【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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ボロボロになった心を直人に救われた武道は、今回のタイムリープでの事をゆっくりと話し始めた。
「……ナオト、俺は今回のタイムリープで東卍の壱番隊隊長になった。東卍のトップに一歩近付いた。だから現代は少しは良くなってると思ってたんだ……でも」
武道の瞳が、悲しそうに揺れる。
それでも武道は、言葉を紡いだ。
「やっぱりヒナは殺されてたし、その上ヒナを殺したのは俺だった」
口にするには、重すぎる現実だった。
ずっしりとのし掛かってくるような重たい事実は、武道と直人の心を容赦なく抉った。
けれど直人は、この事実に対して考えた一つの仮説があった。
「……これはあくまで推測ですが、稀咲はわざと、君に姉さんを殺させたんじゃないでしょうか」
「え?」
「おかしいと思いませんか?」
そう問いかける直人から、武道は目が離せなかった。
「こんなにタイムリープを繰り返しているのに、全部で姉さんは東卍に、稀咲に殺されてる」
武道の心臓が、大きく跳ねた。
「偶然……?違う。偶然にしては続きすぎだ。稀咲は明らかにタケミチくんと姉さんに執着している!」
武道の脳裏に浮かんだのは、自分に銃を突きつけた稀咲の涙。
そして、武道の事をヒーローと呼んだ稀咲の言葉だった。
武道の口から、小さくあ…という声が漏れる。
その時取調室の外から、扉をドンドンと叩く音が聞こえてきた。
武道はその音に、ビクリと体を震わせる。
「色々対策を練りたいが、時間がありません。タケミチくんはこれから留置所に移送されます」
「留置所……」
「この先君と会うのも難しくなる。行くなら今しかありません!」
「え!?でも……」
戸惑いを見せた武道だったが、この状況を考えれば今しかタイムリープのチャンスはない。
武道は、静かな声で分かったと言った。
「君と稀咲鉄太、二人に過去で何があったのか……それが姉さんの死の謎を解く鍵です!」
「ああ。それと直人、俺からも一つ頼みがある」
「頼み?」
「篠崎志織の行方を、探ってほしい」
武道は直人の目を真っ直ぐに見て、そう言った。
「志織さんはマイキーくんの恋人で、詳しく話してる時間はないけど、志織さんがいるのにマイキーくんが巨悪になるはずがない」
愛しそうに志織を見つめながら、幸せにしたいと言った万次郎。
そんな存在がいるにも関わらず、現代の佐野万次郎は闇に堕ちた。
二人の間には、武道が知り得ない何かがあったに違いない。
だから、篠崎志織の行方を探ってほしいと、武道はもう一度直人に伝えた。
「…………分かりました。篠崎志織については、こちらで探ります。さあ早く!」
直人にそう促され、武道は差し出された直人の右手を、ぎゅっと握り返した。
次なるミッションは、万次郎を狂わせた元黒龍組と稀咲鉄太を、東卍から追い出す事。
武道は松野と羽宮への感謝の気持ちを胸に抱いて、再び時空の旅路へと意識を預けた。
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「万次郎~、帰ろー?」
万次郎のクラスに、志織がひょっこりと顔を出す。
その声を聞いた万次郎が、机に預けていた上半身をむくりと起こした。
志織が万次郎の元へ近付くと、万次郎の額に赤い痕が出来ているのを見つけた。
おそらく机に突っ伏して眠っていたせいで、痕が出来たのだろう。
「万次郎、おでこ赤くなってる」
志織が小さく笑い声を上げると、万次郎はんー…と呻き声を上げながら、志織の腰に腕を回してぎゅっと抱き締めた。
「わ、ちょっと万次郎……?ここ学校だよ?」
「ん……」
「聞いてる?」
「ん……」
「眠いの?」
「うん……」
万次郎はコクッと頷くと、甘えるようにすりすりと頬を寄せる。
その姿が可愛らしくて、志織は思わずその口元を綻ばせた。
志織が優しく万次郎の髪を撫でてやると、万次郎の口元も同じように綻んでいった。
「眠いなら早く帰ろ?」
「うん……」
万次郎は志織の腰に巻き付けていた腕をのそのそと解くと、くわっと一つ欠伸をしながら身体を伸ばした。
そしてゆっくり立ち上がると、万次郎と志織は手を繋ぎ、二人揃って教室を後にした。
靴を履き替えて外に出ると、ひんやりとした冷たい空気が万次郎と志織を包む。
室内との温度差に、思わず身体がぶるりと震えた。
「寒いねー」
「うん、もう冬だなぁ」
「あったかいもの食べたくなるねー」
「鍋とか?」
「うん、あとシチューとか」
「いいね、志織のシチュー食べたい」
そんな他愛のない話をしながら、万次郎と志織は見慣れた通学路を歩く。
その道中コンビニの前を通りかかると、万次郎は何かを思い付いたような顔をして志織を見た。
「ん?」
「あったかいもの、食べよ」
「え?」
「あんまん!」
万次郎は志織の手を引いて、通りがかったコンビニへ入っていった。
そしてそのままレジへ直行すると、ぼんやりと立っていた店員にあんまん1個!と声を掛けた。
「半分こしよ」
「うん!」
会計を済ませて包み紙に入ったあんまんを受け取ると、万次郎はまた志織の手を引いてコンビニを後にする。
そしてそのまま近くの公園へ入っていくと、二人並んでベンチへと腰かけた。
「志織、半分こして」
「うん」
万次郎はそう言って、包み紙に入ったあんまんを志織へ手渡す。
包み紙を開くと、志織は丁寧にあんまんを半分に割り、少し大きい方を万次郎へ渡した。
「ありがと!」
万次郎はそれを受け取ると、早速あんまんに齧り付いた。
志織も続いて、あんまんを一口。
餡子の程よい甘さが口の中に広がり、幸せな気持ちがじわじわと心を満たす。
「美味い!」
「うん、美味しいね~」
ふと訪れた、他愛のない時間。
万次郎と志織は、そんな時間を美味しいあんまんを食べながらゆっくりと過ごした。
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