【長編/佐野万次郎】オレンジの片割れ
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隊員たちがざわめく中、万次郎はゆっくりと口を開き、話し始めた。
万次郎が話し始めると、騒がしかった隊員たちは皆その口を閉ざし、万次郎へとその視線を向ける。
「血のハロウィン、芭流覇羅約300人対東卍150人。この圧倒的に不利な状況の中、お前ら一人一人の頑張りで勝利を掴み取った。負けた芭流覇羅の副総長、半間修二から挨拶がある」
万次郎がそう告げると、半間は一歩前に出る。
そして、静かな口調で語り始めた。
「芭流覇羅の半間修二だ。芭流覇羅は、ずっとトップがいなかった。だから……この戦いに敗けて東卍の下につく事にした」
半間のその言葉に、隊員の一部からは混乱の声が上がった。
その声に逆らうように、今度は声を張り上げ、半間は改めて宣言した。
「芭流覇羅は、東京卍會の傘下に降る!」
半間のその宣言に、武道を含めた隊員たちのざわめきが一層増した。
芭流覇羅のメンバー300人が東卍の傘下に降れば、東卍は総勢450人の大きなチームとなる。
隊員たちはその事に嬉々とした様子で、急成長を遂げていく東京卍會というチームを讃えていた。
至るところから、東卍コールが沸き起こる。
けれど一人、武道だけはその表情に焦りを滲ませていた。
傘下に降るという事は、吸収される事と同義だ。
血のハロウィンで万次郎が羽宮を殺す事も阻止して、東卍の勝利として終わったはずなのに。
「今回俺とマイキーを繋いでくれた奴がいる!そいつのおかげでこの話が成立した!前に出て来てくれ!稀咲鉄太!」
みるみるうちに、武道の呼吸が乱れていく。
場地が命を賭して東卍を守ったというのに、このままではまた乗っ取られてしまう。
また、巨悪化した東卍になってしまう。
「……また、失敗かよ……」
絶望の言葉が、武道の口から滑り落ちる。
日向の未来も千堂の未来も、そして万次郎と志織の未来も、ただ守りたかっただけなのだ。
ただそれだけだったのに、その守りたかったものたちが全て、武道の手から溢れ落ちて行くような感覚だった。
けれどその時、絶望に苛まれた武道の鼓膜を、万次郎の声が再び揺らす。
「話がもう一つある。血のハロウィンで得たものもあれば、失ったものもある」
一瞬、万次郎の表情が悲しげに揺れる。
先程まで騒がしかった隊員たちは、万次郎のその一言で静まり返っていた。
「壱番隊隊長、場地圭介が死んだ。俺らはこの事実を深く反省し、重く受け止めなきゃいけない。……後はお前から言ってくれ、壱番隊副隊長、松野千冬」
万次郎はそれだけ言うと、踵を返して後ろへ下がった。
そして代わりに前に出て来た松野は、俯きながら話し始めた。
「東卍を辞めようと思ってた俺を、総長はこう言って引き止めた」
"壱番隊の灯を、お前が消すのか?"
その松野の姿に、武道は胸の奥がぎゅっと痛むような感覚を覚えた。
今回の血のハロウィンでの一番の被害者は、紛れもなく松野だ。
武道もそれを嫌という程分かっているからこそ、胸の痛みが消えなかった。
「壱番隊を引っ張っていくのは、俺にはやっぱり荷が重い。総長と話し合った。何日も何日も。そしてこういう形に辿り着いた」
松野は俯けていた顔をバッと上げ、声を張り上げて言った。
「テメェのついて行きたい奴ぁ、テメェが指命する!花垣武道!!俺はお前を壱番隊隊長に命じる!!」
松野のその言葉に、隊員たちは再びざわつき始めた。
けれど武道はそんな喧騒なんて気にならないくらい、真っ直ぐに松野を見つめていた。
「え?……お前………何?」
「タケミっち、これが場地さんの意思だと俺は思ってる!」
「……!」
「場地さんがお前に託し、俺と総長が決めた事だ」
武道は松野のその言葉に、覚悟を決めた。
「花垣武道!顔上げて、みんなに挨拶しろ!」
もう、全てが終わりだと思った。
またあの最悪な未来を、辿ってしまうと思った。
けれどまだ、終わっていない。
まだ、東卍を変えられる。
「よろしくお願いします!」
武道はポロポロと大粒の涙を流しながら、顔を上に向けて声を張り上げた。
「よろしくお願いしますっ!!」
「おいおい、何泣いてんだよ」
「あーあ、また刺繍入れ直しだよ」
「……顔上げすぎだ、バカ」
口ではそう言っていたが、龍宮寺も三ツ谷も、そして万次郎も皆、優しい視線で武道を見つめていた。
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武道が壱番隊隊長に任命されて数日後、武道は未来に戻る為、日向の家へ向かっていた。
万次郎が羽宮を殺す事を阻止し、壱番隊隊長を引き継いだ今でも、状況は決して良いとは言えなかった。
稀咲が東卍に居続ける限り、東卍が乗っ取られてしまう危険性は無くならないからだ。
だからこそ武道は、もう一度自分に出来る事を模索する為に、未来に戻る事を決めたのだった。
日向も千堂も、そして万次郎も志織も、残酷な未来から必ず救わなくてはならないから。
そんな固い決意を胸に、武道はまた未来へと戻って行った。
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