【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
八戒に誘われ柴家にやって来た武道と日向を待ち受けていたのは、黒龍の面々だった。
「ここら一帯は俺ら黒龍の縄張りだ。この辺でのさばってる他チームの奴がいたら、殺せってボスに言われてる。これがどういう事か分かるよなぁ花垣!死ねって事!」
九井は舌をペロリと出し、武道を挑発した。
乾も九井に続いて、黒龍メンバーたちを焚き付ける。
「テメェらやっちまえ」
「やめろや、タケミっちは俺のダチだぞ!」
「ヒナちゃん下がってな。コイツら女にも容赦しねーから」
柚葉のその言葉に、日向は思わず息を呑む。
「若ぁ~~、いくら若の友達でもしっかり躾けてもらわねぇと。ウチの奴らぁ言う事聞かねぇから!」
殺気立った黒龍メンバーたちは、武道とその後ろ姿にいる日向を取り囲むように立ちはだかる。
武道の額に、冷や汗が滲んだ。
日向もいるこの状況で、どうしたらいいか分からなかったから。
けれどそんな武道の目の前に、八戒の背中が現れた。
「俺のツレに手ぇ出すんじゃねぇって言ってんだろ?頼むよ!」
八戒のその様子を見て、武道は八戒と黒龍が知り合いなのではないかと悟った。
「八戒ぃ、聞いてたろー?俺らぁ言う事聞けねーってよぉ」
「女もやっちまうか!?」
嘲笑うかのようにそう言うと、周りの黒龍メンバーたちが囃し立てるように笑い声を上げる。
けれどその瞬間、その男の顔面に八戒の拳がめり込み、そのまま身体ごと地面に叩き付けられた。
「帰れよ、カス共」
その光景を見た瞬間、先程まで笑い声を上げていた黒龍メンバーたちは、逸機に縮み上がった。
武道も同様に、八戒のあまりの強さに思わず狼狽えてしまう。
「巻き込んで悪かったな、タケミっち」
「え?」
「コイツら黒龍のボスは、柴大寿」
「え、柴って……」
「そう、大寿はアタシらの兄貴」
「俺らは、三兄弟なんだ」
その事実に、武道は驚愕の表情を見せた。
そして更に、現代で羽宮から聞いたあの噂が武道の脳内に蘇る。
「兄貴はどこだ?」
「……コンビニ」
それを聞くと、八戒は大きな溜め息をついた。
「ロクに帰ってきもしねぇくせに、こんな時だけ……邪魔くせぇ」
「おい、調子乗ってんじゃねぇぞテメェ」
捨て台詞を吐く八戒の首元に、乾はナイフを突きつけた。
「ボス舐めてんなら、俺が殺す」
「穏やかじゃねぇなぁ」
「殺れねぇと思ってんの?」
一触即発のその光景に、武道の口からはうわ言のような声が漏れた。
けれどその時、柚葉が乾の首元を蹴り飛ばした。
乾の身体は、その衝撃のまま地面へと倒れ込む。
「い!?」
「弟に手ぇ出すんじゃねえよ!」
柚葉は乾を睨み付けながら、そう吐き捨てた。
乾は身体を起こし、スッと立ち上がる。
「もうやめとけイヌピー。ボスの妹弟だ」
「俺はボスには忠誠誓ってっけど、コイツらに調子こかれる筋合いはねぇぞ」
そして乾は、左手に持ったナイフを柚葉に向けた。
「女だとかは関係ねぇ。どっちが上か教えてやる」
乾は柚葉たちに、先ほどよりも強い殺意を向ける。
武道は息を呑みながらも、日向を守るように右腕を広げた。
「テメェら全員、殺してやる」
怒りに満ちた表情で、乾はそう言った。
それを見て武道が感じたのは、東卍との根本的な違いだった。
黒龍のメンバーたちはもはや、不良という枠に収まるものではない。
「花垣!ここはアタシたちに任せて逃げな!ヒナちゃんを守れよ!」
武道は頷くと、日向に声を掛けた。
けれどその向こう側から勢いよく走って来る人影が、日向には見えた。
「タケミチくん後ろ!」
「え?」
日向の声に咄嗟に振り向いた武道だったが、後一歩遅かった。
走ってきた男の腕に吹き飛ばされ、武道はそのまま地面へ転がる。
「ドー」
その男が現れた瞬間、黒龍のメンバーたちは一斉に頭を下げた。
「兄貴……」
「え?」
「──はド突くのドぉぉ」
今武道を吹き飛ばした人物こそ、黒龍の十代目の総長であり、柚葉と八戒の兄である柴大寿だった。
「ずりぃなテメェら!楽しそうじゃねぇかよ!俺も混ぜろ!」
大寿はそう言って武道の胸ぐらを掴み、軽々と武道の身体を持ち上げた。
そして高らかな笑い声を上げながら、その重たい拳を容赦なく武道の顔面へ叩き込む。
「タケミチくん!」
「下がってな!」
武道の身体は、再び地面に倒れ込む。
その後なんとか起き上がった武道だったが、鼻からは血が垂れ、呼吸もかなり乱れていた。
「……で、コイツ誰?」
「ハハ、知らねぇで殴ってたのかよ、流石ボス。ソイツは東卍の壱番隊隊長、花垣武道だ」
それを聞いた大寿は、楽しそうな笑い声を上げた。
「コイツが東卍の隊長?オイココ!そりゃ面白い冗談だ」
「本当だよ、若のツレらしい」
「ハハハ!そんな馬鹿な!」
大寿は目元を右手で覆いながら、大きな口を開けて豪快な笑い声を上げた。
そして今度は、武道の顔を容赦なく蹴り上げた。
その衝撃で武道の身体が浮き、仰向けの状態で地面へと崩れ落ちる。
「じゃあ八戒は、我が家へのこのこと東卍の奴を連れてきたのか?いくら言ってもこっちに来ねぇのによう!」
大寿は大きなため息を着くと、ゆっくり後ろを振り返った。
「ハッカーイ」
振り返った大寿の視線の先にいたのは、八戒だった。
「コイツ殴り殺せ。同じ東卍としてのケジメだ!」
大寿のその台詞に、八戒は息を詰まらせた。
柚葉や日向も、大寿のあまりの迫力に言葉を失う。
「兄貴……ソイツはこの辺が黒龍のシマだって事、知らなかったんだ……だから……」
八戒の様子は、先程とはまるで別人だった。
兄である大寿に怯えているのが、武道にも分かった。
大寿が八戒へと近付き、目の前に立つ。
長身の八戒よりも更に大柄な大寿は、八戒を見下ろしながら口を開いた。
「んなこたぁ聞いてねぇぞ、俺の命令が聞こえねぇのか?てめぇは東卍である前に俺の弟だ。ファミリーの絆は仲間のソレより上だろ?」
八戒は一度も、大寿と目を合わせなかった。
いや、合わせる事が出来なかった。
心の底から沸々と込み上げて来る恐怖が、八戒を支配していく。
フッフッという短い呼吸が、やけに耳についた。
「大寿!八戒をあんま追い詰めんなよ!」
見兼ねた柚葉が止めに入ろうと声を掛けると、大寿は拳を振り抜き、柚葉を殴った。
「柚葉ぁ、てめぇの躾の問題だぞこれは。あとでたぁっぷり教えてやる」
目の前で起きた光景に、武道は思わずその目を見開いた。
「兄弟って言ったって柚葉は女だぞ。テメェは女を殴んのかよ!?」
「柴家の問題に口出すんじゃねぇぞクソガキ。八戒見とけよ。兄ちゃんが代わりに尻拭いしてやる。これが絆だ!」
大寿はそう言うと、再び武道を殴った。
拳が肌を打つ音が、辺りに止めどなく鳴り響く。
耐え切れなくなった日向が武道の元へと駆け寄ろうとするが、それは柚葉の手によって止められた。
大寿はきっと、日向にも容赦はしない。
止めに入ろうとすれば、日向にも危害が加えられる事は避けられないだろう。
まさに絶体絶命だった。
この場には、大寿を止められるくらいに腕の立つ者などいなかった。
その時だった。
「兄貴!」
辺りに響いたのは、八戒の声だった。
.