【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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その後武道の姿は、羽宮が運転する車の中にあった。
武道は神妙な面持ちで、羽宮にある事を問いかけた。
「一虎くん……俺記憶が曖昧で……変な事聞くかもしれませんけど、東卍はなんでこんな風になっちまったんですかね……?」
武道のその問いに、羽宮は少し間を置いて答えた。
「マイキーだ」
「!?」
「マイキーは……変わり果てた。東卍が変わったのはマイキーが変わっちまったからだ」
「…………そんな……」
武道は、どうしても信じられなかった。
だから武道は、少々声を荒げ、再び羽宮に問いかけた。
「他に黒幕がいるんスよね!?稀咲が裏で手ぇ引いてるだけじゃないんスか!?」
武道は必死に願った。
この自分の問いかけを、そうだと言って肯定して欲しい。
先ほどの言葉は冗談だと、訂正してほしい。
だが、武道の淡い期待は一瞬で砕け散る事となる。
羽宮は淡々とした様子で、受け止め難い事実を口にした。
「……お前が稀咲に捕まってる間に、パーちんとぺーやんが殺された。指示したのは勿論マイキーだ。三ツ谷も数ヵ月前から行方不明……」
次々に明かされる事実に、武道は開いた口が塞がらなかった。
「マイキーは、東卍の旧メンバーの粛清を始めた。仲間なんてもう信じちゃいない。アイツはもう不良なんかじゃねぇ。マイキーは巨悪だ」
武道は、もう何も言えなかった。
ただ黙って、羽宮の話を聞いていた。
「俺も、アイツを変えちまった一人……とにかく今のマイキーは、本当にやべぇ奴だ。会って話したい、アイツらと離れなきゃダメだって」
「……アイツら?」
「稀咲の暴力、黒龍の金──。この二つをなんとかしねぇと、マイキーが正気に戻る事はねぇ。協力してくれ、タケミチ。今度は俺がマイキーを……佐野万次郎を救いたい」
羽宮のその言葉を聞いた瞬間、武道の心臓が大きく脈打つ。
そして、脱け殻のようだった武道のその瞳は、決意が滲んでいた。
「マイキーの左腕である元黒龍組。アイツらは俺と深い因縁がある」
「因縁?」
「元黒龍組の原型は十一代目黒龍。東卍結成前、俺が揉めていた暴走族だ」
羽宮は黒龍の事を、金の為ならどんな犯罪にも手を染める組織だと武道に説明した。
その元黒龍のメンバーたちが生み出す莫大な金が、万次郎を狂わす原因の一つなのだ。
「俺のツテで、奴らの隠し口座を突き止めた。金の流れを断ち決着をつけるつもりだ。そして右腕である稀咲と決着をつけようとしていたのは、千冬だった」
ドクン、と心臓が跳ねる。
あの光景が脳裏に浮かんできて、鼻の奥がツンと痛んだ。
「千冬が殺されたのは、稀咲を追い詰めていたからだ」
「え!?……どうやって、あの稀咲を追い詰めたんですか?」
武道が疑問を投げ掛けると、羽宮は真っ直ぐ前を向いたまま、話し始めた。
「ある日、稀咲に殺された女の弟と名乗る刑事が、俺らに接触してきた」
それを聞いた瞬間、武道にはその刑事が直人である事にすぐに気付いた。
「え!?千冬と……その刑事は繋がってたんですか?」
「ああ。橘日向殺害事件は稀咲の命令だ。あの事件覚えているだろう?」
羽宮は事件の詳細を、武道に話してくれた。
けれど、武道があの事件を忘れる訳がない。
目の前で炎に包まれながら死んでいった最愛の人と親友の姿は、脳裏に嫌という程焼き付いている。
「稀咲にはアリバイがあった。あの日稀咲は、お前ら幹部と集会をしていた」
つまりそれは、この世界で日向と千堂が亡くなったその時、武道はその場にいなかった事を示していた。
「だが千冬は証拠を掴んでいた。稀咲が命令を下したという証拠をな。千冬たちは本当にあと一歩のところまで、稀咲を追い詰めた。あと一歩のところで逃したのは、千冬のせいだった」
羽宮のその言葉に武道は驚き、目を見開きながら羽宮を見た。
千冬のせいとは、一体どういう事なのだろうか。
「アイツが何故か、最後の最後で証拠を隠したからだ」
「え?」
武道は聞き返したが、羽宮がそれに答える事はなかった。
代わりに羽宮は、武道に車を降りるように促す。
車を止めたすぐ脇にある路地裏に、武道に会わせたい人物がいるらしい。
武道は不思議に思いながらも、言われた通りに車を降りた。
そして、痛む脚を引きずりながら路地裏へと入っていった。
羽宮が武道に会わせたい人物とは、一体誰なのだろうか。
路地裏を進んでいくと、建物の外壁に背中を預け、腕を組みながら佇む一人の男性の姿があった。
武道はその人物を視界に捉えると、嬉しそうに口角を上げ、名前を呼んだ。
「ナオト!」
現代に戻って来たは良いものの、以前の世界と立場が大きく変わっていた武道は、直人との連絡手段もなく接触出来ずにいた。
その直人が今、武道の目の前にいる。
武道は嬉しそうな表情を浮かべながら、直人へ近付いて行った。
直人も武道の姿を見ると、ゆっくりと武道の元へ歩み寄って行く。
「待ってましたよ、タケミチくん」
けれどその瞬間、武道の手首には手錠がかけられた。
困惑の声が、武道の口から漏れる。
「花垣武道!午前7時38分、逮捕します!」
物陰に身を隠していた捜査員たちも姿を表し、武道を取り囲むように立ちはだかる。
武道はもう逃げられない。
「すいません、羽宮くん」
「……テメェ」
「逮捕……?」
「残念です、タケミチくん」
「ナオト……なんで……?」
武道の表情が、絶望に滲んでいく。
武道の身柄は直人や他の捜査員によって、警察署へと連行されていった。
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