【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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武道が目を開けると、目の前には見慣れたレンタルショップの陳列棚が広がっていた。
スマホを開いてみると、そこに表示されている日付は2017年。
武道は久しぶりに、この現代へと戻って来たのだ。
バイト先のレンタルショップに、度々叱られていた年下の店長。
武道にとってそれは、何も変わらない景色だった。
「お待たせしてすいません」
けれど店長は、武道に向かって深々と頭を下げた。
思わず武道の口から、え?という困惑の声が溢れ落ちる。
「お探しの商品、こちらの店舗じゃ取り扱ってないみたいなんですよー」
「は?」
そこで武道はやっと、違和感に気付いた。
手首には見慣れない腕時計をしているし、持っているバッグも見るからに高級そうなものだった。
おまけに髪型も以前の武道とは全く違っていて、まるで別人のようだった。
何がどうなっているのか把握出来ないまま、武道はひとまず店を出る。
すると今度は大きな声で突然名前を呼ばれ、思わず肩を震わせた。
「お前、本当このレンタル屋好きな?」
武道に声を掛けてきたのは、全く見覚えのないガラの悪い男だった。
額から左目の横にかけて出来た大きな古傷と、胸元から覗く大きなタトゥーが、彼が一般人ではない事を示していた。
「早く乗れよ」
「え?」
こういった輩には、関わらない方が良い。
にも関わらず武道はその男に促されるまま、店の前に停まっていた高級車に乗り込んでしまった。
「あの……これからどこに?」
「は?何言ってんの、お前ん家だろ?」
「俺ん家?」
「お前の命令だろ?なぁ、コウジ!」
「ハイ!自分ちゃんとやってます!」
武道は、更に混乱していた。
こんな強面の男たちに自分が命令するなんて、到底あり得ない。
そこで武道はふと、直人に連絡する事を思い付いた。
直人ならきっと、何かこの世界の事を教えてくれるかもしれない。
だが武道が今持っているスマホには、直人の番号は登録されていなかった。
「オイ!タケミチ!」
ボーッとスマホを眺めていると、武道の隣に座っていたガラの悪い男がまた大きな声で武道を呼んだ。
思わず武道は、肩を大きく震わせる。
「何ボーッとしてんだよ?着いたぞ」
「あ……うん」
武道は言われるがままに車を降りながら、密かに焦りを抱えていた。
直人の番号が登録されていないとなると、こちらからコンタクトを取るのはほぼ不可能に近い。
武道は一刻も早く、この世界の事を把握しておかなければならないというのに。
「お疲れ様です!」
武道が車から降りると、近くにいた強面の集団が一斉に、武道に向かって深々と頭を下げていた。
突然の事に武道は驚いてしまい、その身体を思わず跳ねさせた。
何故こんなにも、強面の男たちが自分の周りをうろついているのだろうか。
「遅かったな、タケミチ」
「どんだけ待たせんだよ」
けれど今武道に声を掛けてきた長身の男と、首にチョーカーを着けた男の二人には、うっすらとではあるが見覚えがあった。
どこで会ったのかと、武道は記憶を遡ってみる。
「山岸ぃ!お前がちゃんとしろやぁ」
長身の男が言ったその名前に、武道は反応した。
中学時代によくつるんでいた4人の中に、同じ名前の男がいた。
まさか、レンタルショップからここまで武道を連れてきたあの男が、山岸なのだろうか。
「うっせーなぁ。コイツがトロトロしてっから、DVD借りてーとか言って」
という事はこの長身の男が鈴木マコトで、首にチョーカーを着けた男が山本タクヤだろうか。
二人とも中学時代の面影はほとんどないが、そう言われてみればストンと腑に落ちた。
「ホレ、早く行こーぜ」
「No.2が待ちくたびれてんぞ、ボス!」
二人に連れられて武道が辿り着いたのは、高級マンションの最上階だった。
山岸は先程車の中で、これから向かうのは武道の自宅だと言っていた。
ここがこの世界での武道の家だとしたら、武道は今までの人生とは打って代わって成功したのではと、ついつい浮かれそうになってしまう。
中に入ると今の武道の部下と思われる男たちが、広いリビングで武道の帰りを待っていた。
「オス!お邪魔してます!」
「……電話出ろよ、タケミっち」
武道がリビングの余りの広さに思わず驚いていると、窓際に立って外を見ていた黒髪の男が不意に武道に声を掛けた。
武道は嬉しそうな笑いながら、その男の名前を呼ぶ。
「千冬!?」
武道は安心したような表情を浮かべ、松野の元へ駆け寄った。
「よかった千冬!俺、何がなんだかわかんなくて」
「あ?何言ってんだお前。幹部会だ、行くぞ」
「幹部会?誰が?何の幹部?」
ぽかんとした様子でそう言う武道に、松野は思わず苦笑いを溢した。
「オイオイ相棒!お前以外誰がいるよ?東京卍會最高幹部、花垣武道」
松野が告げた事実に、武道は思わず耳を疑った。
この世界の武道はこれまでの未来とは打って代わり、東卍の最高幹部にまで上り詰めていたのだ。
武道は予想外の事態を咀嚼できず、口を開けたまま、ただただ松野を見つめるばかりだった。
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