【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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武道は松野に連れられ、東卍幹部たちの集会場へ向かっていた。
人目に付きにくい路地裏の階段を上っていくと、そこには黒服に身を包んだ男が、武道たちを待ち構えていた。
「こちらです」
その男は無機質な扉を開くと、中に武道たちを招き入れた。
ここが東卍幹部たちの集会場かと、武道は思わず唾を飲み込む。
通された個室では、明らかに一般人とはかけ離れた見た目の男たちが、円卓を囲み中華料理を嗜んでいた。
「誰だよ、クラゲ頼んだ奴よぉー」
「マーボー辛っ!山椒入れすぎだろ!?」
「オイ、チャーハンまだかー!?」
武道はその光景を見て、自分が本当に東卍の幹部なのだと実感した。
これだけ幹部たちが揃っているのではあれば、これまで手がかりすらなかった東卍の核心に辿り着けるかもしれない。
「まずは一人ずつ、今年の上納金についてのご説明を」
「それよりチャーハンまだかっつってんだよバカヤロー。それにまだ来てねぇ野郎もいるだろうが」
そう話すのは、かつて東卍で参番隊隊長を務めていた林田だった。
懐かしい顔に、武道は思わずその口角を上げていた。
他にも元伍番隊の武藤泰宏や、肆番隊の河田ナホヤもいる。
「あん!?アホだぁ!?誰に向かって口聞いてんだ!?パーちんの脳ミソは空気で出来てんだバカヤロー!」
「おう!」
「あと三ツ谷はいーんだよ!三ツ谷は!」
そして林も変わらず、今も東卍にいた。
この場にはいないが、三ツ谷も東卍にいるようだ。
それを知って武道は、思わず顔が綻ぶのを抑えられなかった。
12年経った今でもあの頃と変わらず皆東卍にいるなんて、武道は思いもしなかったから。
「ゴチャゴチャゴチャゴチャ、うっせーのぉ!古参はよぉー」
だが、喜びも束の間。
集会の席には、武道が見覚えのない面々も参加していた。
「は?」
「テメェいい気になってんじゃねぇか、柴ぁあ」
「黙れ。誰のおかげで食っていけてると思ってんだ?古いってだけで、上納金も大してねぇのにふんぞり返ってる古参共」
「あ!?んだコラぁ!」
突然始まった口論に、武道は正直狼狽えていた。
けれど、幹部たちは止まらない。
「くく、イヌピーはっきり言いすぎ」
すると武道の後ろに立っていた松野が、小さな声でボソリと呟いた。
「幅利かせやがって、元黒龍組が……」
「え、千冬…?」
武道が見覚えのない幹部たちは、元は黒龍という別のチームに所属していた者たちだ。
元黒龍である柴八戒、乾青宗、九井一の三人は、林田たちを古参と揶揄し、執拗に煽っていた。
「大体、マイキーはどうしたよ?」
林田がそう言った瞬間、束の間の静寂が訪れる。
それを打ち破ったのは、柴だった。
「テメェごときに会うわけねぇだろ」
「……あ?」
「マイキーマイキーってよぉ、テメェら古参はなんかあるとすぐマイキーだな!金魚のフンが!」
その瞬間、頭に血が上った林田が立ち上がり、自分が座っていた椅子を蹴り飛ばした。
椅子は大きな音を立てて壁にぶつかり、その衝撃で脚が折れた。
武道は思わず、その身体を竦めた。
「表ぇ出ろ柴ぁ!」
林田は、柴を怒鳴り付けた。
けれど柴は、なに食わぬ顔で食事を続けている。
林田は今にも柴に掴みかかりそうな勢いだったが、その様子を見ていた一人が口を挟んだ事で、林田は舌打ちをしながらもその身を引いた。
「だりぃなぁ。ここはガキの遊び場か?」
林田を止めた男──半間を見て、武道の頬に冷や汗が伝った。
武道が見てきた過去で、芭流覇羅は稀咲の策略によって東卍の傘下に降っていた。
当時芭流覇羅のトップだった半間も、その時東卍に加入したのだ。
そして12年経った今でも変わらず、東卍にその身を置いている。
「今日の定例会で話したかったのは、上納金の話じゃねぇ」
半間はそう前置きをすると、今日の議題を淡々とした様子で話し始めた。
「ココの表のIT、柴のフロント企業、他にも数件東卍の運営する会社に3日前にガサが入った。…………つまり、この中にユダがいる!」
「……この中にユダ?」
半間の言葉に最初に反応したのは、林だった。
続いて林田も林を擁護するように、言葉を続けた。
「いる訳ねぇだろうが!腐っても仲間だぞ!?」
「バカか?誰もウタってねぇなら、なんで同じ日に数ヶ所同時にガサが入るんだよ?」
「だからよぉー、誰がバカだっつってんだよ!?」
林田は指を差しながら、九井に詰め寄った。
それを見た乾が立ち上がり、九井の前に立ち塞がる。
「ココに喧嘩売ってんなら俺が買うぞ、コラ」
「んだコラやんのか?」
「上等だタコ」
そんなやり取りが繰り広げられる中、この部屋へと近付いてくる足音があった。
「楽しそうだな」
「ん?」
部屋の入り口から聞こえた声に反応し、武道は後ろを振り向いた。
その瞬間、武道の心臓がドクンと嫌な音を立てる。
部屋にいた全員は一斉に立ち上がり、その男に向かって深く頭を下げた。
「お疲れ様です!」
部屋にやって来たのは、稀咲だった。
心臓が大きな音を立て、冷や汗が武道の額や頬を流れていく。
武道は咄嗟に動く事が出来ず、ただ稀咲へ視線を向けながら固まっていた。
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