのか、この時の武道には分かるはずもなかった。
▼
自宅のベッドの上で、武道は悶々と考え込んでいた。
八戒が実の兄である大寿を殺すのが事実なら、そして黒龍を乗っ取り東卍に合流してしまうなら、間違いなく武道が見たあの未来に繋がっていくだろう。
けれど八戒が大寿を殺すのを止めたところで、黒龍のトップは大寿のままだ。
八戒が黒龍を乗っ取りトップになるにしても、大寿がトップのままでも、きっと黒龍の危険性は変わらないだろう。
では、あの未来を変えるにはどうしたら良いのだろうか。
武道自身が黒龍と戦うのは、あの大寿の強さを目の当たりにした今では、とても現実的な案とは思えない。
稀咲に黒龍……問題は増えていくばかりだ。
けれどこれは、これだけは誰にも頼れない。
一人で何とかしなくては。
「俺にしか出来ないんだ……誰にも頼れねぇ……俺一人で……」
「さっきから、何ゴチャゴチャ言ってんだ?」
「キモミチ」
「ん?」
突然話しかけられ、声のする方へ目を向けてみれば、そこにいたのは溝中五人衆たちだった。
「お前ら……なんでうちに!?」
「お見舞いに決まってんだろ!?お前さぁ隊長なんだから自覚持てよ」
「あんま無茶すると俺ら壱番隊も支えられねぇぞ」
「え、俺ら壱番隊って……えっ!?お前ら東卍に入ったの!?」
「は?入ってるよそりゃ」
千堂と山岸は、呆れたような表情を浮かべながらそう言った。
そして、きょとんとした表情を見せながら口を開く者が、もう一人。
「お前が入れたんだろ?」
「…………千冬……」
「ん?なんだこの間は」
「…………いや、なんでもない」
そこから、6人の話題は黒龍一色になった。
武道は今や、芭流覇羅を取り込み総勢450人となった東卍の隊長の一人だ。
今回の事を耳にすれば、万次郎や他の幹部たちが黙っていないだろう。
けれど現在の黒龍と抗争となれば、今までとは比べ物にならない被害が出るに違いない。
何せ現在の黒龍は、殺人部隊を売り文句にしている程、危険なチームだ。
そもそも黒龍は歴代、関東の不良たちの頂点に君臨し続けてきた。
その中でも十代目黒龍は、歴代最狂最悪と言われている。
「その理由は一つ!絶対的君主、柴大寿」
そして松野は、東卍と黒龍の深い因縁について話し始めた。
「東卍と黒龍は、切っても切り離せねぇ関係だ。何せ東卍の結成理由が黒龍だからな。2年前、当時一虎くんと黒龍が揉めていて、その一虎くんを助ける為に集まったのが東卍だ。そして東卍は黒龍とぶつかった」
松野の話に、皆真剣に耳を傾ける。
静かな部屋に、松野の声だけが響いていた。
「東卍は、黒龍をぶっ潰した。そして東卍は、一躍有名なチームになったんだ」
「すげえ東卍!」
「じゃあ、今回の抗争も余裕じゃん!」
「余裕じゃねえよ!その時潰したのは、九代目黒龍なんだ」
東卍に潰され、消えていくはずだった黒龍。
それを蘇らせたのが、現在の総長である柴大寿だ。
大寿は特攻服を一新し、メンバーを軍隊のように育て上げ、黒龍を変えた。
そう話す松野の話に、溝中五人衆たちはある疑問を抱いた。
それは、金銭面の問題だ。
けれど大寿は多額の財産を持つ者たちと繋がり、兵力を渡す代わりに金銭を受け取っていたのだと、松野は説明した。
この話を聞いて武道の中で連想されるのは、未来の黒龍組の事だった。
どう足掻いても、黒龍との繋がりはここで絶たなければならない。
「とにかく今の黒龍は九代目とは別物。今東卍と揉めれば……」
「ただじゃすまねぇな」
松野の話を聞いて事の重大さを認識した溝中五人衆たちは、深刻そうな表情を浮かべながら頭を垂れた。
けれど武道はスッと立ち上がり、拳を握りしめながら言った。
「揉める必要なんかねぇよ?」
「え?」
「これは、俺と黒龍の問題だ。東卍は関係ねぇ。俺一人で片付ける」
武道の表情は決意に満ちていたが、どこか切迫感のようなものがあった。
皆心配そうに、武道を見つめている。
「タケミっち、ちょっと付き合え」
「え?」
そんな武道を見て、松野は徐に立ち上がり、武道を外へ連れ出した。
松野は武道を乗せたまま、バイクを走らせる。
目的地へ着くと、松野は乗ってきたバイクを撫でながら口を開いた。
「いいバイクだろ?」
「……」
「場地さんの形見なんだ」
そう言って松野は武道に笑顔を向けたが、武道は唇を噛み締めたままだった。
「千冬……分かってるよ。一人で抱え込むなって言いたいんだろ?」
それでも武道が自身の目で見た未来はとても壮絶で、一人で戦う以外の選択肢なんて見出だせない。
「仲間がいるって言いてぇのはよく分かってる!でもっ……」
千堂も松野も、このまま時間が進めば死んでしまう。
そんな未来を変える為に、武道は戦わなければならないのだ。
「ハハ、そんな事言いに来たんじゃねぇよ」
「……え?」
「たださ、楽しく行こうぜ?」
そう言って笑った松野の笑顔は、なんだかいつもより輝いて見えた。
「場地さんはさ、お前を追い詰める為に東卍を託したんじゃねぇよ。怒ってんぞ場地さん。何下向いてんだよクソミチ!って」
武道の目が、涙で濡れていく。
一人じゃない。
武道は、なんだかとても救われたような気持ちになった。
「千冬……俺……っ!俺、未来から来たんだ!」
感情が込み上げるまま、武道は言葉を紡いだ。
涙でぼやけた視界には、松野の困惑した表情が映っていた。
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